第22話
「罠を張るから、二手に分かれよう。アリア、イヴ、頼める?」
「ルートは?」
「これ」
マップに光のルートがある。恐らくはここを回って来いということだろう。
私は道を見てから、肯定の返事を返す。
そして、私達が別れた瞬間、爆音と共に敵が海底トンネル内へと侵入してきた。
「待てや!」
幸いにも、二手に別れたことには気づいてないようでこちらを追ってくる。
「速い!」
「イヴ、もっとペース上げらんない!?」
「ごめん、無理!」
全力で走るが、『アークディフィジョン』が重すぎる。これじゃ、アリアまで巻き込んでしまう。
それにエインの位置まで誘導も出来ない。
どうしようと、悩んでいると、隣からアリアが叫ぶように言ってきた。
「イヴ!それで天井を撃って!」
「.....?あ、そっか!わかった!」
一瞬理解できなかったが、即座に彼女の意図を汲み取り、振り返る。
狙うは、敵の真上の位置。
移動速度と、その後落下してくるものを考慮して、偏差射撃を天井にぶつける。
爆発音がすると同時に天井が砕けて、降ってくるのは大量の水。
そう、ここは海底トンネル。
ステージの7割を埋める水の下にある通路だ。天井に一つ大穴を開けてしまえば、そこから強い圧力のかかった水が、滝のように降り注ぐ。
「なっ.....!!!」
瓦礫と水の暴力で敵の姿が見えなくなる。
そして、水は私たちの所まで迫ってきた。
このままでは水の圧力で私たちは死亡してしまう。つまり、
「「走れー!!!!!」」
私達が目指すのは次の部屋の入り口。
海底トンネル内は、小部屋ごとに結界が張られており、一つの部屋を水没させたからと言って、海底トンネル全てが水没するわけではないのだ。
そして、水に追いつかれる寸前、部屋へと飛び込む。それと同時に見えない壁によって水がはじき返された。
「ふー、危ない危ない」
「まだ!アリア、走るよ!」
落ち着こうとするアリアに声をかけて、私は走り出す。あれは、この程度で止まるような性能じゃないのだから。
イヴに急かされて、アリアも走り出す。
そして、さらに次の部屋に入る瞬間には、水の中から鬼のような形相で、敵が飛び出してきた。
エインの待つ部屋は、次の次。
完璧に逃げきるにはもう一手必要だ。
走りながら考える。しかし、いい案が思いつかない。
そうしてる間にも距離は詰められ始めた。焦りながらも、後ろを振り返らずに走っていると、アリアが小声で何か呟いた。
一体どうしたの?と、聞くと、彼女は答えるより速く、足を止めて振り返る。
まさかと思った瞬間、後ろから、
「振り向かないで走って!」
と、喝を飛ばされる。
もしかしなくても、彼女は最初からこのパターンを考えていたのだろうか、そんな思いが過るが、それはきっと彼女にしかわからないだろう。
私は、彼女の覚悟を無駄にしないために、立ち止まらずに走った。
後ろで爆音と、叫び声が聞こえるが、結果を見るより早く、私は次の部屋へと駆け込み、エインの待つ部屋へと行くべく、ラストスパートをかけた。
「クッソがぁ!いちいちめんどくせえ!」
1人の女性プレイヤーをゲームオーバーに追い込んだが、その隙にもう一人のプレイヤーに逃げられてしまったことに怒りを覚えながら、そのプレイヤーを追いかける。
両腕の武装を壊され、その敵にやり返すこともできない。
非常にストレスが溜まっていたが、後は、奴と、そいつと一緒にいた男を倒すのみだと、思考を落ち着かせて、逃げる背中を追う。
そして、奴が逃げ込んだ部屋へと突入すると、奴は、部屋の奥で銃を構えた。
どうやらここで終わらせる気らしい。
男はようやく鬼ごっこも終わりかと、狙いを外させるべく、動こうとするが、
「ああ?」
妙な風切り音がしたと思ったら、次の瞬間、何かに引っかかり、空中へと縫いとめられてしまう。
すると、部屋の中にいくつかある柱の陰から、一人の男性プレイヤーが出てくる。
そいつは整った顔で軽く笑いながら、
「一丁上がり」
落ち着き払って、男を捉えた宣言をした。
「流石、エイン。こういう作業速いわね」
「こんなやりやすい場所でなおかつ、相手は巨大。僕を舐めてもらっちゃ困るね」
私の目の前には、空中で一切の身動きを封じられた男がいる。これはシステムではなく、エインのプレイヤースキルによるものだ。
なにやら、いろんなところに迷彩スプレーをつけたワイヤーを引っ掛けまくってプレイヤーを絡め取るらしいが、やれと言われても私は出来ない。
私は男へと歩み寄り、通信魔法をスピーカー状態で起動させる。
通信魔法の相手はお父さんだ。
そして、
「よう、チート野郎。お前、岩崎のおっさんから頼まれたんだな?」
「はぁ?なんのことだか、わからねえんだが」
「くだらん嘘はいい、どうせそっちも通信魔法繋いでんだろ?岩崎」
私にはわからないが、どうやらお父さんはこの事件の黒幕を知っているらしい。
しばらく沈黙した後に、男の方から、その男ではない声が聞こえてきた。
「ふん、なぜ私だとわかった?」
「あのコード解析を出来るやつなんざ、お前以外に俺の知り合いにはいねえよ」
「ふっ、それもそうか。なんといっても私ですら一週間もかかったからな、それも不眠不休で私の研究グループと共同で働いてだ」
「ちっ、くだらねえことしてんじゃねえよ」
お父さんのくだらないという言葉を聞いた瞬間、通信相手、岩崎と呼ばれた男は急に激昂して、
「くだらないだと?この技術をゲームなどというくだらんものにしか使わない貴様にだけは言われたくはない!これは脳科学の分野で使えば、人類史に名を残せる技術なんだぞ!それを貴様とあのイカれた女とで独占しよって!」
「あいつはてめえみてえな奴にこの技術を使われたくないから技術を秘匿してんだよ!」
「ふん、どうせいくら話し合っても平行線だ。有益では無いだろう。そこでどうだ?一つ賭けをしてみないか?」
「賭けだと?」
「このままではおそらくこのゲームの全てを解析し、掌握するにはあと40年はかかる、私はその頃にはすでに70前半だ。そんなには待ちたく無い。とはいえ、40年後だとしても貴様は私に技術を渡したくは無いだろう?そこでだ、次のこのゲームで行われる世界大会、私の代表選手が1位を取った場合、貴様は技術を公開、取れなかった場合は貴様らにちょっかいを出すのをやめる。そんな賭けをしないか?もちろんチートは使わない」
「信じろと?」
「私のツテで国の方に誓約書を書いてもらってもいい」
「なるほどね.....」
お父さんはしばらく黙り込んだ後に、
「いいだろう、お前の粘着ストーカーにも、飽き飽きしてきたところだ。ここで決着をつけてやるよ」
「決まりだ!では3日後、国会議事堂に来い!そこで誓約書を書こうではないか!」
通信が切れる。エインはポカンとしてるし、わたしにも状況が読めない。ただ、どうやら、私は世界大会に何が何でも本戦出場しなければいけないことはわかった。
その後は、みんなにお礼のメールを送った後に解散した。ちなみに、チートプレイヤーにはしっかりと弾丸を撃ち込み、コードを返してもらった。




