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66 次の街に向けて

 シルヴィアが武具屋の店長に、新しい杖を作ってもらうように依頼してから三日が過ぎた。太陽が昇って朝日が差し込んでいる街中を歩いて行き、一同は武具屋に歩いていく。街には冒険者や朝早くから準備している店の人しかおらず、閑散としている。


 と言ってももう少し時間が過ぎれば多くの人が出て来て、活気付くわけだが。最近朝早く起きるのが習慣になっている為、シルヴィアは少し眠そうだが前ほど酷くは無くなった。まだすぐに戦えるような状態ではないが。


 少し歩いて武具屋に着くと、もう既に回転の看板が店先に置かれていた。


「おう、もう来たのか。早いな」


 扉を開けて中に入ると、煙草を咥えている店長が声を掛けた。


「朝から煙草吸ってて、体に悪くはないんですか?」


「そう言われても、これはもう習慣になっちまってるからな。今更止められねぇよ」


 カラカラと店長は笑う。


「体に悪いので、少しは控えた方がいいと思いますけどね」


 習慣になってしまった以上口出ししても意味はないが、それでもそう言わずにはいられなかった。


「お嬢ちゃんの杖はもう出来上がっている。ダメになった杖も、ブレスレットに作り替えてある。あんたらが持ってきた素材と組み合わせて作ってあるから、保有魔力量の絶対値も上がって杖の替わりにもなるようになっているぜ。少し待ってな」


 店長はそう言うと一度店の奥の方に消えていく。少ししてからシルヴィアが持つのにちょうどいい長さの杖と、螺旋状のブレスレットを持って戻って来た。杖はシルヴィアの髪の色と同じで真っ白で、内包魔力量が多かった。


 螺旋状のブレスレットは半分が前に使っていた杖から作られ、もう半分が悠一たちが持ち込んできた素材だった。魔力が零れないか心配だったが、申し訳程度に付けられている宝石を見て、あれで魔力を抑えているのだなと理解した。


「この杖とブレスレットを併せて、274100ベルだ。と言いたいところだが、特別だ。半額の137050ベルにまけてやる」


「い、いいんですか!?」


「あぁ。お嬢ちゃんの使っていた杖を見た時、十年も持った理由が分かったんだ。毎日毎日、欠かさず手入れをしていたみてぇだな。最近はあまりできていなかったっぽいが、それでもあれを大切に使ってきたのが分かった。ここまで杖に思い入れる魔法使いは中々みねぇし、それにあんたらならいつか名の知られた冒険者になりそうだ。こいつぁただの職人としての勘だがな!」


 店長はガハハと大きな声で笑う。魔法使いの杖をよく知らない悠一でも、シルヴィアの新しい杖は一級品であることは分かる。ブレスレットもそうだ。なので二十万越えしたとしてもおかしくはないと思った。なのに、それを半額にしてくれた。


 新しく強力な装備を安く手に入れられるのはいいことなのだが、一生懸命作ってくれた物を半額にまけてもらうのは少々悪い気がする。


「本当にいいんですか?」


「構わねぇよ。あんたらが有名になったら、ここの武器を使っているって知られる。そうすりゃ繁盛するだろうし、願ったり叶ったりだ。半額になった分は、そん時に稼がせてもらうよ」


 ニッと人当たりのよさそうな笑みを浮かべてそう言う。それを見た三人も、つい頬が緩んでしまう。


「分かりました。では、137050ベル払います」


「おう、毎度! 少し待ってろや」


 シルヴィアから冒険者カードを受け取り、カウンターに置かれている清算用魔導具でお金を引き出す。きっちり言った通りの料金を引き出し、それをシルヴィアに返す。


「ところで気になったんだがよ。あんちゃんのその剣、おもしれえ形をしているな。ちょっと見てもいいか?」


「いいですよ。どうぞ」


 悠一はそう言って、鞘ごと店長にそれを渡す。刀を受け取った店長はそれを興味深そうに見つめてから、鞘から抜いて刀身を見る。すると鋭い目付きで刀身を見つめる。


 その眼は職人の目で、どうやって作ったのだろうかを見極めようとしているようだった。一度起ち上がってから刀を何回か軽く振り、満足したのか鞘に納めて悠一に返す。


「こいつぁすげぇ剣だな。四属性も付与されていて、強度が上がる魔法まで掛けられてやがる。兄ちゃん、あんたこれどこで?」


「エルフの里です。前に防衛クエストを受けた時に、達成した時の報酬として村長のアーネストさんから貰ったんです。里に来た行商人から買い取ったそうですよ」


「なるほどなぁ。これだけの業物が行商人が持っているのは不思議だが、まあ別にいいや。兄ちゃんもこれを相棒として大切に扱っているのが分かる。ただ、手入れがちょっくら雑なところがあるみたいだ。何なら、今ここで手入れして行くか? 料金は取らねぇから安心しな」


「そこまでしなくても……」


「俺は鍛冶屋でもあるからよ、どうしても気になっちまうんだ。せめて、少し研ぐくらいはさせてくれ」


「……分かりました」


 悠一がそう言うと、店長は嬉しそうな笑みを浮かべる。武具屋の店長であり鍛冶屋でもある彼は、武器を見ると興奮を抑えられないようだ。


 その場で刀を鞄の中に仕舞ってある手入れ道具で分解して、刀身を渡す。キラキラと子供のように輝かせた眼で刀身を見てから、臆の方にある作業場の所に行ってそこで手入れを始める。特別に許可を貰って中に入り、悠一はやり方などを教えた。


 店長は呑み込みが早く、すぐに悠一よりも丁寧な手入れをしていた。それから砥石を使って刃を研いでいき、一時間ほどで完了してしまった。刀身を返してもらった悠一は元通りに組み立て直し、一度掲げてみる。


 さっきと違って刀身が綺麗になり、輝きが少し増している。


「俺が手入れするのと全然違う……」


「まあ、プロに任せればこんなもんよ」


 店長は二カッと笑いながらそう言う。悠一はここまでしれくれた店長に感謝した。


「本当にお金はいいんですか?」


「あぁ。構わねぇよ。ただ俺が手入れしたかっただけだしな」


「分かりました。ありがとうございます」


 悠一はそう言いながら納刀し、頭を深々と下げる。無料の手入れが終わりシルヴィアと悠一は改めて礼を述べ、店から出る。そして組合には行かず、馬車を借りる店に向かって行く。


 この街の組合のクエストだとあまりいいものが無いので、昨日次の街に行くことにしておいたのだ。二人もそれを了承しており、既に目的地は決めてある。次行く街は、海洋都市ヴェラトージュだ。二日前に何気なしに呟いて、変な誤解を招きそうになってしまったのだが。


 とはいえ二人も、海に近い街に興味はあるようだ。仕事をしない日は、のんびりと釣りでもするのもいいかもしれない。悠一も幼いころから、よく近くの川や釣り堀に行って魚を釣っていた思い出がある。高校になってからあまり行けていなかったので、久々にやってみたいなという気持ちが強い。


 ヴェラトージュはロスギデオンから馬車を使って、二週間ほど先の所にある。今まで行った街の中で一番遠いところだが、冒険とはそういう物だと内心ワクワクしている。


 十数分ほど歩いて、三人は店に到着する。すぐ横には小さな馬舎があり、そこに馬が十頭繋げられている。そのすぐ近くには荷馬車が十台留められている。


「いらっしゃい。おや、随分とお若いお客さんだねぇ」


 店に入るとそこには一人の中年女性が、カウンターに立っていた。白髪が混じり始めているが、まだまだ元気そうだ。


「恰好から察するに冒険者だね? どの街に行くつもりだい?」


「海洋都市ヴェラトージュに行こうかと」


「随分とまあ遠いところに行くねぇ。もしかして、隣にいる別嬪さん二人の水着姿が目的かい?」


「違います」


 女性はにやにやと黒い笑みを浮かべている辺りからして、揶揄っているのは一目瞭然だ。ここは必死になって反論するより、冷静にいた方がいい。


「別に隠さんでもいいのにねぇ。まあいいや。馬車は自分で運転することになるよ。海洋都市にうちの支店があるから、着いたらそこに預けておけばいい。二週間使う訳だから、お代は6920ベルだね」


 悠一は懐からギルドカードを取り出してそれを差し出し、受け取った女性は清算魔導具にそれを通してきっかり6920ベルを引き出す。


「はい、ありがとうさん。それじゃあ、旅を楽しんできなさいな」


 そう言う女性に対して頭を下げてから一度店を出て、馬を一頭馬舎から出して三人で協力して荷馬車に繋げる。そしてここで問題が発生する。


 悠一は自分が運転しようかと考えていたのだが、小学生の時に数回馬に乗ったことしかないので、どうすればいいのか分からない。シルヴィアとユリスに聞いてみると、シルヴィアはそもそも馬に乗ったことすらなかったが、ユリスは何回か使ったことがあるそうだ。


 そしてユリスは、悠一が馬車を扱えないと分かると少し嬉しそうな顔をして「ボクに任せてください!」と胸を張った。無意識にそれをやったため、大きな胸が少しだけ強調され顔が少し熱くなって視線を逸らした。


 悠一とシルヴィアは荷馬車に乗り込み、ユリスは運転席に座って手綱を握る。ユリスは早速馬車を走らせて、南門に向かって行く。南門に着くともちろんそこには門兵が立っていたが、止められることなくスルーしていく。


 門を潜り抜けて外に出ると、広大な草原が視界一杯に広がる。日本に住んでいたらこんな光景はめったに見られないなと思いながら、吹き抜けていく風を感じる。ロスギデオンの周辺にはそれほどモンスターが多く生息していないので、しばらくは索敵魔法を使わなくても大丈夫だ。


 仮に襲い掛かって来たとしても、特に問題はないが。


「海洋都市っていうくらいだから、海洋系のモンスターが多いのかな」


「確かそのはずですよ。海にしか生息していないモンスターもいますけど、かなり沖の方に行かないと見つからないみたいです」


「沖のほうねぇ……」


 それはつまり、そこにいるモンスターを倒すには海に入る必要がある。そして、海に入るには当然水着が必要になる訳で。悠一はシルヴィアとユリスの水着姿をまた想像しそうになってしまい、慌ててそれを頭の中から追い払う。幸い二人には気付かれなかった。


「しかし、海ですか~。一度行ってみたかったんですよね~」


「海洋都市は魚介類以外にも、観光地としても有名ですからね。その……恥ずかしいですけど、海水浴もしてみたいですし……」


 ユリスがそう言うと、悠一の正面にいるシルヴィアが顔を耳まで赤くして俯く。きっとユリスも同じように顔が赤くなっていることだろう。そしてユリスがそう言ってしまったため、思わず二人の水着姿を想像してしまう。


 長閑な雰囲気から一転して、物凄くいたたまれない雰囲気になってしまった。十数分後には話せるようにはなったが、それでも意識してしまい顔を直視することが出来なかった。

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