長靴をはいたネコ
僕の意識は靴をはいたネコの世界をユラユラと漂っていた。
この童話は、長靴をはいたネコが末息子を出世させる話だ。
昔、貧しい粉引き小屋の父が居て、その父が亡くなると、全ての遺産は3人の息子で分けられる事に成りました。
一番目の兄が粉引き小屋を、二番目の兄はロバを、末の息子はネコを貰いました。
「兄さんたち、ボクはネコなんて要らないよ」
「何を云っている。分ける物がそれしかないんだから我慢しろよ」
末息子は、不貞腐れてしまいました。
このネコは一日中寝てばかりで、ネズミを1匹も獲った事がない、大変な物臭なネコだったのです。
「おい、ネズミぐらい獲って来いよ」
「なんだ煩いな、俺様に命令するなよ」
末息子はブクブクに太った大飯喰らいの、このネコを家から追い出しました。
「何もしないネコに、食べさせる物は家にはないんだよ」
足蹴りにされたネコは、転がって行きます。
でも大変な物臭なネコなので、転がったままそこで寝ていました。
末息子が仕事に家から出て行くと、ネコもやっと動き出しました。
家の窓に苦労して飛び乗ると、中を覗き込みました。
鼻で家の中の臭いを嗅いで、食べる物が置いて有る場所を探ります。
でも家の中には食べる物が、全然有りませんでした。
「ちぇ、貧乏タレが、偉そうにするなよ」
ネコは悪態をつきましたが、末息子は食うにも困る、酷い貧乏だったのです。
ネコの自分が追い出されるのも、仕方がない話でした。
「じゃあ、自分で何とか調達しますか」
ネコは家に有った大きな袋を持ち、赤い長靴を後足に履き、ヨタヨタと歩いて家から出て来ました。
長靴をはいたネコは野原まで歩いて来ると叫びます。
「ネズミども皆集合せよ!
急げ、急げよ」
その声で野原に居たネズミたちが、急遽長靴ネコの所に集まって来ました。
長靴ネコは確かにネズミを1匹も獲って来ませんでしたが、その訳は捕まえたネズミは全て自分の家来にしていたからです。
それでもネズミは数匹ほど居ます。
「これからウサギを1匹捕まえるぞ。
俺はこの草むらに隠れているから、皆はそこへウサギを追い込むんだ、いいな」
ネズミたちが1匹のウサギを見つけ出して、長靴ネコが隠れている方へと誘導して行きます。
ウサギが近づいて来た所を、長靴ネコの爪ネコパンチと牙が襲い掛り、ウサギは難なく仕留められてしまいました。
長靴ネコはその獲ったウサギを持って、この国の王様が居るお城へと向かいました。
長靴ネコは王様に会うと、ウサギを贈り物として献上します。
「これはカラバ公爵からの贈り物です。
どうか王様、お受け取りください」
「そうか、ありがとう」
長靴ネコは帰って行きましたが、王様はこのウサギを見て不思議に思いました。
実はあの野原は禁漁区だったのです。
だからウサギを狩るのは、禁止されているはずでした。
「確か、カラバ公爵と云ったな。
あまり聞かん名だ。
まだこの辺りの事を、よく知らんのかもな」
長靴ネコはお城から帰る時に、高い洋服を何着か盗んで行きました。
その盗んだ服を全部、末息子に贈りました。
「服を貰ったんだが、ネコの俺には要らないから全部お前にやるよ」
「悪いな、ありがとう」
ある日、王様と王女様が馬車に乗って街道をゆっくりと走っていました。
それを見た長靴ネコは、家来のネズミたちと共に先周りをして、大きな麦畑で百姓仕事をしている人たちを突然襲いました。
「俺たちはカラバ公爵様の家来だ。
この土地も麦も、今日からカラバ様の物だ。
分かったか!」
長靴ネコたちは、また直ぐに姿を消してしまいました。
そこに王様と王女様が乗った馬車が、通り掛りました。
麦畑で百姓たちが泣いています。
「どうしたのだ? 何か有ったのか?」
「へい、この土地と麦を全部、粉引き小屋近くのカラバ公爵の家来の長靴ネコに盗られたんでさ」
それを聞いた王様が大変怒りました。
「カラバ公爵と云う者は何て悪い奴なんだ」
さらに王様と王女様が馬車を進めて行きますと、また次の麦畑で百姓たちが大きな声で泣いていました。
「どうしたのだ? 何か有ったのか?」
「ワシらの土地と麦が全部、粉引き小屋近くのカラバ公爵の家来の長靴ネコに盗られたんで、もし渡さないと火を点けると脅されやした」
それを聞いた王様は、もうカンカンで顔を真っ赤にして怒りました。
「カラバ公爵と云う者は非常に悪い奴だ。
近々、儂が直々にとっ捕まえてやろう」
長靴ネコは、今度は大鬼が住むと噂されるお城へ向かいました。
そのお城は、森の奥にひっそりと建っていました。
大きな門を通り中へと入って行くと、大きな部屋に体長5メートルは有る大鬼が、大きな玉座に座って長靴ネコを不思議そうに見ています。
「なんだお前は、ここに何をしに来た」
「実は鬼様の噂を街で聞いて、本当の話なのか知りたくてここにやって来ました。
鬼様の化ける能力が、世界で一番だと云う噂は本当なんですか?」
「勿論、本当の話だぞ」
大鬼は噂が『世界一番の化ける能力』だと聞いて嬉しそうにしています。
「でも、いくら化ける能力が世界一でも、その大きなカラダでは、ライオン程度の大きさには化けれませんよね?」
「そんなのは簡単だ」
大鬼は一瞬の煙と共に、ライオンへと変身しました。
「おお、これは凄い。
流石に世界一と云われるだけの事は有りますね。
でも、いくら何でも小さなネズミに化けるのは無理ですよね?」
「それも簡単な事だ」
大鬼は一瞬の煙と共に、ライオンから小さなネズミへと変身しました。
その途端、長靴ネコの爪ネコパンチが大鬼ネズミを捉えました。
大鬼ネズミは吹っ飛ばされて、石壁にブツかり倒れ伏せ込みます。
「俺はカラバ公爵様の家来だ。
カラバ様の命令で、お前をやっつけに来たんだ。
大鬼、文句が有るなら粉引き小屋近くのカラバ様の所まで来るがいい」
長靴ネコは捨て台詞を残して、立ち去って行きました。
「おのれ、カラバの奴め。
絶対に許さんぞ」
元の姿に戻った大鬼は、大怪我をしており、しばらく動く事も出来ませんでした。
それでもカラバ公爵への復讐に燃え、早くカラダを治して反撃しようと考えていました。
ある日、粉引き小屋近くの末息子の家に、悪いカラバ公爵を捕まえようと、王様が家来たちを連れてやって来ました。
「ここら辺に長靴ネコを家来に持つ、カラバ公爵と云う者が住んでいるはずだが、知らんか」
「さあ、ボクは聞いた事がないですね」
王様が末息子を見てみると、お城から盗まれた高い洋服を末息子が着ています。
「おそらくそいつがカラバ公爵だ。直ぐに捕まえよ」
末息子は王様の家来たちに、取り押さえられ、縄で囚われてしまいました。
そこへドシドシ足音を鳴らして、森の奥に有る城から、あの大鬼もやって来たので、王様も家来たちも大慌てです。
もし逆らえば、大鬼に簡単に食べられてしまうからです。
「ここら辺に長靴ネコを家来に持つ、カラバ公爵と云う者が住んでいるはずだが、お前たちは知らんか」
「そいつです、その縄で捕まっているのがカラバ公爵です」
王様は必死で末息子を指差しました。
大鬼が末息子のカラダを持ち上げて、聞きました。
「お前がカラバ公爵なのか?
なら食ってやるぞ!」
その時、末息子には何が起こっているのかやっと理解出来ました。
長靴ネコが呉れた贈り物の服が、この騒動の原因なのです。
ネコは既に長靴を脱いで、普通のネコの姿に戻って、素知らぬ顔で寝ていました。
つまりカラバ公爵の家来の長靴ネコは、もう姿を消してしまったのです。
「物臭でネズミを獲る仕事もせずに、毎日寝てばかりでブクブクに太った、大飯喰らいのネコのお前を家から追い出しただけで、王様に捕らえられるわ、大鬼に食べられそうに成るわ。
これじゃ、あんまりじゃないか」
+ - × ÷ = ¥
僕は悲嘆に暮れる末息子に変身していた。
〈この状況は不味い。このままでは僕は大鬼に食べられてしまう〉
「お待ちください!
僕は決してカラバ公爵と云う者では有りません」
「嘘を吐くな!
お前が着ている服は、儂のお城で家来の長靴ネコが盗んで行った物で間違いない」
王様が僕を糾弾して来る。
「この服を僕が着ているのは、僕の服も長靴ネコに盗まれてしまったからです。
代わりにこの服が置いて有りました。
きっと僕に罪を被せる為の、カラバ公爵の罠です。
カラバ公爵に騙されてはいけません」
「何だと、カラバ公爵は別に居ると云うのか?」
「そうです、粉引き小屋近くの長靴ネコが家来なら、カラバ公爵も粉引き小屋近くで寝ているそのネコに間違い有りません」
僕は寝ている物臭ネコに言った。
「カラバ公爵、起きてください」
物臭ネコは寝ぼけながら返事を返した。
「なんだ煩いな、俺様に命令するなよ」
それを聞いて、物臭ネコはアッと云う間に大鬼に食べられてしまった。
大鬼はそれで満足したのか、ドシドシ足音を鳴らして、森の奥に有る自分の城へと帰って行った。
王様と家来たちも、それを見て自分たちの城へと帰って行った。
童話の長靴ネコが大鬼に食べられてしまうと云う結末だけど、自業自得だもんね、仕方がないよね。