表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/51

第七話『喪失の春』 2

「遠距離恋愛?」

「そ、そうなんです」


 彼女の要求とは、端的に言ってしまえば『かつての恋人との思い出の品』であった。

 高校生にして、一つ上の男性と情熱的な“遠距離恋愛”をしていたという。しかしよく聞いてみると、


「えっと……それじゃあ、彼氏さんの家もこの街にあるんですか?」

「うん! 学校も同じなんだ」

「それは……遠距離恋愛なんですか?」


 どうにも言葉の意味をはき違えているような気がしないでもなかった。

 しかし、彼女たちには彼女たちなりの複雑な事情もあるらしい。


「それでは、マユラさんの家から何かを持ってくるんですね? 品は何ですか?」

「ああ、それがその……家には、置いてないの、そういう物は、一つも」

「一つも?」

「うん、あの人のことが分かるようなものは、一つも。置けたのならそれで良かったんだけど……家が、許してくれなくてさ。実は──」


 正直そんな風には見えない……と言ってしまえば失礼に当たるが、彼女の家はこの土地で代々続く名家らしい。彼女はそこの一人娘として、家を継ぐことが決まっているのだという。

 よく聞く話ではある。つまり彼女の恋は、家から許されたものではないのだ。門限に遅れない程度に、帰り道に寄り道をしたりすることだけが、マユラたちに出来た恋だったのだ。“遠距離恋愛”という言葉も、あながち間違ってはいないのかもしれない。


「かたちが残ってると、まずいからさ……私の家には勿論、向こうの家にも……何もないんじゃないかな、多分」

「それは……しかし、流石に形が残っていないと、探すのは」

「で、でもね、聞いたことがあるの! あの人の同級生からなんだけど、あの人……な、何か手紙を書いてたんだって! もしかしたら、ラブレターかもしれない、って」

「ラブレター、ですか」

「そうなの、だから……もしも、もしも何かがあったら持ってきて、ください! 無くても、きちんと食べ物はあげるから……」


 勢いよく、彼女は頭を下げる。

 私は僅かに微笑みながら、床に置いておいたランタンを拾い上げて言った。


「分かりました。《発掘人》としてこの依頼、お受けしましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ