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幼稚園児と僕。  作者: 再葉
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柴犬な僕。

「今日はどこにいこうか!!」


「家」


「後でな!!」


「自宅」


「それも後だ!!」


「我が家」


「家も自宅も我が家もマイホームも却下!!他に行きたいところはな無いんですか!!」




 ヒロトに行きたいところを尋ねはするものの、まともな答えが返ってくることはない。『折角行きたいところを聞いてやってるのに』といった雰囲気で不服そうに腕を組むナオトだが、こんな状態のヒロトに行きたい場所など存在するわけがない。




「ん~そうだなぁ、なら公園に行ってから河川敷に行こう!!」




 ナオトなりに考えた結果、これはなんとも妙案が浮かんだといった感じで元気よく歩き出したが、頑張れば歩けない距離ではないにしろ幼稚園児にとって楽な距離ではない。


 それを聞いたヒロトは表情こそ変えはしないが、静かに右手の中指を立てそっとナオトに突きつける。




「まってそういうのどこで覚えてくるの!?お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはありません!!」


「兄ちゃんに育てられたらたまったものじゃありません」




 それでも嫌々ではあるが、なんだかんだついて来てくれるヒロトである。ナオトが前をずんずんと歩き、後ろにはとぼとぼと幼稚園児。保護者が後ろから見守るべきであるが、もはや言うまでもなくこの二人はこの構図の方がしっくりくる。




 いくらか歩いて公園に近づいてきたころ、




「あるくよ~♪」


「あるくよ~♪」


「僕は元気だよ~♪」


「歩くのが好きだよ~♪」


「ずんずん行っちゃうよ~♪」




 どこかで聴いたことがありそうで無いような散歩ソングを腕をブンブンと振りながら大きな声で歌い始めたナオト。ヒロトもこの曲は知っていたので、特に何も言わずにその歌を聴いていた。




「くだりざか~♪」


「トンネ~ル♪」




「やっけっのっはら~♪」




(…焼け野原!?)




 さすがのヒロトでもこれには驚いた。この曲の『トンネル』の次の歌詞は『お花畑』である。幾度となく歌われてきた恒久のお花畑に一体何が起こってしまったのか。




「ひろがる未来~~~♪」




 妙にビブラートのかかった希望たっぷりの言葉だが、そこに広がるのは一面の絶望である。




「鳴り響く雷鳴~♪」




 なるほど、ナオトは魔王にでもなりたいらしい。スライムやゾンビを兼任している男だ。魔族ならば魔王という悪の王にして魔族の長に憧れてしまうのも頷ける。


 そして間髪入れずにこちらを振り返りながら、




「そして振り返ると、そこにトンネルは無かった........ムッ......?妙だな....」




 一度でいいから、この男に『整合性』という言葉の意味を聞いてみたい。一体どういった経緯でミステリー物になってしまったのだ。支離滅裂天変地異の権化である。


 『妙だな....』の言葉と共にキリッとした顔を向けてくるナオトは、かの有名な名探偵を彷彿とさせたかったのだろうが、いかんせん腹立たしい。ただただ腹立たしい。素晴らしく腹立たしい。


 そんなナオトを見てとりあえずまた中指を立てて無言で突き放すヒロト。




「いやぁ~、つい楽しくてはしゃいじゃったよ~」




 そう言いながら自分の頭をさすり少し恥ずかしそうにしながらまた歩き出すナオト。ご満悦である。どうやらヒロトと散歩に出かけられたことが余程嬉しかったらしい。




「ヒロトくんも楽しんでいるかね!!」




 またこちらを振り返りヒロトに問いかける。




「不審者が目の前にいます。心中穏やかではありません」


「どこだ!?俺が守ってやるぞ!!!」




 もう今日のこの男に何を言っても無駄であろう。




「兄ちゃん、公園に行ったら何するの?」


「んー、手始めにおにごっこでもしてみるか?」


「兄ちゃんが鬼で僕が桃太郎?」


「もう少し平和的なおにごっこがいいかな~....」


「なら泣いた赤鬼ごっこ?」


「おー!兄ちゃんが赤鬼でヒロトが村人なら仲良くなれるな~」


「兄ちゃんが青鬼で僕が村人ならいいよ」


「悲しい世界!!」




 いつも以上にツッコミにキレがあるナオト。やはりどれだけ言葉を投げつけてもダメージを与えられそうにない。きっと悪魔の加護でもついているのだろう。


 そう悟ったヒロトはナオトをそれ以上は何も言わずに無言で追い越し、公園を目指す。




「なぁんだぁ~??ヒロト隊員も案外ノリノリではないか~~」




 ナオトはまたはしゃぎだし、ヒロトの周りをくるくると周っている。


 この二人の一連の光景は、例えるとするならば『犬の散歩』が一番妥当であろう。そうこうしているうちについに第一目的地である公園にたどり着いた。

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