第11話
「え、もう買ってるの.....その武器を?」
イヴが信じられないものを見たという風に指をさすと、エインはようやく三人が驚いている理由を察したようで、言い訳を始めた。
「あー、別に僕はロマン装備主義者じゃないからね?ただ、音がそれほどしない飛び道具ってのに有用性を感じたってだけだから」
「ふーん、なるほどねー?」
「なに、その疑わしげな視線は」
「いや、別にー?」
まあ、エインはワイヤー戦術や、センサーボムをメインにした対pvp特化型のプレイヤーであるため、彼がこの武器を買った理由は分からなくもない。
だが、それだけだと面白くないのが、四ノ宮美咲という人種だ。
しかし、ここで新たな爆弾をエインが思いがけず、投下する。
「てか、ロマン装備集めてる人なんて滅多にいないでしょ。いや、確かに集めてる人もいるけど、ああいうのは、本当にロマン装備が好きなんじゃ無くて、人からのウケを狙ったかまちょとかも意外と多いって絶対。」
「だよねー!絶対そうだよ!いやー、もしかしてエインて意外と物分かりいいタイプ?」
「え、なにが?なんか急に機嫌良くなって怖いんだけど.....」
ちらりとアリアの方を見ると、FXで有り金全て溶かしたような顔をしている。
これが日頃の行いというやつだ。ザマアミロと、内心ほくそ笑んでいると、なにやら、アリアが呟いている。
「.......でしょ..」
「ん?なんて言ったの?」
負け惜しみかなと、思いつつ、もう一度聞き返すと、アリアが顔を上げる。
そして、
「イヴこそ!必死こいてネタ武器使ってるかまってちゃんでしょ!」
「あー!今言っちゃいけないこと言ったね!それ言ったら戦争でしょ!?」
「ネタ武器使い!紫電!かまちょ!」
「子供か!」
「胸ぺたん!」
「AカップとCカップに違いなんかありませんー!私よりちょーーーっとおっきいからって調子に乗らないでよね!」
「あーハイハイ、そうですよー。私はたったのCしかありませんもんね、まだまだですわ〜。あれれ?イヴってば、チェストプレートなんていつの間に装備してたの?」
「絶対殺す!」
「追いつけるもんなら、追いかけて来なさーい!」
「逃げ足速っ!」
いつの間にやら、煽る側と煽られ側の立場が逆転した二人が街の中を駆け抜ける。お互いのステータスはどちらも最上級プレイヤーと同等クラスの為、壁ジャンプに、屋根伝いのダッシュなど、やりたい放題だ。
そして、3分後、
「絶対、フレンドリーファイアしてやる.....」
「私に追いつこうなんて100年早いのよん」
どんなに追いかけても捕まらないことがわかったイヴが諦めて戻ってくると同時に、アリアも戻ってきた。
リリィと一緒にクレープ屋の椅子の上でクレープを食べていたエインが、声をかけてきた。
「終わったかい?」
「いつか私がこいつを撃つまでは終わらないわ」
「だそうよ?」
軽い調子のエインに返事を返す。元はと言えば、こいつが元凶のくせに.....若干恨みを込めた視線をエインに送っていると、彼が突然切り出す。
「ところで、アリアはあの武器買わないの?」
「あ、忘れてた!ごめん!私の分のクレープ頼んでおいて」
いうや、否や走って行ってしまう。
先ほどのエインの話というわけではないが、おそらくアリアは本当にロマン装備集めが楽しいだけなんだろうなと、普段の彼女の前では言えないことをぼんやりと考えながら、私はクレープを齧る。
「って、辛い!?なにこれ!?」
「綺麗にリアクションしてくれて嬉しいな、これだよん」
エインが笑いながら、真っ赤な瓶を見せてくる。
うん、いつかこいつも絶対背後から撃とう......
その後、しばらく話し合ってから、エインと別れて、一度ご飯を食べるためにログアウト。
約束は2時間後だから、サッサと食べて戻らないとなと、適当にパンを焼いて食べているが、紫織はまだ起きる様子がない。
そういえば、彼女、朝ごはんにホットケーキ4枚くらい食っていたなと、思い出す。
食い溜めしてるのか.....と、妹の新しい生態を知りつつ、私は再びログインをした。
ログインしてみれば、メールが届いている。
どうやら、リリィとアリアはこの後学校の方で用事があるらしい。
土曜日なのに、大変だなと同情しつつ、ヴァインスの待つ、武器屋へと向かった。
武器屋に顔を出すと、奥からいかつい顔のヴァインスが出てきた。
そして、私を見つけた瞬間、楽しそうにニヤリと笑うと、
「おい、やべーぞ。お前の持ってきた『サイレントヴァルキリー』、とんでもねえ武器だ、まあ、付いてきな」
私に言ってくる。一体なにがどうやばいのか、非常に楽しみにしつつ、彼の背中を追っていく。
工房内はそこらかしこで燃え上がる炉があるために非常に明るい。
また、ゲームの感覚として感じる体感温度もかなり暑い。
街中じゃなかったらダメージを食らうレベルだ。
そして、ヴァインスが近くにあった武器を持って私に渡す。
『ヴァルファーレオーディン』だ。
耐久値もMAXに戻っている。
「ありがとね」
「ま、もっと丁寧に使えや。そんで本題なんだが、こいつだ」
ヴァインスが見せてきたのは、銀色に輝く、銃身を持ったリボルバー。
彼は銃を見てる私を気にせずに話を続けた。
「こいつは6発装填型の回転式拳銃。銃身サイズは驚愕の270mm、ダブルアクション式だ。」
「口径は?」
「50口径。まあ、当てれば即死レベルよ」
「また、癖の強いのが....」
私が呆れていると、彼はニヤリと笑い、
「ところがどっこい。こいつはこんなもんじゃねえぜ、魔法弾の増幅効果がある。こいつは魔法付与限界数4だが、実質7クラスの威力を出せる。
「それ、本当?」
「おおまじさ」
7も魔法付与が可能、それも私の銃みたいに、デメリットが無い。
それはかなり強力なアドバンテージとなる。
こと、相手の読みを外すことが勝利の鍵となる対人戦では特に。
これが私のになるのかと、胸に妙な高まりが迫る。
だが、忘れちゃいけない問題があった。
「これ、おいくら?」
そう、鑑定料と、これを作った時の素材をまだ聞いていない。
こうまで強い武器だと、無理難題をふっかけてくるような武器屋だっているし、預かり機能で戻ってくるには戻ってくるが、金の料金問題などで、ごねて、お互いの了承が無かった場合には、耐久値の減ったままの『ヴァルファーレオーディン』と、設計図だけが帰ってきて、その他の素材は向こうに戻るということだってある。
彼は、しばらく考えてから、
「じゃあメンテ代はいつも通り、40000、んで鑑定料は特殊だったってこともあり、30000、素材は消費アイテムそのままか、無かった場合には金で払ってくれていいよ」
「あれ?そんなもんでいいの?」
「なんだ、払いたいのか?」
「いやいや」
彼は、ニッと、笑うと、
「だから、言ったろ?ダセーことはしねえってよ」
と、無駄なキメ顔で言ってくる。
私は彼を少し疑った自分を恥じつつ、料金と、素材を渡してから、店を出た。
そして、ランダムでチームが組まれ、4チームでpvpバトルロワイヤルを行うランダムマッチへと参加要請を出す。
すると、出すと同時に参加確認のシステムメッセージが届く。
私がそれに迷いなくイエスを返すと、テレポート開始まで残り10というカウントダウンが始まった。
さあ、この『サイレントヴァルキリー』の性能を試してみようではないか。
世界大会予選まで、あと7日。




