第21話
シオンを鷲掴みにした敵は、完全に油断してその動きを止めた。この距離、そして動かない的、当たる!
リロードとセットを高速で終わらせ、その体に風穴をあけるべく、狙いを定める。
そして、敵がハッと気づいた様にこっちに顔を向けた瞬間、トリガーを引いた。
「ぐっ!」
轟音は無い、しかし発射時の衝撃は『ヴァルファーレオーディン』の数倍はある。
肩に銃が押し付けられる、というよりほとんどめり込んでいる。
視界の端で輝くHPバーは2割ほど減少していた。たしかにこれでは1キロ先の狙撃など望むべくもない。
そこまで考えてから、敵の確認をする為にもう一度スコープを覗き込む。
まだ、砂煙が邪魔で見えない。死体撃ちでもう一度撃つかと思った瞬間、
「アアアアッッッ!!!!」
「なっ!?外した!?そんなはずは.....まさか、弾速が早すぎた?」
砂煙を吹き飛ばしながら、獣の様な方向を上げて、敵がその姿を現した。
シオンを掴んでいた右手は見るも無残な姿に変えられているが、その他にダメージは無さそうだ。
これでは肉体には当たっていないだろう。
恐らく、衝撃による私のハンドのブレと早すぎる弾速のせいでいつもより空気抵抗の計算がずれたせいで本体ではなく、右手に当たってしまった。
せっかくシオンが作ってくれた千載一遇のチャンスを無にしてしまったことに罪悪感が芽生えるが、今は後悔していられない。
位置がバレたということは、絶対にこちらを殺しにくる。なぜなら唯一自分を倒しうるプレイヤーなのだから。
そこまで考えたところで、敵が飛び上がると、私に殺意を向けながら突っ込んできたのが見えた。
しかも、高速で乱雑に動き回っているせいで狙いがつけられない。
「そこかぁ!」
「しまっ.....!!!」
距離を詰められ、私の隠れている廃墟にカルヴァリン砲が撃ち込まれた。
爆炎と共に、廃墟が崩れ始める。
落下死を防ぐ為に、魔法を使えば、長い滞空時間で敵にやられる。かといって落ちればそのまま死亡。
どうする......
必死に頭で考えるが、
「オラァ!なんだ今の攻撃はよぉ!」
敵がこちらへとバルカンを撃ちながら迫ってくる。
思考を上手くまとめられない。なんとか、屋上の脆くなった屋根に空いた穴から、一つ下の階に降りて、敵の攻撃を避ける。
だが、廃墟の崩壊は続く。このままじゃ......
しかし、その時外から自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、外を覗く。そこには.......
「ちっ、ちょっと先生?これ装備しとけばダメージ食らわないってのはデマか?ふつうにぶっ壊されてんだけど?」
「ふむ?全アイテムを見たが、それにダメージを与えられるものなんぞ無かった筈だが.....ゲームマスターでも出張って来たか?」
男は崩れたビルを見て、完全に仕留めたと思い、誰かと連絡を取っていた。
話し方は雑だが、その連絡相手に少なからず敬意を払っていることがうかがえる。
「まあ、とりあえず排除は出来たんで、また解析始めますよ」
「よろしく頼む」
男は通信を切ってから、そういえば最初の奴を倒すのを忘れてたことを思い出したがあいつではどうすることも出来ないと思い直し、作業に戻ろうとした。
その瞬間、耳元でアラームが鳴り響く。
そして、敵の位置が表示される。
そこは、さっき破壊したビルの真下。
「くそ!」
即座に回避行動を取るが、爆発音と共に、装備の右腕が吹き飛ばされる。
驚愕と共に、そちらを見てみれば、先程ビルと共に死んだはずの少女の姿がある。
「なんで生きてやがる」
男は微かな苛立ちを込めて呟いた。
「アリア、エイン.....どうして?」
「困ってる友達を助けるのに理由がいるの?」
「ちなみにリリィも来たがってたんだけど、ちょっと家の事情で来れないらしい」
ビルの下の方には、アリアとエインがいた。
彼らが下で落下死を防ぐ為に、クッションを作る魔法を使ってくれたおかげで落下死を防ぐことが出来たのだ。
私がどうやって説明しようかと口ごもっていると、
「事情は聞かないよ、私達が勝手に助けに来ただけだから、だからさ、私達を頼ってよ。友達でしょ?」
アリアが優しい声で言ってくる。
そっか、友達だからか......
どうやら私は少し難しく考え過ぎてたらしい。
私は頭を下げて、頼む。
「ごめん!事情は言えないけど助けてくれないかな!」
彼女達は声を合わせて、
「「もちろん」」
私の返事に肯定を返してくれた。
そして、現在に至る。
「ごめん!躱された!相手の動きを止められない?」
「いきなり、すごい無茶言ってくるわね!でも、エイン、なんかあるでしょ?」
「地下ならどうにかなると思う!」
このステージで地下といえば、海底トンネルだ。
私達は全員で速度強化魔法をかけて、走り出した。
だが、敵も脚部のミサイルを発射して私達を狙う。あれはホーミング機能付きだ。避けきれない。
被弾を覚悟したが、横から入ってきた人影がなにかを投げるとそれらは全て空中で爆発した。
あれは、爆発物を即座に爆破させる、チャフだ。確か、工作兵専用装備、そこまで考えたところで人影が声をあげた。
「行って!お姉ちゃん!」
「シオン!ごめん!」
これなら、間に合う。
私達は、海底トンネルへと続く縦穴へと飛び降りた。




