第二話『氷山の一角の生命』 1
生命に、”永遠”を求めることが出来るだろうか。
“永遠”と化した生命は、求められることが出来るだろうか。
全てが凍り付いた世界の中、何故か無事でいた少女、霜月トワ。
私はその状況にも、彼女の出で立ち、そして身にまとう雰囲気にもどこか不審なものを感じていた。共に《箱舟》へと戻るときに握った手は余りに冷たく、こちらを見つめる瞳は精巧に作られた人形のよう。一つにまとめて下ろされた後ろ髪も、直線的に切り落とされている前髪も、どこか無機質で不気味な印象を覚えさせた。
薄く朱色に染まった頬だけが、彼女の年相応の幼さを醸し出していた。
「随分、薄着みたいだけど。寒くはないですか?」
「大丈夫です」
彼女はこちらから話しかけない限りは、ただ義務のように白い息を吐きだしているだけなのだった。
《箱舟》にたどり着いても疑念は晴れず、私はトワを建物の裏手まで連れて行った。そこに立てかけられている梯子を使うことで、三階の窓から屋根裏に入ることができる。
古びた木と埃の匂い、そしてあちこちに置かれたランプの暖かさが私を安心させた。《箱舟》に住む人々が総出で建物中の氷を取り払い、もう氷が張らないようにありったけのランプを置いたのだ。幸いにも《春祝祭》のために大量の菜種油が備蓄されており、節約すればかなり長く持ちそうだった。トイレや風呂に関しては……女性は辛そうだ。
「広いですね」
驚いたようにトワが言う。初めて彼女の感情が動いたところを見たかもしれないと思った。
私は成り行き上とはいえ《箱舟》の中では専門職に就いているので、特別に他の部屋より自由に使えて広めの屋根裏が割り当てられている。私はトワに暫くここにいるように言いつけた。
「あと、いくら大丈夫と言ってもその恰好じゃあ心配ですから……その辺りにある上着とかマフラーとか、着ておいてください。私が着ていたものですけれど」
「はい」
「それじゃあ……って、待ってくださいなんでもう脱いでいるんですか!」
「服を着替えるためには脱がなければいけません」
「それは……ああ、もう分かりました!」
何故だか後ろめたい気持ちが沸き上がってきて、私は慌てて研究所の中に繋がる梯子を駆け下りた。