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童話国物語  作者: 馬論
14/26

雪の女王

 意識が俯瞰して浮かんでいる。

僕は雪の女王の世界の宙に居た。



雪の女王は、姿を消したカイ少年をゲルダ少女が探して旅をする話だ。




昔、ひとりの悪魔が恐ろしい鏡を作っていました。

この鏡は人の心の中に有る、みにくゆがんだ心を映し出す為の鏡なのです。

「この鏡に映った者は、自分の醜さに驚いておののき、心が歪み続けて、やがて化け物へと変わってゆくだろう、ひひひ」


もう少しで鏡が完成するところで、悪魔は誤って手をすべらせ、石の床へと落してしまいました。

落ちた鏡は粉々に割れて、どこかへ飛び散ってしまいます。


そのひとつの鏡の小さな欠片かけらが、北の町に住むカイと云う名の少年の目の中へと、入ってしまいました。


カイ少年は驚きました。

朝起きて外へ出て見ると、昨日まで笑顔で挨拶あいさつを交わしていた人たちの顔が、まるで悪魔が心底楽しそうに笑っているように見えたからです。


「カイ、おはよう」

いつも一緒に農場の手伝い仕事に出かける少年が、朝の挨拶をカイにしましたが、カイには別の声も聞こえていたのです。


(いつも仕事の出来ない鈍間のろまのカイめ)

歪んだ少年の顔も何だかカイを、嘲笑あざわらっているように見えました。


農場へ二人で行くと、農場主がカイたちに言いました。

「今日は種を植える予定だから、ここの畑の土を耕してくれると助かるよ」

「はい、分かりましたご主人」


この会話もカイには別の物に聞こえました。

(まったく役に立たない餓鬼がきどもめ、めしわせてやるだけでも感謝しろ)

(自分だけ楽しやがって、少ししか飯を寄越さない、このケチケチじじいが)


カイの目には二人の姿が、とても歪んで醜く映りました。

カイが見る物は全て、悪魔の鏡の欠片を通して見える為に、心の醜い歪みが映って見えてしまうのです。


やがてカイは人々が持つ心の醜さに畏怖いふし、普通の鏡を見て自分の心の中にも、その醜さが存在するのを見つけてしまい、すっかりと絶望してしまうのでした。


次の日、北の町からカイ少年の姿が消えてしまいます。


カイは雪降る北の森を、行くあてても目的もなく、ただサ迷っていました。

このまま時間が経てば、おそらくカイは死んでしまうでしょう。


そこへ白馬に引かれた、白い馬車が通り掛りました。

馬車に乗っていたのは、氷の冠を被り雪のような白薄のドレスに身を包んだ『雪の女王』と呼ばれる者でした。


表情のない氷ついたような顔に、冷たい目がその薄情そうな性格を現していましたが、カイの目には醜くは映りませんでした。

「雪の女王様、ボクをアナタの所へ連れて行ってくれませんか?」

「ナゼ私の所に来たいのだ?」

「アナタにお願いしたい事が有るのです」

「ならば私の氷の城へとたずねて来るがよい」

「その馬車には乗せて貰えないのですか?」

「私の馬車には、人は乗れぬ」


雪の女王は、カイをその場に残して立ち去りました。

カイは自分の願いを叶える為に、雪の女王が住む氷の城を目指して、旅をする事に決めました。

でも雪の女王は、その氷の城がどこに有るのか教えて呉れませんでした。


カイは北の森の中を歩き周って、枝に停まって鳴いているカラスや、道端に咲く小さな草花に、雪の女王が住む場所を聞いて歩き続けます。


夜の森でフクロウが、カイに教えて呉れます。

「この先にある国で、女王が結婚するって噂話を聞いた。

たぶんそこに居るんだろう」

「教えて呉れて、ありがとう」


カイはフクロウの羽が差した方向に向かって夜の森を歩き出しました。


翌日、小さな国でこの国の王子様と隣の国の王女様の結婚式が、取り行われていました。

白い馬車に二人で乗って、祝福してくれる国民に向かって手を振りながら、大きな街道を走って、カイの目の前を通り過ぎて行きました。

(バカな国民どもめ、私たちが贅沢する為にしっかりと働いて、税金をタップリと納めるのだ)

(ふふふ、これで私は一生贅沢して暮らして行く事が出来るわ)




フクロウが教えてくれたのは、残念ながら別の醜い王女様の事でした。

でも街の噂話で、王女様が来た国の山の近くに、雪の女王の氷の城が有ると云う事を知りました。



カイが国を出て北の山を目指して山道を歩いていると、目の前に数人の山賊たちが姿を現しました。


この山賊たちは、カイが今まで見て来たどの醜い人たちよりも、比較しようがないぐらい、その姿も心も凄く醜く歪んで、まるで化け物のように見えてしまいます。

「おい、小僧こぞう

死にたくなかったら、持っている全ての金目の物を出せ」

「ボクは何も、持っていません」

「なら死ねや!」


山賊のボスらしき者が剣を抜き放ち、カイを見て嘲笑っていました。

そのあまりもの醜さのせいで、カイの心も壊れる程歪んでしまい、突然カイのカラダが震え出しました。


「なんだ小僧、死ぬのが怖くて震えているのか」

山賊のボスがバカにしたように、カイを見つめています。

その目がさらに広がり、驚愕きょうがくの顔へと変わって行きました。


「バケモノだ!」

山賊たちが一目散いちもくさんに逃げ出しましたが、その後を対称性の美しさを失った醜いバケモノが追いかけて来ます。

左右の目の大きさも位置もまるで別物で、

歪んだカラダから生えている手足の位置や長さ、大きさが全て違っており、ただ醜いとしか云う事が出来ません。


「ぎゃー」「ぎゃー」「ぎゃー」

山賊たちが上げる悲鳴が、いくつも山にコダマして返って来ました。


そのコダマが聞こえなく成り、しばらくした後でカイが目を覚ましました。

周りを見ると、山賊たちの死体が転がっています。


「ボクがこの人たちを、殺してしまったのか?」

カイにはバケモノに変わった時の、記憶が少しも残っていませんでした。

自分の事が恐ろしく成ったカイは、急いでこの場所から逃げ出しました。

そして雪の女王が住む氷の城を目指して、旅を続けます。


山を登って頂上を越えて行くと、透通った湖に浮かぶ小さな島に、雪の女王が住む氷の城が有るのを発見しました。

「やっと見つける事が出来た。

これでボクの願いも、きっと叶えられる」


山を下りて行き、湖の側までたどり着くと、カイは叫びました。

「雪の女王様、約束通りボクはアナタの氷の城までやって来ました。

どうかボクを中へ入れてください」


透通る湖面から、氷の舟がゆっくりと浮かび上がって来ました。

カイがそれに乗り込むと、氷の舟はまるで湖面を滑るように氷の城へ向かって移動して行きます。


氷城の門の前にカイが立つと、門が溶けるように開きました。

カイが中へ歩いて入って行くと、氷の玉座に雪の女王が座っています。

「雪の女王様、お招きアリガトウございます」

「それでお前の願いは、何なのだ?」

「ボクの願いは……」




カイが住んで居た北の町には、カイと幼馴染おさななじみのゲルダ少女が住んでいました。


「カイの奴、一体いったいどこへ消えたのよ。

ワタシから逃げようたって、そうはいかないわよ」

ゲルダは女王様タイプで、幼馴染のカイの事を家来のように、毎日こき使っていました。


町で『カイを北の森で見た』と云う情報を得て、ゲルダは北の森に向かって歩き出しました。


ゲルダは北の森に到着すると、カラスを見つけました。

「ねえ、カイって名の男の子を知らない?」


カラスが羽で差した方へ歩いて行くと、今度は道端に小さな草花が咲いていました。

「ねえ、カイって名の男の子を知らない?」

小さな草花が傾く先へ向かって歩いて行くと、森のフクロウが枝で眠っていましたが、ゲルダは構わず無理矢理に起こして聞きます。

「ねえ、カイって名の男の子を知らない?」


 フクロウが羽で差した方へ歩いて行くと、小さな国に到着しました。

そこで『雪の女王が住む氷の城に、カイって云う名の少年が居る』と云う噂をゲルダは聞きます。

「見つけたわよカイ。

絶対に逃がさないから」


ゲルダが山を登って行くと、山族らしき死体がいくつか転がっていましたが、ゲルダはまるで何もないように無視して歩いて行きました。


山を越えると、湖の上に氷の城が見えて来ました。

「カイ、今ワタシが行くから、そこで待ってなさい」


湖の側でゲルダが大きな声で叫びます。

「カイ、そこに隠れているのは知っているのよ。

怒らないから、早く出て来なさい」


湖面の上に氷の道が出来て、島のお城まで続いています。

ゲルダは躊躇ためらいも見せずに、氷の道を歩いて氷のお城の中へと入って行きました。


「お前は誰なのだ?」

「ワタシはカイの幼馴染よ。

貴方あなたこそ誰なのよ?」

「私はこの城に住む雪の女王と呼ばれる者だ」

 「何でもいいわ、ワタシのカイをここに隠しているでしょう?

早く出して頂戴ちょうだい

「あの少年なら、あそこに居る」


雪の女王が指差す先に、おおきな氷の塊が置いて有り、その中にカイ少年が氷づけに成って眠っている。


ゲルダが氷づけのカイの所に駆けつけた。

「カイ、アンタなんで勝手に氷に成ってるのよ。

ちょっと貴方、この氷を溶かして頂戴」

「その少年は、自ら望んで氷づけに成ったのだぞ」

「いいのよ、ワタシの意見の方が優先なんだから」




雪の女王がカイを包んでいた氷を溶かすと、カイはその場にうずくまる。

「ボクの心は歪んでしまって、化け物に成ってしまったんだ。

もう誰も傷つけたくないし、これ以上醜い者も見ていたくないんだ。


だから苦労して氷の中に閉じ籠もったのに、それを勝手に溶かしてしまうなんて、あんまりじゃないか」



 +  -  ×  ÷  =  ¥



カイ少年がなげき悲しむ中、僕は雪の女王に変身していた。




カイの目の前にえらそうな態度の醜い少女が立って居た。

「カイ、いつまで寝ぼけてるのよ!」


ゲルダがカイのほおを思い切り引っぱたくと、カイの目の中に入り込んだ悪魔の鏡の欠片が、その衝撃で取れてしまった。


カイの目の前には、幼馴染のゲルダが居た。

「あれ、ゲルダ? なんでここに居るの?

ボクは……あれ?」

「カイ、早く付いて来なさい、ワタシの家に帰るわよ。

アンタがやる事が、イッパイ有るんだからね」




この話はゲルダ少女によって、勝手に終わってしまいそうだ。

雪の女王に変身した僕に出番はない。


「ちょっと貴方、湖の帰る道が消えているわよ。

早く作りなさいよ」


どうやら僕にも、一つだけ仕事が有ったようだ。



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