淡い期待
それから11年後…僕が15歳になった時、突然マノンが王都に行こうと言い出した。
「行きたいけど…なんで今?」
「準備ができたからですよ。いいなら早速出発です!」
準備ができたと言っても、僕もマノンもこの11年間で何かしていたわけでは無い。
一体何の準備ができたのだろうか…
そこまで考えて違和感に気づく
僕はこの15年間何をしただろうか
この世界の文字は読める。世界観も分かる。だけど、それらをどこで知ったのかが分からない。
考えて答えが分かるようなものでもない、知っていそうな奴に聞くのが一番手っ取り早い。
僕はそう思い、マノンに話を持ち掛けようとした時…
「行けば全部分かりますよ」
僕が聞くよりも先にマノンは答えてくれた。
…やっぱり全部見透かされてる…
「はいはい、ならさっさと行こうか」
「はい、行きましょう♪」
そう言ってマノンは家の玄関を開けた。
するとそこには、11年前とは打って変わって華やかな街道があった。その先に大きな町…これぞ王都!って感じの場所があった。
ふと目線を変えてみると、ほんの数十メートル先に何やら人が集まっている…というより、馬車を取り囲んでいる人たちがいる…うん…どう見たって盗賊の類だな
「どうします?」
「面倒事には関わりたくないからスルーで」
「助けますか」
…人の話聞けよ…
「そうは言っても僕戦えないし」
「この世界に来るときに能力あげたじゃないですか」
「そういえばそんなのあったな」
「よし問題ないですね。助けましょう」
「はあ、どうせ僕がなんて言ったって無駄なのか」
「そうですよ?じゃあ、あそこまで行きますか」
「あそこまで…走って?」
「転移します」
「そんな便利な事ができるのか」
「ふふっすごいでしょ?じゃあ行きますよ」
「あ、ちょっとまって…僕の能力が何なのかまだ聞いてないんだけど…」
「習うより慣れろ、ですよ!」
…無理がある…
「え…ほんとに教えてくれないの?」
「大丈夫、貴方ならできます!」
次に瞬きをした時には僕は馬車の隣にいた。…囲まれている馬車の…盗賊と思わしき人たちのど真ん中に…しかも当のマノンはさっきまで僕たちがいた位置で手を振っている。
「なっなんだお前は!急に出てきやがって!」
盗賊の一人が声をあげる。
ここで素直に答えてあげる必要もないので無視しよう
問題はどうやってこいつらを片付けるかだ。とりあえず手から炎でも出ないかと僕は右手を前に出してみる。
…何も起きない…
…超恥ずかしい…
…え…どうしよう…
…どうしたらいい?…
「なんだこいつ…」
僕が割と本気で焦っていると、さっきの盗賊があきれた様子で呟いた。
「今のは警告だ。次は殺す。死にたくない奴は今すぐ消えろ」
できることもないのでとりあえずかっこつけてみる。…これで素直にいなくなってくれないかな
「はっ、どうせハッタリだろ」
…はい、その通りです…
「これ以上こんな奴の相手なんかしてられるか!」
そう言って盗賊は身に着けていた短剣で僕に切りかかってきた。
早い。目で追えるような速度じゃない。
…だが、次の瞬間倒れていたのは盗賊のほうだった。僕も何があったのかわからない。盗賊に切り殺されたと思ったら、体が勝手に盗賊から短剣を取り上げ首元を刺していた。これが僕の能力なのだろうか…
「…な?だから言ったろ?」
自分が優位になったとたんにドやる僕。かっこわる…
「くそっあいつスキル持ちか!」
何それ詳しく教えてほしいな…この世界に魔法があるのは知ってるけど、スキルってのは知らないな
「あいつがやられたってことは4以上か!仕方ない…ここは引くぞ!」
盗賊の一人がそう叫ぶと、残りの盗賊は散開して逃げて行った。
…あ、この短剣返し忘れた…まあ、いいか
とりあえず僕は目の前の脅威が去ったことに安心する。
「さっすがぁ、かっこよかったですよ!」
いつの間にか隣にマノンがいる。
「僕はあんたが僕だけを危険にさらした事を忘れないからな…」
「結果的に傷一つ無かったんだからいいじゃないですか♪」
マノンがもし僕に危害がないことを分かっていて、そのうえで僕が自分の能力を体感する為に僕だけを送ったのだとしたら…案外マノンもいろいろ考えてくれてるのかも…
「まあ、あの人たちの中に魔法を使える人がいたら流石に怪我してたかもですけどね!」
…こいつ…覚えてろよ…
僕はもう絶対マノンに期待しないぞ…