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77 初の水中戦

「シルヴィア、ユリス、声は聞こえるか?」


「大丈夫です。はっきり聞こえていますよ」


「なんだか、直接脳内に声が送り込まれているって感じですね」


 海に飛び込んだ三人はまず、ちゃんと魔導具が起動しているのを確認した後、お互いの声が聞こえるかどうかを確かめた。ちゃんと聞こえているが、確かに声が直接脳に送り込まれている感じがする。だがそれは別に、大したことは無いことだ。


 両方の魔導具がしっかりと作動しているのを確認出来た後、早速下に向かって泳いでいく。先頭は、もちろん悠一だ。シルヴィアかユリスが先にいると、スカートの中が見えてしまうからだ。事前に水中で戦うクエストであると分かっていれば、ショートパンツか何かを履いてきただろうけれど、基本気まぐれなのでどんなものを受けるのかは分からない。


 しかしなるべく水中で戦うクエストは、受けるのを控えることにする。泳いでいると、魚群が遠くを泳いでいるのが見える。軽く数百はいるだろう。小さいころ水族館に行った時にも魚群を見たことはあるが、今見ているのは比べ物にならないほど多い。


「これだけ自然が綺麗に残っていると、その分生息する動物たちも多いんだな」


 前世であれば海にごみを捨てたり汚染されたりなどしている上に、他国が乱獲して行ったりいろいろしているので、この世界ほど多くいない。しかも温暖化も進んでいて、本来であればいるはずの物がいなかったり、いないはずの物がいたりなど色々おかしいことになっていた。


 それに比べてここの世界の生態系は、魔力の影響を受けたりして大分強くなっているしかなり危険だが、動物はたくさんいる。絶滅してしまった種族が、いないんじゃないかと思うくらいいる。そこら辺は知らないので、帰ったら生物について少し調べてみることにする。


 少し泳いでいくと、発動させていた索敵魔法に反応があった。一回止まって反応のあった方を向くと、遠くから何かが凄まじい速度で泳いできているのが見えた。遠距離視認魔法で確認してみると、真っ黒な鮫がこちらに向かって泳いできていた。しかも一体ではなく、五体いる。


「何だあれ?」


「シュヴァルツアピストリークスですね。非常に獰猛で、人間を好んで食べるモンスターです」


「それはまあ、周りにいる魚たちに目もくれずにこっちに向かっているから、なんとなく察していたけど……あれはいくらなんでも速過ぎないか?」


 さっきはあそこに何かがいるな程度にしか見えなかったが、今では少し目を凝らせばぼんやりと見えるほどまでに近付いている。あれだけ離れているので普通だったら逃げるのだが、かなりの距離があったにもかかわらず三人に気付いた様子なので、逃げても無駄だ。


 ならば、逃げないでここで待ち構えて真正面から叩き潰すしかないだろう。


「あとシュヴァルツアピストリークスは、食べられるモンスターです。倒すのが難しいので滅多に市場に出回らない、高級食材扱いされています」


「へぇ。そうなのか」


 食べられるモンスターと聞いて、悠一は興味を持つ。それもワイバーンと同じように、高級食材だ。倒せれば食事がある程度豪華になると考え、立ち向かうことにした。


 瞬爛を鞘から抜いて両手で持ち、正眼に構える。泳ぎながらだと戦い辛いので広く足場を作り、その上に立つ。シルヴィアとユリスの足元にも、突っ込んできても買わせるように広く足場を作る。こういう時に、自分の魔法が非常に便利だ。


 そう思っているともう、はっきりと目視出来るところまでやって来ていた。驚異的な速さだ。悠一はともかく、シルヴィアとユリスは身体強化をしないと躱せないかもしれなかっただろう。


 だがそれは過去のことだ。二人は悠一から特訓を受けて、ある程度敵の動きを予測して躱せるようになっている。悠一と比べるとまだまだだが、距離を詰められてもすぐに倒されることは無い。それに、躱しながら並行して魔法の詠唱も出来るようにもなっている。


 これが出来るようになった時、二人とも凄く嬉しそうにしていた。「これで足手まといにはならない」、と。別に足手まといには思っていないのだが、二人はそのことを気にしていたのだ。


「さて、それじゃあ行くぞ!」


 姿がはっきりと見えるところまで近付いてきたところで、悠一は刀の風魔法を開放して圧縮し、それを撃ち出す。撃ち出された圧縮された風は凄まじい勢いでシュヴァルツアピストリークスに向かって行くが、途中で消えてしまう。


 水の中だと、どんなに射程が長い魔法でも短くなってしまう。もちろん悠一は、そのことを知っていた。知っていたが、あえてやったのだ。


 モンスターは基本本能で動いている為、真正面から一回でも喰らえば即死するような攻撃が向かってくれば、本能に従って回避行動を取る。凄まじい速度で移動しているので、小さく回避しようとしても軌道が大きくずれてしまう。


 五体いたシュヴァルツアピストリークスは五対バラバラに分かれて、そこから方向転換して三人に襲い掛かってくる。悠一は足場を蹴って突進を躱し、すれ違いざまに胴体に鋭い蹴りを叩き込む。


 だが思っている以上に、鱗が硬かった。しかしそれについては問題はない。硬いのであれば、柔らかくしてしまえばいいだけなのだから。


「とか考えているけど、あれだけの速さで動いている的に、どうやって当てればいいんだよ」


 魔力制御はシルヴィアとユリスから教えて貰っているのである程度できるようになってきてはいるが、それでも細かいことは無理だ。狙ったところにピンポイントで魔法を当てることと、かなりの速度で動いている敵に当てることはまだ上手く出来ない。


 いつもは広範囲に亘って攻撃する魔法を使っているので、別に狙いを絞らなくても大丈夫だ。だが今回のように、体が硬い敵が相手だと狙った場所に的確に魔法を当てなければならなくなる。刀だけで倒すとなると時間が掛かるので、魔法も併用する。


 今は水中なのでプラズマ弾や圧縮したガスによる爆発、モンスターの周囲に水を作り出してそれの分子に自分の魔力で干渉し、急激に熱して水蒸気爆発を起こしたりなどは出来ない。狙ったところに物質変換を撃ち込んで、そこを柔らかくしてから攻撃しないといけない。


 体全てを柔らかくするという手もあるが、速く動く敵に当てるのは難しい。


「やれやれ、もっとしっかり練習しておけばよかったな」


 あまりその訓練をしていなかった自分を少し責め、こうなったら突進してきたところを斬り付けた時に分解が発動するようにして、攻撃することにする。


 シルヴィアとユリスは、二体のシュヴァルツアピストリークスの突進攻撃を躱しながら、魔法の詠唱をしていた。シルヴィアは氷上級魔法【フラウバニッシュ】、ユリスは光上級魔法【ルクスオラティオ】の詠唱を唱えている。


「【穿たれまれ。未来永劫変わらぬその姿で、永遠の苦しみを。果てなき絶望を、終わり無き死を刻め―――フラウバニッシュ】!」


「【私の祈りはあなたに届き、あなたの祈りは全てに届く。祈りが叶えられた時、影は無くなり救いの光が夜を照らす。そこは美しい白の世界。かつて私が望んだもの。安らぎと平和がある場所。そこに悪はいてはならない。だから私とあなたは願い続ける。光あれ、と―――ルクスオラティオ】!」


 詠唱を終えた二人は魔法を発動させる。シルヴィアの魔法陣からは氷の槍が、シルヴィアの魔法陣からは光の球が放たれる。氷の槍はシュヴァルツアピストリークスに向かって行くが、その素早さで避けられてしまう。シルヴィアはそのことに内心舌打ちしながら突進を躱し、氷中級魔法の【フィンブルランサー】の詠唱を唱え始める。


 ユリスの光の球は一直線に向かって行くが、危険だと察知したのか躱される。しかし魔力制御に長けているユリスは、その光の球を操作して曲げてシュヴァルツアピストリークスに当てる。するとその光が、突然体を覆うように巨大化する。


 その光が収まると、そこには何もなかった。【ルクスオラティオ】は包み込んだ敵を、内部で消滅させるという魔法だ。この魔法は元々の威力が高い上に、悪魔に非常に有効だ。悪魔にとっては、この魔法を使えるユリスは天敵と言っても過言ではない。


 ユリスがAランクに上がるきっかけとなった悪魔討伐戦の時既に、この魔法は使えていた。だが錬度が高くなかったので、大きなダメージを与えることは出来たが致命傷にはならなかった。それでも大分弱らせることが出来たので、討伐隊の魔法使いたちと一緒に魔法を放ち、最後に光上級魔法の【シルバリックロザリオ】で止めを刺した。これを評価されて、ユリスはAランク冒険者に昇格し二つ名を得た。


 自分の敵を倒したのでシルヴィアの方を振り返ってみると、シルヴィアは突進を躱しながら詠唱を唱えていた。それは風上級魔法【ボレアスデスサイズ】だった。


「【殺せ殺せ、今宵は殺戮の宴。果てよ果てよ果てよ、全てを散りばめ果てよ。終わり無き死を、絶望を私に見せておくれ―――ボレアスデスサイズ】!」


 詠唱を完了させ魔法を発動させると、魔法陣から風で出来た死神が姿を現す。先に風を集束させておいて、死神の形にしておいたようだ。


 風の死神は風の大鎌を振り翳し、強烈な風を発生させる。その風は刃となり、シュヴァルツアピストリークスを斬り裂いた。だが刃は止まることなくそのまま、前方にいる悠一の方に向かって行く。


「あ、危ない!」


 咄嗟に魔力操作で軌道をずらそうとするが、間に合わない。自分の魔法が悠一に当たると思い目を瞑った瞬間、自分の魔法が途中で掻き消された感覚を感じた。目を開けると、三対のシュヴァルツアピストリークスを相手にしている悠一が映っただけだった。


 しかしシルヴィアは、戦っている真っ最中に一回振り返ってから分解魔法で、自分の魔法を分解して防いだのだと理解し、しゅんとする。下手するとその一瞬の間に攻撃を受けてしまい、怪我していたかもしれないからだ。


 結果的に怪我はしなかったが、自分のせいで危険な目に遭いそうになってしまったのは変わりないので、倒し終えたらしっかりと謝ろうと決める。


 一方で悠一は、


「今のはびっくりしたな。まさかここまで魔法が届くなんて思っていなかったよ」


 突進してきた一体のシュヴァルツアピストリークスを、斬り付け胴体を真っ二つにした後でそう呟く。水の中だと魔法の射程が短くなるのでここまで届かないと思っていたのだが、予想外にもシルヴィアの魔法が飛んできたので少し驚いた。


 スキル【天眼通】で見えたので振り返らずに分解して防いだが、別に悠一は気にしていない。むしろ、水中でここまで魔法を届かせたシルヴィアに驚いていた。彼女と初めて会った時は初級魔法しか使えなかったのに、今では上級まで覚えている。


 本当だったらちょっとした審査などが必要になることなのだが、ユリスもユリスで別ルートから上級魔法を覚えた。というのも、父親が魔法使いで、宮廷魔法使いをやっているから魔導書が家に大量にあったからである。


 ユリスは幼いころからそれを絵本代わりに読み漁っていたため、十三歳の時に上級魔法を使えるようになっていた。だがそれは一部だけだった。その時はまだ、上級魔法を十分に使うだけの魔力が無かったから。今は別だが。


 ともかく、ユリスが魔導書を持ち歩いている為シルヴィアは図書館に行かなくても魔導書を読むことが出来、短い期間で上級魔法を使えるようになった。魔力量も、毎日討伐系クエストをしているので限界値が一ヶ月と少しだけで大幅に伸びている。ユリス曰く「一種の天才」だそうだ。


「二人とも成長しているんだ。俺ももっと努力しないとな」


 あまりうかうかしていると、二人に追い抜かれて守る存在から守られる存在になってしまうかもしれない。それはなんだか嫌なので、訓練をもう少し増やしてみようかと考える。


 とりあえず、二人とも終わっているのでこちらもさっさと片付けることにする。あまり使わない『修羅の境地』を発動させて、身体強化を掛けて残った二体のシュヴァルツアピストリークスを斬り付ける。


 本来であれば硬い鱗で防がれるが、斬り付けた瞬間に分解が発動するようになっていて抵抗もなく斬れる。もう一体は体に傷を付けてから鋼の槍を構築して、そこの傷口に深く差し込む。そこで一度『修羅の境地』を解除して、距離を取る。


 一体は血を流して絶命し、もう一体は激痛でその場で暴れる。その後突進してくるが、回転しながら躱して首を斬り落とす。


「これで討伐完了っと」


 三対とも討伐したのを確認して刀を鞘に納め、ナイフを構築してそれで討伐部位となる歯を剥ぎ取り、その後で身を剥ぎ取る。後はこれを容器に仕舞えば終わりだが、普通に入れると水も入ってくる。


「シルヴィアかユリスに頼んで、風魔法を使って容器に水が入らないようにして、その間にこれを入れるか」


 そう呟いた後、悠一は大量のシュヴァルツアピストリークスの身を持って、シルヴィアとユリスの元に戻って行く。

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