第15話
ランダムマッチを終えた後は、特に何事もなく解散してからログアウトした。
私もリボルバーに慣れるといった点では十分にやったし、エインとヴァインスは階級を准将まで上げられたから、やる意味が薄かったためだ。
そして、現在。
「これって絶対手の運動だと思うんだけど」
「それ言ったらおしまいよ」
二人で出された宿題を終わらせるべく、机で向き合って座っていた。
学生である以上、この苦痛は避けられないのだ。
幸いなことにアリサさん、お父さんのお嫁さんが教師であるため、私たちは勉強がわからないということはない。
というか、多分同学年では上位だ。
しかし、わかる=楽。
というわけではないのが学校の宿題だ。
なにしろ量が多い。故に答えを見て、必要そうな途中式だけ書くという方法を取るため、妹曰く、手の運動となってしまっているわけだ。
「innocenceにログインしたいよー」
「私だって世界大会予選近いから、ずっとプレイしてたいけど、あくまでもあれはゲームだから」
「だよね......」
ゲームだけで生きていければ、こんな苦行をしなくてもいいのだろうが、この世界はそんなに優しくない。
やるべきことをやらねば、生きてはいけないのだ。
そうして、勉強してると、
「ただいまー、みさ、しーちゃん、ご飯ってもう食べた?食べてないなら作るけど」
「え、お前作んの?アリサに作らせればいいじゃん」
「うわ.....ちょっと今のは響輝くんデリカシーなさすぎです。学生時の私レベルですよ」
「え、お前に言われんの?やばいなそれ」
男一人と女性二人が帰ってくる。
私たちのお父さんお母さんだ。
大学生の頃からの付き合いらしいが、どうしてあんな関係であそこまで仲良くなれるのか、非常に気になるところだ。
結局あの後、暫く親同士で話し合った結果、
「なーんで、俺が作ることになってるんですかね」
「めんどくさい」
「ちょっと今日は疲れたかなって」
「多数決って人間の決め方で最も知性がない決め方だよな......」
なぜか、お父さんが料理をしている。愚痴りながらもその腕は止まることなく、動いている。
お父さん曰く、
「やれないことはあんまないけど、やりたくない」
らしいので、料理もそこそこの腕前のようだ。
「何作ってるの?」
「ん?今日は親子丼だと思う」
「え、なんで自分で疑問系なの.....」
「いや、いつも飯作るときはその場の感覚に任せてるからどうなるのかわからんのよ」
不安だ....非常に不安だ.....私が何が出てくるのが、心配していると、
「あ、私も作るときそうだよ。頭の中で決めてから動くと、全然出来ないもん」
意外な伏兵として、紫織がいた。どうやら、料理面において、彼女は父親の遺伝が強いらしい。
ちなみに私はお母さん似だ。
まあ、そもそも料理をお母さんに教わったため、当たり前なのかもしれないが。
すると、奥の方からなにやら冷たいオーラが、これは、殺気!?
思わず、振り返ると、
「響輝?ふざけた料理を出したら覚えておきなさい?」
「今日は、紫織と美咲もいるんですからね?」
普段は優しい感じのお母さん達から非常にやばいオーラが出ている。
どうやら、お父さんはあまり料理に関する信用がないらしい。
「ハイ、ガンバリマス!」
お父さんは片言になりながらも、少し全力になったように見えた。
お父さん弱すぎぃ!
皿に盛り付けられた料理は、見事、そう形容するより他になかった。
というか、ぶっちゃけ親子丼の影も形もない。一体お父さんの親子丼とはなんだったのか.....
少し気になるが、あまり追求しても仕方がない。
気にせずにみんなでご飯を食べることにした。
そして、食べた後の感想だが、味もその外見に恥じない素晴らしいものだったとだけ言っておこう。
ごはんを食べ終わった後は、再びログイン。
お母さん達は暫く下で話し合っているそうなので、私と紫織は同じベッドに潜り込み、ゲームを起動させた。
しかし、
「あれ?アリア達がいない。まだログインしてないのかな」
そう、ログインしたはいいが、誰もいない。
約束はしてないが、みんながこの時間にいないというのはどうにもおかしい。
そう思って、フレンドリストの欄を確認すると、一件のメールが来ている。
内容は、午後9時から緊急メンテナンスがあると言ったもの。現在時刻は8:57、すぐに謎が解けた私は一度ログアウトすることにした。
目を覚ますと、目の前の紫織と目が合う。
どうやら、メンテナンスはVE全体のものであるらしく、二人とも即座に戻ってきたという感じだ。
私と紫織は軽く笑ってから、一緒に昔の携帯ゲームを使って遊ぶことにした。
やっぱり、アリア達もいいけど、一番楽しいのは紫織と遊んでる時だなぁと、思い、遊んでいると、扉をノックしてから、お父さんが入ってきた。
その表情はいつもみたいな柔和な感じでは無く、少し怖い。
そして、
「VEの緊急メンテナンスは知ってるよな」
「うん、さっき見てきた」
「私も」
どうやら、先ほどのメンテナンスに関わりがあるらしい。
私のお母さんの会社はVEと企業連携をしているため、その手の情報には聡いのだ。
私達の返事を聞いてから、お父さんは極めて冷静に、けれど非常に怒った様子で、
「不正プレイヤーが現れた。」
俄かには信じがたいことを口にした。




