90 防衛成功
昼にもう一回更新するかもしれません
レオンハルトと遭遇して別れてから数十分後、三人は街の中央広場にやって来ていた。予想外にもモンスターが襲撃してきたが、街の冒険者たちの奮闘により数が大分減った。殲滅し切るのも、時間の問題だ。
しかし予想外の襲撃なので逃げ遅れた住民や、戦っていて怪我を負った冒険者がいる。三人が中央広場にいるのは、そんな怪我人を治すためだ。シルヴィアは光属性に適性が無いので、包帯を持って行ったり薬草を使った傷薬を使って応急処置をしたりしている。
ユリスは得意の光属性の回復魔法を使って次々と怪我人を治していき、悠一は再構築魔法を使って怪我を修復する。ただ、冒険者は体を張った職業なので男性が非常に多く、女性が少ない。街によって対比は違うが、大体7:3だから8:2だ。
ユリスは重症な冒険者を治していき、シルヴィアも重傷とまでは行っていないがそこそこ傷の深い冒険者に応急処置を行っている。悠一も重症者を治しているが、魔法についてばれたくないので次第に軽傷者を治していくようになっていた。
重症者の殆んどが男性で、軽傷者のほとんどが女性だ。結果的に、重傷者を治したり応急処置を施しているシルヴィアとユリスは、男性たちからの評価ぐんぐん上がって、悠一は女性からの評価が上がっていた。
そんなことを知らず、怪我人を治していくこと約二十分。何とか全員治療を終えた。
「お疲れさん」
「ユウイチさんこそ、お疲れ様です」
「人数分の飲み物を貰ってきました。これを飲んで、少し休みましょう」
ユリスが持ってきた飲み物を受け取り、どこか適当に空いているベンチに腰を掛ける。まだモンスターはいるが、あと少しすれば倒し切るだろう。それでもまだ数はいるので、少し休憩してからまた戦いに行くつもりだ。二人もそれを了承してる。
「何とか間に合わせることが出来て、本当に良かったです。こういう時に、本当に光属性に適性があってよかったって思います」
「俺もだよ。魔法についてばれたくないから軽症者を治してたけど、それでも傷は治せる。かなり反則だけど、使えててよかった」
「私は回復魔法は使えませんけど、それでもお医者さんたちのお役に立ててよかったです。お礼も言われましたよ」
怪我が治り、ある程度軽口を叩けるようになっている人たちを見て、三人は安堵して小さく微笑む。こうやって自分たちが人を治せる魔法や、治せなくてもある程度役に立てることを出来たことは、とても嬉しいことだ。
人の命というのは、とても尊い物だ。人は何かを壊してしまうが、一緒に何かを作り出す。一人では、極一部の例外を除いて何か大きなことを成し得ることは出来ないが、「人」という文字のように、もう一人自分を支えてくれる仲間がいれば、大きなことを成すことが出来るかもしれない。
今こうして悠一がここにいるのは、シルヴィアとユリスという仲間がいてくれたから。シルヴィアとユリスも、ここまで来れたのは悠一がいてくれたからと思っている。互いに互いを支え合いながら戦い抜き、ここまで強くなれた。
もし一人でも欠けていたら、今自分たちがいる所まで来るのに、多くの時間を有したかもしれない。もしかしたら、ここまで来れなかったかもしれない。
今悠一は【剣聖】候補の一人と呼ばれているが、それは二人が支えてくれていたから。何度も経験した死線を、三人で乗り越えて来たから。だからここまで来れた。決して自分一人の力ではない。
そう思った悠一は、今度お礼をしようかと考える。きっと二人は、ただ少しだけサポートしただけに過ぎないというかもしれないが。だが二人のおかげでここまで来れたのは事実なので、大き過ぎないお礼はしたい。若い女の子が受け取って嬉しい物は何だろうと、少し真剣に考えだす。
ある程度休憩を取った三人はベンチから立ち上がり、索敵を広げて再びモンスター討伐に向かって行く。まだ索敵範囲内には数多くのモンスターが存在しているが、さっきと比べると大分少なくなっている。限界まで広げて探っていると、遠くで凄まじい速度でモンスターの反応が消失していっている。
「これ絶対ブルースミスさんだろ」
「流石現役SSSランク、冒険者序列一位ですね……」
「ボクが戦略級魔法を使ったとしても、あの人の殲滅速度には追い付かないかもしれません」
ユリスにそう言わせる程、討伐速度が速い。一瞬でベルセルクを倒したので、当たり前といえば当たり前なのだが。本当に自分なんかが【剣聖】候補の一人にカウントされていていいのだろうかと、疑問に思ってしまう。
どう考えても、実力に大きな差があるというのに。そんなことを考えながら数が減って来たので、スキルを鳴らすため【白雷】を発動してモンスターに接近して、一瞬で正面にいるモンスターの首を刎ねる。背後からモンスターが迫ってくるが、絶対防御範囲を広げていたため脊椎反射で頭を斬り脳を破壊する。
少し遠くからサイクロプスやミノタウロスが足音を立てて走ってくるが、シルヴィアの雷中級魔法【ボルティックストライク】が放たれ、吹き飛ばされる。上空にいるモンスターは悠一が一度足止めしてから、ユリスが光魔法で撃ち落とし、落ちてきたことろを悠一が斬り伏せる。
大きくて一回の攻撃で倒し切れなさそうなモンスターは、白い雷を刀身に纏わせて巨大化させ、それで両断する。
「大分そのスキルに慣れて来たんですね」
【ミラージュステップ】で姿をくらまし、死角からモンスターに炎属性爆破系統魔法を撃ち込んがユリスが、悠一にそう言う。最初は上手く制御すら出来ていなかったので、ここまで使えるようになっているのを見て感心したのだ。
「それでもまだ制御は難しいよ。スキルを使いながら魔法は使えないし。本当、両方同時にやっている冒険者は、どうやってやっているんだろうな」
上空から降り注いできた攻撃を全て刀で叩き落し、上空に巨大な鋼の剣を作り出してそれを操り、飛行型モンスターを斬る。魔力の操作には慣れてきているが、まだスキルと魔法を同時に使用することは出来ない。
身体強化を掛けながら別の魔法を使うことは可能だが、スキルは魔力操作の感覚が違う。なのでまだ、一緒に使うことは出来ていない。身体強化は、体に魔力を巡らせて使う無属性魔法なので、スキルを使う時と少し似ている為、身体強化だけ同時使用出来る。
「皆慣れですよ。ボクも最初はあまり上手く使えませんでしたけど、何度も使って行くうちに出来るようになりましたよ」
鋼上級魔法【ダーインスレイヴ】で、やって来た単眼の巨人キュプロクスを脳天から両断して、そう言う。ユリスも最初からスキルを使えていたわけではないのだ。【限定属性】や【ミラージュステップ】といったのは、覚えてから大体一、二週間で上手く使えるようになった。
そこは悠一も同じで、スキルを覚えてから同じくらいの期間でやっと十数分間使用出来るようになっている。まだ魔力の消費も激しいし、体への負担がある為多用は出来ないが。ゲームで言うスキルツリーみたいなものがあれば、魔力と力、素早さ、そして魔力回復速度にスキルポイントを回していたかもしれない。現実であるこの世界には、そんなスキルツリーなどは存在していないが。
でももしあったらいいなと思いながら、雷を操作してそれを複数の剣の形にして、モンスターに突き刺して放電する。
「本当に使い勝手がいいな、このスキル。魔法よりこれを使う回数が多くなるかも」
左からモンスターが襲い掛かって来たが、一本だけ手元に残しておいた雷の剣で胴体を分断する。実は炎龍を倒した後、自分の魔法の制限について色々確かめていたのだ。
まず大方分かっていたが、生物対象による分解は、体積の大きさによって魔力の消費量が大幅に変化する。他にも、魔法自体は分解出来るが、魔力を体に纏っていると表面の魔力が分解されるだけで、本体には届かないことも判明した。本体その物を分解すれば行けるのではとも考えたが、纏ってる魔力が妨害してくるので不可能だった。
この時、一度に分解出来るのは一種類だけであることも判明した。全く同じものであれば、組み込まれている術式や構造が同じなので、同時に分解することが出来る。しかし二種類以上の物だと、術式や構造が変わって来るため、同時に分解出来ず一種類ずつしか出来ない。
かなり大きな制限だが、悠一はむしろこれくらいの制限があって当然だと思った。何しろ、強力を通り越して反則なのだから。ただ、思えば能力の一つにそんな制限があったとしても関係ないのがあることを思い出す。それは、質量変換。
質量その物をエネルギー変換してしまえば、例えそれが50㎎しかない物でも凄まじい威力を発揮してしまう。エネルギー変換する質量が大きければ大きいほど威力が上がり、比喩でも何でもなく世界を消滅させることも可能。
そんなことも可能であることを思い出した悠一は、しかし実戦で使うことは無いだろうと思う。威力が高いのは、あるアニメや小説で見たので大体の予想は付く。予想が付くので、どれだけヤバい魔法なのかが分かる。下手すると自分たちも巻き込まれかねない、恐ろしく危険な魔法だ。
離れた場所から使えばその危険は無いだろうけれど、使う機会はまず無いだろう。というか、そんな機会があったら困る。モンスターの大群が着ても、ユリスが戦略級魔法が使えるし、悠一も魔法を出し惜しみせずに使えば時間は掛かるが大丈夫だ。
「そもそも、モンスターの大規模侵攻なんて、そうそうないだろ。今回だって、大規模とは言えないし」
遠くで他の冒険者と戦って倒されて行くモンスターを見て、そう小さく呟く。
「それにしても、どうして街を襲撃して来たんでしょうね?」
襲撃して来たモンスターの中に混じっていた虫型モンスターを、氷中級魔法の【フリーズインパクト】で叩き潰したシルヴィアがそう言う。確かに、どうして突然モンスターが襲撃して来たのか、理由が分からない。
それと同時に、不可解なことを思い出す。モンスターは自分よりも弱そうだったり体が小さい獲物を見つけたら、すぐに襲い掛かって食べる。食べなくても、互いに殺し合ったりするのが普通だ。しかし、今回の襲撃でモンスター同士が戦っているところを見ていない。
炎龍と初めて戦った時、森にいたモンスターと同じように不自然な動きをして、統率が取れている。もしかして、また帝国の連中がちょっかいを出して来たのではないかと考えるが、特に根拠は無いがそれは無いなと考えを改める。
どうしてモンスターが襲撃して来たのか、その理由は分からない。ただ、分からないことを考え続けても結局分からないので、すぐにそれを頭の隅に追いやり、モンスターを倒して行く。幸いベルセルクのような化け物はもう存在していないので、特に苦戦することなく次々と屠って行く。
たまにオークやエキセントリックな赤毛猿やゴリラが出てきた時は、生理的嫌悪感が全身を駆け巡り結界を展開するのが少し遅れたら危ないほどの大爆発を起こし、オーバーキルしてしまったが。モンスターを包むように展開されたので、爆発は内部に集中してそこだけが大惨事になっていた。周囲の建物には、影響はない。
ただ地面がごっそり抉れるように赤熱して溶けていた。反省はしていないが、後悔はしていなかった。壊れた地面は再構築魔法で作り直し、再びモンスター掃討に向かい走って行く。他の冒険者も奮闘し、残ったモンスターを倒し切るのにそれほど時間は掛からなかった。
モンスターが街を襲撃して来て一時間が経過しようとした時、街に存在していたモンスターは全て掃討され、それを確認した組合が何かしらの特殊な魔導具を使ったのか、脳内に直接掃討を確認したことを通達して、緊急都市防衛戦は終了した。




