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73 海へ

「流石は海に面しているだけあって、魚貝類がたくさん売られているな」


「どれも新鮮で美味しそうですね。……あ、変なお魚さんも売られています」


「バンプスナッパーですねこれ。滅多に釣れないので、高級魚扱いされていますよ」


 海洋都市ヴェラトージュに着き宿の部屋を借りた後3人はまず最初に、旅で消費してしまったアイテムや食材を買い揃えることにして、やたらと大きな店にやって来ていた。そこは簡単に言ってしまえば、大型スーパーマーケットのようなところだった。もちろん、そこら辺の店と違って売られている商品の数が半端なく多い。


 また高級な食材なども売られている為、恐らく経済的に裕福であろう冒険者や、見るからにお金持ち感溢れる服をしているとてもスリムで妖艶な雰囲気を出している貴婦人。家族連れで着ている貴族らしき人たちがいる。


 この街はどうやら貴族は平民を差別しない人が多いらしいので、嫌な顔をしていない。あくまでそう言った人が多いと言うだけで、嫌な顔をしている貴族や大富豪もいる。特に冒険者に対して。


 それでもそれほど酷くはないので三人は全く気にせず、店の中をぶらついている。何か必要な物も買うつもりでいるので、籠は持っている。カートは流石に無かったが。


「うっわ、この魚値段貼り過ぎだろ。何だよ、50000ベルって」


「深海でしか取れない高級魚ですからね。年に一度の産卵のために浅いところに浮上してくるのを、狙うしかないんですよ」


 シルヴィアが見つけた見た目がまんまコブダイの、バンプスナッパーという魚のすぐ隣にある値札を見て、悠一は顔を引き攣らせる。今三人には数多くのクエストをこなしモンスターを倒しまくっているので、その程度は気にならない程の資産がある。


 でも結局は一般家庭の人間なので、いくら多くの資産を持っていても一匹50000ベルもする魚を見たら高く感じる。これを高くないと感じるのは、始めたらずっとお金持ちか、貴族だけだろう。あとは、代々冒険者をしていて莫大な資産がある冒険者。


 とりあえずバンプスナッパーはスルーして、その隣にいるレッドマッカレルという見た目が赤い鯖と、岩っぽい何かで身が覆われているロックフラットフィッシュという鮃っぽい魚などを袋に入れて籠に入れる。


 シルヴィアとユリスも海老や貝などを籠に入れており、しばらくはクエスト中の昼食は海鮮物になるかもしれないなと、少しだけ苦笑する。というのも、魚などの捌き方はあまり知識が深くないのだ。ユリスが街に来たばかりの時に料理本を買っていたので、後でそれを借りることにした。


 出来ないと分かると、ユリスが「ボクに任せてください!」と言いそうだが。それはそれで、美少女にご飯を作ってもらえることになるので嬉しいが。


 ある程度食材を籠に放り込んだ後、今度は大分消費してしまった回復アイテムが売られているところに移動する。そこには他の街には無かった効果があり得ないくらい高いポーションや、魔力回復薬が売られていた。


 魔力回復薬はの並んでいる棚には新薬と書かれており、魔力生成速度を上昇させて無理矢理回復させるのではなく、大気中にある魔力を自分の体内に取り込むという物になっている。それを見て悠一は、何でもありだなと感心した。一応十五本だけ籠に入れ、後は普段からよく使っている回復薬を入れる。


 新薬とはいえどどんな効果があるのかがはっきりと分かっていないので、まずは様子見をするのだ。シルヴィアとユリスも五本だけ籠に入れていた。二人は魔力回復薬は、体に負担が掛かる為あまり好んで使っていない。


 一通り必要な物を籠の中に放り込んだところで、三人はレジに行って会計を済ませて鞄の中に仕舞う。


「さてさてさーて、粗方明日の準備は整ったし残りの時間を楽しむか」


 店を出て悠一は早速そう言う。それと同時に、釣りをしたいなと考える。一方シルヴィアとユリスは、顔をほんのりと赤くしていた。


「その……、ユウイチさん」


「ん? どうした?」


 どんな魚が釣れるんだろうなーと考えていると、ユリスに声を掛けられて我に戻り二人の方に振り返る。そして顔をほんのりと赤くしているのを見て、どうしたいのかが一瞬で分かってしまい顔が少し熱くなる。


「……海に行きたいのか?」


「は、はい……」


「初めて海を見たので、泳いでみたいんです……」


 シルヴィアが恥ずかしそうに、それでいて楽しみにしているような顔をしているのを見て、そう言えばと思い出す。ユリスは二年間冒険者をしているので色んなところに行っており、二、三回程度だが海水浴はしている。


 しかしシルヴィアはつい最近冒険者になったばかりだし、十五歳になるまで殆んど自分の育った街から出たことが無い。なので、海水浴はおろか海を見ることすら初めてだ。今日はのんびり釣りでもしようかと考えていたが、二人共海水浴をしたそうな顔をしている為また今度にすることにした。


 早速先程通過した水着屋で移動し、中に入る。やはりと言うべきか、海に面している為人が多い。特に女性が。異世界だからか謎に美人が多く、既に水着を着ている人もおり目のやり場に非常に困った。


「色んなデザインがありますね」


「なるべく派手じゃない奴が好ましいです」


 まだ頬がほんのりと赤い二人は、店内を見回して水着を見ながらそう言う。その一方で悠一は、どうしても二人に似合いそうな色を水着姿を想像してしまっていた。何度か頭の中から振り払っているのだが、それでもすぐにまた浮かんできてしまっている。


 二人共誰もが振り向くような美少女なので、そんな二人と一緒に水着屋にいれば想像してしまうのも無理はない。それに、それを振り払ったとしても結局は水着姿を見ることになってしまう。それに気付き悠一は、振り払うことを諦めた。


 その間シルヴィアとユリスは、少し悠一が目を離した隙に悠一からは見えないところに移動してそこで水着を選んでいた。いつの間にか二人がいなくなっていたので悠一は探そうとしたが、恥ずかしいから見られたくないのだろうと勝手に判断して、とりあえず自分のも買っておこうかと男物の売られている場所に足を運ぶ。


「シルヴィアとか、これなんかが似合いそうだよ」


「ちょっと派手過ぎないかな? 私、あまり目立ちたくないんだけど……」


「その容姿で目立ちたくないって言っても、無理だと思うけど。シルヴィア可愛いし、何着ても似合うし」


「か、可愛いって……。ユリスの方が可愛いと思うけど……。……スタイルも良いし」


「そ、そんなことないよ。シルヴィアの方が髪の毛サラサラだし、お人形さんみたいに顔が整っているし。何よりオッドアイだし」


 悠一が自分の水着を買いに行っている頃、シルヴィアとユリスはお互いに似合いそうな水着を選び合っていた。この時の二人は、いつになく楽しそうだ。


「ユウイチさんって、どんな水着が好きなんだろう……」


 選び合っている時に不意にシルヴィアがそう口にして、同時に顔を赤くする二人。それと同時に、迷宮都市にいる時に、着替えているところを見られてしまったことも思い出し、もう湯気が出るんじゃないかと思うくらい赤くなる。


 何とか恥ずかしい記憶を頭の中から追いやり、再び水着選びを始める。その後もあれこれと話し合い、シルヴィアは少し大人しめの青いビキニ、ユリスは少し派手な赤いビキニになった。


 先にそれを会計に通し、海には更衣室が無いとのことなので先に店内の更衣室で水着に着替える。そしてその上に私服を着て、下着は鞄の中に仕舞う。少しドキドキしながら店から出ると、既に悠一が店の前で待っていた。


「お、お待たせしました!」


「ん? おぉ、決まったのか?」


「は、はい。ユウイチさんは?」


「俺も買っておいたよ。二人共水着で俺だけ私服ってのも、変な感じだし」


 悠一も水着を購入した後更衣室で着替え、その上に私服を着た。普通の海パンなので、服の下に履いていても違和感がない。


 先に着替え終えていた悠一は店に出た後、少し本気で釣り具を買おうかと考えていたがシルヴァとユリスが店から出てきた時点で、その考えを振り払った。三人とも準備が出来たので、早速海の方に向かって歩いて行く。


 悠一も数年ぶりの海水浴なので、楽しみにしている。ちらりとシルヴィアとユリスの方を見ると、顔は少しだけ赤いが楽しそうな顔をして、お互いに会話している。二人は歳が同じで同性なので敬語は使っておらず、フランクに話している。


 悠一には普段から敬語を使っているので、三人になってからある程度経っているがまだあまり慣れていない。自分にも同じようにタメ口で話し掛ければいいのにとよく思うが、二人がそうしないのは単に今まであまり男性と接点が無かったので恥ずかしいということと、敬語で話すのに慣れてしまっているからだ。


 楽しげに話していると、段々と水着を着た人が増えてくる。それと一緒に、波の音も聞こえてくる。水害防止用の堤防にある石階段を上りその上に立つと、そこからは綺麗な砂浜と太陽に照らされて輝いている海が見えた。


「わぁ……!」


「綺麗……!」


 ユリスは久々に海を見て目を輝かせており、シルヴィアは初めて間近で海を見てユリス以上に目を輝かせていた。悠一も数年ぶりにこれほど近くで海を見たが、それよりも悠一たちからすれば右側の方にある建物のすぐ脇に、なんだか途轍もなく巨大な亀の甲羅らしきものが佇んでいた。


 図鑑を読んでどんなモンスターがいるのかは粗方頭の中に入っているので、あの甲羅が何のモンスターの物なのかはすぐに検討が付いた。だからこそ、驚いていた。


 あの甲羅はSSSランク指定の災害級モンスター、アドウェルサトータスだ。名前に天災が入っているとおり、一度暴れ出すと街が複数壊滅、最悪国一つが滅んでしまう。そんなモンスターを倒すにはSSSランク冒険者が二十人集まらなければならないとされている。


 しかし甲羅を見る限り、あるのは剣による斬撃痕のみだ。それ見て悠一は、一人の冒険者の名前を思い浮かべる。


 今現在、【剣聖】に近い男とされているSSSランク冒険者、【剣皇】レオンハルト・ブルースミス。一応ある程度の情報は知っているので、もしかしたら彼一人であれを倒したのかもしれないと考える。


「もし本当にそうだとしたら、どんな化け物だよ……」


 本当にレオンハルト一人で倒したのだとしたら、自分なんかは到底足下に及ばない。その男こそ、二代目【剣聖】に相応しいと、悠一は思う。


 しかし実際はどうなのかは分からないのですぐに考えるのを止め、先に海へと駆け出して行ったシルヴィアとユリスの後を、小さく微笑みながら追い掛けていく。

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