97 最上級悪魔族
長らく放置してすみません! 今日から復帰いたします! なお、活動報告に、謝罪文を書いておきました。
レオンハルトがソーマの戦いを見て少し本気を出し始めたので、モンスターの殲滅速度は少しずつ速くなった。後方にいる魔法使いたちは、ゆっくりとだが数を減らしつつあるそれを見て、それに比例して少しずつ士気が上がって行く。
そんな中、シルヴィアとユリスは少しだけ違和感を感じていた。あれだけの数のモンスターはいるし、そのどれもが強力な個体なのは、目に見えて分かる。しかし、それでも少し弱く感じるのだ。それこそ、何か時間を稼いでいるような、そんな感じだ。
もし本当に何かしら時間を稼ぐためにこれだけのモンスターが襲撃してきたとなれば、それはそれで一大事だ。しかし、あくまで二人がそう感じただけで、実際なその違和感が何なのかは分からない。
「ユウイチさんだったら、もっと的確な推測をしていたんだろうけどなぁ……」
「今は前に出て戦っているからね。ボクたちの推測は、あまりあてにならない時があるし」
遠くからでも大奮闘しているのがはっきりわかる悠一の戦いを見ながら、シルヴィアとユリスは少しだけ遠い目をする。さっきからずっと【白雷】を使っているようだが、あれは魔力を消費することで発動するタイプのスキルだ。あまり連続使用すると、すぐにガス欠になってしまうのが普通だ。
しかし悠一はレベルの割には魔力量が異様に高く、飲む込みも早いので魔力制御力に関してはユリス程になっている。なので無駄なく効率的に、かつ少量の魔力だけで済んでいる。それに、魔力が少なくなったところで、悠一にとっては大したことは無い。
魔力が無くなれば無視出来ない倦怠感が襲ってくるが、その倦怠感は体を動かした時の疲労によく似ている。なので昔から体を激しく動かしている悠一は、多少動きが鈍くなるだろうけれど大した問題ではないのだ。二人は少しだけ大丈夫なのだろうかと心配したが、悠一だから大丈夫だろうと思いすぐに後方支援のために詠唱に入る。
その一方で悠一は、入れ代わり立ち代わり武器を切り替えたりして効率よく多くのモンスターを倒して行く。元々乱戦に向いた剣術に、同じく乱戦に向いたスキル【天眼通】と【白雷】を常時発動させ、モンスターの動きを見切り、躱し、受け流しカウンターを叩き込み、動きを先読みして回り込み的確にモンスターを倒す。
自分の魔法も、分解以外は出し惜しみせずに使用し、地面を針の様に隆起させ、空中に巨大な鎚や剣を構築してそれを操ってモンスターを叩き潰し、斬り裂いて行く。そうやって戦っているところから少し離れたところで、レオンハルトは目まぐるしく動き回りながら凄まじい速度でモンスターを狩っている。
【剣皇】という二つ名は、本当に伊達ではない。欲しい訳ではないが、【剣聖】の二つ名を得るには彼を越えなければいけない。レオンハルトは悠一の方が剣に優れていると言っていた。
自画自賛っぽくなってしまうが、確かにそうかもしれない。レオンハルトは数年剣を習ったとはいえ全てを修めた訳ではない。それに、多少アレンジが加わっており、少し荒いところもある。それに対し悠一は、十年以上剣を習い続けている為アレンジも加えられていない。
習った型をそのまま、戦いに使うことはあまりよくない。かなり、それこそ血を吐くほどの訓練をすれば型通りでも戦うことは出来る。だが、それだと剣技に優れているだけでこういった戦いの時には、不利になってしまう。
特に五十嵐真鳴流は乱戦を想定した技が多いので、型通りに行くことはまずない。なのでそう言った時のことを想定して、とにかく色々と仕込まれている。故に悠一は、自分でも剣だけで言えばレオンハルトより上を行っている自身はある。
しかし実戦経験を含めると、悠一は命のやり取りを始めてからまだ一年も経っていない新人に対し、レオンハルトは年単位前からやっている。その実戦経験の差は、非常に大きい。魔法や地形の利用を何でもありにして一対一で戦ったら、今の悠一では勝てる見込みは低い。
少し離れているところで次々とモンスターを狩っているレオンハルトを見て悠一はそう思い、負けてはいられないと更に加速する。そうして戦っている内に、ふと悠一は根本的な疑問を感じた。
それは、どうして種族がバラバラなモンスターたちはこれだけの数で、しかも謎に統率の取れている状態で来たのか、という物だった。考えてみれば、普通におかしい。
モンスターというのは、例外を除いてどれも気性が荒く好戦的で、自分と同種でなければすぐに殺しに掛かってくる。だというのに今相手にしているのは、どれもが完璧とは言わないが統率が取れている。
今だって、正面からサイクロプスが襲い掛かって来たので、手に持っている大剣を払い心臓を突き刺して絶命させたところで、悠一とそのサイクロプスの背後から全く別のモンスターが襲い掛かって来た。それらの攻撃を躱しそのまま刀で倒すと、今度はまた別のモンスターがやってくる。
普通であればこんなことはあり得ない。モンスターの大規模侵攻は、基本どう種族のモンスターの身で発生する。だというのに、ここにいる数万のモンスターは、種族がバラバラだ。そんな違和感を感じ、戦いの中だというのに思考してしまう。
「考えてみれば、これはおかしい……。同種のモンスターの大量発生や大規模侵攻でも、ここまで統率は取れないはず。人間では、これだけの数のモンスターを使役することは不可能だ。なのに、こいつらは全て何かに従っているかのように……」
少し動きは遅くなったところにモンスターが一斉に押しかかってくるが、悠一は刀を振らず地面を無数の針状に隆起させて、それらを倒す。一度感じてしまったその違和感と疑問を、どうしても拭えないからだ。
前回の襲撃も、複数のモンスターが街を襲撃して来た。数だけで見れば、今と比べると多くは無い。そしてまた、違和感を感じる。
数日前にあったモンスターの襲撃。それも、統率が取れているように見えた。しかしそれは、今のと比べるとあまり気にならないレベルの物だった。しかし、今考えてみれば、おかしい。あの時も、別のモンスター同士で、殺し合っていなかった。
そして今回も、お互いに殺し合っていない。今回と前回とで、共通点している、統率の取れているモンスターたち。違いといえば、その度合いが違うこと。
魔法でモンスターを倒しながら思考すると、何かがかちりと繋がったような感覚になった。そして、推測でありながらも、半ば確信する。
「前回の襲撃は、今回の襲撃を仕掛ける為の、偵察だった……?」
半ば確信しているとはいえ、それでもまだ推測。そうであると決まった訳ではないが、この考えを振り払うことが出来ない。もし、本当に推測通りであれば、下手すると今の戦力だけでは足りなくなってしまうかもしれない。
もしもの可能性を考慮して、騎士や魔法師団を連れてくるように進言するべきだろうと考えたところで、凄まじい悪寒を感じた。反射的にその場から【縮地】で離れる。直後、悠一がいた場所に何かが炸裂した。
その時の衝撃で悠一は数メートル転がるが、すぐに腕の力だけで跳び上がって刀を構える。そこにいたのは、見た目は人間に似ているが頭からは大きな角が二本生えており、背中には大きな翼も生えている。肌は浅黒く、両目は血のように紅い。たったそれだけでも、それが何なのかが分かった。
「悪魔族……」
悠一は無意識の内に、ぽつりと口にしていた。
「左様。俺は最上級悪魔族、名をシンという」
シンと名乗った悪魔はそう言うと、恭しく礼をする。
「黒髪の剣士、名は何という?」
「……悠一だ。ユウイチ・イガラシ」
「ユウイチ・イガラシ、か。覚えておこう」
悪魔はそう言うと、急激に雰囲気が変化した。
「―――そして、この場で死ね」
そう口にした瞬間、再び悪寒を感じ大きくバックステップをする。その数瞬前、何かが喉元を掠めていた。それは、あり得ないほど大きな大鎌だった。
「ふむ? 今のでその首を刈り取ったつもりだったが……、まあいい。あまり動かぬ方がいいぞ? でなければ、苦しみながら死ぬことになる」
「生憎、死ぬつもりはないんでね……。徹底的に応戦させてもらう……よ!」
悠一は地面を強く蹴って間合いを詰め込み、シンと刃を交え始める。




