超最速で異世界転生転移において魔王を倒す方法
思いついたネタをテキトーに短編として書いてみました。
「――私は転生を司る女神です。はじめまして、佐藤 和樹くん」
「は? いきなりなに言っちゃってんの? いいから、俺を家に帰してくれない? ここどこ?」
俺は今、よくわからない場所で目の前にいる頭の可哀想な女と対面している。
あーそうかこれ夢か。
「佐藤 和樹くん。貴方の身に起こった不幸を覚えていますか?」
「覚えてる……というより、現在進行形だな。この状況こそが不幸そのもんだろ」
「……覚えてないようですね。良いですか、貴方は死んだのですよ」
「はぁ? この通り生き――」
「――本当に生きてますか? よく思い出してみて下さい」
本格的にヤバイ人と関わっちまったか、俺が死んだなんてバカなこと言う。なに言ってるだか、この通り生きてるつーの。
しかし、このよくわからない場所に連れて来られる前――高校をサボってどこかで暇つぶしするか、なんて考えながら歩いてたよな。
それから、どうしたっけか……確かゲーセンにでも行こうと思ったが、こんな時間から学生服でいたら警察に職質でもされるから行くのをやめて、河原の橋下で暇を持て余してたんだよな。
それで――あっ川に落ちたんだ!
「ま、まさか……俺、川に落ちてそのまま……」
「いいえ、それが死因となったわけではありません。貴方はなんとか岸まで自力で辿り着きました。しかし不幸にもそこへ――近くで野球をしていた人たちのボールが――」
「そのボールが頭にでも直撃して、それが死因に……」
「ボールが飛んできましたが、見事にキャッチしました」
「って、ボールが死因じゃないのかよ!」
「それは良かったのですが……そのあと、近くで交通事故が――」
「なるほど、その交通事故に巻き込まれたんだな」
「巻き込まれはしなかったのですが、トラックの荷台に載せられていたのが運悪くも大量の牛でして……」
「おいおい、まさか俺の死因は牛に踏みつぶされたってのかよ……」
「いえいえ。貴方は逃げた牛を捕獲するのを手伝い感謝されました。不幸はまだまだ続きましたが、見事にそれら全てを回避し続けのです。一番凄かったのは、UFOの墜落すらものともしませんでした」
「UFOってそれはそれで一大事じゃねーか! 結局、俺の死因はなんなんだよ」
「様々な不運に見舞われた貴方は疲弊しきっていました。そして、家に帰ろうと歩き出した時――牛糞に足を滑らして転倒。その際に、頭部を強く打ち意識不明になり、そのままゴロゴロと転がり川へと……」
「結局、溺死じゃねーか⁉ その途中のくだりいらねーだろ!」
荒唐無稽な話ばかりだが、おぼろげながら確かにそんな目に遭ったな。我ながら信じられない――けど、それは真実ではあるよな。ってことは、やっぱ俺は死んだのか。
「それじゃここはどこなんだ? アンタは閻魔様――って、さっき女神がどうのって言ってたよな」
「はい、私は女神です。それも転生を司る女神、佐藤 和樹くんを異世界へと転生させる為に、この場に招いたのです」
「て、転……生? 生まれ変わるのに少し大げさじゃないか? アンタにとっては通常業務みたいなもんだろ?」
「通常はそうですね。しかし、佐藤 和樹くんには特別な転生をして頂こうと考えています。まず転生する世界は剣と魔法の世界――佐藤 和樹くんにわかりやすく言うとテレビゲームにあるRPGような世界です。そしてその世界で猛威を振るっている魔王を倒し平和な世界へと変えて欲しいのです」
「ちょ、ちょっと待った。なんで俺なんだよ? ただの高校生に魔王を倒せって無理があり過ぎるだろ」
最初からわけが理解らなかったが、今度は転生して魔王を倒せなんて無茶にもほどがある。俺はただのなんの変哲もない高校生でしかない。別に超能力があるわけでもないしな。
なによりも、わざわざ別世界の人間を転生させることじゃないだろ、その世界の人間にやらせるべきだろ。あぁ、そうだよ……そうすべきだ。
「先程申しましたが、佐藤 和樹くんには類い稀な強運の持ち主であること。そして別世界の人間であることが重要なのです。同じ世界の人間では対抗するだけの力が無いのです」
「だからって俺でなくてもいいだろ。そもそも、世界平和を望むなら、女神であるアンタが力を使えばよくね?」
「はい? あ、いえ……それは面倒――片方だけに肩入れするのは女神の決まりで出来ないのです」
「……おい、今 “面倒” って言わなかったか?」
「え……えぇ、言いましたとも。それは女神の私が介入しては面倒事になる、と言いたかったのです。えぇ、そうですとも、決して私が面倒だから関わりたくない、というわけではないですよ」
さらりと本音が出てるじゃねーか……けど、一応は筋が通ってるから納得せざるを得ない。
それにしても、ただ幸運に恵まれただけの高校生に魔王を倒せなんて無理だろ。
「けどよぉ、転生するってことは人生をやり直すってことだよな? それじゃ俺の幸運も無くなるじゃないのか?」
「全くその通りです。しかし佐藤 和樹くんには、特別な転生をしてもらいます。今の身体と記憶を持ったまま異世界に転生してもらいます。それだけではないですよ、女神の加護としてたった一つとは言え特殊なものを授けます」
「特殊なもの?」
「簡単に言ってしまえば、伝説の武具や特殊にして異能の力などです。その力を使って魔王を倒すのです! そして世界を平和に!」
「いや、それ無理だろ」
「え?」
「いやいや、いくら特別な武具や力があったとしても、“一つ” じゃ勝てないだろ。俺ただの高校生なんだし」
無理があり過ぎる。つーかよぉ、そういうのはそんな世界に憧れている連中にでもしてくれ。俺はその類いには興味ないからな。
「そんなわけで、俺は通常の転生にしてくれよ」
「えぇぇええ⁉ それは困りますぅ。私の職務怠慢がバレちゃうよぉ」
また本音が漏れていやがる。
女神の威厳はどこへやら……懇願するようにして俺に泣きすがる女神。つーか、自業自得じゃねーか。
「なぁ、アンタの目的って魔王を倒すことなんだよな?」
「ふぇ……そうですよ。それがなにか?」
「だったら、一つと言わずに魔王を確実に倒せるだけの武具や能力をくれよ」
「そ、それは……言わないお約束でお願――そうです! これもまた、一方に肩入れすることになりますから無理なんです! ってことにしよう」
「さっきから本音がだだ漏れだぞ」
「お願いします! 後生ですから、転生して魔王を倒してください~。でないと女神困るんです」
「俺が魔王を倒すのは決定事項かよ……しゃーねぇな。それで、どんなのが有るんだ?」
「女神めっちゃ感激です! ゴッホン……この中から一つ選んでください。それが佐藤 和樹くんだけの力となり、世界平和へと導くのです」
今更、女神らしさを出しても遅いぞ。にしても……女神とはいえ、女の泣き顔はずるい。ここは仕方がない、魔王退治をやるしかないか。
さてと、一体どんなものがあるのか見てみるか。なるべく、魔王を確実に倒せるものが良いよな。いくら、特別な力があったとしても、俺はただの高校生だ。そんな俺が魔王を倒せるとは到底思えない。
――しばらく、武具や異能に関してのリストを見てみた。
確かに強力なものがある……だが、それで魔王が倒せるとは思えなかった。例えば、一撃で倒せるものを会得したとしても、俺自身が弱ければ意味を成さない。かと言って、俺が死なないようなものでは魔王を倒せない。どれを選んでもどっちつかずって感じだな。
うーむ、どうしたものか……。
「なぁ、このリストにあるものじゃなきゃ駄目なのか?」
「それはどういう意味ですか?」
「んー例えば俺が考えた能力を貰うとか」
「それでやる気になって頂けるのであれば、構いませんよ。どんな能力にします?」
「それは――――――」
――俺は女神に従い転生した。
けれど、魔王を倒す為に世界中を旅して力をつけるなんてのは勘弁して欲しい。女神じゃないが、そんな面倒なのは嫌だ。だから俺は転生する際に頼んだ――魔王の目の前に転生させてくれと。
速攻で魔王を倒して世界を平和にして、俺は新たな人生を謳歌したいんだ。
「――なにっ⁉ 貴様、一体どこから現れた⁉」
「お前を倒す為にここに呼ばれた者だよ」
「なんだと……見たところ人間か。下等生物がこの魔王に勝てると思っているとは片腹痛いわ!」
「倒せるさ。その為に俺は今ここに居るんだからな」
「愚か者めが! 死ぬが――」
「――お前が死ね」
魔王は巨躯ゆえに俺は跳び上がる。魔王の眼前にまで到達し、顔面に拳を叩き込んでやる。
「バ、バカなぁああああ⁉ この魔王がぁああ! この私がぁぁぁあああああ――――」
「ほいよ。一撃でクリア」
俺が女神に貰った異能の力――《 常に頂点に座する者 》。
その能力は、世界の頂点に立つ者の全ての力を大幅に超え、俺自身を頂点へと押し上げるもの。ちなみに名付けたのは女神。
まっ、二番目の存在に依って、俺の力が増減するから常時魔王級の力でいるわけではない。俺としてはそっちのが助かるけどな、力を持て余さずに済む。俺は平穏な日常を歩みたいんだ、もし新たな魔王が誕生したとしても、この能力があれば簡単に倒せる。俺の平穏が乱されることはない。
「――さて、新たな人生なんだ。この先のことは、ゆっくりじっくりと考えていくか」
俺は当ても無く歩き出す。
それは魔王を倒す旅路――なんかじゃない。平和な世界を堪能する為の第一歩を踏み出した。
『超最速で異世界転生転移において魔王を倒す方法』~完~
ここまでご愛読してくださり有難うございました。