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93 二度目の襲撃

「ふぃー……。ユリスから話を聞いたり図鑑で読んだからある程度は知っていたけど、まさかここまで手強いとはね……」


 海洋都市の近くにある森の中、三人は既にクエストを終わらせている。危険度が高いので討伐数は十五体とそれほど多くなかったので、四時間程度て終わった。とはいえ、情報通りかなり面倒くさいモンスターだった。


 まず、図鑑に掛かれていることと、ユリスの言ったことが完全に一致していた。それは、一度狙ったら何があっても追いかけ続けるという、特性。どれだけ面倒なのかを確かめるために、離れた場所から魔法を放って自分に意識を向けさせて、ワザと追い掛け回された。


 だが、後になってその行動を後悔することになる。魔法を喰らいそうになったブラッディケルウスは悠一を獲物と定め、情報通り追い掛けて来た。しばらく走り回って、牽制程度の魔法を放ったりした。しかし、どういうことかブラッディケルウスは、、時間が経過していくにつれて走る速度が上がって行っていた。


 流石にそれは予想外だった。実はこれは、ブラッディケルウスが悠一を危険だと本当的に判断したからである。追い掛ける対象が危険かどうかは角で察知しており、逃げながらも魔法を放っているとその都度危険度が上がっているようだ。


 悠一は逃げながら牽制程度の魔法を放っていたので、本来であればすぐに上がったりはしない。しかし途中で【白雷】を放ったので、それで一気に危険度が上昇。そこから急激に走る速度が変わったのだ。この特性についてはあまり知られておらず、図鑑にも載っていないことだ。知らないのは当然だ。


「途中で走る速度が上がるって、マジで何だったんだよ。目も無駄に血走っていたし、口から涎が滝のように溢れていたし……。別の意味で怖かったぞ……」


「そんなモンスターから、身体強化を使わずに逃げ切った挙句に、背後に回り込んで首を斬り落としたユウイチさんの方が、ずっと凄いですけどね」


 シルヴィアがジト目で悠一を見ながら、そう呟く。悠一が逃げ回っている間、他のブラッディケルウスもやって来てしまい、シルヴィアとユリスも追い掛け回されている。怖かったので魔法を放たずに逃げ回っていたが、身体強化を掛けていても走り続けるのは辛いので、次第にバテて来た。


 もう走れないと思った時、素の身体能力だけで逃げ切った悠一が戻って来て、シルヴィアとユリスに襲い掛かろうとしていたブラッディケルウスを蹴り飛ばした。その後で『修羅の境地』を使って回り込み、気付かれないまま首を斬り落としていた。


 その後シルヴィアとユリスは、素の身体能力だけで逃げ切ったことを知り、やはり反則だと思った。なお、ジト目で見ているのはもっと早く助けてほしかったという思いから来ている。最近目を見るだけで多少何を考えているか分かって来たので、悠一はどうしてその眼で見ているのかを理解している。


「仕方ないじゃん? あんなに執着するとは思っていなかったんだし」


「ボク、始める前に言いましたよね? 恐ろしいくらい執着するって」


「確かに言っていたね。でも、どれくらい恐ろしく執着するとは言っていないよね?」


「言葉にすることが出来ないくらいです」


「出来ればそれをもう少し早く言ってほしかったなぁ……。そうすれば、あんな事せずに済んだのに……」


 別にユリスが悪い訳ではない。ただ、ユリスが言葉に言い表せない程怖いくらい追い掛けて来たと言っていれば、その時点で自分で確認するようなことはしなかった。ユリスは、このパーティーの中で火力だけで見れば、一番強い。


 そんなユリスが、ゴーストやそういったものを除いて怖いといった者は、大体ある程度悠一の脅威にもなる。今回はただ執着するとしか言われていなかったので、多分大丈夫だろ、といった軽い気持ちでいた。なので、後になって自分の行動を後悔したのだ。


「何がともあれ、無事クエスト終わった訳だし、街に帰るか」


 後ろに転がっているブラッディケルウスから討伐部位となる角を剥ぎ取り、鞄の中に仕舞ってから三人は街に向かって歩き出す。この時悠一は、なるべくブラッディケルウスの討伐クエストは、受けないようにするべきかどうかを考えていた。


 生理的嫌悪感を抱くタイプではないので、絶対受けたくないとは思わない。ただただ、非常に面倒くさいモンスターなだけだ。赤毛のエキセントリックで狂っているとしか言いようのない、猿やゴリラとは違う。奴らは、名前を聞いたり目にするだけで、生理的嫌悪感が全身を駆け巡って肌が粟立つほど嫌いだ。


 ブラッディケルウスはただ面倒なだけなので、あまり受けないようにして時々受けるようにするべきか、それともちゃんと定期的に受けるべきか。今はそれを悩んでいる。シルヴィアとユリスは、大分嫌そうだが。これは一人だけで決める訳には行かないので、後で三人でゆっくり話し合いって決めることにした。


 三人は周囲を警戒しながらも会話をし、森を進んでいく。時折モンスターの襲撃を受けたりしたが、特に何の問題もなく倒して行く。奴らのようなモンスターはいないが、代わりに普通の霊長類型のモンスターはいる。


 それらには嫌悪感を抱かないので、接近して斬り伏せたり、構築した鋼の槍で心臓や頭を貫いて倒す。極稀に、変な断末魔を上げる個体がいた気がするが、それは聞き間違いだと言い聞かせて何も聞かなかったことにした。


 そうして歩くこと数十分。三人は海洋都市に着いた。丁度クエストか探索を終えたのか、他の冒険者の姿も見受けられる。そしてその視線は、悠一にチクチクと刺さっている。もう慣れっこなのでそんな視線は無視して、街の中に入って速攻で組合に向かって行く。


 そのまま三階に上がって行き、手早く報告を済ませる。報告を済ませた後組合から出て、街をぶらつくことにする。


「すっかり元通りだな」


「皆さんが元気そうで、よかったです」


「こうしてみると、本当に守れたんだって実感出来ますね」


 歩いていると、病院で治療した人たちなども見受けられる。悠一たちに怪我の治療をしてもらった人たちは、街を歩いている三人に気付いて笑顔で手を振ってくる。三人もそれに応え、同じように手を振る。


 街をふらついていると、小さな子供たちが元気そうに走り回っている。悠一たちとそう歳の変わらなさそうな若いカップルも見え、人前だというのに熱くいちゃついている。それを見たシルヴィアとユリスは顔を真っ赤にして逸らし、悠一も複雑な顔をして逸らす。


 しかし、そういうのを見ると、全て自分たちのおかげではないが守ることが出来たんだなと、確かに実感出来る。今まで習い続けてきた自分の剣が、誰かの命を間接的に守っているんだなと、少しだけ満足して刀の柄頭に手を添える。


 そのことを実感しながら歩いていると、ふと視線を感じた。しょっちゅう嫉妬や若干殺意の篭った視線を向けられているが、今感じたのはそのどれでもない。まるで、見定められているかのような感じだった。


「どうかしましたか?」


 周囲をキョロキョロと見回していると、シルヴィアがきょとんと首を傾げながら訪ねてきた。地味に可愛いその仕草にドキリとしながら、冷静を繕う。


「いや、何でもないよ。それより、このあとどうす―――」


『緊急警報発令。緊急警報発令。北側に、モンスターの反応を観測。その規模は、約十万前後。街の兵士たち、および全上級冒険者たちは、直ちにこれを迎撃してください。なお、民間人の皆様は速やかに非難をしてください。繰り返します―――』


 けたたましい警鐘が悠一の声を掻き消すように鳴り響くのとほぼ同時に、脳内に直接声が聞こえてくる。いきなり継承が鳴り響いたのには驚いたが、それよりもこの短期間間また襲撃があった方に驚いた。


「どうして!? 一体どこからそんなモンスターの大群が!?」


「十万前後って……、今まであった大規模侵攻よりも多いですよ!?」


「そんなことより、早く北門に行くぞ!」


 悠一はそう言うと地面を蹴って走り出す。シルヴィアとユリスも身体強化を掛けてから、全速力で先を走って行った悠一を追いかけていく。すぐに悠一に追い付いたが、それより一般人が一斉に非難しているので、とても進み辛い。


「ど、どうしましょう……! これじゃあ、北門に行くことが出来ません……!」


「こうなったら、家の屋根に飛び移って、そこから屋根伝いで走って行くしかない!」


 そういった悠一はすぐに跳んで家の屋根の上に着地し、そのまま北門に向かって走って行く。シルヴィアとユリスも倣うように屋根に飛び移り、全速力で走って行く。今日で二度目の全力疾走だ。


 最大限まで身体強化を掛けて全力で走っているのだが、悠一はそんな二人よりも速く走っている。しかも、身体強化は掛けていない。前世でも体を鍛えて体力があったので、元々長距離をそれなりに速く走ることは出来た。


 それが異世界に来てからは、より速く長距離を走ることが出来るようになっている。元々足の速かった悠一だが、こっちに来てからレベルが上がるごとにドーピングでもしているかのようにステータスパラメーターが上昇している。なので、身体強化を掛けなくても、常軌を逸した速さで駆け抜けることが出来る。


 それでも、比べるべきではないがSランク以上の冒険者たちは悠一より速く動くことが出来る。それに、以前レオンハルトの戦いを見たことがある。速さも強さも何もかもが別次元だった。あんな人間離れしている人に、並ぶ人なんているのだろうかと思ってしまう程だった。


 今回はいきなり空から襲撃してくるのではなく、街の外から進行してきている。なので全ての上級冒険者は、準備をすることが出来る。きっと、既に多くの上級冒険者たちは、北門に着いていることだろう。


 全力で走っているとようやく北門に着き、屋根の上から飛び降りて門を潜って外に出る。そこには既に、予想していた通り多くの上級冒険者たちがいた。しかし、これでもまだ全員ではない。


 集まっている人たちは皆、正面をじっと見据えている。悠一も正面を見ると、遠くから何かが少しずつ迫って来ているのが分かった。それは遠距離視認魔法を使わなくても、モンスターの大群であることは分かる。


 分かるからこそ、あれだけの数を相手に上級冒険者全員だけで勝てるのかと、疑問に思ってしまう。少しだけ体が震えたが、今ここで逃げだしたらその時点で剣士としては死んでしまうかもしれない。そう言い聞かせ、頬を両手で叩いから少しずつ迫りくるモンスターの大群を睨み付ける。

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