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童話国物語  作者: 馬論
10/26

ジャックと豆の木

 僕はただ宙に浮んでいた。

今居る世界はジャックと豆の木だ。


この童話は、ジャックが雲上の城の巨人の宝を盗んで来る話だ。




昔、町外れの小さな家にジャックと云う名の、嘘つきで他人の物を平気で盗む、悪い少年が居ました。


ある日、お母さんがジャックに、雌牛めうしを売って来るように言いました。

「もう家にはお金が全然ないから、残っている雌牛を売る事にしたの。

ジャック、肉屋にでも行って売って来なさい」

「わかったよ母さん」


ジャックは雌牛の綱を引きながら、町の方へ向かって歩き出して行きました。


しばらく歩いて行くと、ジャックは雌牛の綱を木に結び、そのまま草地に寝転んで空を見ていました。

空には大きな雲が浮かんでいました。

「きっと、あの雲の上には立派なお城が有って、その城の中は沢山の宝物で埋め尽くされているのに違いない。

あそこへ行けたら、ボクも大金持ちに成れるのになあ」


雌牛がのんびりと草を食べている所に、ひとりの老人が通り掛りました。

「坊や、この牛と儂が持っている豆と交換しないかい?」

「豆? そんなんじゃ駄目だよ。

この雌牛はね、魔法の雌牛なんだよ。

雌牛が出す乳は金に変わるんだ」

「本当かい? そりゃ凄いね。

でも儂の持つ豆も魔法の豆なんだよ。

植えると直ぐに伸びて、雲の上まで行けるんだ」


「えっ、あの雲の上にも行けるの?」

ジャックは空に浮かぶ、大きな雲を指差します。


勿論もちろん行けるさ。

この魔法の豆を庭にでも植えれば、簡単にあの雲まで行けるよ」

「分かった、じゃあ交換するよ」

ジャックは空のお城に行けると、大喜びで雌牛と魔法の豆を交換しました。


「もし困った事が起こったら『ヘブ』って唱えるんだよ、分かったね」

ジャックは魔法の豆に夢中で、老人の云う事をよく聞かずに走りだして、そのまま家まで帰って来ました。


「お母さん、大変だよ、すごいよ」

「どうしたんだいジャック、雌牛はちゃんと売って来たのかい?」

「お母さん、これを見て。

魔法の豆だよ、植えると雲の上まで行けるんだよ。

あの雌牛と交換して、ボクが手に入れて来たんだ」

「何だって! 雌牛をこの豆と交換しただって?

バカ、直ぐに雌牛を取り返して来なさい。

でないと家には入れないからね!」


ジャックはお母さんに家から追い出されてしまいましたが、近くの草地に穴を掘って、その中に魔法の豆を入れました。

豆に水を与えると、土から芽が出て伸びは始め、どこまでも真直ぐに天に向かって伸び続けて行きます。


ジャックが豆の木に跳び付くと、カラダがドンドン空に向かって上昇して行きます。

豆の木が大きな雲を突き破って、さらに天へと伸びて行きます。


ジャックの姿が雲の上に現れると、伸び続けた豆の木が途端に伸びるのをめました。

怖々雲の上に足を乗せると、少しだけカラダが沈みましたが、歩くのに問題はなさそうです。


「やはりボクが想像していた、宝のお城が有った」

白い凸凹でこぼこした雲の地面、雲地が続く先に、金色に輝くお城が建っていました。

ジャックは『何を盗もう』と考えながら、雲道をお城に向かって歩いて行きました。


お城に到着すると、大きな門が閉まっていました。

「門がこの大きさなら、ここに住んでいるのはきっと巨人だな」


これでは中へ入る事が出来ません。

でも横を見ると、小さな扉がついていました。

どうやら人間は、ここから出入ではいりするようです。


ジャックが扉を開けてお城の中へと入って行くと、巨大な机と椅子が見え、その椅子には太った巨人が座っています。

机の上には1羽の雌鶏めんどりがいて『ケッコウ』の鳴き声と共に、金の卵を産みました。

〈あの金の卵を産む雌鶏を盗もう〉


巨人が眠るとジャックは何とか机まで昇り、雌鶏が居る鉄籠を持つと、また下へとりて行きました。


お城を抜け出すと豆の木が有る場所まで走り続け、鉄籠の取っ手を口にくわえると、スルスルと豆の木をつたって自分の家が有る地上まで下りて行きました。


「お母さん、お母さん。

ボク、金の卵を産む雌鶏を手に入れたよ」

「ジャック、雌鶏を取り返して来たのかい?

まったく何を聞いていたんだい、雌牛。

雌牛を取り返して来るんだよ」

お母さんはジャックを家の中に入れて呉れませんでしたが、翌日に成って雌鶏が金の卵を産むと、急に機嫌きげんが良く成りました。


「ジャック、すごいじゃないの。

これなら雌牛でなくてもかまわないわ」

お母さんにめられ、ジャックも上機嫌です。


「お母さん、今日もまた何か手に入れて来るよ」

「ああ、好きに行っといで」

また豆の木を登って雲の上までやって来たジャックは、巨人が住むお城を目指して歩き出しました。


ジャックがまた扉を開けてお城の中へ入ると、巨大な机の上には金銀や宝石などの宝が入った袋が有り、巨人がそれを数えて確かめています。

〈今度はあの宝の袋を盗もう〉


巨人がまた眠るとジャックは机まで昇り、宝の袋をつかむとまたりて行きました。


お城を抜け出し豆の木まで走り続け、また宝の袋を口に銜え、スルスルと地上まで下りて行きました。


 「お母さん、お母さん。

ボク今度は、宝の袋を手に入れたよ」

「ジャック、また何か手に入れたのかい?」

袋を開けると、中には金銀、宝石が沢山入っていました。


「ジャック、すごいじゃないか。

これなら何もしなくても、楽に暮らして行けるよ」

お母さんにまためられ、ジャックも上機嫌です。

その日の夜の食事は、今まで食べた事もないような豪華な食べ物が小さなテーブルに並びました。


次の日、ジャックは朝から豆の木に登り始めました。

雲の上までやって来ると、また巨人のお城に忍び込みました。


巨大な机の上では魔法のハープに彫られた女の人が、自分でハープを演奏していました。

その美しい音色が大きな部屋中に流れて行きます。

〈あの魔法のハープを盗むんだ〉


巨人がまた居眠りを始めました。

ジャックが机の上まで昇って、魔法のハープに触れると彫られた女の人が叫びます。

「ご主人さま泥棒です、起きてください。

このままでは私盗まれてしまいます」




その叫び声で太った巨人が目覚めました。

「お前か、儂の大切な雌鶏や宝の袋を盗んで行ったのは。

他人の大切な物を盗むなんて最低で、あんまりだろ」



 +  -  ×  ÷  =  ¥



巨人が怖い顔をして怒っている。

僕は泥棒のジャックに変身していた。

〈これから豆の木まで逃げて、巨人を下へ落とせば良いのか?〉


僕が城から逃げ出すと、巨人も僕を追って城から出て来た。


豆の木が近づくと巨人は手に持っていた斧を僕に向かって放り投げた。

雲地に伏せて『ブーン』と回転する斧の攻撃からのがれたが、回転した斧が豆の木を切断してしまった。


 今まで豆の木が引っ掛かっていたので、大きな雲は移動する事が出来なかったが、その豆の木が切断されたので、風に流されるように移動を開始した。


 当然僕が逃げるべき道が閉ざされた。

後は殺されるのか、或いは煮て食われるのか、どちらにしても僕の命がない。


「がははっチビスケ、これでお前も逃げられん。

お前が儂から盗んだ罰を、これから与える」

巨人の足下の雲に穴が開き、その穴が広がって行く。


穴から小さな家が見えた。

ジャックが母と一緒に住んでいる家だ。

巨人は袋から大きな石、僕から見れば大岩をひとつ取り出し、穴の中へ落とし込む。


落下する大岩は加速度をグングン増して、やがて地上へと衝突した。


ドゴーーン

大きな土煙りが地上で巻き起こり、ジャックが住む家が姿を消した。

後には大きな窪地くぼちが出来ている。


「何をするんだ。

地上の人たちは全く関係ないだろ」

「関係ないだと?

本当に関係ないのか?

お前の母親は、盗んだ雌鶏を儂に返すように言ったか?

お前が昇って来た豆の木は、誰がお前に与えたのだ?

全てお前独りでやったと云うのか?」


「そうだ、全部僕独りでやった」

「がははっチビスケ、お前は嘘つきでも有る。

その罰も今から儂が与えよう」


やがて大きな雲は、海に向かってゆっくりと移動し始めた。

「海に出て、この石を一度に全部海へと落とせばどうなると思う?」


〈ヤバいなコレは、巨人は津波を起こすツモリなのか?〉

僕に巨人をどうにか出来るようには思えないし、かと云って逃げ出す訳にも、逃げる方法も僕には残されていない。


やがて大きな雲が海岸に到着して、さらに沖へ向かって移動して行く。


無駄と分かっていても、僕はやるしかない。

「巨人さん、大切な宝物を盗んだ罰は、僕独りで責任を取らさせてください。

一生奴隷として働いても良いですし、好きに食べてもらっても構いません」

「がははっチビスケ、またお前は嘘をつくのか?

お前のようなチビスケに、儂の何の仕事がが出来る。

食うにも肉などない、骨と皮ばかりではないか。

そんなカラダでどうやって責任が取れると云うのだ?」


巨人が穴の中を覗き込み、手に持つ袋を上へと持ち上げる。

その時、僕の頭の中にひとつの言葉が浮かんだ。

これはマンガ的展開なんだ。


「ヘブ」

僕がその言葉を唱えると、突如雲が生き物のように動き出し、巨人を包み込んで捕えて雲の塊へと変わった。

僕も巨人と同じく雲の塊に変わり、あの巨大なお城も大きな雲の塊へと変化し、全ての雲の塊が集まって、ひとつの積乱雲へと変貌へんぼうして行った。


ドカーン

大きな雷鳴が空気を振動させ、海に大粒の雨が降りそそぎ始めた。


しばらく降り続いた豪雨が止むと、空は晴れ渡り、あの積乱雲も姿を消していた。



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