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71 第二大新緑地帯

「本当にもう、行ってしまわれるのですか? もう少しごゆるりとされた方がいいかと……」


「いえ、大丈夫です。俺たちはなるべく早く、次の街に行きたいので。それに、これ以上お世話になるのは少し気が引けてしまいますので」


 朝そこそこ早くに起きて馬車の準備をしていると村の村長や村人たちがやって来て、もう出るのだと悟ると少し寂しそうな顔をした。村長がもう少しだけでもいいからゆっくりと寛いでいってくれと言ってきたが、昨日村を上げての宴をしてたくさんの料理を振舞ってもらったり、宿代を安くしてくれたりしてくれたので、これ以上お世話になる訳には行かない。


 シルヴィアとユリスもあまりお世話になり過ぎるのは良くないと感じている為、悠一を止めようとしていない。


「私たちはまだまだ、あなた方に感謝し切れておりません。せめて、もっと旅に役立つような物を……」


「大丈夫ですって。前の街で殆んど準備しておきましたし、昨日も皆さんから食料や回復アイテムなどを受け取りました。十分過ぎます。俺たちは、昨日の宴と皆さんがくれた物だけで十分です」


 後ろの方に控えてある、かなり多くの食料や回復アイテムを見ながら悠一は小さく苦笑いを浮かべ、村長にそう言う。その後村長が少し食い下がって来たので、また少しだけ食料と回復アイテムを受け取る。


 それらを鞄の中に詰め込むと悠一とシルヴィアは荷馬車に、ユリスは運転席に乗り込む。


「ユウイチ様、シルヴィア様、ユリス様。この村を救ってくださり、誠に感謝いたします。このご恩は、一生忘れません」


 村長がそう言うと頭を下げ、それに続いて他の村人たちも頭を下げて感謝の気持ちを表す。悠一たちはその感謝の気持ちを受け取り、馬車を走らせ始める。ガタガタと音を立てて馬車が走って行く中、村人たちはその姿が完全に見えなくなるまで見送り続けた。


 荷馬車に乗っている悠一とシルヴィアも、少し名残惜しそうな顔をして村が見えなくなるまで見つめ続けていた。一日しかいなかったし大分ボロボロになっていたが、それでもどことなく自分の家のように落ち着ける場所だったためだ。


 なので悠一は、もう二度と帰ることの出来ない本当の自分の家のことを思い浮かべ、少し悲しい気持ちになった。とても厳しく怖くても、時には優しく剣士として憧れた自分の父親。少々過保護気味なところがあったが、愛しながら十六年間育ててくれた母親。


 檜で出来ておりいい匂いのした、実家の道場。そこで出来た友達やライバル。小学校からずっとつながりのあった親友。高校で出来た新しい友達。それらとはもう、これから一生出会うことは出来ない。少しだけ涙ぐむが、情けないところをシルヴィアたちに見せる訳には行かないのでぐっと堪える。


「さて、ここから先はひたすら行進だ。今日はもう、行ける所まで行こう」


「そうですね。あ、モンスターの処理は任せても大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。素材の回収は出来なくなるけど、それは別にいいし。……そんなことより、ユリスだけに馬車を運転させるのはなんだかなぁ……」


「ボクは全然平気ですよ。いつもユウイチさんには助けられてばかりですし、これくらいは任せてください」


「それを言うなら、俺も君たちに助けられているんだけどね。まあ、次の街までは頼むよ」


「了解です!」


 悠一に頼まれたからか、ユリスは嬉しそうな表情をして返事をする。それを見て悠一は小さく微笑み、その後自分も馬車の運転方法を覚えようと決意する。運転というのは思っている以上に負担が掛かる。


 まず事故を起こさないように運転しなければならないので、それなりに高い運転技術が費用だ。二つ目に

、運転していると正面から風がやってくる。ゆっくりだと気にならないが、速く運転するとその分風が強くなる。


 その強い風が運転手に当たり続ける為、運転手には負担が掛かる。ユリスは運転に手馴れている様子だが、悠一は最低限の知識があるのでやっぱり任せっきりというのは良くないと思う。次の街に着いたら書店に寄って、そこに運転方法の書かれた本が無いか探すことにする。


 村を出てしばらくは荒野が続いていたが、前方の方に次第に森が見えて来た。その森は常に警戒しておかなければならない、大深緑地帯と同じ性質を持つ森だ。名前が記されていないので、適当に第二大深緑地帯と呼ぶことにする。


「あそこは本当に避けて通れないからなぁ……」


「過信している訳ではないですけど、私たちの実力なら大丈夫かと。ユリスも昨日戦略級魔法を使いましたが殆んど回復し切っていますし、何よりユウイチさんがいます。万が一はあり得ないかと」


「頼ってくれるのは嬉しいけど、頼り過ぎないようにね。予想外過ぎることが起きると、俺でも対処出来ないかもしれないから」


「分かっていますよ」


 シルヴィアはそう言うと索敵魔法を展開して、周囲を警戒する。悠一もそれの続いて索敵魔法を展開し、警戒する。ちなみに余談だが、この索敵範囲内全てを自身の絶対防御範囲として、そこに入り込んだモンスターを分解出来ないかと試したが、普通に無理だった。


「っつか、やっぱこの森も魔力濃度が濃いな。あの森ほどではないけど、索敵が阻害される」


 周囲の警戒を始めてから少ししてから、悠一がそう零す。というのも、魔力濃度が濃くすべてではないがある程度索敵が阻害されてしまっており、感知し辛くなっているのだ。シルヴィアの新しい杖の素材を手に入れたあの森ほどではないが、中々に厄介だ。


「そうですか? 私は普通に索敵出来ていますけど」


「……」


 しかし阻害されているのは悠一だけの様だ。恐らく、純粋な魔法使いとそうでないのでは、大きな差が出るのだろう。別に常に魔法を使いながら戦っている訳ではないのだが、少しだけ気にしてしまう。


 いっそのこと魔法だけにしようかと考えてしまったが、遠距離戦の時に火力が上がるだけで近接戦に弱くなってしまう。そもそもずっと剣を習ってきていたので、ここで辞めるというのもまず無理だ。そもそも辞めるつもりは微塵もない。


「多分索敵が阻害されているのは、広範囲に広げ過ぎているからだと思います」


「というと?」


 シルヴィアによると、索敵は特に阻害されるようなところではない場合限界まで広げても何の問題もない。しかし、今いる場所のように魔力濃度が濃いと、限界まで広めると広がっている魔力よりも周囲の魔力が勝って阻害されてしまう。


 だが範囲を狭めれば広がる魔力が薄くならないので、阻害されにくくなる。魔力を増やしても、ただ感度がよくなるだけで特に意味はないそうだ。


「なるほどね。つまりシルヴィアは、限界まで広めないである程度狭めているのか」


「はい。そうすれば阻害もされなくなりますから。あまり遠くまで索敵出来ない分、少しだけ危険度が増しますけど」


 とりあえず悠一は索敵の範囲を狭めて、阻害されないようにする。確かにシルヴィアの言う通り阻害はされにくくなったが、それでもやはりどこかフィルターが掛かっているような感覚がある。あまり慣れていないからだろう。


 それでもさっきよりはずっとマシなので、周囲の警戒を続ける。遠くにモンスターの反応があったが、こちらには気付いていない様子なので無視する。悠一たちは、進む方向にいるモンスターや自分たちに気付いてやってきたモンスターのみを倒していく方針だ。


 討伐部位や素材は確保出来ないが、そこは別に気にしていない。というのも、別に討伐部位を確保しなくても困らないほどのお金を持っているからだ。冒険者になったばかりの時はお金が全然無かったが、シルヴィアとユリスが仲間に加わってから高ランククエストを難なくこなせるようになっていき、今や使い道がないほどお金がある。


 あまりにも多いため、半分くらい募金しようかと考えるがそれだと多過ぎるため止めておくことにした。お金を貯金しておけば、将来冒険者業を続けられなくなっても困ることはない。しかし多過ぎても困るため、これからはクエスト達成報酬の三分の一から半分は募金することにしようかと考える。


 何しろBランクとAランククエストの報酬は、ありえないくらい高い。びっくりするくらい高い。命の危険が高いので当たり前なのだが、本当にこんなに受け取ってもいいのだろうかと毎回考えてしまう。


 なのでBランクになってから高過ぎる報酬を受け取ったときは、半分くらいは募金している。組合の受付嬢に、貧しい孤児院がとても感謝していたと言っていたのは記憶に懐かしい。


 どうしようかと色々考えていると、索敵範囲内にモンスターの反応があった。数十体ほどはいる。悠一とシルヴィアはすぐに思考を切り替えて、モンスターがやってきたらすぐに対応出来るように構える。


 シルヴィアは杖を構えて先に詠唱をしておき、悠一は普段全くと言ってもいいほど使わない弓矢を作り出す。魔法を使ってもいいがシルヴィアたちほど上手く使えないので、だったら剣術の奥伝習得の時に覚えた弓術で倒すことにする。


 剣術、槍術その他諸々の中では、総合的に見れば弓術は練度が低い。それでもそれはあくまで全て見たらの話で、他人からすれば一流レベルだ。


「ユウイチさんは、弓矢も使えるんですね」


「一応ね。剣術や槍術より得意じゃないけど」


 そう言いながら大きな筒を作り出し、その中に大量に作り出した矢を突っ込む。そして一本だけ取り出して軽く構えると、まだ少し先だがモンスターの姿を目視することが出来た。


 姿を確認してから悠一は限界まで弓を引き絞り、狙いを定める。シルヴィアの構えた杖の先には魔法陣が出現しており、魔力が集中している。魔力量からして、上級魔法だろう。


「【フラウスピリタム】!」


 やがてモンスターの姿が遠くでもはっきり見えるようになったところで、シルヴィアが魔法を発動させる。魔法陣が眩く輝き、そこから吹雪と氷の礫が前方に向かって襲い掛かっていく。シルヴィアは四つの属性に適性があるが、その中で氷属性の適性がずば抜けて高い。なので他の三つの属性よりも早く上級まで覚え、熟練度もとても高い。


 発動された氷上級魔法【フラウスピリタム】は、極寒の吹雪で敵を凍らせて氷の礫で粉砕する魔法だ。最近覚えた魔法なのでまだ熟練度は低いが、それでも恐ろしい威力だ。


 放たれた極寒の吹雪でモンスターを凍らせて、その次に襲い掛かってきた氷の礫が粉砕する。だがそれでも躱したり、当たらなかったりするモンスターもいる。それは悠一が次々と弓矢を放って、多少のズレはあれど頭を穿っていく。


「【フィンブルランサー】!」


 まだ残っているモンスターに向かって、シルヴィアは氷中級魔法を放つ。氷の槍がモンスターを穿っていき、次々と絶命していく。幾らか降り注いできた槍を凌ぐが、その後に悠一の矢が襲い掛かる。


「五十嵐真鳴流弓術中伝 ---屠毘穿(とびうがち)!」


 最初に二本の矢で足の関節を穿ち、動きが鈍ったところで頭を撃ち抜く。弓術中伝の中では難易度が高い技であり、悠一でも失敗することがある。今回は上手くいくかどうか不安だったは、成功した。


 そのことに少し気を良くして、次々と矢を放っていく。シルヴィアも負けずと魔法を放ち、モンスターの集団は数分で倒されてしまった。全てを討伐した後、三人は討伐部位を剥ぎ取るかどうかを話し合った。


 結果やっぱり剥ぎ取ることにして、モンスターの死体を一箇所に集めた後三人で手分けして討伐部位を剥ぎ取っていく。倒したモンスターの中に中々遭遇しないレアモンスターも混じっており、後で剥ぎ取ることにしておいてよかったと悠一は思った。

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