91 三人でピクニック
本日二度目の更新です!
太陽が沈んで空が暗く染まり、月が昇って大地を昏く照らし星が空を埋め尽くしている。多くの生物は眠りに就き、代わりに夜行性の生き物は外に出て徘徊している。
そんな真っ暗な夜の中、二つの影が蠢いていた。
「あの短時間で我らの駒が全て倒されたのは予想外だったが、情報を得ることが出来た」
「そうだな。やはり人間は群れなければ、あの程度のモンスターを倒せないようだ。例外はいるようだが」
「あの赤髪の剣士と、女二人を連れた黒髪の剣士、か。赤髪の剣士はあの街にいる人間の中でも、突出した力を持っている。人間にとって切り札だろうな」
「だが、黒髪の剣士も中々だぞ。女二人と共に行動をしていて、金髪の魔法使いより魔力は少ないが、実力はあの中で一番高かった。それに、秘められた力を見れば、赤髪の剣士より上だ」
二つの影は、人ならざる声で何かを話している。この二つの影は、昼間にあったモンスターの襲撃の時、ずっと遠くからその様子を見ていたのだ。どうしてそんなことをしていたのかというと、情報を集める為だ。
テイミングしたモンスターを使って街を襲わせて、その街の冒険者たちの実力がどんなものなのかを探ろうとしていたのだ。予想外にも早く掃討されてしまったが、それでも有用な情報を手に入れた。その情報を手にした二つの人ならざる声で話す人ならざる影は、その口元を愉快そうに大きく歪めた。
♢
モンスターから襲撃を受けてから、五日が経過した。街は土魔法や錬金魔法を使いてなどが必死に復興作業を行ったので、ほぼ元通りになった。悠一たちもそれを手伝っている。
悠一は再構築魔法を錬金魔法と偽って使い、道具を治したり大きく傷付いているけれど直せば大丈夫な家などを修復した。シルヴィアとユリスは女性なので力仕事はせず、他の女性たちと復興作業をしている人たちの為にご飯を作ったりしていた。
二人とも明るく可愛いので、男性からの人気が非常に高かった。軽く「頑張ってください」と声を掛けられた男性は、休憩の後凄まじい勢いで作業をして張り切っていた。あまりの張り切りように、流石の悠一も苦笑していた。
そんなことがありながら復興作業をして、何とかあとは大工の人たちに任せても大丈夫なった。四日連続でモンスター討伐とは違う肉体労働をしたため、今日は休みにしている。休息も訓練、および仕事の内だと父親によく言われていた。
悠一たちはゆっくりと休むために、街の外にある安全地域の所に行きそこでピクニックをすることにした。安全地域は冒険者や王都から派遣されてきた兵士や衛兵たちの手によって、周囲に住み着いているモンスターを掃討され、安全な場所となっているところだ。
一定範囲モンスターが出現しないので、休みの日になると家族連れやカップルなどが、よくピクニックにやってくる。
「五日前はあんなことがありましたけど、街はすっかり元通りになりましたね」
「まだ所々復興しているところはありますけど、あと少しすれば全部直るそうですし。よかったです」
「死者は奇跡的に出てないっていうし、そっちの方がよかったよ。街の冒険者や兵士たちが、早く対応してくれたおかげだな」
三人は今、街の外にある大きな湖の近くにやって来ている。そこはギリギリ安全地域ではあるが、たまにモンスターが出てくる場所だ。出て来たとしても、まだ自分の力でどうにか出来る範囲なので、大丈夫なのだが。
「それにしても、ここは長閑だな」
「日が当たって心地よくて、気持ちいいですね~」
「ご飯食べたら、眠くなりそうです……」
湖は小さな森の中にあり、太陽の日差しは木々に遮られている。しかしそれは全てではなく、木漏れ日が差し込んでいる。風も心地よく、程よく暖かいのでただでさえ食後は少し眠くなるので、なるほど確かに昼食後は眠くなりそうだ。
「しっかし、ピクニックに行くのっていつ以来だ?」
実は悠一は、ピクニックには殆んど行ったことが無い。まだ幼いころには何回か行っているが、それは小学校低学年の時だ。小学校四年くらいからは行かなくなり、そこから今に至るまで行っていない気がする。となると、今日のピクニックは実に六年ぶりになる。
久々のピクニックは嬉しいが、一緒にいるのが美少女二人。嬉しいには嬉しいのだが、こうして一緒に来ているとどうしても、恋人みたいだと思ってしまう。恋人ではないのだが、やはり可愛い女の子と一緒に来ると、ドキドキしてしまう。
二人も久々なのか、私服も少し気合を入れているようで、びっくりするくらい似合っているをの着ている。ローブ姿でも十分よく似合っているのに、今日は可愛らしく着飾っている。二人の私服を全部見ていないので、今の服装も始めて見る。
「いつもは街中で一日を過ごしていたので、たまにはこういうところに来るのもありですね」
「そうだな」
今日一日、どうやって時間を潰そうかを話し合っている時、候補に海が上がっていた。シルヴィアとユリスは恥ずかしそうにしていたが、海に行きたいという気持ちはあったようだ。しかしピクニックを候補に出すと、二人はそっちに食いついた。
流石にまだ街が復興中なので、海に行って遊ぶというのは気が引けていたようだ。それでも生きたいという気持ちはあったそうだ。
とにかくピクニックに二人は食いついた訳だが、主な理由は海に行けば飲食店があるのでそこで食事を済ませるが、ピクニックは作っていくかその場で作るかしか選択しなはい。普段悠一が食事を作っている(最近は役割分担している)ので、たまには自分たちで作ってあげたいのだ。
それに、前に料理を振舞った時に美味しいと言ってくれた。シルヴィアたちはまだまだだと思っているが、それでもそう言ってくれたことがとても嬉しかった。褒められるのが嬉しいから、こういった時に自分たちから料理を作るようにしている。
今日は厨房を借りることが出来なかったので、その場で作ることにしている。景色などを楽しみながら、どんな料理を作ろうかを考えている。
「ここは本当に落ち着く場所だな。昼寝するのに丁度よさそうだし」
「確かにそうですね。モンスターが出るかもしれないので、お昼寝は出来なさそうですけど」
「索敵範囲内にはモンスターは確認出来ませんし、もしかしたら出来るかもしれませんよ」
「まあ、そのことは後で考えよう」
そう言ってから三人は腰を上げて立ち上がり、少し歩きまわることにする。森の中なので、モンスター以外の動物などが見られる。鹿やウサギ、リスなどといった動物などが、たくさん見られる。ここは安全な場所なので、そういった動物たちが生息している。
小鳥たちもたくさんいるので、あちこちから小鳥たちの囀りが奏でる歌が聞こえてくる。三人はそれに耳を傾けたり、木にいる小動物を見たり、地面に生えている花などを見てたまに花の草にくっついている虫を見て、シルヴィアとユリスがびっくりしたり。
五日前と復興作業に参加していた時からは考えられない程、長閑で平和なその時間を、三人は楽しんだ。そんな時間を楽しんでいると、あっという間に昼頃になっていた。そのことに気付きシルヴィアとユリスは、早速昼食を作る準備に取り掛かる。
小型のコンロなどを取り出して、悠一に頼んでテーブルとまな板を作ってもらい、鞄の中に仕舞ってある食材と包丁を取り出し、調理を開始する。食材には魚介類や野菜が多く、肉が少なかった。肉があった方が好きだが、二人が作ってくれる料理はどれも美味しいので、口は出さないようにする。もし文句があったとしても、一生懸命作ってくれるので言えるはずがないのだが。
「……二人共、何か手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です。ユウイチさんは待っていてください」
任せきりでいいのかと思ったので何か手伝おうと思い声を掛けるが、手伝わなくてもいいと言われる。そう言われても特にすることが無く、料理が出来上がるまで非常に暇だ。
待っている間刀の手入れをしようかと考えるが、それよりも早く料理が出来上がるのは分かっている。素振りも、こんなところに来てまでやることではないので、やらない。持っている魔導書を読もうにも、読んだところで使えないし術式を再現出来ないので意味がない。
結局小説を読んで、時間を潰すことにした。どこかいい場所が無いかを探し、丁度高過ぎず低過ぎないところに太い枝があったので、そこの飛び移り腰を掛けて本を開く。読んでいる本は、書店に置かれてあった今から千年近く前の実際にあった出来事を描いた物語だ。
内容は、ずっと昔今よりも多くの人間やその他の種族が生活していた。その全ての種族は、手を取り合って互いに支え合いながら生活していた。ただある日、突然人ならざる存在である化け物が現れ、多くの命を奪って行った。それは今でいうモンスターや、悪魔族、魔族といった者だ。
化け物たちは次々と多くの命を奪って行き、最終的には敵味方関係なく打ち滅ぼす魔神を呼び出し、世界を破滅に導こうとした。全種族は、滅びるまで時間の問題だと思った。
しかし、たった一人だけ臆さず諦めず、魔神に立ち向かった魔法使いがいた。戦いは熾烈を極め、半日以上続いたその戦いは、一人の魔法使いの勝利で終わった。何とか魔神を倒し、一緒に多くの悪魔や魔族を倒したが、今でもそれらは残っているし、数多くの種族が滅びてしまった。
だがそれでもより多くの命を守ったその魔法使いは、滅びずに残った種族全てから英雄と称えられ、伝説となった。というのが、大雑把な内容だ。全部戦いの内容ではなく、平和な日常やちょっとしたいざこざなどがある。
一応神話に部類されているが、ファンタジー小説を読んでいるような感じになる。こちらの世界では、全然普通のことなのだが。
「ユウイチさーん! お昼出来ましたよー?」
黙々と本を読み進めていると、準備が出来たのかシルヴィアが呼んでいた。栞を挟んで本を閉じ顔を上げると、周囲をキョロキョロと見回しているシルヴィアが視界に映った。少し驚かしてみようかとそんな考えが過るが、止めておく。
立ち上がって一度大きく伸びをした後枝から飛び降り、地面に降り立つ。
「あ、そんなところにいたんですか?」
「あぁ。それで、もう出来たのか」
「はい! 頑張りました!」
にぱっと眩しい笑みを向けてそう言い、悠一は少しドキッとしてしまう。女性慣れしていない人間にとって、美少女の笑み程破壊力のある者はないと思う。そんなことを考えながら先をとてとてと歩いて行った、シルヴィアの後を追い掛けていく。
料理が用意されているところに着くと、そこには色んな料理が用意されていた。海老と貝の入ったサラダに、前に倒したシュヴァルツアピストリークスの身が入ったスープ。未だに残っているワイバーンの肉を使ったポワレに、丸くて柔らかいパンがテーブルの上に並べられている。
テーブルと椅子はどれも折り畳み式で、それらはシルヴィアかユリスのどちらかが持っている。気付いたら出しているので、どっちが持っているかは分からないが。
「随分本格的だな」
「食材がいっぱいありましたので。それに、保存が効いているとはいえ早目に食べちゃった方がいいでしょうし」
「確かにそうだな。無くなったら、また狩りに行けばいいし」
そう言いながら、用意されている椅子に腰を掛ける。二人も悠一の後に腰を掛け、揃ったところで食べ始める。まず先に、海老と貝の入ったサラダを食べる。ドレッシングが程よく効いていて、さっぱりしている。
サラダの次にポワレを食べてみると、しっかり火が通っていて柔らかく、全然くどくない。少し味付けが薄いかもと感じるが、そこは気にならない範囲だ。そこで、悠一は二人が自分を見ていることに気付いた。感想を待っているようだ。
「文句なしに美味いよ。そんな心配そうな顔をするな」
「ほ、本当ですか!?」
「本当だよ。凄く美味い」
「よかったですぅ~」
素直に二人の作ってくれた料理は美味い。それに、仮に不味くてもそんなのを本人たちの前で、言えるわけがない。実家ではよく料理をしていたようなので、失敗しなければ不味い物は出てこないと思うが。
三人はその後昼食を食べながら談笑し、有意義な楽しい時間を過ごす。昼食を食べた後また森の中を歩き回り、近寄ってきた小動物などと触れ合ったりした。悠一にも手乗りサイズのウサギなどが寄って来たが、シルヴィアとユリスには様々な小動物たちが寄っていた。
小鳥やリス、ウサギ、猫等々。周りが動物塗れになりながらも二人はとても楽しそうで、とても微笑ましい光景だった。海で遊んだ時も楽しかったが、こっちもこっちで中々だと思い、いい思い出となった。




