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第16話

「なんで、そんなに切羽詰まってるの?チートなんて今までだって、無かったわけじゃないのに」



私が聞き返すと、お父さんは泣きそうな表情で、



「違う、違うんだ......『innocence world on-line』と、『Magic and gans online』、そして、『infinite ZERO』、この3つでは絶対にあってはならないはずなのに.....」

「それって、売り上げ上位3つのゲーム?なに、信用が、とかそういう問題なの?」

「いや、違う......そうだな、お前らには話しておこう。」



お父さんは、私たちに下に来いと言って、階段を降りていく。私たちはあんなにも焦ったお父さんを見るのは初めてで、困惑しながら、その後に続いた。


下に降りると、お父さん達三人が、もう椅子に座っている。私達の分も二つ空いており、なんとなくそこに着席する。

そして、



「じゃあ、話そうか。さっき言った3つのゲームにおいてチートとかが発生してはいけない原因を」



お父さんがこのゲーム、VEについて話し出した。



「そもそもの始まりは、真冬、美咲のお母さんの親友が考えた突拍子も無い計画、いや妄想からだった。

それは、人と同じクラスのコミュニケーション能力における多様性を持ち、なおかつコンピューターと同じだけの分析能力を持つ人工知能。

それを作り出して、友達になること。」

「え、ちょっと待って?その話がVEとなんの関係が?」



私は突然始まったとんでもない話に驚き、質問をする。

お父さんは、とりあえず、聞いとけと、あまり取り合おうとしない。

私は渋々、質問をやめて、話を聞くことにする。

すると、お父さんが再び話し出す。



「まあ、それでその構想を考え始めたわけだが、当然上手くいくはずも無い。

だが、まあそいつは一種の天才でな、あるレベルまではその人工知能を作り上げることに成功した。

ただ、そいつの思考パターンはどうしても人みたいにはならない。

どうしても、機械のようにそれまでの経験で溜められた会話パターンから、最善手を選び出すことが出来るだけだった。

その天才が作りたかったものは感情を持つ人工知能なんだ。


んで、何が足りねえのかと考え出す。まあ、鬼のような表情で何日も寝ずにな。それで考えついたのはごく当たり前の結論。


歴史が足りない。


ただそれだけだった。」

「歴史が足りない?」



私はおよそ人工知能についての会話としては相応しくない言葉が出てきて、困惑してしまう。

けれどお父さんは、私の質問に、答えた。



「そう、歴史。

美咲、お前は人が言葉と感情、どっちを先に取得したかわかるか?」

「感情に決まってるでしょ?」

「そう、感情を効率的に伝えるために言葉という概念を取得した。けれど、人工知能は逆だ。言葉が先に出ちまってる。

まあ、それを言ったら、機械に感情ってどうなんだ?って話になるんだが、まあ、それは置いておこう。


まあ、それでだ。

奴は考えたわけだよ、感情が生まれつき人に備わってたのかって。

言葉が長い歴史から生まれたのであれば、感情もまた長い期間、人同士が影響しあって生まれたんじゃねえのかってな。


それで思いついたのが、大勢の人間と触れ合った経験を得られる場所を作るって発想だ。

つまり、よりリアル環境に近い状態で、チャットではなく、生の声に感情を乗せて話せて、尚且つ、大量の人間がいる場所。」



そこまで話されてようやく私も、理解する。

お父さんが結論を出す前に、私の口をその言葉はついていた。



「VRゲーム」



お父さんはニヤリと笑って、



「その通りだ。」



その言葉を肯定した。

そして、話はついに本題に移る。



「そんで、そのゲームの中に人工知能、つまりAIをたくさん配置して、プレイヤーと会話させる。すると、そのAI達には、人と触れ合った歴史が積み重なっていくわけだ。


そして、最終的には、そのAI達全てのデータを統合することによって人類の歴史に追いつかせる。

それが感情の発露のきっかけにでもなればいいと考えて、そいつはこのゲームを作ったわけだ。

ま、俺たちはそれに協力してるわけだがな。


おっと、美咲、ここからが本題だ。質問は無しで頼むぜ?


ゲームを作ったとしても、それがたくさん売れなきゃ人にはプレイしてもらえない。

じゃあ、トップセールスランキングに入り込むしか無い。

つまり、他のVRゲームとは一線を画したゲームが必要になったわけだ。


ここで質問。


どうしてあの3つのゲームは人気ランキング上位をずっと維持してる?」

「それは、他のVRでは考えられないレベルで人の感覚を再現出来てる上に、ゲームの自由度も高いから」

「その通り、他のゲームなんかプレイしてられ無いレベルでゲームのレベルが高いからだ。

それは何故か、つまるところゲームの容量がでかいからだ。

『innocence』を維持するために、どれくらいの容量が必要かわかるか?」

「ごめんわからない」

「大体、37恒河沙ヨタバイトだ。」

「ん?ヨタバイト?恒河沙?」


聞き覚えの無い単位に思わず、聞いてしまう。お父さんは、途轍もなく大きな数字とだけ考えとけと言ってから、会話を再開する。


「これは半端じゃねえ数でな、多分スパコンを日本に敷き詰めるぐらい入れねえと再現は出来ない。

当然だが、不可能だ。」

「でも、ゲームは出来てる」

「そう、俺たちはとある裏技でこれを可能にした。」

「一体どうやって....」

「俺たちのゲームサーバーは現実世界には存在しない。こう言えばわかるか?」

「?....まさか!ゲームの中!?」

「大当たり、ゲームの中に仮想のサーバーを置き、ゲームを運営する。これが唯一の解決法だったんだが、ここで一つ問題が発生する。」

「プレイヤーがそこを見つけてしまった場合、だよね?」

「そうだ。だから、そこは通常では攻略不能なレベルの上位mobを置き、いざって場合の為に、現実側のサーバーには、アカウント製作の能力を残しておく。

そんで、サーバーをいじる為に、スーパーアカウント、つまりめちゃくちゃ強いアカウントを使って、その部屋へと行くわけだ。


ようやく、前置きが終わったな。


つまり、このゲームにおいてチートが行われるってことは、サーバーを乗っ取られる危険性が出てくる。

それを防止する為にセキュリティにはかなり気を使ってたんだが、流石に取りこぼしは出ちまってたらしいな。


それでだ。


今回、敵は『マッグ』のウェポンコードを解析して、武器基数のコードを乱用してる。」

「武器基数?」

「あーっと、基数ってのはなんていうか、物を数える時の数字って言えばいいのか?

まあ、俺たちが運営するゲームでは基数のコードはアイテムを管理するコードとしてつかってんだが、まあ、つまり敵はアイテムの数を自分だけでなく、他人の分まで操作できるようになってるってことだ。」

「えーと?」

「例えるとだな、例えば、何一つアイテムを持ってないプレイヤーがいるとするだろ?でも、ゲームの認識的にはそいつは、全てのアイテムを0個持ってるって扱いになってるんだ。

そんで、基数コードを使えば、そいつに全ての武器、アイテムを上限まで持たせられる。

そして、ハンドガンを一つ持ってるプレイヤーの基数を弄って、ハンドガンを0個持ってるって状態に変えれば、武器を何一つ持ってないってことになるんだ。」



そこまで聞いて、ようやく事の重大さを理解する。このチートはつまり、



「アイテムを幾らでも手に入れられて、他のプレイヤーのアイテムを無くすことが出来るってこと?」

「そうだ。対人戦において負けは絶対に無い。しかも、コード発動は、ゲーム内で合言葉を決めて、その言葉をコールすればいいだけだからな。


さて、いつまでもメンテナンスって訳にも行かねえ、さっさとコードを書き換えて、セキュリティを強化しねえとなんだが、サーバールームに行くには、メンテナンスを解除しなきゃいけない。

更に、コード解析のせいで多分武器基数のコード支配権が向こうに移ってるから、一回そのチートプレイヤーと接触する必要がある。


そこでだ、美咲と紫織でそいつを見つけて欲しい。

当然、見つけられるようにアカウントにちょいと手を加えるが、後でそれは解除する。

どうだ、頼めるか?」



そこまで聞いて、私達の心は決まっている。オンラインゲームでそんなことをしたら、絶対にダメだ。

私と紫織は殆ど同時に、返答をしていた。


「「やる!」」


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