86 新たなスキルの発動条件
森でシャルル・アスラーニュと炎龍と遭遇し、彼らを倒してから二日が過ぎた。悠一たちが森のどこに炎龍の死体があるかを組合に報告し、派遣された組合の職員たちがそれを確認し、今は既に事切れている炎龍だがランクに換算すればSランクであることが判明した。
まだ一個上のランクの炎龍がいるとはいえ、それでもSランクのは壊滅その物を誘う程の力がある。そんな化け物をたった三人で討伐してしまったので、組合では本部都市部の組合長全員を集めて緊急会議を行っていた。
普段は通信魔導具で済ませるのだが、今回はそういう訳にも行かないので全員本部に集まっている。遠いところにいる組合長は、空間操作の固有魔法使いが作った空間転移魔導具を使って、本部に来ている。
今全員がいる場所は、非常に広い会議室だ。必要以上の物は置かれていないが、長年使われている為どこか威厳を感じられる。そして全組合長の手元には、悠一たちについての報告書が置かれている。
「またしても、件の冒険者が功績を上げたことについては、皆も知っているな?」
「もちろんです。短期間でBランクまで上り詰めた、【剣聖】候補の一人であるユウイチ・イガラシでしょう?」
「そうだ。彼の仲間であるシルヴィア・アインバートもそうだが、短期間でここまでランクを上げるなんて前代未聞だ」
「現SSSランク【剣皇】のレオンハルト・ブルースミスでさえ、Bランクまで三ヶ月は掛かったというのに……。いくらなんでも早過ぎる」
今話していることは、当然だが悠一たちについてだ。短期間でBランクまで上り詰めたということもそうだが、そのランクでありながらもSランクの炎龍を倒した、その域を大きく逸脱した強さを持っている。登録して一ヶ月程度の新人だが、もう既に実力はSランク冒険者に匹敵するか、それ以上にまでなっている。
「それだけではない。登録して一週間後には新人狩りを下し、盗賊団を一つ壊滅させている」
「途中でAランク冒険者【聖女】ユリス・エーデルワイスと行動を共にし、共にダンジョンに潜ってそれを三人だけで攻略している。他にも、新種のモンスター三体も討伐している」
「エルフの里を侵略しに来た軍国相手にして、相手を壊滅させている。しかも、こちらには犠牲者が出ていない」
「その時に元Sランク冒険者【剣帝】ライアン・アルバシューズを、剣で下している。ランクこそ低かったが、それでも剣の腕は【剣皇】とほぼ同等だ。そんな奴を自身の魔法と仲間の援護があったとはいえ、剣で下すとは……」
「更に、もしかしたら彼は固有魔法を所持している可能性がある」
一人の組合長がそう言うと、全員が息を呑む。意外と固有魔法を持っていながらも、それを隠して冒険者をやっている人はいる。だが、あまりにも特殊過ぎる為すぐに目を着けられて、軍に所属する羽目になる。
「エルスの里のアーネストによると、彼自身には魔法は通じない。どれだけ強力な魔法を放っても、それが消える。死角から攻撃しても、それが見えているように動き何もないところから楯を作りそれで防ぐそうだ」
「それだけを聞けば【魔力霧散】で魔法を消し、鋼魔法で楯を作っているように聞こえるが……」
あの時悠一は、アーネストたちには自分の魔法については秘密にしておいてくれと話していた。なのでアーネストは組合の事情聴取の時、そう言われたことを覚えていたため秘密にしながら話していた。
しかし組合長は全員敏いようで、もしかしたら固有魔法を持っているかもしれないと考えている。それも、かつて確認されてきた物よりも遥かに強力で反則的な物だと。
「少し探りを入れてみた方がいいかもしれないな」
「ですが彼は既に冒険者です。我々からは、よほどのことが無い限り彼に冒険者を止めさせるように言うことは出来ません」
「それも事実だが、念のためだ。これだけの功績を上げている訳だし、彼のような者が埋もれてしまうのは勿体ない」
「そうですな。こちらから数名諜報員を送りましょう」
「頼む。それで、問題ないと判断したら……」
「えぇ。人間的にも問題ありませんからね。力に溺れていないと分かったら、そう致しましょう」
「全員、文句はないな?」
壮年の立派な髭を携えた、本部を取り仕切っている男性がそう言うと、その場にいる全員は頷く。こうして組合長たちにいる悠一たちに関する会議は終了し、別の問題について話し合い始める。
♢
「うーん……」
現在悠一は、自分のステータスウィンドウを開いて、ある項目を見て頭を捻っていた。というのも、スキル欄にまた新しいスキルが追加されていたからだ。また強くなって死ににくくなり、シルヴィアたちを危険に晒さずに済むので嬉しいには嬉しいのだが、扱い方などが記されていない為どうやれば発動するのかが分からない。
新しく手にしたスキルは【白雷】という物だ。炎龍と戦っている時に覚醒したようで、シルヴィアとユリス曰く体や刀に纏わり付いて、異常なまでに身体能力が上がっていたそうだ。一応白い雷については、認識していた。
だがそれはシルヴィアかユリスのどちらかが、直接悠一に属性付与した物だと思っていた。しかしそうではないというし、そもそも一部例外を除いて属性そのものを人間に付与することは不可能だ。それを聞いて、自分の力であることに気付いた。気付いたところで、どうやったら発動するのか、全く分からないのだが。
一応今日は休みにしているので、三人で街の図書館に来ている。そこでスキルに関しての本を色々とあさっているのだが、あるのはスキル一覧や誰がどのスキルを手にしたかを記した物だけである。なので今、ステータスウィンドウを開いて頭を捻っているのだ。
「どうかしたんですか?」
「ん? あぁ、ユリスか。いや、俺の新しいスキル、どうやったら発動するんだろうと思ってて……」
ウィンドウを見て唸っていると、後ろから声を掛けられる。振り返ると、白と赤を基調にした可愛らしいワンピースを着たユリスが、後ろから覗き込んでいた。ステータスウィンドウは個人情報なので見られないようにするのが普通だが、信頼における仲間なので二人には隠すつもりはない。
ちなみに、シルヴィアとユリスにもスキルが一個増えた。シルヴィアは魔法使いが大抵一番最初に手に入れる、実力に応じて詠唱を省く【詠唱破棄】。ユリスは放った魔法の魔力を、自分の魔力を使って増幅させる【魔力増幅】を覚えた。
ユリスは新しいスキルが一個増えただけなので、それなりに喜んだだけだが、初めてのスキルを手にしたシルヴィアは大喜びしていた。後になって恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして俯いてしまったが。今彼女は、三階にある歴史の本が並べられているところにいる。
「新しいスキル……。【白雷】、でしたっけ?」
「あぁ。今までは意識的な物だったり、イメージしやすい物だったから使えていたけど、これについてはよく分からないんだ」
一応白い雷をイメージしてみたが、大体予想していた通り何も出てこなかった。何かが足りないのではないかと思ったので、丁度休みの日だったためこうして図書館に来ているのだが、何も手掛かりを得ることは無かった。
「それは魔力を消費しながら発動するタイプのスキルだと思います。ボクの【ミラージュステップ】も、それと似たようなタイプですし」
「というと?」
「えっと、ちょっと別の話になりますけど、ユウイチさんは魔力遠隔操作のスキルを使う時、どうしています?」
「体から魔力を少し放出して、それを使って大気中の魔力を掻き集めているけど」
「【白雷】も同じような感覚で使いました?」
「そうだな。魔力を放出しながらイメージしたけど、ダメだった」
そう言うとユリスは納得した様子で、小さく「なるほど」と呟いた。何かに気付いたようだ。
「そもそもユウイチさんの魔法は、理を必要としないタイプでしたよね?」
「あぁ。イメージするだけで、使えるからな」
分解に関しては、かなり曖昧なイメージでも発動する。再構築は、化学式や化学反応式も一緒にイメージしているが。
「新しいスキルを使えないのは、感覚的な物だと思います。ボクやシルヴィアは理を覚えて、意味を理解して、それでようやくその魔法という現象を魔力を使って発動しているんです。ただユウイチさんは、理を覚えて意味を理解するという工程を省略しているので、ボクたちとは魔法を使う時の感覚が違うんだと思います」
「魔法を使う時の感覚?」
「はい。一般的な魔法使いは体内の魔力を杖に送り込んで、杖に内包されている魔力を上乗せして放つんです。簡単に言えば、ただ放出するのではなく同時に送り込んでいるんです。魔力を消費しながら発動するスキルも、魔法を使う感覚と同じなんです」
そこまで説明されて、やっと理解する。つまり普通の魔法使いと悠一とで魔法の発動工程が違うため、大体魔法と同じ感覚で発動する魔力を消費して使うスキルは、一部の工程を省いて魔法を使っている悠一にとっては、少し難しいということになる。
属性付与されている魔導具は、魔力を流し込みどの属性を使うかを決定して、解放する。これは魔法とは違うタイプなのだが、送り込むという点では同じだ。
「魔力を放出する訳じゃないというのは分かったけど、じゃあどうやったら発動するんだ?」
「人によって多少感覚に違いはあるんですけど、ボクは自分の魔力を体内で循環させてイメージしています。……初歩的な魔力操作と変わらないので、簡単ですよ?」
体内で魔力を循環させると言った時悠一が複雑そうな顔をしたので、安心させる為にそう言う。言っていることは、本当のことだ。
自身の魔力を体内で循環させるには、当然だが魔力の流れを意識しなければいけない。その点については、魔法を使っているので大丈夫だ。後はそれを循環させる方法だが、人によってイメージが違う。
自分を一つの輪として、その輪の中を魔力が通るようにイメージする人もいれば、身体強化の応用で体中に行き渡らせる人もいる。最初はそのイメージに慣れないが、使って行くうちにだんだん慣れて来てあまり意識しなくても使えるようにはなるらしい。
「魔法を使えるので魔力の流れはもう意識しなくても感じ取れるわけですし、後はそれをどう体内で循環させるかです。そして、循環させている時にイメージをすれば、そのスキルを使うことが出来ると思いますよ?」
「なるほどねぇ……」
話を聞くために一度閉じたステータスウィンドウをもう一度開き、スキル欄を注視する。クリックしても疑問に思っても、内容などは出てこないし扱い方なども出てこない。今みたいに困る時があるんだから、そういったところはちゃんとしてほしかったなと密かに思う。
とりあえずスキルの発動方法が分かったので、明日試してみることにする。発動出来たとしても、制御出来るかどうかが分からないからだ。そもそもこんな場所で使うつもりはない。
悠一は席から立ち上がり、机の上にある本を元の場所に戻しに行く。ただ、結構な量がそこに山積みになっている為、それを見て小さく苦笑いを浮かべた。一人だと時間が掛かってしまうため、ユリスにも手伝ってもらい、机と本棚を何往復かして全部戻し切った。
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