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94 掃討作戦開始

 北門に集まった冒険者たちや、街に派遣されている軍に所属している魔法師団の魔法使いや、騎士団の騎士、兵士たちは遠くから迫りくるモンスターの大群を見て、少し絶望しかけていた。長年冒険者をやっている者や、国に戦力として仕えている人たちは、何度かモンスターの大規模侵攻は何度も経験している。


 何度も経験しているからこそ、今回の十万前後という前代未聞の大群だと聞いて、自分の目で見て確信した時に心が戦う前に折れそうになってしまっていた。全上級冒険者が集まっているので、当然Sランク以上の冒険者もいる。


 全員二つ名を得ており、彼らは自分たちよりも優れていることは理解している。中には【剣聖】候補と噂されている、【剣皇】レオンハルト・ブルースミスの姿と、同じく【剣聖】候補と呼ばれている、ここ一ヶ月で数多くの功績を残している名を知らない黒髪の剣士がいる。


 そう噂されているので、レオンハルトはともかく黒髪の剣士は少なくとも自分たちよりは強いはずだ。何人かは納得していない顔をしているが。白髪でオッドアイの少女と、光属性に適性があり悪魔討伐に貢献した、現役Aランク冒険者【聖女】ユリス・エーデルワイスと共に行動をしているようで、多くの男性からは嫉妬されているようだが。


「何であの黒髪の剣士は、あんな可愛い女の子と一緒に行動しているんだろうな」


「さあな。どうせ甘い言葉で誑かしたんだろう。でなきゃ、あのユリス・エーデルワイスが一緒に行動するはずがない」


「だよな。【剣聖】候補って噂されているみたいだけど、どうせ報告する時自分が手柄を立てたみたいに言っているんだろうな。あんな細い体で、そう呼ばれる訳がねぇ」


 何人かの兵士は前に立っている黒髪の少年剣士を見て、ひそひそと話している。バレていないと思っているようだが、声は聞こえてこないが陰口をしているということはバレている。


「お前ら、もうすぐ戦いだ。そんなくだらないことを言っている場合じゃないだろ」


 一人の騎士が、ひそひそと話している兵士にそう注意する。


「分かっているけどよぉ、どう考えてもあいつ強そうに見えないだろ。体はあんなに細いしよぉ」


「それを言うなら、【剣皇】レオンハルト・ブルースミスも同じだろう。中には、見た目から実力を判断出来ない剣士はいるんだぞ」


「そりゃ魔法剣士だと、中途半端とはいえそれなりの実力発揮するからな。レオンハルトさんは別だけど」


「きっとあの黒髪の剣士も、魔法剣士だろう。それも、かなりの実力者だ。十年騎士をやっていれば、雰囲気や立ち振る舞いだけでも分かる」


 騎士は前に立って正面をじっと見ている名を知らない剣士を見ながら、そう言う。騎士は十年間名の知れな騎士団に所属しており、今では分隊長を任されている。それだけ長くやって上に立つようになれば、ある程度だが雰囲気や立ち振る舞いだけでも実力が分かるようになる。


 名を知らない黒髪の剣士は、少なくとも自分よりずっと強い。【聖女】ユリス・エーデルワイスという強力な仲間がいるにもかかわらず、彼女の力に頼らず自分の力で上り詰めた実力者だと、そう見ている。


「まあ、この戦いを生き抜いたら、実力者とは認めてやるか」


「そうだな。せめて大規模侵攻を生き抜く力がなきゃ、実力者とは呼ばねぇさ」


 二人の兵士は黒髪の剣士を見ながら、少し下卑た笑みを浮かべてそういう。


『全ての上級冒険者、魔法師団所属の魔法使い、国軍所属兵士、騎士団所属騎士が集合したのを確認しました。モンスター掃討作戦開始まで、二十秒です』


 脳内にそんな声が聞こえて来たのと同時に、北門にいる全員が気を引き締める。剣士は全員剣を鞘から抜き、魔法使いはすぐに魔法が撃てるように魔力を高め詠唱を唱える。


『十三、十二、十一、十……』


 ゆっくり戦いへのカウントが減って行く。戦い慣れている上級冒険者や熟練の騎士、兵士たちは神経を研ぎ澄ますが、上級になったばかりの冒険者やつい一年と少し前に入ったばかりの騎士、兵士たちは緊張からか喉を鳴らす。何名かは、恐怖からか体を少し震わせている。


『三、二、一』


 剣士は全員足に力を入れてすぐに跳び出せるようにして、魔法使いたちは狙いを定める。


『零』


 そしてカウントダウンが終わった瞬間、全員が一斉に飛び出そうとする。その刹那、耳を劈くような轟音が鳴り響いた。その轟音の正体は、離れた場所にいるモンスターの大群に落とされた雷だった。それに続いて、後方から無数の氷の槍と無数の光線が襲い掛かって行く。


 氷の槍と光線は次々とモンスターを貫き、倒して行く。やり過ごしたモンスターはまだ大量にいるが、それでも一度に何十体も屠った。多くの剣士たちが後ろを振り返るが、他にも人がいる為誰が撃ったのかは確認出来なかった。


 誰がと思っていると、近くから爆音が聞こえてきた。急いで振り返ると、ついさっきまでそこにいたはずの黒髪の剣士が、いなくなっている。どこに行ったのだと思い正面に顔を向けると、既にかなり遠くの方にその姿が確認出来た。


 一瞬のうちにあんな遠くまで行っていたのかと驚いたが、自分よりもまだ若い少年剣士が先に戦場に飛び出している。それを見た誇り高い騎士たちは、負けていられないと少しだけ士気を上がり、後方の魔法使いに補助魔法を掛けて貰ってモンスターに向かって走り出した。



 ♢



 先にモンスターに向かって飛び出した悠一は、最近頻繁に使うスキル【白雷】を発動して体に纏わせ劇的に速さを上げて、そこに自身の身体強化とユリスの【ディバインブレス】を掛けており、常軌を逸した速さになっている。


 悠一に気付いたモンスターは雄叫びを上げ、遠距離攻撃が出来る個体は先に攻撃を仕掛け、動きの速いモンスターは一気に走る速度を上げて突進していく。しかし悠一は降り掛かってくる遠距離攻撃を、絶対防御範囲を広げることで初めて使用出来る『白霧蛟』で斬り落とし、突進してきたモンスターは左手に構築した、炭素繊維をたっぷり含ませて硬化させた刀で斬り伏せる。


 時には前方に向かって魔法を放ってモンスターを吹き飛ばし、そして一定距離近付いてから白い雷を刀の周りに集中させて、それをランスの形にする。使い方はよく分かっていないが、ランスは西洋の槍なので攻撃手段は突きと叩き付けだけだ。


 雷をランスの形に収束させた悠一は、腕と脚に身体強化を全開で掛けてから、【縮地】を発動させる。いつもは接近する時や回り込むときに使いが、今回はそう使わずその勢いを使って突進する。


 目ではまず追うことの出来ない速度での突進なので、その勢いから生み出される突きは凄まじく、一気に数十体吹き飛ばす。勢いが落ちてきたところで今度は雷を槍の穂先だけの形にして、それを四方八方に無差別に放つ。それでまた一気に、多くのモンスターを倒した。


 モンスターたちは悠一を驚異的な敵だと判断し、その場で倒そうと攻撃を仕掛けてくる。しかし悠一はその攻撃を軽やかな足取りで躱し、一撃で首を斬り落とし心臓を貫き、胴体を分断する。


 本来刀は、切れ味はいいが人を斬ったりすると、それだけで切れ味が落ちたりする。悠一が今の刀を使う前頻繁に手入れをしていたりしていたのは、その為でもある。だが今の刀は、強度上昇の魔法が付与されているし、最近炭素繊維をたっぷりと含ませてそれを硬化させている。


 おかげでモンスターを何体斬っても切れ味は落ちないし折れたりもしない、凄い刀になっている。若干、これを刀と呼んでもいいのだろうかと疑問が残ったりはするが、そこは気にしないでおいた。今回みたいな乱戦になった時、戦っている時に使い物にならなくなったりしたら、元の子も無いからだ。


 三百六十度から襲い掛かってくるモンスターの猛攻を掻い潜り、反撃を叩き込み強化した脚で強烈な蹴りを頭に叩き込んで頭蓋を破壊し、再構築魔法で構築したプラズマ弾を撃ち出し、【白雷】を放って焼き殺す。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――刳離薊くりあざみ!」


 刀を中段に構えて左に薙ぎ、左逆手に持ち直して右へ薙ぐ。右手に持ち直した後斜め十字に振るう。四つの斬撃が閃き、複数のモンスターが斬り倒される。こういった乱戦の場では、悠一の剣術は非常に有効だ。


 攻撃を見切り、躱し、受け流し、カウンターを叩き込み、体を捻って躱し、刀を振るって複数のモンスターを一薙ぎで斬り倒す。空を飛んでいるモンスターからも攻撃が仕掛けられたが、それは誘導した物で、躱して他のモンスターに当てる。


 だが上空からの攻撃は厄介なので、近くに無数のプラズマ弾を作り出してそれで撃ち落とす。背後からモンスターが迫ってくるが慌てず対処し、強烈な回し蹴りを頭に叩き込んで他のモンスターを巻き込む。


「やっぱ十万前後のモンスターとか、数多いな。当然だけど、切っても斬ってもキリがない。やっと他の人たちがやって来て、攻撃して倒しているからいいけど」


 戦っていながらも周囲を索敵で把握しており、戦い始めてから数分でようやく他に冒険者や騎士、兵士たちがやって来た。真っ先に来たのはSランク以上の冒険者で、一番早かったのは当然レオンハルトだった。レオンハルトは最前線に着くなり、すぐに驚愕するほどの勢いでモンスターを倒して行っている。


 悠一も負けていられないと思い、【白雷】を発動して体に纏い、身体強化も同時に掛けて地面を蹴る。【白雷】はよく使うのでコツもだんだんわかって来て、今では数十分間使ってもそれほど負担が掛からない程になっている。


 なので最初からあまり出し惜しみせず、かなり飛ばしている。劇的に素早さが上昇したので、強く地面を蹴ればそれだけで姿がブレるように消える。そしてその速さと、同時に上昇した力でモンスターを次々と屠って行く。


 後方からは魔法使いたちが魔法を放っており、奥の方に当たって炸裂している。かなりの数の魔法が放たれているが、シルヴィアがどれでユリスのがどれなのかは分かった。特にユリスのは、非常に分かりやすい。何しろ、光上級魔法を何度も連続して放っているのだから。


 そもそも光属性自体が非常に希少なので、光魔法はユリスだと思っても大丈夫だ。そのどれもが強力で、奥の方のモンスターが次々と倒されて行く。それを索敵で把握している悠一は、負けていられないなと思い、更に加速していく。

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