98 悪魔との戦い
間合いを詰め込み刀を振るい、悠一はシンに攻撃を仕掛ける。しかしその攻撃は軽く受け止められ、力づくで後ろに押し飛ばされる。そこからシンは瞬きの間に間合いを詰め込み、大鎌を振るう。
大きく振るわれたそれは、しかし速度は半端なく速い物だった。ギリギリ屈んで躱したが、その直後には大鎌は上から振り下ろされてくる。【縮地】で後ろに移動し、【白雷】を纏い同時に身体強化を最大まで掛けてその上で【縮地】で距離を詰めると同時に斬り掛かる。
しかしその攻撃は先程と同じように軽く受け止められてしまう。
「どうしてそんなに涼しい顔して、この攻撃を受け止められるんだよ!」
【白雷】を放って牽制し、少し距離を取ったシンに無数に構築したプラズマ弾を、一斉に放つ。それらは全て、大鎌から放たれた黒い炎で焼き尽くされてしまう。
「人間如きの攻撃など、俺にとっては児戯に等しい。貴様らとは、地力が圧倒的に違うのだよ」
シンの言う通り、地力が圧倒的に違い過ぎる。限界突破した強化は使っていないとはいえ、同時に【白雷】を纏ってっ強化している。だというのに、シンには届かない。それどころか、自身の身長ほどはある大鎌を、片手で軽々と振り回している。
その速度は尋常ではなく、【天眼通】を発動させていてもギリギリ躱すのが精一杯だ。このままだと、じり貧は確実だ。ちなみにだが、一応周囲のモンスターのいる方に移動している為、シンが攻撃を仕掛けるたびにモンスターが散って行っている。
上からの大振りの振り下ろしを受け流し「顕衝」を撃ち込むが、体に小さな傷を付けるだけに留まる。予想以上に硬さに舌打ちをし、【縮地】で上に跳ぶ。
シンはそれについてきたが、攻撃を仕掛けてくる前に悠一の後方から無数の光が襲い掛かる。【天眼通】でそれを確認していた悠一は、直前で下に【縮地】で移動する。
「ぬぅ!?」
シンは驚愕した表情を浮かべて光を躱そうとするが、その前に光が命中する。悪魔族は光属性魔法に極端に弱い為、悠一が攻撃するよりも大きなダメージを与えることが出来る。それだけで倒すことは叶わないことは知っているが、それでも多少のダメージが入っていることを願った。
「人間族に光魔法を使う奴がいるとはな。しかし、あの程度では俺を倒すことはかなわんぞ」
しかし予想外にもシンは平然としていた。いや、少しだけダメージは入っているようだが大したことは無いようだ。
「ユリスの【シャイニングレイ】でもダメなのか……」
光上級魔法の中でも威力が高い方に部類されている魔法で、ユリスも頻繁に使うので錬度も高く威力が恐ろしく高い。だというのに、それでも目立ったダメージが入っていない。そうなると、倒すには光戦略級魔法を使わなければいけなくなるかもしれない。
最上級悪魔がこれほどまでに厄介であることを知り、悠一は小さく歯軋りする。今まで戦ってきた敵の中では、一番強い。それこそ、暴食のグラトニアや【剣帝】のライアンなんかが、霞んで見えなくなってしまいそうな程。
少しだけ恐怖するが、既に悠一の背中には大切な仲間を守るという使命が圧し掛かっている。仲間だけではない。後ろにある街にいる人々を守るために、ここに立っているのだ。ここで逃げる訳には行かないと、気を引き締めて鋭く睨み付ける。
「ほう。いい目つきになったではないか。これは、楽しめそうだな!」
背中の翼をはためかせて急接近しながら、大きく大鎌を振り下ろす。その直前に攻撃を見切り紙一重で躱し、首筋に刀を叩き込む。硬い感触が手に伝わってくるが、それは気にせず更に連撃を叩き込む。
シンはその連撃を自身の体で受けながらも、大鎌を連続して振るう。悠一はその大鎌を上手く躱しながら、斬撃を叩き込み続ける。時折後方からシルヴィアとユリスの援護魔法がやってくるが、当たる前にシンガ黒い炎で焼き払う。だが、光魔法だけは焼き払われず、そのまま降り注ぐ。
その都度多少のダメージは入るが、致命傷には程遠い。出し惜しみをしている場合ではないと、限界突破した身体強化を掛け、加速する。
「ぬ? 攻撃が速く、重くなった……?」
悠一の変化にシンは少し目を見開くが、すぐに口元を歪める。そしてシンも、悠一に合わせて攻撃速度と重さが増していく。激しい金属音が鳴り響き、火花が散り、周囲にいるモンスターが次々と散っていく。
激しい剣の応酬をしている間に背後からサイクロプスが襲い掛かってくるが、それはシンの黒い炎で焼き払われ、ダッシュバッファというただ突進してくるモンスターは悠一の刀で斬り伏せられる。
悠一は真正面から打ち合っては敵わないと分かっている為、とにかく持ち前の速さを使って縦横無尽に移動し続けている。シンも追っているが、速度で言えば悠一の方がまだ少しだけ速い。
「人間にしては、中々やるな。その若さでこの剣の腕……。これでいて名を知らぬとはな!」
「一ヶ月と少し前に冒険者登録したばかりなんでね。ようやく、少しだけ名前が知られるようになってきたんだよ!」
そう言いながら悠一は無数のプラズマ弾を撃ち出すが、それは尽く払われる。その間に上空に巨大なプラズマ球を構築し、そこから無数のレーザーを雨のように放つ。
悠一は【天眼通】で攻撃を見切りながらレーザーの雨を躱し、シンはその攻撃を身で受けながらも動じず攻撃を仕掛け続ける。威力が一定なので魔法のように威力調節が出来ないことを少しだけ恨めしく思うが、すぐにそれを頭から振り払って、巻き込まれるのを覚悟でガス爆発を起こす。
凄まじい爆風と衝撃を体で受け、後方に大きく吹き飛ぶ。咄嗟に魔力障壁で体を守ったので、ダメージや傷は無い。相当な威力の爆発だったので、周囲のモンスターは吹き飛んでいる。しかし、シンは体に付いている小さな傷以外はダメージを負った様子がない。
「いや、本当硬過ぎるだろ!」
そう叫びながらも突進し、高速で刀を振るう。シンも大鎌を振るい、悠一の首を狙って行く。既に間合いをギリギリまで削っている為、悠一の体に小さな傷が出来始めている。
「この俺とここまで渡り合えた人間は、貴様が初めてだ! 光栄に思え!」
「あぁ、そうだな!」
刀を大きく振るうが大鎌の柄で受け止められ、鍔迫り合いになる。地力が違い過ぎるので徐々に悠一が押され始めるが、そこに光の十字架が襲い掛かって来たので、シンは慌てて後方に飛びずさる。だが光の十字架は、シンをしつこく追い掛け回す。
【シルバリックロザリオ】は、基本はランダムで暴れ回って周囲の敵を斬り刻むという魔法だが、魔力操作に長けていると難しいけれど操作することが出来る。ユリスは魔力操作に非常に長けており、苦も無く【シルバリックロザリオ】を操ることが出来る。
「厄介な!」
相当な魔力が合込められているので、喰らえば大きなダメージを受けると気付いているのだろう。シンは凄まじい速さで飛び回りながら、【シルバリックロザリオ】から逃げている。しかしそこに、真正面から特大の光が襲い掛かってくる。
ユリスの光上級魔法【バニッシングレイ】だ。修得している上級魔法の中では、一番威力が高い。ユリス曰く、もしかしたら戦略級に匹敵するのではないか、だそうだ。そんな威力の魔法がシンの真正面から飛んできた。
当然不意を突いた一撃なので、躱すことが出来るもろにそれと衝突する。そのまま光が飲み込み、上空で眩く光る。あまりの光量に、悠一は目を細める。光が収まり目を開くと、上からシンが墜落してきた。見るからに、大きなダメージを負っている。
それでいて、背筋が凍りそうな程の殺気を周囲に振りまいている。
「おのれ小娘ぇ……!」
憎々しげにそう呟き、ユリスとシルヴィアのいる方に向かって飛んでいこうとする。それに気付き悠一が【縮地】で距離を詰め、分解を刀に掛けて斬り掛かる。シンは大鎌でそれを受け止めるが、ほんの一瞬だけ拮抗したところで持ち手に柄が真ん中から斬り離される。
「何!?」
武器が斬り落とされたのでシンは目を見開き、動きが一瞬だけ止まる。その一瞬を突いてもう一度刀を振るうが、突如シンの体から莫大な魔力が放出される。脳から危険信号が発せられて、悠一は咄嗟に後方に移動する。
直後、シンがいた場所を中心に大爆発が発生する。地面に大きな亀裂が入り、一部隆起する。何だと思ってみていると、シンの左手に真っ黒な大剣が握られていた。そしてそれは、地面に突き立てられている。
あの大爆発は、大剣が突き立てられた時の物で、地面の大きな亀裂は全てあの大剣によるものだと、見ただけで分かった。
「邪魔をするな」
低い声で悠一にそう言いながら、ゆらりとユリスたちのいる方を向く。
「させるかってんだ!」
【縮地】で距離を再度詰め、袈裟懸けに斬り掛かる。だが振り上げられた大剣で受け止められ、そのまま後方に弾き飛ばされる。悠一を一瞥した後、再びユリスたちの方に移動しようとする。どうやら、本能的にユリスを先に倒すべきだと判断したようだ。
当然そんなことはさせないので、消費する魔力を増やして多く【白雷】を纏い、更に体を強化する。そして強化した時に余った余剰分の魔力で、シンに白い雷を頭上から落とす。劈くような轟音が鳴り響く。
しかしシンは、多少傷を負っただけで大きなダメージは負っておらず、凄まじい殺気の篭った眼で悠一を睨み付けていた。
「邪魔をするなと、言ったはずだ」
「戦いの最中に、大きなダメージを負わせた相手に行くのは良くないと思うんだが?」
「強い力を持つ者を、先に潰すのは戦いの定石だろう」
「確かにそうだが、その前にお前は俺と戦っていた。もしあの二人の場所に行きたいのであれば、まず先に俺と倒してからにしろ」
悠一がそう言うと、シンは舌打ちをしてから悠一に向き直り、大剣を構える。悠一も切っ先をやや高くした正眼に構え、シンを見やる。
瞬間、もうシンは間合いの中にいた。大きく目を見開きギリギリで攻撃を躱したが、気付いた時には大剣が迫って来ていた。辛うじて受け止めるがあまりの重さに耐えられず、吹き飛ばされる。その途中で何とか体勢を立て直してから着地するが、目を上げた瞬間にはもう目の前にいる。
「っ!?」
転がるように横に跳んで何とか躱し、更に【縮地】で離れて立ち上がる、短い時間で呼吸を整える。目にも留まらぬ速さでシンが接近してきて、上から大剣を振り下ろす。その攻撃を受け流し、反撃を仕掛けようとするが、その前に真の右の拳が飛んでくる。
体を捻ってそれを躱し、迫ってきた体験を受け流し何とか反撃を叩き込んでいく。
「さっきまでは! 全力じゃ! 無かったのかよ!」
「人間如きに本気を出す訳がなかろう。しかし、思っている以上に光魔法を使う小娘が厄介なのでな。手早く貴様を殺し、その後であの小娘を殺すことにした」
「そうかよ! けど、ユリスもシルヴィアも、殺させるわけには行かない!」
更に【白雷】で体を強化し、加速する。限界を超えた強化なので少しずつ体が悲鳴を上げているが、ここで諦める訳には行かない。体に鞭を打って更に加速し、連撃を叩き込む。より大きな金属音が鳴り響き、悠一と伸が目まぐるしく動き回る。
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