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プロローグ

あるゲーム内で噂が流れていた。

どんなに不利な状況でも諦めず、時として一人で戦況を覆してしまうプレイヤーがいると。

曰く、スナイパーであり、その腕は半端ではない。

かの者の構える銃は打つ時に鳴る雷が落ちたかのような轟音と引き換えにどんな部位に当たろうが一撃必殺。生半可な障害物など貫いてしまう。

そんな噂から名付けられた通り名は『紫電』。

そして、もう一つの噂として、その者は女性であったという。







「やっほー、イヴ、聴こえてる?テステスマイクテスト〜」

「ちょっとアリア?うるさいんですけど。てか、これ通信機で通信してるわけじゃないし.....もっと言えば、これゲームだからね?」


遠距離通信魔法により、7キロほど後方のキャンプにいる私の相方、アリアから声が届く。

現在、私のアバター、イヴがプレイしているゲームは『Magic and Gans online』、通称『マッグ』。

タイトル通り、銃と魔法の世界のゲームだ。ちなみにVRゲーム。

これは既存のVRにはありそうでなかった、銃と魔法という組み合わせから、結構な数のプレイヤーが興味を示し、発売されてからたったの二週間でトップセールスの一つとなったゲームで、『innocence world on-line』という発売してから、売り上げ第一位を譲らないゲームに迫る勢いだとされている。

まあ、私もそんなゲームの魅力に取り憑かれたものの一人なのだが.....


とりあえず、アリアからの報告を待っていると、


「南西520m先にアサルト装備の敵発見!多分これイヴの位置わかってるかも!」


と、アリアが衝撃的な情報と共に珍しく焦った声で言ってきた。

一瞬、頭がフリーズ仕掛けるが、即座に茂みの下に隠れて、小声で文句を言いつけてやる。


「私のレーダースキルは2キロちょっとまで捕捉可能なんですけど!これって、さっきあなたがサボってたからじゃないの?」

「心外なんですけど!私は与えられた役割忘れるほど、ふざけません〜!多分これアイテムだよ!最近アプデで入ったレーダー阻害の」

「死ね!廃課金!」


ゲームプレイングの腕を金でカバーするという、学生では少々出来そうに無い芸当で予想外に追い込まれた私は、愚痴りながらも、愛銃を構えて、スコープを覗き込み、敵の正確な位置を探る。


私のプレイスタイルはスナイパー、つまり位置を知られて、距離を詰められているこの状況は不利という以外ない。

しかし、たかだか不利というだけ、これで諦めていたら『紫電』の名が廃る。


敵との距離が詰まってきた。

報告によれば、敵の構える武器はアサルトライフル。しかし、足音は聞こえるくせに敵の姿が見えない、これは恐らくだが、光学迷彩マント。課金アイテムのオンパレードね、と呟き光学迷彩を無効化できる私のスキル圏内まで入ることを待つが、敵もそれを予測していたのか、何もない空間から、突如強力な閃光が放たれる。これはフラッシュバン。つまり、


「目くらましか!」


スコープ越しに強力な光を浴びた私はしばらく、視覚に対してのデバフがかかり、目が見えない。

こうしている間にも敵は近づいてくる。

目が潰されたのなら、音と気配で判断するのみ、使い物にならない目を閉じて、敵の移動時の音に全神経を傾けた。


頭の中に広がるこのステージの全体マップ。

敵の音の位置から、ある程度の位置が思い浮かぶ。

彼我の距離は260ほど、相手はこちらの位置をつかんでいて、私はあと30秒ほど目が見えない。恐らく目が見えると同タイミングでもうやられるだろう。


それでも、私は負けない。


より集中しろ、より音に神経を傾けろ、目が見えなくとも、偏差射撃程度当てられずに、何が『紫電』だ!


心で喝を入れて頭の中のマップをより明確に浮かべる。

残り200..いや、194......

より鋭敏になった感覚で、敵の位置を捉える。もう相手の姿形まで捉えられる。

ここまでくれば、あとは私の感覚と愛銃を信じるだけ。

そして、最後の正確なアジャストを決めるために、残り70ほどの距離で私はあえて、ブッシュから立ち上がり、相手の目の前に姿を晒す。

敵が銃を構える音がすると同時に正確に位置を把握し、最後の修正。敵と同時にトリガーを引く。

敵の軽い発砲音と共に稲妻が落ちたかのような轟音が鳴り響く。

そして、間髪入れずに鳴り響くガラスが砕けたかのような破砕音。

私は目が見えなくとも確信していた。


私の勝ちだ、と。



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