第5話
「ちょっと!イヴ!大丈夫!?」
アリアは『ダーク・オーファルス』がイヴのいる場所に向かって極太のレーザーを放ったのを確認して、即座にイヴの方に通信魔法を繋げる。
しかし、彼女の返事を聞く前に敵は、既に右手の剣をアリアへと振り下ろし始めていた。
そして、イヴの方に気をとられていたアリアは避けるタイミングを失ってしまう。
万事休す、そう思ったが、
「伏せて!」
その声を聞くと同時に、即座にしゃがみ耳を抑える。すると、軽い衝撃波と熱波が襲いかかるが剣はアリアではなく、その横の砂を切り裂くことになった。
「リリィ!ナイス!愛してる!」
「軽口叩いてる暇あるんだったら、相手の攻撃圏内から離脱してください!」
先程はリリィが投げ込んだC4爆薬で剣の軌道が逸らされたことによって、敵の攻撃を防ぐことが出来たが、流石に2度目は難しいだろうと、冷静に判断して、即座に移動を開始、敵の方に注意を向けつつも、イヴへと通信魔法を繋げる。
すると、
「こっちは大丈夫。敵さんはスナイプに関しちゃまだトーシローだよ。しかし、またすごいものが来たね。これでもあと2回は攻撃パターンの変化があるんでしょ?」
軽口で、イヴが返事を返してくる。どうやら無事なようだ。
安堵の息を吐き出してから、
「じゃあ、私達も戦闘に戻るとしますか!サポートよろしくね!イヴ!」
アリアが言って、武器のリロードを終える。
となりのリリィもリロードを終えてから、
「イヴ、頼むね〜」
アリアの通信魔法越しにイヴに伝える。
「任せといて」
彼女は、冷静な声で呟くように応えた。
イヴは、しばらく攻撃することが出来ないため、少しスコープから目を外し、先程のレーザーが通過した場所を見る。
そこは廃墟の一部がえぐれて、太陽の光が射し込んでいた。
「外れたとはいえ、これはまずいよね.....」
レーザーは見当違いの方向へ飛んだが、これが少しずれて、廃墟の真下に当たろうものなら、直撃しなくとも、即死が決まる。
あと、一発撃ったら、場所を変えるべきだろうと、次の場所にマップで目印をつけてから、再びスコープを覗き込む。
そして、魔法を発動。
発動する魔法は、視覚拡張系統の、『アナザーサイト』。
魔法発動と同時にイヴの目の前に、画面が現れる。この魔法の効果は、自分が見ている景色であれば斜め上から、全体を覗くことができると言うもの。スナイパーにとっては必須であり、有用性の高い魔法だ。イヴはとりあえず、一度顔をスコープから離し、出てきた画面を見た。
見る限りでは戦況は拮抗している。
まだ脱落者もいないし、敵のHPも結構削れていると思われるが、先程のレーザーを撃ってこないのが、少し気になると考えて、念の為に、再びスコープを覗き込んだ。
しかし、そこでついに問題が発生。一人のショットガンを構えた男性プレイヤーが逃げ遅れてしまう。タゲは恐らくギリギリセーフだと判断して、剣を振り下ろす動作に入ったのを見るのと、ほぼ同時にトリガーを引く。
『ダーク・オーファルス』が横からの衝撃波にたたらを踏み、こちらをにらんだかと思うと、こちらに向けて、左手を構えた。
あの構えは、先程のレーザー。流石に2度目も外れると期待するほどイヴは楽観的な思考をしていない。
故に、その左手が構えられた瞬間、左肩に向かって、もう一発狙撃。上体を倒すことによって、レーザーを空に向けて空撃ちさせることに成功する。
しかし、それがきっかけとなったのか、敵がこちらに敵意のある視線を向けた、ような気がする。
そして、それと同時に、
「ごめん!多分タゲ移ってる!すぐに取り返すから、耐えて!」
アリアからの通信が届いた。
私はそれに返事をせず、背中に存在する羽根のような装甲から光を撒き散らしながら、こちらへと迫る『ダーク・オーファルス』をスコープ越しに睨みつける。