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63 相棒との別れ

「あなたたちは一体幾つ功績を上げるつもりなのですか……」


 森でゴロツキ六人を叩きのめした後、街に戻った三人はそのまま組合に直行した。というのも、戻っている最中に六人全員が目を覚まし、引き車の中で水揚げされた魚のようにバタバタしてやかましかったからと、その全員がシルヴィアとユリスに厭らしい眼で見ていたからだ。


 しかも下の部分が大分低いところにあるので、二人はスカートの中を覗かれてしまうのではないかと不安に思っていた。流石にそうならないようになってはいるが、それでも落ち着かなかったようだ。


 それに悠一もさっさと目障りな奴らを突き出したかったので、組合に直行して報告したのだが、案の定呆れられてしまった。


「ここのところ話題になっていた謎のモンスター、正式に【暴食のグラトニア】と命名されたモンスター、エルフの里を襲撃していた軍国ヴァスキフォルの元Sランク冒険者の【剣帝】のライアンの討伐、およびエルフの里の防衛。しかもそれはあくまでここに来てからの功績で、その前から既にダンジョンの攻略、新人狩り撃退、複数もの盗賊団の壊滅。普通登録して一ヶ月程度の冒険者は、ここまで功績を上げませんからね?」


 受付嬢は呆れた表情で三人にそう言う。彼女は組合に所属して数年程度だが、それでも数多くの冒険者を見て来た。中には登録したその次の日に亡くなってしまった、新人もいる。数年とはいえ、ある程度冒険者の強さは把握しているつもりだった。


 だが、今目の前にいる三人はどう考えてもおかしかった。左側にいるユリス・エーデルワイスは登録してから二年近く経っているので、彼女も大分早いがまだ納得は出来る。しかし悠一とシルヴィアは登録して一ヶ月ほどしか経っていないというのに、既にBランク冒険者、つまり上級冒険者の仲間入りを果たしている。


 かつて無いほどの早さでランクが上がって行くので組合の中では期待の新星と呼ばれ、冒険者の中では剣の頂点に立つ者のみに与えられる、【剣聖】の二つ名が与えられるのではないかと噂されている。


「そうは言われましても、このゴロツキとか新人狩りは向こうから喧嘩吹っ掛けてきて、それを撃退しているだけなんですけどね」


「アルバート・ハングバルクさんはともかく、この人たちはユウイチさんが、相手をワザと怒らせるような発言をしたから、襲い掛かって来たんですけどね」


 シルヴィアが若干冷めた目で悠一を見ながらそう言い、受付嬢は小さく溜め息を吐く。


「強いことには越したことはありませんけど、あまり危険なことに首を突っ込まないでくださいね? 過去に自分の強さを過信し過ぎてヴェスパードラゴンに挑んで、それで亡くなった方がいるんですから」


「それは流石にしませんよ。ヴェスパードラゴンって、SSランク指定の災害級のモンスターじゃないですか。そんな馬鹿な真似はしませんよ」


「そんな馬鹿なことはしないって言っておきながら、ちゃっかりキマイラを一体倒してきていますけどね……」


「まだ倒せる相手ですから。Aランクより上のモンスターとは戦いませんよ」


 ただでさえ自分と同ランクか一個上のAランクモンスター相手に苦戦しているというのに、調子乗ってその先に挑むのは自分でも自殺行為だと分かっている。ユリスもそのランクになるまでは、「下のランクの冒険者が戦う以前に、遭遇してはいけないモンスター」と、物凄い遠い眼をして言っていた。


 流石の悠一も、レベルが百を超えるかランクがS以上になるまでは、Sランクモンスターと戦うつもりはない。何度も言うが、思春期真っただ中なので同世代の女の子と楽しく仲良く話したりしたい年頃なのだ。


 とにかく三人は六人組のゴロツキを突き出し、森で狩ったモンスターの討伐部位や、使いそうにない素材を全て換金してから組合を出る。太陽は少し西側に傾いているが、もちろん外は明るく人でごった返している。


「さてさてさーて、そんじゃ早速武具屋に行くか」


「ですね。もう私の杖も限界みたいですし……」


 見るとシルヴィアの杖には目に見えるほど大きな亀裂が入っており、そこから微量だが魔力が漏れ出ている。中級魔法を一回発動させたら、その負荷で自壊してしまうだろう。そうなる前に街に戻れて、シルヴィアはほっとしていた。


 それと一緒に、少し悲しそうな顔をしていた。ここまでずっと使ってきた杖だったので、愛着が湧いているのだろう。共に戦ってきた相棒と分かれるのは、やはり寂しいようだ。


 聞くとシルヴィアの杖はまだ魔法を使い始めた時、つまり五歳の時から持っていたようだ。親に頼んで住んでいた街にやってきた行商人から杖を買い、その身の丈に全く合っていない長い長い杖で毎日魔法の練習をしていた。


 魔法を使って魔力を切らしてその場で気絶し、心配して探しに来た親に運ばれてこっぴどく叱られ、次の日から家の庭で魔法の訓練をし、魔力切れになる前に切り上げて夜はその杖を大事に抱えながら眠った。風呂や食事の時以外では、文字通り肌身離さず持っていたのだ。愛着が湧かない訳がない。


 そんな十年も使っていた杖が、ここに来てついにに自壊し掛けている。自分の宝物ともいえる杖がもうすぐ壊れてしまうという悲しみは、悠一にもよく分かる。


「そうだ。シルヴィア、その杖は大切な宝物なんだろ?」


「はい。ですので、壊れ掛けていて結構ショックですね……」


「ならさ、それを木製のブレスレットかペンダントにすればいいんじゃないか?」


「あ……」


 悠一がそう言うと、シルヴィアはどうしてそれに気付かなかったのだろうと思った。悠一の言う通り今の杖を装飾品に変えれば、杖ではなくなるが変わらず肌身離さず持ち歩けるではないか。どうしてこんなことに気付かなかったのだろうと自分を若干責め、武具屋に向かって行く。


 しばらく歩いて目的地に着き扉を開けて中に入ると、やはり魔法使いが多い街なので近接戦をするための武器は少なく、逆に魔法使い用の杖が多い。標準装備である長杖や短い短杖、中にはアクセサリータイプの物まである。


 続いてローブなども豊富に揃っており、どれも中々に良い物だった。しかし今悠一の着ているローブの方が性能がいいように見える。


「いらっしゃい。随分と若いお客さんじゃないか。どういった要件で来たんだ?」


「杖を作ってもらいに来ました」


「杖? 見た感じ、あんちゃんは剣を使うみたいだが……」


「俺のではなく、この娘の杖をですね。ヒビが入ってもう殆んど使い物にならなくなってしまったんですよ」


 悠一がそう言うとシルヴィアは前に出て、手に持っている杖を店主に見せる。すると彼は、驚いたように目を見開いた。


「驚いたな。まさかこんなところで巡り合うとはな」


「どういうことですか?」


「いや、何。お嬢ちゃんの持っている杖は、十年ほど昔俺が作った物なんだ」


 それを聞いて三人は、驚愕の表情を浮かべる。まさかこの人がシルヴィアの杖の製作者だなんて、思いもしなかったのだから。


「張り切って白輝大樹びゃっきたいじゅを使って作ったのはいいんだが、その時内包魔力が半分以下まで減っちまった失敗作になっちまってな。こんなものを店には出す訳にはいかないもんだから、どっかの行商人に売っちまったんだが……、まさかお嬢ちゃんが持っているとはな」


「どこかの行商人って、もしかして緑色の真ん中辺りから折れている尖がり帽子を被っている若い人ですか?」


「そうだが、もしかしてそいつから買ったのか?」


「はい。私がまだ五歳くらいの時に住んでいた街に来たので、その時に」


「随分と昔だな。そう思うと、よくもまあ十年も持ったもんだよ」


 店主はシルヴィアの杖を懐かしそうに見て、そう口にする。


「それで、確か新しい杖を作ってほしいんだってな? 素材は持ってきてんのか?」


「はい。これがその素材です」


 シルヴィアはそう言うと鞄の中から森から採って来た、かなり太い枝を取り出す。店主はそれを、興味深そうに見た。


「ほー、こいつは白慧賢樹はくすいけんじゅじゃないか。内包されている魔力も中々に上質だし、伝導率も高い。杖にするには打って付けだな」


 まだ布を外していないというのに、どんな木の種類なのかを言う店主。ぶっちゃけ悠一にはどれがどんな木なのか全く分からないので、名前を言われてもさっぱりだ。


 そんなことより、今の今まで気にしていなかったが内包している魔力を今はこうして布で漏れないようにしている訳だが、外してしまったら漏れ出てしまう。ならば、どうやって杖にするのかが気になって来た。


「内包した魔力をそのままにして杖にするにはどうすればいいんですか?」


 気になったので、思い切って店主に聞いてみた。


「流石に全部の魔力をそのまま残すことは出来ないが、作る前に内包魔力が外に出ないように表面に一回俺の魔力でコーティングをするんだ。その状態で削って行って、それで形が出来上がったら紙やすりやら弾やらで滑らかにして、その後に漏れ出ないように先端部分に魔力を内部に留めておくための宝石を取り付ける。それでようやく完成だ」


 魔力を内部に留めておくための小さな宝石を着ける理由は、内包魔力量の高さその物が伝導率に直結しているからだ。あと、魔法を使用して行くごとで減って行くが、大気中にある魔力か自身の魔力を流し込めば補充することが出来る。


 その時、元々内包していた量が最大値になるので、多ければ多いほど長持ちする。それがだんだん減って行くことで耐久値も下がって行き、無駄が多くなり、最終的には自壊してしまう。なので、魔力を留めておくための宝石は、無くてはならない必需品なのだ。


 その説明を受けて悠一はなるほどと納得し、刀作りと同じくらい面白いなと思った。自分の短杖もついでに作ってもらおうかと考えるが、大気中の魔力を自分で集めて強力な物理現象を引き起こすので、別に要らないと判断した。


「それで、作るとしたらどれくらいかかりますか?」


「そうだな……、三、四日ってところだな。それまで代用品でも使っておくか?」


「いえ、大丈夫です。それと、この杖を装飾品か何かに作り替えて貰えますか?」


「十年間使い続けた相棒だから、離れるのが寂しいってか?」


「はい……。お願いしてもいいですか……?」


 ちょっぴり頬を赤くして、シルヴィアは店主に頼む。それを聞いた店主は、小さく微笑んでカウンターに載せられている布に包まれた太い枝と、シルヴィアの杖を手に取る。


「杖の形はこれと同じでいいな? そんで、こいつはブレスレットにでもしておくよ。三日後に取りに来な。料金はその時に払ってもらうぞ」


 そう言った店主に、シルヴィアは嬉しそうに表情をパッと明るくさせる。


「ありがとうございます!」


 シルヴィアは腰を曲げて深々とお辞儀をし、それを見た店主は苦笑しながら店の奥の方に消えていった。本当に嬉しそうにしているシルヴィアを見て、悠一とユリスは思わず笑みを零す。一緒に戦っている冒険者だが、やはり歳相応の女の子らしい可愛いところもある。


 そう言ったところに思わず意識してしまうことが多いのだが、こうして彼女が喜んでいるところを見ていると、自分も少し嬉しい気分になってくる。やはり仲間というのはいい物だなと、心の底から思った。

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