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87 お祭り

「何だろうな。今日はやけに街が騒がしいけど」


「本当ですね。あんな飾りも、無かったはずですし……。お祭りでもあるんでしょうか?」


「もしお祭りだとしたら、何かいいことでもあったんでしょうか?」


 ここのところ毎日クエストや探索に勤しんでいたので、今日は休みにしようと意見が統一したため、三人は街をぶらついていた。その時に思ったのが、いつも以上に街が賑やかであるということだ。


 海に面している街なので貿易が盛んで、人が多く集まる為普段からお祭りをしていると思うくらい賑やかだ。しかし今日は、海洋都市に来てから見たことの無いほどの賑やかさを見せている。街の至る所には色鮮やかで派手な飾り付けがされており、出ている露店の数も多い。


 一体何なのだろうと思い街行く人に聞いてみると、どうやらここから大分離れた場所にベルセルクの突然変異種であるラグナロクが出現し、街に駐在している国の兵士や騎士、魔法師団から派遣されてきた魔法使いとSランク以上の冒険者たちがその討伐に行き、一昨日全員無事帰って来たそうなのだ。


 なので今日から帰って来た彼らを労い称える為に、お祭りをやるんだそうだ。その話しを聞いている時に、話に出て来たラグナロクがどんなモンスターなのかが気になったが、SSランクの災害指定モンスターなので、気になったけれどまだ戦いたくはないなと思った。


 しかし世の中何が起こるか分からない。普通にクエストを受けている時に、遭遇してしまうかもしれない。そうなったら、嫌でも戦わなくてはいけなくなる。最近ようやくコツを掴んで使い慣れて来た【白雷はくらい】を使えば、もしかしたら行けるかもしれないがそれでも負ける可能性の方が低い。


「まだSランクになっていなくてよかったと思ったよ……」


「正直、ベルセルクだけでも大変ですからね。突然変異個体のラグナロクとは、まだ戦いたくないです」


「冒険者になりたての時に、その討伐隊に加わったことがある人に聞いたんですけど、トラウマ量産モンスターって言っていました」


「トラウマ量産って……、どんだけ強いんだよ……」


 図鑑によれば街が一個か二個、軽く滅ぼすだけの力があると書かれているが、どれだけの規模の街なのかが具体的に掛かれていない為よく分からない。実際に戦った人に聞くのが一番手っ取り早いのだが、絶対に思い出したくない話だと思うので、聞こうにも聞けない。そもそも誰が加わったか、特定しようがない。


 そんなことを考えながらも、三人は賑やかな街を歩き回る。いつも以上に客引きが盛んで、あちこちで声を掛けている。たまには朝食を宿屋以外で取ろうと考えていた三人は、野菜がたっぷりでワイバーンの肉を贅沢にローストしてそれを挟んだサンドイッチを露店で買い、食べ歩きする。


 最近は海鮮料理ばかりだが、その前はよくワイバーンの燻製肉を贅沢に使ったサンドイッチを食べていたことが、少し懐かしくなる。そろそろ肉を使い切らないと、味や質が落ちてしまうかもしれない。そうなる前に、次料理する時にハンバーグか意外と二人が気に入ったハンバーガーにすることにする。


 進んでいると、祭りらしく射的やくじ引き、輪投げ、金魚掬い(実際に金魚が黄金色)等々、懐かしく感じる物があった。最後に行ったのが中学生の九月九日にあった夏祭りだったので、もうほぼ一年間行っていない。


 高校生のその日に行こうかと思っていたが、予想外にも死んでしまったため行けなくなってしまい、少し寂しいと思っていたが、こっちにもちゃんと祭りがある為安心した。しかも前世では体験出来なかった、女の子と一緒ににだ。実は初めての体験に、嬉しくも恥ずかしく思っている。


 それはシルヴィアとユリスも同じだった。二人も済んでいる街や村で祭りはあったが、楽しむときは家族やそこに住んでいる幼馴染と一緒だった。今回はそのどちらでも無く、まだ一ヶ月と少ししか一緒に冒険していない、一歳年上の悠一だ。


 慣れ親しんでいる人だったらあまり意識はしないが、悠一は別だ。いつも助けて貰っていて、本人は無意識なのか素で結構嬉恥ずかしいことを言ったりする。そのせいで変に意識してしまい、こういった祭りの時に一緒にいるとドキドキしてしまう。


 そんな二人の心境に気付いていない悠一は、久々の祭りを思い切り楽しんで遊び倒すことにした。前世では小遣いをもらっていて、無駄遣いしないようにやりくりしていたがここではお金の心配をする必要はない。


 冒険者業を始めてからクエストをこなしまくったり、多くのモンスターを倒しまくっていたため、資金的には超余裕がある。この仕事は上手く軌道に乗れば、一気に財産を築き上げることが出来る。しかも一度の失敗をしたことが無い為、大量の違約金を払ってもいない。常に組合からは、信頼度が上がっている。


「お? 綿菓子まであるのか」


 サンドイッチを食べ終わり包んでいた紙をゴミ箱に捨てた後、今度は何を食べようかと探していると、祭りでは定番の綿菓子を売っている店があった。その露店には、多くの客が並んでいる。お菓子なので、女性が多い。


「綿菓子って、何ですか?」


「知らない? 溶かした砂糖を糸状にして、それを一本の棒に集めるんだ。ほら、あんな感じに」


 丁度出来上がった物を客に渡していたので、そちらを指さす。かなり大きいが、真っ白い雲のようなそれは、紛れもない綿菓子だ。意外とそれが好きだったりする。


「ふわふわですね」


「ちょっと気になります」


「じゃあ並んで買ってみる? 俺もどんな味なのか気になるし」


 久々に見たので、綿菓子を買うことにする。列に並んで順番を待っているが、如何せん女性が多く男である悠一にはとてもい辛い。それに左右にはシルヴィアとユリスがいて、待っている間暇なのであれこれ話し掛けてくる。


 なので仲がいいと見られ、周囲の男性からは物凄く鋭い目で見られる。そのことに苦笑しつつ、なるべく気にしないようにして二人との会話を楽しむ。ずっと話していると話題がすぐ尽きそうな物だが、次から次へと新しい話題を出してくるので、話が止まらない。しかもそのどれもが、中々面白い内容なのだ。


 会話を楽しんでいる間にも列が進んでいき、十分ほど並んでようやく三人の番が回って来た。どうやら注文されてから作るらしいので、少し時間が掛かってしまったみたいだ。


「いらっしゃい。注文は?」


 露店の四十代くらいの男性が、そう訊ねてくる。


「綿菓子を一個ください」


 一個にした理由は、単純に大きいからだ。一人で食べると時間が掛かってしまいそうなので、一個だけ買って分けながら食べることにしている。シルヴィアたちもそれを了承している。


「一個だね。500ベル貰うよ。少し待ってな」


 そう言ってから一本の少し長い串を取り出し、置かれている魔導具を起動させて中に砂糖を入れる。押してすぐに串を真ん中の空洞に突っ込み、くるくると回していく。作り方は前世と同じようだ。この世界にも同じのがあったのは驚きだが。


 一分と少ししてから綿菓子が出来上がり、それを差し出してくる。前の客が受け取ったやつよりも、少し大きい。


「少しだけサービスしておいたよ。ほれ」


「ありがとうございます」


 悠一は差し出された綿菓子を受け取り、三人と一緒にその場から離れていく。悠一の顔よりも大きいというのに全然重く感じないそれを、本当に懐かしく思う。歩いて食べることはせず、近くにあるベンチに腰を掛けて食べることにする。


 まずは悠一からではなく、シルヴィアとユリスに食べさせる。二人とも食べたことが無いらしいからだ。どう食べればいいか分かっていなかったが、とりあえず手で毟って食べていく。


「わ……、お口の中で無くなってしまいました」


「本当……。でも、甘くて美味しいです~」


 初めて食べるそれに、二人は表情を綻ばせていた。その表情もまたとても可愛く、どうしてもドキドキしてしまう。悠一も食べたくなり、一緒になって食べていく。口に入れた瞬間溶けていくそれを、久々に楽しんだ。


 綿菓子を食べた後近くにゴミ箱が無かったので魔法で分解して、また散策を始める。射的をしたり、輪投げをしたり、運試しにくじを引いたり、何故かあったロシアンルーレット菓子など、色々と面白い物があった。


 ロシアンルーレット菓子を試した時、まさか一発目で悠一自身が辺りを引くとは思っていなかったが。苦いか酸っぱい物かと思ったら、びっくりするくらい辛かったので驚いた。口直しに甘い飲み物が用意されていたため一応大丈夫だったが、数分経った今でもまだ口の中がひりひりしている。


「あー、辛かった……」


「だ、大丈夫ですか?」


「まあ、大丈夫だよ。ただ滅茶苦茶辛いだけだったし。……辛いのが苦手な人からすれば、地獄だけど」


 別に辛いのが苦手という訳ではない。チリビーンズとかタンドリーチキンなどといった、辛い食べ物は好きだ。ただ、度が過ぎるほど辛い物は無理だ。そこまで辛党ではない。かといって、甘党でもないが。


 次はどこに行こうかと歩いていると、大通りの方に凄まじい人だかりが出来ていることに気付く。何だろうと思い行ってみると、そこではパレードが行われていた。大きなオブジェクトが幾つもあり、それが大通りを進んでいる。


 周りには可憐な衣装を着た踊り子たちがおり、優雅に踊っている。楽しそうだなと思いながら動いているオブジェクトの上を見てみると、ラグナロク討伐に参加した兵士や騎士、魔法使い、冒険者といった人たちが乗っていた。


 そんな彼らは下にいる観客たちに、笑顔で手を振ったりしている。


「レオンハルト様ー! こっち向いてー!」


 何人いるんだろうかと数えていると、近くからそんな声が聞こえて来た。声がした方を見てみるとそこには多くの女性が集まっており、ある場所を向いている。女性たちが見ているところを見ると、そこには赤髪碧眼の長身な男性がいた。


 着ているローブは悠一と似ており、右腰には長剣が下げられている。そしてそんな男性からは、凄まじいほどの魔力を感じ取れた。その量は、ユリスよりも多い。女性たちがレオンハルトと呼んでいたので、彼がSSSランク冒険者、【剣皇】レオンハルト・ブルースミスなのだろう。


 こうして見てみると、なるほど確かに【剣聖】候補である理由が分かる。ユリス以上に多い魔力量に、がっしりと鍛え上げられた体。佇まいだけでも剣の腕が一流であることが分かる。どれだけ剣に優れているかは分からないが、悠一よりは強い。


「彼が……」


「SSSランク冒険者で、冒険者序列一位、【剣皇】レオンハルト・ブルースミス……。凄い魔力量です……」


 シルヴィアとユリスは悠一よりも感知能力に優れている為、冷や汗を少し浮かばせている。それだけの魔力があるのだろう。一回剣を交えてみたいなと思いながら見ていると、ふと、目が合った気がした。一瞬こちらを向いただけなので、どうなのかは分からない。


 オブジェクトはゆっくりと進んでいき、踊り子たちもそれに合わせて踊りながら進んでいく。


「何だったんだろうな、今の……」


 悠一は進んでいくオブジェクトを見たながら、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

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