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79 報告

「新種の可能性、ですか……」


「はい。二本の首を持つアクアドラグーンは見たことも聞いたこともありません。それと、派生種にしては、原種と比べて魔力の質が違い過ぎます」


 双頭のアクアドラグーンっぽいモンスターを倒した後、三人は運よく集団でいるアクアドラグーンを見つけたので、それを速攻で狩り討伐部位を剥ぎ取って合図を送って迎えに来てもらい、街に戻った。それですぐに組合に行って達成報告をした後、クエストの途中で出会った双頭のモンスターのことも話した。


 顔の見た目は殆んどアクアドラグーンと一緒だが細かいところは違っており、話によれば派生種でも原種と似た性質の魔力を持っているはずなのだが、このモンスターにはそれが無いとのことだ。性質も波長も何もかも違うため、もしかしたら新種の可能性が高い。


「他の街の組合から報告を受けているので、あなた方が倒した新種のモンスターについては知っています。それよりもこの短い期間の間に三種類もの新種モンスターが見つかるのは異常です」


 普通であれば数十年から百十数年、長くて数百年の間隔で新種のモンスターが生まれる。生息している場所の気候などが変化して、それに適応するために進化したり強い魔力の影響を受けやすいところに生息し続けていた結果、体の構造が変化してモンスターになったりなど理由は様々だ。


 後者の方は魔力の影響を受けるので比較的早くモンスターになりやすくなるが、それでも魔力の恩恵を受けるのが殆んどなので変異はしない。起きるとしたら、大体数十年に一回だ。前者になると、もっと長くなる。


 本来であればそれくらいのペースのはずなのに、もう二種類、悠一たちが倒した双頭のモンスターが新種だったら三体目になる。これは間違いなく異常だ。少なくとも、ダンジョン以外では魔力の影響は殆んどないし、フォートレスドラゴンのいた森もそこまで魔力濃度は濃くないので変化する要因にはならない。


 なのにあそこにあのモンスターがいた。間違いなく何かがある。


「それにしても、登録して一ヶ月と少ししか経っていないのにBランクまで上り詰めて、しかももうAランククエストをこなしている。それでいて新種のモンスター三体を既に討伐して、軍国にいた【剣帝】のライアン・アルバシューズを剣で倒して、二代目【剣聖】に近い冒険者の一人とされている。どこまで凄いんでしょうか……」


 受付の人は三人を見ながら、苦笑を浮かべながらそう言う。一般的な冒険者は一ヶ月でBランクまでは上がらない。当然だが、ランクが上がればその分命を落とす危険性が増すからだ。


 まだ駆け出し程度なら、少し無茶をすれば一個上のランクの物を受けてこなすことは出来る。しかし中堅から上級ともなると、一個上のランクんものは受けたりはせず、自分と同じランクの物を受け続けて安全マージンを確保する。


 同じランクの物を受け続けるので組合からの信頼度は、それ相応に上がって行くだけだ。しかし悠一とシルヴィアは、初期の段階から既に一個上のランクのクエストを受けていた。それはユリスも同じことだが、ユリスは基本一人で行動していたので、そこまで多く一個上のランクの物は受けていなかった。


 悠一たちと行動するようになってから一個上のランクの物を受ける回数が増え、組合ではユリスをAランクからSランク冒険者に上げるべきかどうかを話し合っている。


「ここ最近レオンハルト君の意気込み具合が半端ないんですよねぇ……。『二代目の【剣聖】になるのは俺だ!』って言って、SSSランククエストをとにかくこなし続けているんですよ……。全て完璧以上にこなしてくるので大丈夫なんですけど、やっぱり彼のことをよく知っている私からすれば心配ですよ……」


「お知り合いなんですか?」


「えぇ。レオンハルト君は、駆け出しの時から知っていますよ。私も一応元冒険者だったので、戦い方やモンスターから素材や討伐部位を剥ぎ取る方法を教えたんです。あの時はまだ可愛げがある人だったんですけど、今では国の最終戦力となるSSSランク冒険者、【剣皇】レオンハルトと呼ばれていますよ」

 

 受付嬢は昔のことを思い浮かべながら、懐かしそうに語った。それよりも目の前にいる人が元冒険者だったとは、全く気付かなかった。見るからにデスクワーク専門で、体は人並み程度にしか動かせないと思っていた。


 それくらいまでに体付きが細く、強そうに見えなかったのだ。しかしここは異世界。見た目は弱そうに見えても、実は物凄く強いということはよくある話だ。実際後になって知ることだが、今悠一たちの目の前にいる受付嬢は、元SSランク冒険者で冒険者序列第十二位に序列入りしていた。


 唯一適性のある鋼魔法で大量に武器を作り出し、恐れず果敢に敵に突進していき次々とモンスターを狩っていたことから、【進撃】の二つ名が与えられていた。なので戦闘経験は非常に豊富で、今は新人の戦闘指南などをしている。


 そんな受付嬢は初めて悠一を見た時、大雑把にだが実力を測っていた。よく観察していると、なるほど確かに一ヶ月でBランクまで上がった理由だ分かった。レオンハルトもそうだが、悠一は体を結構鍛え上げているのだ。


 鍛え上げられたその体は近接戦に非常に向いており、身体強化を掛けなくても強い力を発揮する。しかもその力はレベルが上がっていくごとに、ドーピングをしたかのように上昇していく。更に身体強化を掛ければ、より強い力を発揮する。


 今の普通の剣士はあまり体を鍛えようとせず、身体強化だけで何とかしようとしている節がある。なので中々いい結果を残すことが出来ていない。しかし冒険者業を始める前にしっかりと体を鍛えていた人たちは、大体いい結果を残している。最たる例が、【剣皇】のレオンハルトと悠一だ。


「ユウイチ・イガラシさん、でしたよね? あなたもレオンハルト君のように、高名な冒険者になると思います。見るからに剣に優れていて、隣にいる【聖女】ユリス程ではありませんけど保有魔力量が高い」


「あまり二つ名は付けで呼ばないでください……」


「剣士でありながらも魔法を使う魔法剣士はあまりよく思われていませんが、ユウイチさんであれば問題ないと思います。これからもその力を使って、活躍していってください」


 実際魔法剣士の数は少なく、純粋な魔法使いに嫌われている。純粋な魔法使いは長い年月を掛けて魔法を極め、剣士もまた長い年月を掛けて剣を極める。その両方である魔法剣士は、どちらも中途半端になってしまう。


 しかしそれでも両方使えることには変わりないので、剣士はすぐに魔法使いを見下したり偉そうな態度を取ったりする。すぐ調子に乗ったりするため、魔法剣士はいいイメージを持たれていない。今は現最強クラスと言われているレオンハルトも、魔法と剣を両方使うため最初は良く思われていなかった。


 しかし両方とも血反吐を吐く思いで鍛錬し続けた結果、自分に適性のある五属性全ての戦略級魔法を覚え、かつ剣でも最強クラスへと昇って行った。両方とも中途半端にならず使えている為、今は純粋な魔法使いからも支持が高い。未だによく思っていない人もいるが。


 今の悠一も同じで、刀で戦っている合間合間に魔法を使って行くスタイルなので、お世辞にもそれで極められるとは思えない。だが悠一は、別に極めなくてもいいと思っている。そもそも魔法式や理を覚える必要が無いので、極めるも何もない。


 ただイメージして魔法や対象を分解したり、化学式や化学反応式と一緒にイメージすることで、様々な化学現象や物理現象を引き起こしている。まだ上手くコントロール出来ていないが、そこは今シルヴィアとユリスからコツなどを教えて貰っている。


 ちなみにこの街に来た時に勝った魔導書のことだが、魔法式や理は覚えることは出来たが、やはり再構築魔法で魔法陣を作り出してそこから覚えた理の魔法を使おうとしても、全然無理だった。やはり属性に適性が無いと属性魔法は使えないようだ。


 もしこれが上手く行っていれば魔法攻撃のレパートリーが増え、戦いをより優位に持っていくことが出来るかもしれないと、少し淡い期待を抱いていた。やはりそう簡単には行かない。それ以前に、今の時点でも大分反則的なのに、そこに属性魔法が加わったら更に反則になってしまう。それが出来ないと分かった時は、少し落ち込んだがやっぱりそう都合よく行かないなとも思った。


 一先ず報告を終えた三人は、ヴェラトージュの組合の中を少しふらつくことにした。今まで行った組合の中で一番規模が大きい為、少しでも構造を知っていた方が迷わずに済むと思ったのだ。まず三人は一階に降りる。


 そこには駆け出し冒険者がたくさん集まっていて、どのクエストに行こうかを話し合っていた。受付の所から目を離すと、他の組合と例に漏れず酒場があった。酒場自体は全ての階層にあり、昼夜問わず多くの冒険者が集まっている。ただし、一階は駆け出ししかいないので変に絡んでくる輩はいない。


「あ、向こうにお店がいっぱい並んでいますよ」


「本当です! ユウイチさん、行きましょう!」


 二階に上がってみると、そこは中堅冒険者が集まっていた。一階よりも活気に溢れているが、代わりに色々と面倒な輩もいる。中堅になればそれなりの実力が付くので、それで調子に乗ったりしてしまうことが多い。調子に乗っているせいで中々ランクが上がれないということも、少なくない。


 周囲からの視線を感じて歩いていると、酒場の奥の方に店が並んでいた。そこは雑貨屋から始めて武具屋、鍛冶屋、飲食店、服屋、女性下着店、etc。などの店があった。下着店は絶対入りたくないが、そのほかの店には何が並んでいるのかは気になったので、行ってみることにした。この後、女子の買い物となってしまい、楽しいには楽しかったがそれでも後悔の方が大きかった。


 しかも途中女性下着店に連れ込まれそうになってしまったが、流石に入りたくないので全力で二人を説得して、何とか回避した。今度は服屋に入って、そこで二人がお互いに似合いそうな私服を選んでは籠の中に放り込み、試着室に行ってそこで着替えて悠一に意見を求めるなどした。


 正直全部「本当に可愛い」以外思い付かないほどよく似合っていたが、同じ褒め方だといけないので頑張ってそれぞれ違う意見を述べた。その後は悠一が二人の選んだ服を着せられ、普段から世話になっているからと理由で二人がその服を買った。その分のお金を二人に渡そうとしたが、それを頑なに拒まれた。


 三階はアクセサリーショップや魔導具店、書店などがあった。アクセサリーショップには寄らなかったが魔導具店には足を運び、そこで売られている魔導具を少し見た。値段はお手頃な物で、効果も中々いい物だった。


 水を吸い込んでそれを圧縮して、弾として飛ばすという物だったが連射性が無くあまり実戦向きではなさそうだったので、買うことは無かった。書店は娯楽用の本や戯曲のような小説、この世界の神話の小説や昔話の小説などが並んでいた。


 体を動かすのは好きだが、それと同じくらい読書が好きな悠一は気になった本を全てとはいかなかったが、それでも大量に買い込んだ。特にこの世界の神話などが気になっていた。


 それらを買い込んだ後、もう昼を過ぎているので街で中速を取ることにした。街の人にどこの飲食店がいいかを訊き、一番進められた店で昼食を取った。やはりいい雰囲気を醸し出している店で、そこには貴族や大富豪などがいた。


 悠一たちは少し嫌そうな顔をされたが、そのことは全く気にすることなく昼食を食べた。そして昼食を食べ終わった後、三人はクエストは受けず残りの時間は街を回って行くことにした。特に何かをするわけでもなく、まあまあ有意義な時間を過ごした。

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