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67 モンスターに怯える村

 迷宮都市ロスギデオンから出て、八時間ほどが経過した。丁度怯辺りに差し掛かったので昼食を取り、少し休憩を挟んでから以前二人に提案した、敵の動きを先読みして躱す訓練を開始した。


 シルヴィアとユリスは戦いは専ら魔法に頼り切ってしまっているので、悠一の全力の速度には付いていけない。なので思い切り手加減をして、構築した木刀も両手ではなく片手だけで振るっている。


「わわわ……!」


「うわっ!?」


 手加減して片手で振るっていても、二人にとっては十分速い速度の様だ。まだ先読みするのではなく、迫ってきた攻撃をギリギリで躱すのが精一杯だ。女の子に攻撃を充てる訳には行かないので、当たるギリギリのところで寸止めしている。


 二人には魔法による攻撃を容赦なくして来てもいいと言ってある為、一定以上離れたら魔法を撃ち込んでくる。悠一も【天眼通】は使用せず、素の能力で魔法の軌道や速度を計算、予測して対応する。


 シルヴィアとユリスはひたすら悠一の攻撃を躱し、魔法を撃ち込み悠一がそれを対応するを一時間ほど繰り返す。シルヴィアとユリスは、魔法使いで前に出て戦うということはしない為、体力は平均程度しかない。まだ一時間程度しか出来ないが、続けていれば体力も付いてくる。そうすれば、訓練時間を延ばすことが出来る。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「つ、疲れました~……」


 一時間の訓練が終了し二人は座り込んで、肩で呼吸をする。身体強化を使って躱し続けていたのだが、悠一の動きは強化状態の二人よりも速かった。というのも素早さが無駄にあり得ないほど高いのだ。おかげで高い機動力で、戦うことが出来る。


「お疲れさん。はい、これ飲みな」


 悠一はそう言いながら水筒を渡す。水筒を受け取った二人はすぐに蓋を開けて、水を飲み下していく。


「はふぅ……、生き返りますぅ……」


「ひんやり冷たくて、美味しいですぅ……」


 一時間休みなく動き続けていたからか、水筒の水を半分ほど飲んでしまった。それ程喉が渇いていたのだろう。自分も昔はこんなになっていたなと、幼いころのことを思い出す。はっきり言って、辛い記憶しかないが。


 しかし辛い経験を沢山してきたからこそそれが強さになり、今こうしてこんなモンスターが跋扈している異世界に来ても、仲間と一緒に生き延びている。


「さて、一時間くらいしてから馬車を進めよう。そうすれば、日が沈み始めるころには村に着くだろうし」


 悠一は地図を、開きながら二人にそう言う。ロスギデオンであらかじめヴェラトージュへの地図を購入しておいたのだ。その地図には、そこに行く途中に小さな村が二つあるそうだ。そしてそのうちの一つが、今日中に行ける場所である。


 到着する時間帯は、大体日が傾いて空が橙色になるころなので、そのまま通過しても大丈夫と言えば大丈夫だ。そうすると野営は確定だが。村に泊まるか野営するかを二人に聞いたところ、揃って村に泊まることを主張した。


 悠一もせめてあと一日ベッドの上で寝たいと思っていたので、否定せず宿泊することにした。


「村を出ればCランクからAランクのモンスターが多く生息する地域になる、か。経験値稼ぎには丁度いいかもしれないけど、Aランクモンスターはなぁ……」


 村から数キロ離れたところには、数多くのモンスターが犇めき合っている場所となっている。そこはかつては行った大深緑地帯と同じで、弱肉強食の生存競争が激しい。なのでそこに生息しているモンスターは、他のところにいる同種と比べると遥かに強い。


 通常種よりも強いとなると、ある程度苦戦するAランクモンスターともなると非常に厄介だ。遭遇したら、戦うか逃げるか悩みどころだ。


「大深緑地帯と同じ、生存競争の激しい場所。魔力濃度も高く、その恩恵を強く受けている。もうこれだけでも、戦うとなると憂鬱に思えてきますよ……」


「ボクとしては、ディヴィアントエイプとは遭遇しなければいいですけどね……」


 まだ強いモンスターと戦うことに慣れていないシルヴィアと、それに慣れているがそこにもあの変態猿が出るようで、若干虚ろな目でそう言うユリス。悠一もその気持ちはよく分かる。


 昨日組合から情報を手に入れたのだが、そこにはエキセントリックな猿とゴリラがいるそうなのだ。もちろん、ディヴィアントエイプやエキセントリックな奴らに遭遇したら、瞬殺するつもりだ。距離を詰めず、分解で痛みを与えずに消すか、爆発を起こして消し飛ばす。


 というかそもそも、奴らを視界内に入れたくはない。それ程までに嫌っている。まだ奴らとは遭遇しないことが、せめてもの一時の幸いなのだが。


 三人はたっぷり一時間休憩を挟んで、出していた荷物を全て鞄の中に放り込んでから馬車に乗り込み、旅路に戻った。



 ♢



 ロスギデオンを出立してから十時間以上が経過し、空は橙色に染まり幻想的な景色を作り出した。そんな中三人は馬車を進ませている。予定ではもう着いているはずだったのだが、予想外にも大量のモンスターの襲撃に遭ってしまい、遅れてしまったのだ。


 モンスターにいつ襲われてもすぐに対応出来るようにしていたのだが、思っている以上に集まってしまったので、若干対応が遅れてしまったというのもある。三人とも無傷で乗り切ったが。


 そんな訳で、まだガタガタと馬車に揺られているのだ。


「あ、村が見えてきましたよ」


 運転席に座っているユリスがそう言い、悠一が顔を覗かせる。確かに数百メートル先に村への入り口となる門が見える。だがここで、なんだか違和感を感じた。


 遠距離視認魔法を発動してみると、壊れてはいないが非常にボロボロな状態だった。モンスターの襲撃を退き続けていたと言えばそれまでだが、どうもそんな感じではない。これは何かあったなと確信し、真剣な表情になる。


 門が見えてから数分して馬車は、村の門の前に到着した。何かしらの仕掛けが施されているのか、近付いたら勝手に門が開いた。ユリスに聞いてみると、推測でしかないそうだが人間の魔力に反応して開いているのかもしれないそうだ。


 防御を固めるためにそういったからくりのある村や街はあるそうなので、もしかしたらここの村の門もその類かもしれない。門を潜って中に入ると、勝手に門が閉まった。面白い仕掛けだなと思って村の風景に目を向けると、絶句した。


 いくつかの建物が破壊されており、誰一人として村の中を歩いていない。


「どうなっているんだ……?」


 馬車から降りて、悠一はそう呟く。誰もいないのかもしれないという線を考えたが、索敵魔法を使ったら反応があった。全て無事な建物の中からだったが。無事と言っても、大きな傷が刻まれていたり穴が開いていたりしているが。


「これは……、もしかしたらモンスターの仕業かもしれませんね」


 馬車を止めて運転席から降りたユリスが、そう口にする。なるほど確かにその線が濃厚だろう。建物についている傷は、どれも人間が付けることが出来なさそうな物だ。鋭い武器ではなく、爪か何かで付けられた物だ。


 そうなると、村の人たちは襲撃した来たのであろうモンスターに怯えて、家に閉じこもっていることになる。まだこれが確定している訳ではないので、ちゃんとした情報を聞き出したい。そう思って周囲を見回していると、一軒の家の扉がゆっくりと開いた。


 そこから出て来たのは一人の男性だが、体のあちこちに包帯を巻いて手当てをした後がある。そしてその男性が悠一たちの姿を見ると、突然嬉しそうな表情になる。


「み、皆! 冒険者が来てくれたぞ!」


 嬉しそうな表情になったすぐ後、そう大きな声で叫ぶ。それを皮切りに次々と家から人が出て来た。その全員は、希望を見つけたかのような表情をしている。悠一たちは、何が何だかさっぱりわからず頭にはてなマークを浮かべる。


 その間にかなり多くの人たちが、三人の周囲に集まって来た。何がなんだか分からないので、興奮している人たちを一度落ち着かせてから話を聞くことにする。


 村人たちの話によると、ここ最近大型のモンスターが村を襲撃するようになったらしい。そのモンスターは今まで見たことのないような姿をしており、元冒険者のお年寄りによると明らかに新種とのこと。一瞬グラトニアを想像したが、四足歩行のモンスターだと言っていたので奴ではないことは確定した。


 姿は全身は赤い鱗で覆われており、背中には白い鬣があり頭部には四本の黒い角が生えている。脚には非常に鋭い爪が生えており、尻尾も先端が鋭い剣のようになっている。目は血のように紅く、大きさは目測で七メートルほどはある。想像すると、翼の無い竜の様だ。


 この村に滞在していた冒険者が倒そうと立ち向かったそうだが、攻撃は殆んど通らず返り討ちにされてしまったそうだ。何とか帰って来たが重傷を負っており、手の施しようがなかった。それでも最低限の治療はしたのだが、結局命を落としてしまったとのことだ。


 それから何度もロスギデオンや組合に救助申請を送ったのだが、今の今まで誰も来なかったのだそうだ。毎日恐怖に怯えて夜も眠れなかったようなので、悠一たちが来て嬉しくなったのだそうだ。


「お願いします! 何でもしますので、どうかあの怪物を倒してください!」


 最初に寄ってきた男性がそう言うと、腰を直角に曲げて頭を下げる。話に出て来たモンスターの恐怖を思い出したのだ、体が小刻みに震えている。見回すと周囲の人たちからも注目されており、全員が希望に縋るかのような目をしている。


 中には年齢一桁の子供もいる。そしてその子供も、期待するかのような目で見ている。これだけの数の村人たちにそんな目で見られれば、悠一も断る訳には行かない。そもそも断るつもりなど無いが。


「分かりました。その依頼、受けましょう」


 悠一ははっきりとした声で、そう言った。

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