84 炎龍討伐
中々切り上げることが出来なくて、今回は非常に長くなってしまいました。
炎龍は覆っている氷の柱を破壊して、再びその姿を現す。普通であればあれを喰らえば細胞そのものも凍り付き、生命活動が停止してしまう。だというのに炎龍は、大きなダメージを受けた程度で済んでいる。
よく見ると、足元に転がっている氷が少しだけ溶けている。抜け出す時、体温を爆発的に上昇させて少しでも抜け出しやすくなるようにしてようだ。それでもよほど温度が高くなければ、あの氷は溶けないはずなのだが。
「何がともあれ、ダメージは与えることが出来た。後は一気に叩き込むだけだ」
そう小さく呟き、地面に座り込み苦しそうに肩で呼吸しているユリスを見て、心の中でよく頑張ったと褒めて、後でちゃんと言葉で褒めることにする。すぐに正面を向いて、身体強化を最大まで掛けてから同時に【縮地】を使い、顔面まで跳ぶ。
そこから攻撃を仕掛けるが、炎龍はそれでも必死に抵抗してくる。突進しながら斬り付けようとすれば噛み付こうとして、離れた場所からプラズマ弾を無数に放てば、それごと焼き払うように炎を吐き出してくる。背後に回れば尻尾が襲い掛かって来て、腹部を攻撃しようとすれば前足が振り下ろされる。
中々攻めきれないでいるので内心舌打ちをしながら、素早さを活かした高機動戦闘を繰り返す。すると背後に回り込んだところで、炎龍の動きが少しだけ鈍くなる。体を見ると、鋼の鎖が巻き付いていた。
悠一は魔法を使っていないし、シルヴィアには鋼属性に適性が無い。召喚した黒ローブの男がこんなことをするはずがないので、必然的にユリスがやったことになる。二人がいるところを見てみると、酷く苦しそうな顔をしているユリスが、杖を構えて魔力を放出している。
魔力回復薬を飲んである程度回復しているとはいえ、それでも辛いことには変わりはない。普通だったら戦わず、回復に専念するのだがユリスはそうしなかった。
理由は、まだ悠一とシルヴィアが戦えるのに、自分だけ魔力を大量消費しただけで戦いから離れる訳には行かないと思っているからである。まだ二人が戦っている以上、自分だけ休んでいる訳には行かないと強く思い、回復したと言ってもなけなし程度しかない魔力を振り絞って魔法を使ったのだ。
悠一はユリスの目を見ただけでどうして魔法を使ったのかが分かったが、そのすぐ後に再び膝を着いたのを見て炎龍の顔面に強烈な回し蹴りを叩き込んでから、納刀してから全力で走って二人のいる場所に移動する。
「もう魔力が無いんだ。無理をして戦わなくてもいいよ、ユリス」
「そういう……訳には……行きません……!」
杖を支えにして立ち上がるが、体が小刻みに震えている。力が入らないのだろう。すぐ後に膝を曲げてまた地面に倒れそうになり、悠一は慌てて支える。
それと同時に殺気を感じ、ユリスを左に、シルヴィアを右に抱えて強く地面を蹴ってその場から離れる。直後に炎が三人のいた場所を炙る。
「魔力が殆んどないにもかかわらず、それでも一緒に戦ってくれる志は嬉しいけど、流石にユリスはもう戦えない。俺とシルヴィアだけでは与えられないようなダメージを与えた。後は俺達でもなんとかなる。だから―――」
「それだけでは……、ボクだけが……戦わない理由……には……なりません……。二人が炎龍を……倒すまで頑張る……というのであれば……、ボクも……最後まで諦め……ません……!」
激しく肩で呼吸をして途切れ途切れでそう言うユリスは、しかし彼女の目には確固たる意志が込められているのを確かに見た。
あぁ、こういった目をしている人は、誰かがどうこう言っても止められないな。悠一は少し懐かしい思い出を思い出し、やれやれと溜め息を吐く。【天眼通】が背後から迫りくる炎を映し、地面を隆起させそれに炭素の豊富に含ませて、強く結合させて恐ろしく頑強な壁を作り出す。
ダイヤモンド並みには硬くなっただろうその壁は、それでも十秒程度しか炎を防げないだろう。だが、それだけで十分だ。
悠一は、ユリスの両手をそっと掴む。突然両手を掴まれたので、ユリスは息を乱しながらも顔を羞恥で赤く染める。
「ゆ、ユウイチさん……?」
「俺の魔力をユリスに渡す。そうすれば、回復薬を飲むよりも多く回復出来るだろ」
悠一の魔力はユリスよりも少ない。だが、完璧に魔力を回復させなくても、ある程度再び戦えるようになればいい。そう思った故の行動だ。
握ったユリスの手は、とても柔らかく温かかった。その感触と暖かさにドキドキしつつ、ユリスに魔力を譲渡していく。適当にいくつか買った魔導書に、無属性魔法や魔力操作方法など様々な物が載っている物があった。
無属性であれば魔法の適性がある人間であれば誰でも使える為、悠一でも使える。身体強化や遠距離視認魔法も、無属性魔法だ。そして、いま行っている魔力譲渡も、無属性魔法に部類されている。
他人に魔力を譲渡するというより、これだけ魔力を消費するということがあまりなかったので、意外としんどいなと心の中で言ちる。それに対しユリスは、他人から魔力を譲渡されるということがまず無かったので、送られてくる感覚が新鮮だった。
何より悠一の魔力は非常に澄んでいて、なんだか少し心地よく感じる。両手を握られているので、結構ドキドキしているが、ちなみにシルヴィアは、二人のその様子を羨ましそうに頬を膨らませてみていた。今この場所だけ、戦いから掛け離れた雰囲気をしている。
ユリスの魔力がある程度回復したのを確認すると、ほぼ同時に壁が崩れ炎が襲い掛かってくる。さっきから十秒間、ずっと炎を吐き出し続けていたようだ。
「【リフレクション】!」
しかし回復したユリスは、即座に固有魔法を発動して炎を跳ね返す。炎龍は再び自分の炎で焼かれ、二歩ほど後進する。
「ありがとうございます、ユウイチさん。おかげで、しばらくは戦えそうです」
「よし。それじゃあ、いつも通りの戦い方で行くぞ。サポートは任せたぞ!」
そう言い残し、【縮地】で突進していく。タイミングを合わせて前足が振り下ろされるが、左に跳んで躱し下から一気に跳躍して斬り掛かる。生物は上下の激しい動きには弱い。それを利用しての攻撃だったのだが、ギリギリのところで躱される。
一瞬だけ空中で停止した悠一に炎を吐き出そうとするが、その前に顔面で大爆発が起きる。シルヴィアとユリスが同時に【エクスプロード】を使ったようだ。
顔面で爆発が起きたが、それでも鱗の表面を軽く焦がすだけだった。それでも意識は、二人の方に一瞬だけ向いた。その隙に『修羅の境地』を使う。
瞬間的に極限まで集中して、脳内処理速度を上げる。世界が静止したかのように見え、何でも出来るという万能感が出てくる。足場を空中に作り出し、それを蹴りながら高速で炎龍に接近する。
恐ろしいまでの早さだというのに、それでもなお炎龍は追い付いてきた。攻撃を仕掛けようとしてくるが、悠一の方が僅かに速い。攻撃を先読みして躱し、炎龍の左目を斬り付ける。
刃が当たった瞬間だけ分解されるようになっている為、大した抵抗もなく視界の半分を奪うことが出来た。そこで世界が正常に動き始める。
「ガルァァアアアアアアアアアアアアアア!!」
視界を半分奪われると同時に感じた激しい痛みに、炎龍は堪らず声を上げる。顕での攻撃はまず通らないはずなので、召喚した黒ローブの男は驚愕の表情を浮かべる。
「炎龍に傷を負わせるとは……。【剣聖】候補の名は伊達ではないな……」
あり得ないくらい高い速さといい、使用する魔法といい何もかもがでたらめだ。炎龍の炎を防ぐ時だって、完全ではないが無効化されている。ユリスも炎を跳ね返している。
魔法使い殺しの固有魔法【マジックキャンセラー】と、【リフレクション】を有している二人。この二人が揃うだけで、あの炎龍とああやってまともに戦っていられる。こうなったらと黒ローブの男は思い、仕方がないと腹を括り口を開く。
「【我が命を贄として、汝の身に勝利を刻め】!」
男がそう叫ぶと同時、大気中の魔力が不自然に蠢く。プラズマ弾を撃ち込もうと、集めていた魔力が途中で掻き消える。不吉な予感がしたので、大きく後ろに跳躍して二人のいるところに戻る。
「一体何が起きているんだ?」
「分かりません。ですが、あそこにいる男性が『我が命を贄として、汝の身に勝利を刻め』と叫んだ時に、大気中の魔力が不安定になりました」
「一体どういう……っ! ユウイチさん! あれを!」
ユリスが黒ローブの男に視線を移すと、血相を変えて叫ぶ。そちらに顔を向けると、黒ローブの男の全身が燃えていた。しかも拘束するために分解・再構築した地面から抜け出して、腕だけでずりずりと這いずりながら前進している。
「ハ、ハハ……ハハハハハハハハハ!! 俺の命と引き換えに、炎龍の真の力を開放した……。これでお前らは、炎龍を止められない!」
そう叫んでいる男の下に、炎龍が歩み寄り前足で掴み取って持ち上げる。そして口を大きく開けて中に放り込み、噛み砕く。大量の血が噴き出し、頭部だけが下に落下する。
それを見たシルヴィアとユリスは顔を真っ青にして、手で口を押える。流石の悠一も、それを見て表情を歪めている。鋭い目で炎龍を見ると、奪われた左目はそのままだがユリスが折角与えた傷の殆んどが回復してしまっていた。
赤い鱗で覆われていた体も、酸素の少なくなった血のように赤黒い色をしていた。体からは異質な魔力が溢れ出ており、威圧感が凄まじい。ただでさえおかしいくらい強いというのに、更に強くなってしまった。
「ど、どうしましょう……」
「どうするも何も、やることは変わらない。というか、変えられない。あれを倒さないと、街どころか国そのものに大きな被害が出るかもしれない。そうなる前に、ここで倒して行くしかない」
消費した魔力を回復するために魔力回復薬を取り出して、一気に呷る。新薬ではないので魔力生成速度を無理矢理上昇させて、一気に魔力を回復させる物だ。今のところ、今飲んだ最近よく使っていた回復薬より少し値が張る、この回復薬の方が効果が高い。
ちゃんと回復効果のある薬草やらを調合して、それで魔力回復薬を作れよと何回か思っているが。そうではない物が流通している理由は、魔力回復効果のある薬草などは非常に希少で、中々出回っていない。というのも、限られた一部の地域にしか生息していない上に、野生動物がそれを食べてしまう。
なので元々少ないのが更に減ってしまうため、人間の回復速度を上昇させる薬を開発してそれをポーションや魔力回復薬に使うしかない。
回復薬を飲みほした悠一は瓶を分解し、納めておいた刀を鞘から抜き下段に構える。魔力を流し込み、炎属性を開放。刀身から炎が一瞬だけ吹き荒れるが、すぐに自分の魔力でそれを操作して刀身全体に凝縮する。
分解を掛けた状態での斬撃は非常に警戒される。なら、こっちはどうだと思い、【縮地】で懐まで踏み込んで右から刀を薙ごうとする。刹那、全身粟立つほどの悪寒を感じ、【縮地】で後ろに下がる。
その数瞬後、前足が上から振り下ろされ地面に衝突し、爆発と間違えそうな程の轟音を響かせ、地面を陥没させる。
「マジかよ……。速さも力もさっきとは全然違うじゃないか……」
もし下がらずそのままでいたらどうなっていたかを想像し、背筋を凍らせる。
「本当にあれを倒せるんでしょうか……?」
「あんなにも力と速さが上昇するなんて……。あれが、炎龍の真の力……」
「厄介な置き土産を残していったな、あの魔法使いは……」
こちらを鋭い目でぎろりと睨み付け、口の端から炎を吐き出す。その姿は、もう破壊者そのものだ。
「せめてもう一度戦略級魔法を使えれば……」
「多分使えたところで、あいつには効かないと思う。まず戦略級魔法が当たる前に回避する。確実に当てて倒すとしたら、光戦略級魔法とかしかないと思う」
戦略級魔法は確かに強力無比な魔法だ。使用後の代償は凄まじいが、それに見合うだけの威力がある。しかし、そんな魔法を以ってしても、恐らくというか確実に今の炎龍は躱すだろう。それ程までに速度が上がっているし、仮に当たったとしてもより強固になっている為ダメージが入る見込みは薄い。
唯一可能性があるのは、光戦略級魔法だ。全ての魔法の中で一番の火力を誇り、一番の速さを誇る。躱すことは不可能に近い。倒すまでに至らなくても、大ダメージは見込める。
それほどまでに強力なのだが、ユリスはまだ覚えていない。光属性魔法は非常に希少なので、他の物と比べると管理が厳しい。それ故に、戦略級魔法の魔導書を読むために審査なども厳しくなる。実はもう、ユリスは組合から信頼されて問題ないとされているので、後は面接を受けるだけでいいのだが、本人はまだそれを知らない。
「本当に今更ですけど、光戦略級魔法を覚えておけばよかったと思いましたよ……」
「無い物ねだりしても仕方がない。今の俺たちの力だけで何とかするしかない……な!」
悠一は言い終わると同時に地面を蹴り、炎龍に突進する。【天眼通】が炎龍の次の動きを映し、喰らわないところに移動して躱し、刀を振るう。当たる前に反応されて躱されるが、シルヴィアとユリスの魔法が炸裂する。
一度そちらをぎろりと睨むが、悠一が後頭部まで跳躍して刀を振り下ろしたところで意識が元に戻り、反撃を受けそうになる。ギリギリ反撃を躱し、お返しだと言わんばかりに凝縮した炎を切っ先に集中させて、放出する。
凄まじい熱量を持った熱線が放たれるが、炎龍の口から放たれた炎で相殺される。そのまま飲み込まれそうになったが足場を作ってそれを蹴って躱し、すれ違いざまに一閃する。
妙に体が軽いなと思っていると、なるほどと理解する。ユリスが上級強化魔法【ディバインブレス】を掛けてくれたのだ。【ディバインブレス】は全ステータスを一定時間だけ十倍ほど上げるという、反則魔法だ。
なのでその分使用者には制限が掛かるが、掛けられている側からすれば非常にありがたい支援魔法だ。心の中で感謝しつつ、腕と脚だけに身体強化を集中させて高機動戦闘へと持ち込む。
足場を作ってそれを蹴り、すれ違いざまに斬り付け、反撃をスキルを使って見切ってギリギリで躱して魔法を撃ち込み、吐いてきた炎を【縮地】で躱し懐に潜り込んで斬り付ける。そんな戦いを目まぐるしく繰り返していく。
次第に悠一が見切りの間合いをどんどん狭めていき、一歩間違えれば即死するほどまでになる。シルヴィアとユリスはハラハラしながらそれを見ているが、特に問題なくやっているのを見てすぐに援護を再開する。
シルヴィアとユリスが得意属性の上級魔法を撃ち込み、一瞬だけ意識を自分たちの方に向ける。その間に悠一が死角から鋭く重い攻撃を撃ち込み、また危険な戦い方をする。最初は何とかなっていたが、魔法を使い続けていた二人は、少々辛そうな顔をし始めて来た。
魔法を連続使用しているので、魔力の消費量が半端ではない。それでもなお、少々心許ない魔力を振り絞って、援護するために魔法を放つ。
そんな中、悠一は速度が衰えていくどころか少しずつ加速していっている。極限まで集中しているので無意識に『修羅の境地』が発動しているというのもあるが、それ以上に二人を守りたいと思っているからだ。今ここで、自分がやられれば自分の背中を守ってくれている二人が死んでしまう。
自分には帰る家は無いが、二人にはある。帰りを待ってくれている人がいる。ならば、自分の帰る場所にいつか帰れるために、帰りを待っている家族の元にいつか帰れるために、今ここで全力を出さないで何になる!
そう強く思いながらどんどん加速していく。一撃一撃の重さも増していき、残りの魔力を全て使い切ると言わんばかりに、無理矢理力業で身体強化に身体強化を上乗せしていく。限界を超えた強化に、体が少しずつ悲鳴を上げていく。
一番集中させている腕や脚から始まり、次第に体の節々が痛み始める。しかしそれでも尚、悠一は止まらない。止まってはいけない。やがて、悠一に変化が現れる。
持っている刀や体のあちこちから、よく目を凝らさなければ分からない程の物だ。それは、白い電気のような物だった。最初は小さかったそれは、徐々に大きくなっていく。そしてそれが大きくなっていくにつれて、悠一の動きが速くなっていく。
炎龍も速くなっていく悠一の動きについていけなくなり、一方的に攻撃を受けるだけになり始める。それでも必死に抵抗して、口から火を吐いたり尻尾や前足を振り回したりするが、それら全ては容易く躱されてしまう。
(あの二人を守るために、今のままでは足りない……! もっとだ……、もっと速く……、もっと強く……!)
白い電気は悠一の思いに呼応して、大きくなっていく。最初は静電気程度しかなかったものが、今でははっきりと目に見えるほどにまで大きくなっている。シルヴィアはその白い電気を見て、以前潜ったダンジョンでの出来事を思い出す。
ダンジョンのガーディアンモンスターを、本当に自分たちだけで倒せるのかと恐怖した時。もうすぐ殺されるかもしれないという時に、悠一が不思議な力を開放した。結局すぐにそれは消えてしまったが、それでもガーディアンモンスターを圧倒した。
今はそれによく似ている気がする。本当に勝てるのかと、疑問に思ってしまうほど強力な力を持った敵。自分たちよりも圧倒的に格上で、本気で攻撃しても倒せそうにない。だというのに悠一は果敢に攻め込み、最終的には勝利をもぎ取った。
「おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
どんどん白い電気が大きくなり、それは既に雷というほどまでになっていた。体から白い雷は放たれており、しかしそれは無駄なく体と刀に纏わり付いている。身体強化に身体強化を無理矢理上乗せして、雷を自身に纏わせての同時の身体強化。その状態から生み出される速さと力は、凄まじい。
炎龍の硬い鱗を断ち、肉を斬り裂き、深く突き刺さり、ダメージが蓄積されて行く。恐ろしいほどまでに加速した悠一は、もう既に炎龍には捉えられなくなっていた。それでもまだ加速する。
悠一の体が悲鳴を上げる。骨が軋み、体中が痛い。それでも止まらず、加速し続ける。凄まじい勢いで、炎龍の体に傷が刻まれて行く。一方的にやられるつもりはないのか、体全体から炎を吹き出す。
流石の悠一も突っ込むのは危険だと判断し、一度後退する。全身が酷く痛むが、まだ動かせる。そう確認したら再び白い雷が体から放出される。効率よく刀と体に纏わせて、高速で突進する。炎龍は対処するべく炎を吐き出すが、真ん中からそれは両断された。
分解するでもなく、雷を斬撃として飛ばしたのだ。その一撃は非常に強力で、炎龍の炎を真ん中から両断して大きな切り傷を刻んだ。勝てないと判断したのか、背中の翼を大きく広げて飛び立つ。
「逃がすかよ!」
だが飛び立ったその時、片方の翼が根元から斬り落とされて地面に落下する。空中にいる悠一は残り少ない魔力で足場を一個作り、それを蹴って墜落するように落下していく。そして刀を背中に突き立てる。
炎龍が痛みで暴れ出すが振り落とされずに堪える。すると光が雨の様に降り注ぎ、残ったもう片方の翼を穿つ。体は無理でも翼は薄い為、攻撃が通りやすい。今のシルヴィアたちでも、飛ぶことを妨害することは出来る。
「ナイスだ、ユリス! そして……、これで終わりだ!」
体に纏っている雷全てを一気に刀に流し込み、そこから炎龍の体内に放つ。放たれた白い雷は内部から炎龍を破壊していく。
「ガルァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
大気をビリビリと震わせるほどの悲鳴を上げるが、それはほんの少しの間だけ。すぐに悲鳴が消え、上げていた首や振り回されていた尻尾が、音と立てて地面に倒れる。それと同時に悠一の体に掛けられていたユリスの【ディバインブレス】と相乗された身体強化、そして白い雷が消失する。
それらが同時に消失すると、悠一は刀を炎龍から抜きふらふらと覚束ない足取りで地面に降りる。激しい痛みで振るえる体に鞭を打って刀を構えて警戒するが、動く気配がない。倒したのだと理解するとほっと安堵の溜め息を吐く。
と同時に極限まで集中していたことと激しく動き回ったことによる疲れと、一気に魔力を消費してしまったので力が完全に抜けてしまい、悠一は地面に倒れ込んでしまう。
「ユウイチさん!」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえたが、もう思考が回らなくどこか遠くに聞こえる。しかしそれがシルヴィアたちの声であると分かると、守れたのだなと満足して、意識の尻尾を手放してしまう。
明日辺りに、タイトルを「白銀の剣聖」に改名しようかと思います。




