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89 都市防衛戦

 メリークリスマス! 皆さま、良い一日を!

 全力で走りながらとにかく、索敵範囲内にいるモンスターを手当たり次第倒して行く。悠一は持ち前の素早さを活かして、シルヴィアとユリスは高火力の魔法を駆使して、次々とモンスターを倒して行く。流石に出し惜しみをしている場合ではないので、悠一は自身の魔法を使用している。


「邪魔だ!」


 前方からやって来た二体のサイクロプスを同時に斬り伏せ、更にその奥にいる数体のモンスター目掛けて、構築した鋼の槍を放って穿つ。シルヴィアとユリスは上空にいる、飛行型のモンスターに向かって高火力の魔法を放って、撃ち落とそうとするが狙いが中々定まらず外れてしまう。


 逆にモンスターは上から狙ってくるので、回避しようにも難しい。その為、攻撃は防御魔法で防いでいる。防御魔法は優秀な魔法だが、使用時間と受けたダメージによって消費する魔力が変化するため、使いどころが難しい。


 ただ結界と違い耐久値いう物が無く、魔力がある限り防げる。これだけ初級や上級といったような級付けは無く、使用し続ければ続けるほど防御効率が上がって行き消費魔力量が減っていく。


 とはいえ攻撃してくるのは上級モンスター。消費する魔力量が減っているとしても、それでも一回防ぐたびにそれなりに魔力が持っていかれている。


「流石にっ! あのモンスターをどうにかしないと、大変だよっ!」


「私たちの魔法じゃあ、中々当たらないし……。どうすればいいんだろう……」


 何度か上空からの攻撃を防ぎながらも魔法を放つが、下から放つ分上にいる敵からは躱されやすい。悠一のように一気に上空に移動して同じ場所に立ち、そこから攻撃出来ればこれほど苦労はしない。倒すようにお願いしようかと思ったが、今は大量にやって来たモンスターの集団と戦っている。


 恐らくすぐに終わるだろうけれど、今戦いの邪魔はしない方がいい。そう思い、二人はどうにかして自分たちだけで倒すことにする。とはいえ、二人の方が位置的には不利だ。せめてもっと速い魔法が使えれば、チャンスはある。


 既にユリスの【シャイニングレイ】やシルヴィアの【ボレアスデスサイズ】を使っているが、危険察知能力が高いのか、発動した瞬間に回避行動を取られてしまう。倒すには回避行動を取ったとしても、間に合わない程速い攻撃が必要だ。


 こうなったらと、ユリスは自身のスキルである【限定属性】を発動し、光属性だけに特化させる。こうすれば、十数分間他の属性が使えなくなってしまうが、その分威力と速さが上昇する。


 スキルを発動させてからユリスは、もう一度【シャイニングレイ】を放つ。巨大な魔法陣が出現し、凄まじいほどの光線が上空のモンスターに向かって飛んでいく。その速さは、スキルを使う前よりもずっと速い。


 飛行型のモンスターは危険を察知して回避行動を取るが、それよりも早く魔法が命中する。威力がかなり増大している為、多くのモンスターが一撃で葬られた。それでもやり過ごしたモンスターは多い。


「やっぱりユリスは凄いや。流石現役Aランク冒険者だね」


「ボクからすれば、シルヴィアたちの方が凄いんだけどね……。ボクは二年掛けてここまで来たのに、二人はもうあと一歩のところまで来てるなんて……。そろそろSランクに昇格したいなぁ……」


 ユリスはそうぼやきながらも、上空に向かって魔法を放ち続ける。躱される数が相変わらず多いので、シルヴィアがモンスターを誘導して、誘導した先にユリスが魔法を放って倒すという戦法を取り始める。おかげでさっきよりも効率がよくなり、より多くのモンスターを倒せるようになった。


 それで上空のモンスターを倒し終えた二人は悠一のいる方を見てみると、大量のモンスターの亡骸がそこら中に転がっており、未だにモンスターの大群と戦っていた。手助けしようとしたが、モンスターたちを誘導して戦っている為、直に勝負が着くなと判断し索敵を広げる。


 悠一は複数のモンスターを誘導しながら少しずつ数を減らしていき、同時に攻撃を仕掛けてきたタイミングで一体だけ攻撃を受け流し、脚を開いてしゃがみ込む。


「五十嵐真鳴流中伝―――士薙祓しちばらい


 誘導され続け同じタイミングで攻撃を仕掛けたモンスターたちは、攻撃する対象が突然消えたように見えて困惑する。そこで急停止しようとしたが、時すでに遅く、他のモンスターと衝突して半数がそれで絶命する。


 それでも尚生き延びたモンスターはいたが、突如流された電撃によって感電死する。


「マジで使い勝手がいいな【白雷】は」


 左手から白い電気をパリパリと放ちながら、悠一はそう呟く。身体強化にも使えるし、攻撃にも使える。しかもその威力は高い。分解・再構築しか魔力による攻撃手段を持っていなかった悠一にとって、新しい攻撃手段が増えたのは嬉しいことだ。


 イメージした通りの形にもなるし使いやすいので、魔法をあまり使わなくなるかもしれない。別に魔法を使わなくなっても、自身の情報を与えずに済むので良いのだが。


「ユウイチさん!」


 白い雷を消して刀身についた血を払い落とすと、シルヴィアに後ろから声を掛けられる。振り返ると、二人一緒に走って向かってきている。


「そっちは終わった?」


「何とか。ユウイチさんは大丈夫ですか?」


「あぁ、全然大丈夫。あの程度のモンスターにはやられないよ」


 そう言っているが、戦っていたモンスターは全てBランク上位モンスターだ。中にはAランクも混じっている。それらと一人で戦っていたのだ、二人が心配しない訳がない。


 彼女たちの気持ちには気付いているが、実際前に炎龍と戦った時からレベルが上がっており、素早さも力も何もかもが軒並み上昇している。相手が格上だったからで、レベルが近い相手からは、中々経験値を得られなくなってきたのが、少し悩みどころだが。


 それはあくまでレベルが近いモンスターだからで、Aランク上位モンスターやSランクモンスターとなれば、たくさんの経験値が入ってくるだろう。自分たちがそのランクになるまでは、その域に手を出すようなことはしない。炎龍の時は別だったが。


「さあ、次行くぞ」


「「はい!」」


 三人はその場から走り出し、モンスターを探していく。悠一は身体強化を掛けていなくても、元の身体能力の高さに加えて素早さが高い為、凄まじいスピードで走っている。一方シルヴィアとユリスは、身体強化を掛けていないと一気に距離を離されてしまう。


 それだとはぐれてしまう可能性があるので、必死に追いかけている。流石に悠一も全速力で走っている訳ではないので、二人は着いてきている。


 前方に三体の人型モンスターを見つけるが、その瞬間にシルヴィアが氷魔法を放って一撃で散らす。上空からはまだ残っている飛行型モンスターが攻撃を仕掛けてくるが、悠一が魔力だけで障壁を作りそれを防ぎ、自身の魔力を使ってモンスターの近くにある魔力を掻き集めて、至近距離で圧縮したガスによる大爆発を起こす。


 ほぼ一瞬だったので回避行動すら取れず、一撃で吹き飛ぶ。それを確認した後また走る速度を上げて、次々とモンスターを倒して行くが、途中で三人同時に足を止める。


「おいおいおい……。こいつまで来ていたのかよ……」


 視線の先には、体が黒く立派な鬣を靡かせて獅子を彷彿とさせる姿、何でも噛み砕いてしまいそうな程強靭な顎に、竜のように太い尻尾、目を合わせるだけでも恐怖を感じてしまう血のように赤い双眸。まだ一階しか戦ったことのない、Aランク上級に指定されている化け物、ベルセルクがいた。


 そのベルセルクは今、周囲に群がっている兵士たちと対峙していた。しかし兵士たちは怯えており、自分から攻めに行こうとしていない。マズいと判断し悠一は地面を強く蹴って急接近していく。


 それとほぼ同じタイミングでベルセルクが口を大きく開けて、息を吸い込み始める。それを確認した悠一は口元に圧縮したガスを生成し、爆発を起こす。それに気を取られたベルセルクは、息を吸い込むのを止める。


 その隙に【白雷】を発動して刀に纏わせ、刀身を伸ばす。そしてそれを上から勢いよくに振り下ろして攻撃を仕掛けるが、体に多少傷を付けるだけにとどまった。だが傷が付けることが出来ただけで、まだマシだ。初めて戦った時は、分解を使わないと勝てなかった。


 ベルセルクは悠一の方をぎろりと睨み付け、そちらに体を向ける。体に傷を付けたため、危険だと判断したようだ。


「君! 今すぐ逃げるんだ!」


 周囲に群がっている兵士の一人がそう叫ぶが、悠一はそれを無視して【縮地】で眼前まで迫る。太い前足で攻撃を仕掛けてくるがこれを受け流し、いきなりカウンターを叩き込む。これも少し傷付けるだけだった。


 また腕を振るってきたのでバックステップで躱してプラズマ弾を撃とうとするが、兵士たちがいるためそれを止めて、もう一度【縮地】を使って側面に移動する。そしてそこからゼロ距離で【白雷】を発動して、電流を流し込む。


「グルァアアア!!」


 しかし大したダメージは入らず、反撃を仕掛けられる。内心舌打ちをしながら【縮地】で上に跳び、小さなプラズマ弾を五つほど作り出して、それを放つ。圧縮されて放ったので小さいが、貫通してダメージを与えた。


 着地して八相に構えると、背後から光の雨がベルセルクに降り注ぐ。まだスキルが発動している為光属性の威力が高く、大きなダメージを与える。チャンスだと思い一気に駆け寄ろうとすると、突如ベルセルクの筋肉が膨れ上がる。


 それを見た瞬間危険を察知し、急停止して【縮地】で後ろに下がる。兵士たちも危ないと分かったのか、大慌てで離れていく。直後、両前足を振り上げて地面に強く叩き付ける。


 足が地面に叩き付けられると大きな亀裂が生じ、凄まじい衝撃が地面を伝って悠一たちに襲い掛かる。若干バランスを崩したところに、ベルセルクが凄まじい速度で走ってくる。マズいと思った時には既に遅く、口を開けて息を吸い込んでいた。


 咄嗟に防御しようとした次の瞬間、何かが後ろから過ぎ去っていきベルセルクを吹き飛ばした。何だと思っていると、過ぎ去っていったのは赤髪長身の剣士だった。後ろ姿だが着ているローブなどには見覚えがあり、持っている剣にも見覚えがある。


「【剣皇】レオンハルト・ブルースミス……」


 無意識の内にそう口にしていた。確かに今ベルセルクを吹き飛ばしたのは、レオンハルトだ。どこからやって来たのかを考えていると、彼の姿が一瞬ぶれた後に消える。直後、ベルセルクの全身から夥しいほどの血が吹き出た。その傷は全て、斬撃による切り傷だった。


 シルヴィアとユリスは目を大きく見開き、何が起きたのか分かっていない顔をした。しかし悠一は、レオンハルトの動きを捉えていた。彼は身体強化も無し・・・・・・・に、身体強化を全力で掛けて全力で走った時と同じ速度を出し、その速さを活かして一瞬でベルセルクを斬り付けたのだ。


 その動きには無駄が無く、最早芸術の域に達していた。それを見た悠一は、こんな化け物染みた人も【剣聖】候補なのかと、冷や汗を流した。圧倒的に格が違い過ぎるから。


「お前が【剣聖】候補の一人、ユウイチ・イガラシだな?」


 ベルセルクを倒したレオンハルトは長剣を一度払った後それを鞘に納め、ゆったりと悠一たちに近付いてからそう口にする。


「確かに、俺はユウイチ・イガラシです。【剣聖】候補って、勝手に呼ばれているだけですけど」


 僅かに感じる威圧感に少し冷や汗を掻きつつも、冷静を装いながらそう答える。


「……なるほど。レベルは俺よりもずっと低いが、魔力量が高い。それに……、冒険者になる前からずっと鍛錬を積んでいたな。さっきあれと戦っているのを少し見たが、戦い方だけで分かった」


「そう言うレオンハルトさんこそ、ずっと鍛錬をしてきていますね。あの一瞬でベルセルクを倒したけれど、傷がどれも綺麗だ。どれだけの鍛錬を積んできたのか、予想が付きません」


 事切れているベルセルクの体に刻まれている傷は、どれも一切荒くなく綺麗な物だ。あの一瞬で数十もの斬撃を浴びせたにもかかわらず、だ。『修羅の境地』に最近制御出来るようになった身体強化を多重掛け、そして【白雷】を使えば、同じことは出来る。しかし、レオンハルトは素の身体能力でやってのけた。


 この時点で、実力に大きな差が出ている。


「その若さでもうそこまで来ている。同じ【剣聖】候補のライバルだが、これだけは認めないとな。……お前は、近い内に俺を超えると思う」


 レオンハルトがそう言い、悠一は目を見開いて驚く。今の時点で、凄まじいほどの実力に差があるというのに、彼は近いうちに自分を超えると言った。それが信じられなかった。


「とはいえ、今言ったがお前はライバルだ。俺は諦めるつもりはない」


 そう言うとレオンハルトは踵を返し、地面を蹴って凄まじい速度で走り出す。三人はただ、少しの間だけ走り去っていく彼の背中を、見送ることしか出来なかった。

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