第七話『喪失の春』 2
「遠距離恋愛?」
「そ、そうなんです」
彼女の要求とは、端的に言ってしまえば『かつての恋人との思い出の品』であった。
高校生にして、一つ上の男性と情熱的な“遠距離恋愛”をしていたという。しかしよく聞いてみると、
「えっと……それじゃあ、彼氏さんの家もこの街にあるんですか?」
「うん! 学校も同じなんだ」
「それは……遠距離恋愛なんですか?」
どうにも言葉の意味をはき違えているような気がしないでもなかった。
しかし、彼女たちには彼女たちなりの複雑な事情もあるらしい。
「それでは、マユラさんの家から何かを持ってくるんですね? 品は何ですか?」
「ああ、それがその……家には、置いてないの、そういう物は、一つも」
「一つも?」
「うん、あの人のことが分かるようなものは、一つも。置けたのならそれで良かったんだけど……家が、許してくれなくてさ。実は──」
正直そんな風には見えない……と言ってしまえば失礼に当たるが、彼女の家はこの土地で代々続く名家らしい。彼女はそこの一人娘として、家を継ぐことが決まっているのだという。
よく聞く話ではある。つまり彼女の恋は、家から許されたものではないのだ。門限に遅れない程度に、帰り道に寄り道をしたりすることだけが、マユラたちに出来た恋だったのだ。“遠距離恋愛”という言葉も、あながち間違ってはいないのかもしれない。
「かたちが残ってると、まずいからさ……私の家には勿論、向こうの家にも……何もないんじゃないかな、多分」
「それは……しかし、流石に形が残っていないと、探すのは」
「で、でもね、聞いたことがあるの! あの人の同級生からなんだけど、あの人……な、何か手紙を書いてたんだって! もしかしたら、ラブレターかもしれない、って」
「ラブレター、ですか」
「そうなの、だから……もしも、もしも何かがあったら持ってきて、ください! 無くても、きちんと食べ物はあげるから……」
勢いよく、彼女は頭を下げる。
私は僅かに微笑みながら、床に置いておいたランタンを拾い上げて言った。
「分かりました。《発掘人》としてこの依頼、お受けしましょう」




