第3話
「久しぶり、エイン。てか、今はこんばんわじゃない?」
軽く笑いながら、彼に言うと黒髪の美少年、エインも、
「こんにちわって、いつでも使える共通言語だから、気にしない気にしない。ところで、この後アリアとリリィも来る?」
答えながら、私の目の前に座った。彼は、ゲーム開始当初からずっと付き合いのある私のフレンドだ。彼が座り、飲み物を頼むのが終わってから、彼に肯定の返事を返すと、
「なら話が早いね、この後みんなでレイドクエストいこうって話があるんだけど、君達にも参加してもらいたいんだ〜」
「なるほどね、レイドクエストか.....」
このゲームは基本pvpのfpsだが、オープンワールドになっているフィールドの中で、モンスターなどと戦うことも出来る。
更に、ここ、オープンエリアがある場所は『アルカンド』という街になっており、この街の中にいるNPCプレイヤーから、オープンワールドでの素材採集、モンスター討伐なども受けることが出来る。
もちろん、モンスターを倒せば、ゲーム内マネーもドロップするし、武器を作る上で必要な素材も落ちる。
レイドクエストというのは、普通パーティ上限である5人しか同時受注できないクエストとは、異なり、7パーティ合同で受けることの出来る大型クエストのことである。
これは、報酬もさることながら、低確率で新たな装備の設計図が落ちるということもあり、時間と装備と人数が揃うのなら、是非ともやりたいクエストだ。
そんな打算的な考えも合わさって、私は、アリア達が来てから返事するねーと、言いつつ、メニューを開いて、レイドクエスト用にアイテムなどを購入し始めた。
が、そこでふと気になり、質問をする。
「他のパーティってどこが来るの?」
「有名どころだと『ヴォーパル・アークス』とか、『猫愛好家の方々』ってところかな。他は知らないよ」
「あー、猫さんかー。仲悪い人たちもいないし良かったかな」
そう、レイドを組む人たちも重要なのだ。
レイドクエストは大人数でやるだけあって、敵の強さが尋常じゃない。
正直足手まといがいた場合は、熟練者でも即死亡がよくあるのだ。
しかし、結構な大御所の人たちも来るとのことなので、そんなに心配はいらないかなと思っていると、
「お待たせー、ごめんごめん、先にログインしてたんだけど、リリィからかったら、街中で追いかけっこする羽目になっちゃって」
「なんで、私のせいにするんですか!基本貴方が悪いんですからね!」
二人が走ってこちらにやってきた。またアリアがリリィを怒らせたのか、と呆れていると、アリアがニヤリと笑い、
「おっと、もしかして私たちはお邪魔虫だったかなー?折角だから、スクショだけさせてね!」
私達の方に向かって、人差し指と親指を使い、四角を作り、「カメラ!」、と叫ぶ、ゲーム内でスクリーンショットを撮る方法の一つだなと、脳で認識した瞬間、
「って、そんなんじゃないっての!てか、ただ向かい合って座ってただけよ!早く写真消しなさい!」
アリアの方へ走り、掴みかかろうとする。しかし、
「ほい!はっ!よっ!」
「このッ!すばしっこい!」
私の武器である対物ライフルを構えるために、STRよりのステ振りをしてる私では、AGI全振りのアリアを捕まえられない。
猫じゃらしを追い回す猫のように私が弄ばれていると、背後でエインが大爆笑してるのがわかる。
絶対、後で殺す......
私が心の中でそう決意すると、
「はっはっ、ふっプククッ、まあ、それくらいにして、アリアとリリィはこの後レイドクエストに参加する時間はある?」
後ろのエインが笑い疲れたのか、本題を切り出す。すると、アリアとリリィは、二つ返事で、
「おっけー」
「いいですよー」
と、了承の返事を返した。まあ、明日は休日だし、多少遅くなっても許されるのだろう。
その後はエインをパーティに入れて、レイドクエストメンバーが集まってるという、『アルカンド』南西部にある集会所に行くことにした。
集会所に着くと、既にメンバーは殆ど揃っていて、後は私たちだけだったらしい。
あれれー?おっかしいなー?なんで5分前に来たのにみんなに睨まれるんだろう?
みんなの鋭い視線を完全に無視して、一番隅の席に腰を下ろすと、中央の席に座る男が立ち上がって、自己紹介を始めた。
「俺は『ヴォーパル・アークス』のシュウだ。今回のレイドクエストでは指揮を取らせてもらう。よろしくな!」
全員から軽く拍手が送られる。まあ、『ヴォーパル・アークス』のメンバーは全員礼儀がいいから、反対するものも無く。そのまま作戦会議は進んでいった。
メンバーは全員で33人。
スナイパーは私を含めて7人、補給7人、残りは前線ということになった。
そして、
「今回の目標は『ダーク・オーファルス』というやつらしいが、知ってるやつはいるか?」
誰も首を縦に振らない。そう、今回のレイドクエストはいつの間にやら実装されていた新クエストのため、クエストの内容を知る者がいない。
そこだけが、唯一の不安点であった。
私たちは、街を出て、クエスト目的地の砂漠エリアへと向かっていた。
この砂漠エリアは、砂だけというわけでは無く、ボロボロの建物やコロシアムのような場所など、スナイパーが隠れるための位置もたくさん存在するエリアだ。
そして、クエスト開始地点がマップに示されているのだが、討伐系のクエスト全ての傾向として、クエスト開始地点でなんらかの開始条件を満たすと、即座に戦闘開始というものがあるため、スナイパーは開始地点から5〜800mほど離れた位置で開始する必要がある。
しかし、私は、
「ごめん、そろそろ私は隠れることにするね」
「ん?まだ2キロほどあるぞ?スナイパーはもっと近くないと当たらんだろう?」
そう、2キロほどの地点で既に開始地点を決めようとしていた。
案の定、リーダーが聞いてくるが、アリアが、
「この子はこの距離でも行けるから大丈夫ですよ。それにいざって時は、仲間の場所に飛べる『転移石』も持ってるので」
と、フォローをしてくれる。
リーダーはまだ納得できない様子ではあったが、『転移石』を見せると、渋々下がってくれた。
全員を見送ってから、廃墟のビルへと登る。
そして、マップに示された位置へと体を向けて、スコープを覗く。
私の愛銃、『ヴァルファーレオーディン』のスペック上最大射程は驚異の3.5キロ。とはいえ、プレイヤーの技量に大いに左右されるため、普通では1.2キロも当てられれば十分だし、ずっと使い続けた私でも2.5キロが限界だ。
しかし、最大射程がそれだけあるということは、スコープもそれくらいまで覗けるということなので、私はクエスト開始地点を覗き込むことが出来る。
そして、見えたものは謎の紫の物体。
とりあえず、アリア達に通信魔法を繋げて、報告する。
彼女達は、そろそろ着くそうなので両目を開きつつ、スコープを覗いて待つ。
心臓のせいで指先が震えた場合、この距離だと少し外れただけで大外れするため、出来るだけ、呼吸を深くし、心を鎮めて、開始の瞬間を私は待ちわびていた。
アリア達もイヴが見た紫の物体の場所へとたどり着いた。
そこでクエストの表示が変わり、誰かがあの紫色の物体に触れることでクエスト開始と出ている。
ここまでくれば、全員があの紫色の物体がエネミーを呼び寄せる。もしくはあれ自体がエネミーという発想に思い至り、アリアが提案する。
「あの紫色の物体の周りに地雷とC4設置しまくって、敵が出た瞬間に先制攻撃をしましょう。」
その発想は結構考えている人もいたため、全員で周りにありったけの爆薬を設置する。
そして、
「じゃあ俺が触れて、クエストを開始する。エネミーの出現と同時に全員で一斉射撃。スナイパー部隊もそれでいいな?」
シュウが聞くと、全員が了承の返事を返してくる。
それを聞くと、シュウが紫の物体に触れる。すると、紫色の物体の各所に存在するラインに薄緑の光が走る。
さらに変化はそれだけに留まらず、物体がどんどんと、変形し、腕のようなものや、スラスターのようなものが出てくる。そこまで確認したところで、シュウは即座に走って、離脱。
そして、シュウが武器のマシンガンを構えて、振り返ったところで、敵の変形も完了。
そこにいたのは、全長10mはあろうかという巨大な人型のロボットのようなものであった。