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62 成敗

なんとか時間を作れたので、書き上げることが出来ました! 多分次はテスト終了した後になると思いますけど……。

 腹に柄頭を叩き込まれたモヒカンヘアーの男は、よろよろと立ち上がる。悠一との実力の差は、ドーピングをしてもはっきりとしている。どう足掻こうが、対等に渡り合うことなど出来ない。ほんの僅か剣を交えただけでも、それだけの差があると見せつけられ理解する。


 しかし、それでもなお男六人は諦めていなかった。どうにかシルヴィアとユリスを手に入れて、ついでに悠一の持つ瞬爛も手に入れ、それを使って次々とクエストや強力なモンスターを倒して知名度を上げる。そうすれば勝手に女が寄って来るし、組合もランクを上げてくれるだろう。


(とか、そんなくだらないことでも考えているんだろうなぁ……)


 何を考えているのかを表情だけで読み取り、やれやれと溜め息を吐く。よくに溺れて戦っていれば、すぐに限界がやってくる。何しろ、その欲が満たされてしまえばその先に行こうとしなくなり、人間にしかない無限の可能性が閉ざされてしまう。


 悠一はどんな強敵がやって来ても大切な仲間と、ついでに自分の身を守れるために戦っている。それに対して六人組は、全員ただただ私利私欲、自分たちの願望の為だけに戦っている。別に欲で戦うのは悪いと言っている訳ではないが、それでは中々強くなれないのだ。


 悠一はもう一度溜息を吐いてから、地面を蹴って間合いを詰めて刀を振るう。全員は薬でドーピングしている為力と速さは上がっているが、それに頼ってしまっている為動きや太刀筋は前よりも酷くなっている。今はもはや、がむしゃらに剣を振るっているようにしか見えない。


 動ける四人は自信満々な表情をして剣を振るっているが、悠一にとっては欠伸が出るような剣だった。ただ受け流して反撃を叩き込むタイミングを伺っていると、視野外から攻撃が仕掛けられた。刀を振り上げてそれを弾き上げそれを見ると、さっき赤毛の男の投げたナイフが肩に刺さった槍使いだった。


 ポーションを使ったのか傷は塞がっており、槍による連撃を叩き込んでくる。しかし突きの瞬間切っ先が大きくぶれているので、あまり使い慣れていないのだろうと判断し半ばから斬る。


「はぁ!?」


 容易く槍を半ばから斬られた男は声を上げ、一瞬だけ足を止めてしまう。その隙を見逃すはずも無く、峰打ちを頭に叩き込む。頭に強い衝撃を受けた槍使いの男は、白目を剥いてその場に倒れる。


「エリオット!?」


「くっ! よくもエリオットを!」


 エリオットというらしい槍使いが倒されると、全員憤怒の形相をして襲い掛かってくる。攻撃も全て大降りになり、太刀筋もより滅茶苦茶になる。それを見たシルヴィアとユリスは、悠一の勝ちを確信した。そもそも悠一以下の実力なのに、剣での勝負に勝てるはずないのだ。


 振りがどうしても大きくなってしまう長刀でも、片手剣と同じくらいの速さで振るうことが出来る。高レベルのならなければ出来ないそれを軽々としている悠一に対し、残った四人は剣の技量というより持っている武器の強さに甘えているところが強い。


 今朝悠一の言った通り、何の特殊効果の付与されていない武器一本でどこまで行けるかを突き詰めたことが無いので、どれだけ言っても変わらないだろう。悠一はそれ以前に、魔法という力が無い前世で鍛錬を積んでいるので、ただの一本の剣、ただの一振りをかなり突き詰めている。それでも宗家である父親には全く歯が立たないのだが。


「死ねぇぇぇぇえええええええええ!」


 大剣を持った茶髪の男がそう叫びながら振り下ろしてくるが、軽く受け流す。


「五十嵐真鳴流組討剣術―――屠毘嘴離とびばしり


 踏み込みざま刀を右へ薙ぎ、返す刀で右袈裟、柄頭を腹に叩き込み右側頭部に回し蹴りを叩き込み、左手で掌底を顎に叩き込む。顎をやられた男は少しその場でふらふらと動いたが、その後いと限れた人形のように地面に倒れた。


 顎に叩き込んだ掌底で、脳震盪を起こしたのだ。脳を揺さぶられれば、どんな人間でも立っていられない。また一人仲間がやられたので残った三人は更に激昂し、がむしゃらに剣を振るってくる。悠一はそれを全て軽く受け流し、大振りの一撃の後で体勢を崩したところに反撃を叩き込む。


 だがその反撃はギリギリのところで躱されて、お返しと言わんばかりにモヒカンヘアーの男が回し蹴りを繰り出して来た。バックステップでそれを躱し、無数の氷の刃を構築してそれを飛ばす。ドーピングしている彼らは辛うじてそれをやり過ごし、一気に間合いを詰め込んで力任せに剣を振り下ろす。


 剣を受け流してそのまま攻撃を仕掛けるが、体を仰け反らして無理矢理躱す。後ろに回り込んでいた赤毛の男はエストックを突き出してくるが、体をくるりと回転させながらそれを躱し側頭部に回転した時に左手で腰から抜いた鞘を叩き付ける。


 赤毛の男は目をグリンと上に上げて白目を剥き、地面に倒れた。また一人やられ再度飛び掛かってくると思った悠一だが、すぐに違うと分かった。残った二人はまた注射器のような物を取り出して、首筋に刺して中のブースタードラッグを注入する。


「……そんなにやって、体が持たないんじゃないのか?」


「うるせぇ! 今から殺される奴なんかに、心配される筋合いはねぇ!」


 モヒカンヘアーの男がそう言うと左手を前に伸ばす。すると、周囲の木の魔力で感知しにくいが、周囲の魔力があの男に集中して行くのが分かった。それが魔法だと気付いた瞬間には魔法陣が出現し、そこから雷が放たれる。


 咄嗟に鋼の盾を作り出すが、一回防いだだけで大きなヒビが生じた。


「へ……へへ……、こいつぁすげぇや……。この薬を使えば、俺たちは魔法が使えるようになるってのは、本当のことだったのか……」


「これとあと、あの小僧の魔剣があれば、俺たちは最強だ……」


 口の端から涎を垂らし非常に危ない、完全に逝っちゃってる笑みを浮かべる。だが、それよりも気になる言葉があった。


 彼らは確かに、「この薬を使えば、俺たちは魔法が使えるようになる」と言っていた。それはつまり、彼らは元々魔法が使えないということになる。だというのにあれを投与した瞬間、早速雷魔法を放ってきた。


 これは裏の方で何かがあるなと半ば確信して、全員生け捕りにして組合に突き出すことにした。


「シャァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」


 莫大な魔力を周囲から一気に掻き集めてそれを体に纏わせ、身体強化を施す。掻き集められた魔力量は上級魔法を使う量とほぼ同等で、それだけの魔力を使った身体強化は強力だが使用者にも負担が大きい諸刃の剣となる。


 モヒカンヘアーの男はその諸刃の剣にもなる身体強化で体のリミッターが外れ、人外の力と速さを手に入れる。剣を受け止めるが力が強く、押し切られてしまう。回し蹴りを胴体に食らわせるが、吹き飛ばされていない。


「効かねぇなぁ!」


 弓のように引き絞り突き出してきた拳を躱すが、しかしそこから生じた衝撃波で体がよろめく。予想以上に身体能力が上昇していることに驚き、その場から距離を取る。しかし一足で間合いを詰め込まれ、鍔迫り合いに持ち込まれる。


 そこに茶髪の二刀使いが背後から襲い掛かってくるが、ユリスが魔法を発動させて牽制する。それらは剣で斬り伏せられていたが、全部斬り伏せられる前に鍔迫り合いをしていた悠一が足だけに身体強化を掛けて、モヒカンヘアーの男の腹を蹴る。


 流石に強化された足でけられるとダメージが入るらしく、五歩下がる。そこに圧縮したガスによる爆発を引き起こし、追い打ちを掛ける。その直後回転しながら刀を振るい、二本の剣の斬撃を全て受け流す。反撃を叩き込もうとすると、目の前に巨大な魔法陣が出現し、咄嗟に【縮地】で上に跳んで回避する。


 魔法陣から放たれたのは無数の氷の槍だが、込められている魔力量が尋常ではない。やり過ごせない数ではないが、確実に大きな隙になるだろう。


「あまり使いたくはないんだけど、出し惜しみしている場合じゃねぇな!」


 飛来してきた魔法を【縮地】でやり過ごして地面に降り立ってそう叫ぶと同時に、意図的に極限の集中状態に突入し、脳内の情報処理速度を劇的に上昇させる。その瞬間、悠一の世界はほぼ止まっているように見えた。そして何でも出来るといった万能感を感じた。これが五十嵐真鳴流の『修羅の境地』だ。


 体への負担もある為長時間、および連続使用は出来ないが、それを使っている時はほぼ敵なし状態だ。それでも勝てない父親は一体何だったのだろうかと疑問に思うところがあったが、とにかく今の状態の悠一に勝てる人間は同じ状態になった同等の剣士しかいないだろう。


 悠一は刀を上段に構え、地面を蹴って間合いを詰め込む。右袈裟に刀を振り下ろしてモヒカンヘアーの男を斬り、続いて背後にいる男の方を振り向き走り出す。周囲に魔法陣がいくつか出現していたがそれをまとめて分解し、それと一緒に投げ放たれていたのであろう暗器を刀で弾き飛ばす。そして間合いに入り込み、両腕両脚の健を断ち斬り刀を左へ薙ぐ。


 攻撃を終えて『修羅の境地』を解除すると、世界が元通りの速さで動き始めた。


「は?」


「あ゛?」


「え?」


「ぅん?」


 その瞬間男二人とシルヴィアとユリスが、間抜けた声を上げる。無理もない。気付いたらいつの間にか、男二人が斬り伏せられているのだから。そして斬られた当人たちも、何が何だか理解していないだろう。


「薬物を使ってそんな力を得るよりも、必死になって努力して大きな力を持つ方がずっと強いんだよ。覚えておけ、ゴロツキ共」


 その台詞と同時にようやく斬られたのだと理解した男たちは、声も上げずに地面に倒れた。悠一は刀を振るって血を落とし、鞘に納める。それと同時に、僅かな疲労感が襲ってくる。以前であればもっと疲れていたはずなのだが、今は少し疲れた程度になっていた。


 やはりこの世界に来てレベルという概念があり、それがガンガン上がって行ったおかげなのだろう。これならば、もっとレベルを上げればもっと長時間使用することが出来るかもしれない。そう思うと胸が少し踊ったが、振り向いたら唖然としたシルヴィアとユリスがおり、どう説明するべきかと思考をフル回転させた。


 一応『修羅の境地』はネタを明かしてはいけないというルールがあるので、説明しろと言われても出来ない。ただ極限まで集中して脳内処理速度を爆発的に加速、その結果世界がほぼ止まっているように見えるのだ。


 人間は極限の集中状態『ゾーン』に意図的に入ることは、不可能ではないが難しいと言われている。スポーツ選手も日常的にイメージトレーニングや思考の単純化、一つにだけ集中などをしている為、『ゾーン』に入りやすい。


 『修羅の境地』は、多対一を想定した技の多い五十嵐真鳴流の中にある、数少ない一対一の技である。なので普通であれば二体一や多対一では真価を発揮しないが、悠一は複数の敵を一つの敵と認識することで、それを可能にした。


 長時間の使用はまだ出来ないけれど、それでも前世の頃よりも長く使用することは出来る。そのことにちょっと浮かれてはいたけれど、シルヴィアとユリスの顔を見てすぐに冷静になった。


「ユウイチさん、一つ質問いいですか?」


「何かな、シルヴィア」


「今、どんな動きをしたんですか? 素早さが高いユウイチさんでも、ほぼ同時に二人何であり得ませんよ」


 やはり聞いてきた。素直に話したいのだが、あの技についてはネタ明かしをしてはいけないので、どう説明するべきかを考える。


「俺はただ、身体強化と【縮地】を同時に使っただけだよ。そうすれば素早さもずっと跳ね上がるし、そんな芸当も可能になるよ」


 だが以前考え付いた言い訳意外にいいのが浮かばず、そう口にする。しかし、二人は疑り深い表情で悠一を見ている。じっと見つめられて、思わず心臓がドキドキしてしまう。


「……はぁ、ユウイチさんがそう言うのであれば、そう言うことにしておきます」


 たっぷり十数秒間見つめられ続けたが、やがて諦めたかのようにシルヴィアが溜め息を吐きながらそう言った。そのことに気付かれないように、ほっと安堵の溜め息を吐いた。


 ここは異世界なのでここに来てまでも、父親に言いつけられていたことを守る必要はないのだが、どこで誰が話を聞いているのか分からない。『修羅の境地』について話している時に誰かが近くで聞いていて、その人が敵として前に立った時に非常に面倒なことになってしまう。


 そうなりたくはないので悠一は、この異世界に来てまでも言いつけを守ることにしたのだ


「さて、それよりもこいつらをどうするか」


 地面に転がっている六人のゴロツキ共を見て、悠一はそう呟く。数多くの冒険者のクエストを横取りして、女性冒険者に対して数多くのセクハラ行為をして、挙句の果てには薬物に手を出していた。流石に自分たちの判断で処分する訳にはいかないので、街まで引っ張っていくことにした。


 引き車を構築してその中に手足を縛って動けなくした六人を放り込み、ゴトゴトと音を立てながらその場から歩き出す。最深部にまで来ていたがそこに生息しているヒュドラとは相対することは無かったので、悠一たち三人は内心ほっとしていた。


 もしヒュドラと遭遇していたら、まず無事ではいられない。よしんば倒したとしても、魔力の殆んどを消費して体もボロボロになっていただろう。はっきり言うとダークグラディアトルやグラトニアよりも強力なので、戦いたくはないモンスターなのだ。


 ある程度モンスターを狩ってシルヴィアの新しい杖の素材となる物も手に入ったので、悠一たちは達成感に溢れていた。

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