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7 新人狩り

 黒ずくめの男に声を掛けられ、逃げるようにクエストを受注してから二人は、数が少なくなってきた回復アイテムと念のためにといくつかの食料を買いに店を巡っていた。防具も新調しようかと考えたりしたが、今着ている騎士が着ていそうなローブは結構有能なので、まだ必要ないと判断して止めておいた。


 代わりに何かがあった時の為に、一度だけだが強力な防御結界を張るという効果のある、赤い宝石付きのブレスレットを二つ購入した。もちろん自分の分と、シルヴィアの分だ。


 シルヴィアは顔を少し赤くして自分で買うからいいと言っていたが、ランクアップした記念だと言って少し強引だが納得させた。


「ところでユウイチさん」


「何かな、シルヴィア?」


「……尾行けられていませんか?」


「されているねぇ。気付いていないとでも思っているのかな?」


 組合を出てから、二人はさっきからずっとアルバートに尾行されている。相手は気付かれていないと思っているのだろうけれど、値踏みするような視線をひしひしと感じるのでバレバレだ。特にシルヴィアは、嘗め回すような視線を感じている。


 どういった理由で尾行しているのかは分からないが、どうせロクでもないことを考えているのは確実だ。準備が整ったところで、少しでも距離を離そうと歩く速度を上げて、街の外に出る。


 しかしそれでもアルバートは尾行していた。どこまで来るのだろうかと思いながらも遭遇したモンスターを、出来る限り最低限の動きだけで倒し、討伐部位を回収する。


 シルヴィアは氷属性と炎属性の魔法のみを使用し、悠一は微粒子から鋼の槍を作り出したり、地面の一部を分解して別の物に再構築するという能力は使わず、剣術と構築してあたかも氷魔法を使用したかのように見せていた。


 ちなみにだが、シルヴィアにはまだ、魔法のことについては教えていない。もうそろそろ言った方がいいだろうとは考えてはいるが、今はそれどころではない。


 遭遇するモンスターを片っ端から瞬殺していき、二人はブルーオーガの生息しているという洞窟に到着した。ブルーオーガも集団で行動する習性があり、知能もそこそこ高い為高度な連携を取ってくるので意外と厄介なモンスターだ。


 ただしそれは密集陣形であることが高く、そこに爆発系の魔法を放てば結構簡単に片付くことがある。なまじ知能が高い分、むやみに突っ込んでくるなんてことはしないが。


「さてさてさーて、ちゃちゃっと倒すとしますか」


 洞窟内に入り込んですぐ、悠一は気を引き締めて周囲を警戒する。シルヴィアは視界を確保するために、小さな火の玉を生成して周囲を僅かに明るく照らす。光魔法があればもっと明るく出来るのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。


 警戒して進んでいると、イタチのような形をしたモンスターと遭遇する。毛は茶色く目がぱっちりと大きいのだが、決定的にイタチと違うのは目が三つあることと、三メートルほどはある巨体であることだ。口も大きく、悠一たち程度なら丸飲み込み出来るだろう。


 そんなモンスターと遭遇してすぐにばっちり目と目が合ってしまったが、シルヴィアの氷魔法によって動きを封じられて、その間に距離を詰めた悠一の刀の一閃により頭のど真ん中から斬られてあっさりと絶命する。


 どんなモンスターなのか知らないので、下手に戦い方を観察して戦うより一気に仕留めてしまった方が楽だ。特に今は。


「一体どこまで付いてくるつもりなんだろう。どうでもいいけど」


 刀身に付着した血を振るって落としながら、そう呟く。そう、はっきり言ってどうでもいいのだ。


 もしアルバートが襲ってくるようなのであれば、出し惜しみせず全力で返り討ちにしてしまえばいい。逆恨みでまた襲ってきたとしても、同じようにすればいいだけのことだ。


 確かにアルバートからは歴戦の剣士のような雰囲気を感じたが、反則染みた悠一の魔法を以ってすればそんなのは関係ない。ちゃんとした古流剣術道場で、剣術を習っていた身としてその考えはどうかと思うが、もし向こうがそうして来たのであれば容赦はしない。こちらも少々汚い手で、叩きのめすだけだ。


 ずんずん洞窟の奥に進んでいる間、何度かモンスターと遭遇するが、剣術とシルヴィアの魔法で尽く散って行く。出会った当初はそこそこ威力の高い初級魔法しか使えなかったシルヴィアでも、今では中級魔法程度ならいくつか使えるようになっている。


 その威力は高く、中には多数対一の時に有効な魔法もある。その魔法はシルヴィアが最も得意としている氷魔法だが、もし今の悠一がそれを喰らったりでもしたら一溜りもない。なので今のところ、それを使う際はあらかじめ宣言しておくようにしてある。


 といってもその魔法の名前を口にするのではなく、ただ「使います」だけで大丈夫である。でないともし対人戦になった時、どんな魔法がどんなタイミングでやってくるのかがバレてしまう。それを防ぐために、そうしているのだ。


 何度も遭遇するモンスターを最小限の動きだけで狩りながら進んでいると、岩の陰から握り拳サイズの石飛んできた。咄嗟に刀で切り払うと、続けていくつもの石が飛んできた。全部刀で対処するには厳しいので、氷の障壁を構築してやり過ごす。


 それが収まったのを確認すると、悠一は氷の障壁を解除して刀を両手でしっかりと握って構える。すると体が青く頭から黒く禍々しい角を生やした、人によく似た姿をしているモンスターが姿をぞろぞろと現した。これこそが、クエストの討伐対象であるうブルーオーガである。


「おいおいおい……、これ何体いるんだよ……」


 集団で行動するので、姿を現し始めた時はラッキー程度にしか思っていなかったが、どう考えても五十以上はいる。指定数は二十体だけなのだが、ここにいる全部のブルーオーガを倒せば達成報酬と臨時収入が手に入る。


 それは嬉しいことなのだが、懸念しているのは後ろから尾行している男である。戦って疲弊しているところを襲ってくる可能性だって、無い訳ではない。噂程度にしか聞いていないが、冒険者の中には新人狩りといった行為をしている者もおり、殺した新人から武具とアイテムをかっさらうという、卑劣なことをしている。


 もしかしたらあの男も、そういう人物なのかもしれない。なのでここで全力を出す訳にはいかないが、これだけの数を相手にするとなると多少本気を出さなければいけなくなる。一瞬だけ逡巡したが、抜刀して両手でしっかりと構える。


 ブルーオーガたちはそれぞれの武器を掲げて雄叫びを上げ、一直線に走って突撃してくる。一見無謀な突撃にも見えるが、その後ろには矢を構えている個体もおり、ちゃんと連携を取っている。


 だが悠一はそんなのお構いないし、地面を蹴って走り出す。ブルーオーガは武器を振り下ろして攻撃を仕掛けるが、刀で受け流されてカウンターで首を斬り落とされる。そこに矢が飛んできたが、冷静にバックステップで回避して、時には叩き落す。


 矢が降り注ぐのが止むと、今度はシルヴィアが氷初級魔法を発動させて、氷の刃を無数に作り出して一斉に放つ。氷の刃はブルーオーガの体に突き刺さるが、どれも浅く致命傷には程遠い。


 雄叫びを上げて突進しようとしてくるが、素早さを活かして既に間合いに入り込んでいた悠一に胴体を分断され、上から一刀両断され、柄から話した左手で氷の槍を構築して心臓を穿ち一度それを分解して氷の刃に再構築し、一斉に放つ。


 その威力はシルヴィアの放った物よりも高く、何体か屠る。仲間を殺されて激情したブルーオーガたちは声を上げて襲い掛かろうとするが、どうも動きが鈍い。シルヴィアがつい最近使えるようになった、行動阻害系の魔法だ。


 水属性魔法で、対象の体の表面に水を纏わせて動きを阻害するという物だ。まだそんなに使いこなせている訳でもないが、水故に工夫の使用がある。


 動きがやや鈍くなっているブルーオーガに雷魔法を放つと、水を介して感電死させる。水が電気を通しやすいという特性を利用した攻撃だ。


「はあっ!」


 跳躍して壁に足を着け、そこから正面に向かって全力で壁を蹴り、その勢いを乗った一撃でブルーオーガ数体をまとめて両断する。そこ直後氷を構築して無数の槍を地面から突き出させる。


 それでもそれを躱した個体がいるが、地面から突き出た槍を足場にしてワイヤーアクションの様に立体起動し、すれ違いざまに斬って行く。そしてシルヴィアのいる場所まで戻ると、彼女が水平に構えている杖から大きな魔法陣が現れ、そこから無数の氷の槍が一斉に飛んでいく。


 これこそシルヴィアが使えるようになった氷中級魔法である【フィンブルランサー】である。魔力の消費量が多く数回しか使用出来ないが、その分威力が高く集団戦では重宝する。


 シルヴィアの魔法により数を大幅に減らしたブルーオーガたちは、勝てないと判断したのか背を向けて走り出す。しかし当然それを見逃すわけがなく、少し多めに魔力を使って氷の槍を一本だけ作り出し、それを放つ。


 放たれた氷の槍はブルーオーガを貫くと、槍その物が針のような形になって四方八方に飛び出る。突然飛び出たそれに他のブルーオーガは反応し切れず、体を貫かれる。体を貫かれたブルーオーガは少しの間足掻いていたが、次第に動かなくなり絶命する。


「あ、レベルが上がりました」


 魔力をそれなりに消費したからか、少しだけ息の荒いシルヴィアがそう呟いた。悠一もステータスウィンドウを開いて確認してみるが、経験値は四分の三を少し超えた辺りだった。


「とりあえずシルヴィア、魔力回復薬を―――」


 歩きながらポーチから魔力回復薬を取り出してそれを渡そうとすると、悠一は咄嗟にその瓶を投げ捨てて左手でシルヴィアを軽く突き飛ばして、納刀してある刀を抜いて高速で振るう。すると大きな金属音が鳴り響き、足元に何かが音を立てて落ちた。


 何かと思い顔を向けてみると、それはなんて事の無い特に装飾が施されていないナイフだった。しかしそれは外見で、ナイフからは微量な魔力を感じ取れる。感覚からして、体を一時的に麻痺させる程度の雷魔法が付与されているだろう。


「不意打ちとは、随分な挨拶じゃないか」


 周囲に無数の氷の槍を構築してそれをその場で待機させた状態で、何もないはずの空間に向かってそう言い放つ。しばしの沈黙の後、カツカツと足音が聞こえて来た。


 今だと持っている小さな炎の明かりでぼんやりとその姿が浮かび上がり、やがてそれが誰なのかが分かった。組合で声を掛けて、そこからずっと尾行していたアルバート・ハングバルクだった。


「いやはや、まさかあれを防ぐとは思わなかったよ、ユウイチ・イガラシ君」


 少々わざとらしい感じで、アルバートはそう言った。


「殺気がダダ漏れだったんでね。あれに気付かない方がおかしいと思うぞ」


「おや? 新人冒険者なのに、そんなのが分かるのかい? これはまた、大物新人だね」


 またもやわざとらしい態度でそう言いながら、堂々と左腰から下げてあるロングソードを抜き放った。それと同時に放たれる、肌を刺すような殺気。それを感じ取った悠一は、体をぶるりと震わせて刀を両手で構える。


「あれだけのモンスターを斬ったというのに一切刃毀れしていないその剣、実に気に入った。それを譲ってくれたら、見逃してあげてもいいけど?」


「やる訳無いね。武器ってのは、自分の命を預ける相棒みたいなものなんだ。修復不可能なくらい壊れない限り、変えるつもりはない」


 とはいえ、悠一は再構築の魔法でどうとでもなってしまうが。


「そっか、それは残念だ。じゃあ―――」


「それと、シルヴィアも渡すつもりはない。俺の大切な仲間なんでね」


 言い切る前にそう言葉を放つ。アルバートが刀を狙っていたのは、組合で話し掛けられた時から気付いていたが、シルヴィアを狙っていることに気付いたのはこの洞窟内で再開した時だ。悠一と話しながらも、ちらちらとシルヴィアに情欲に染まった目で見ていたからだ。


「それまた残念だ。それじゃあ―――」


 彼は右腰から下げられているもう一本の剣を抜き放つと、鋭い目付きで悠一を睨み付け、


「―――ここで死ね」


 そう言い放つとほぼ同時に、悠一は危険を察知して反射的に背後に大きく跳躍した。そして元いた場所には、右の剣を上に振り抜いたアルバートの姿があった。


「こらこら、避けちゃダメじゃないか。じゃないと、変に斬って痛み苦しみながら死んでしまうじゃないか」


 ゆらりと直立の体勢になりながら、ゆったりとした口調でそう言う。それでも刺すような殺気はひしひしと感じており、背筋を嫌な汗が伝い落ちていく。


「死ぬつもりはないんでね。全力で抗わせてもらうよ」


「新人風情が何を言うんだかねぇ。俺は君よりもずっとレベルが上だし、戦闘経験もある。冒険者登録して一週間程度の君に、俺が負ける訳無いだろう」


「さあ、どうだか。それはやってみないと、分からないんじゃない……か!」


 言い終えるとほぼ同時に素早さの高さを活かして、一呼吸で間合いを詰めて刀をしたから振り上げる。アルバートはその攻撃に反応して剣で防ごうとするが、途中で悠一の太刀筋が変化して弧を描いて右小手を狙う。


 そこに左手の剣が間に割って入って防ごうとしてくるが、またもや太刀筋の軌道が変化して防ぎ辛い突きを放つ。


「ちぃっ!」


 アルバートは憎々しげに舌打ちをして、バックステップで距離を取るが、それに合わせて悠一も地面を蹴って間合いを詰め、体を限界まで捻って力を溜め込む。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――夜紋轟やもんぐるま!」


 溜め込んだ力を開放して、回転するように剣を振るう。目では捉え切れない速度で刀が振るわれるが、アルバートは辛うじてそれを防いだ。


「同じく―――壬雲太刀みくもたち!」


 だが防がれたとほぼ同時に、鋭い三つの剣戟がほぼ同時に放たれた。アルバートはそれに反応し切れず、どれも浅いが攻撃を受けてしまう。


「ぐっ……!」


 僅かな痛みに顔を歪め、右の剣を上から振り下ろす。しかし悠一はそれを刀で受け流すと、左手で鋭い打撃を鳩尾に叩き込んだ。


 鳩尾を殴られ激痛が全身を走り、アルバートは思わず膝をがくりと折ってしまう。そこに更なる追撃が襲ってきたが、炎魔法を放って牽制する。悠一は炎魔法が放たれた直後、ギリギリのところでバックステップして距離を取った。

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