表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/99

61 最深部で戦闘開始

 森に入ってから三時間ほどが経過した頃、三人は最深部付近までやって来ていた。この付近ともなると強力なモンスターが多くなってきたが、どうしてもダンジョンや他の場所と比べてしまうので、大したことが無かった。


 キマイラもあの後二体遭遇し、一体は四つの動物を無理矢理くっつけたかのような歪な化け物で、もう一体は顔が山羊で胴体が獅子、尻尾がさそりの奴だった。歪なキマイラは動きが鈍く倒しやすかったが、もう一体は動きこそ鈍いけれど蠍の尻尾と獅子の足による攻撃が厄介だった。


 特に蠍の尻尾は死角から攻撃してくるので、防御範囲を広げておかなければ確実に殺されてしまう。シルヴィアとユリスの魔法もそんなに効かなかったし、倒すには上級魔法を連続して何発も撃ち込むか、悠一が刀で斬り付けた時だけに分解が発動するようにした攻撃でなければいけなかった。


 シルヴィアは今の杖の都合上強力な魔法は使えないが、しっかりとサポートはしてくれた。危険だと思った時に防御魔法を張ってくれたり、身体強化魔法を掛けてくれたりなどだ。シルヴィアがサポートに徹してくれたおかげで、蠍の尻尾を持ったキマイラを倒すことが出来たのだ。


 今現在三人は、最深部に入り込む前の腹ごしらえをしている。今まではフィールドやダンジョンではずっとサンドイッチだったが、毎日それだと飽きが来てしまうので今日は違う物にした。


 と言っても作っているのはハンバーガーである。パンも買ってあるし肉はワイバーンの物がある。食材がきっちりと集まっているので、試しに作ってみることにしたのだ。後は調理器具を取り出して、フライドポテトも作ってみた。ファーストフード店のように細い物は作れないので、少し分厚い物になっているが。


 モンスターが寄ってこないかと二人は心配していたが、組合で見つけた匂いを吸収する魔導具を使っているので、問題ないと安心させた。その結果、


「これ、凄く美味しいです~!」


「シャキシャキとした野菜にワイバーンのお肉を贅沢に使ったハンバーグ、それを二枚のパンで挟んで食べるなんて、本当に豪華ですよ~!」


 予想以上に喜ばれた。ユリスはパティをハンバーグだと勘違いしているようだが、ここはあえて何も言わないでおくことにした。ハンバーグという料理がこの世界にあったのは驚いたが。


 ボリューム満点のオリジナルバーガーを美味しそうに頬張り、大きな皿に大量に盛られているフライドポテトを摘んでいく。野菜油を使用しているのでさっぱりしていて脂っこくなく、塩味が程よく聞いている。自分でも中々美味く出来たと、自画自賛する。


 ハンバーガーはパティがまだちょっと不格好だしチェーン店程美味くはないが、二人が喜んでいるので良しとした。ここにコーラと言った炭酸飲料があれば最高なのだが、生憎この世界にはそんなものはない。作ろうにも、作り方を知らない。


 再構築魔法を使えば作れなくはなさそうだが、何だが少し怖いので止めておいた。魔法で作った水を飲むと、何かしらの影響があると思ったのだ。どうやったらあんな炭酸飲料を作れるんだろうかと考えていたら、ハンバーガーを平らげた二人はパクパクとフライドポテトを食べていく。


 少し大きめに作ったのだがあっさりとそれを平らげ、更にはポテトをどんどん食べていく。あんな細い体のどこに食べ物が行くんだろうかと、若干気になった。自分の分が無くなる前に悠一もハンバーガーを平らげ、談笑しながらポテトを摘んでいく。


 やがて全部のポテトを平らげ、皿を片して少しだけ休憩する。食べてすぐに体を動かすと腹が痛くなるし、食べたものが逆流してくるかもしれないからだ。そうなりたくないので、三十分程のんびりすることにしたのだ。


「はぁ~、美味しかったですぅ~」


「やっぱりユウイチさんって、お料理が上手なんですね!」


「俺なんかまだまだだよ。俺は家にいる時も気まぐれて作ったりした程度だし、それなりの物は作れるけどずっとやっている人と比べると、ね」


「そんなことないですよ! ユウイチさんのお料理は、お店に出てくるのと同じくらい美味しいです!」


 流石にずっと料理をしている人と比べてはいけないと思ったが、意外とそうでもないようだった。そしてここ前世よりもあまり発達していない、異世界であることを改めて実感する。あまりこの世界の世界観を壊したくないので、前世の知識を使った物は控えることにした。


 二人には既に結構色々知られているし、刀は組合の人や様々な冒険者などに知られているが。だがそれは本当に些細な物なので、人の生活に思い切り根付くような物は絶対に作ったりしないと決める。


「こんなにお料理が上手なのに、お店を出そうとは思わなかったんですか?」


「今は毎日しているけど、元々は気まぐれだったからね。それに生活も掛かってくるから、最初に酷い苦労をするより自分の持っている力を活かして危険だけど、より安定した暮らしが出来る冒険者の方がいいと思ったんだよ」


 本当は無一文でただ生活の為のお金を稼ぐためになったのだが、もちろん二人には異世界から来たってことは伏せてあり、名前すらないようなド田舎から来たってことになっている。しかしいくら田舎でもお金くらいはあるので、冒険者になった理由の一つを話すと二人に話したことと変わってしまう。


 なので適当な言葉を並べて、誤魔化したのだ。いつか、今もそうだが今よりもずっと信頼出来る仲間になった時には、このことを話そうかどうかを悩んだ。だが今考えても仕方のないことなので、すぐにそれを頭の隅に追いやる。


 そんな話をしてからまた他愛のない談笑をして、約三十分後に探索を再開して最深部に足を踏み入れた。最深部は他と違って一番魔力が濃く集まっており、それ相応の魔力量がないとこの魔力量に中てられてしまい、耐えられなくなってしまうだろう。


「凄いな、ここだけこんなに魔力が集まっているのか」


「どのフィールドもそうですけど、ここはこの魔力の恩恵を受けるモンスターの数が少ないから、こんな風に魔力が多く溜まってしまったんだと思います」


「俺は大気中にある魔力を集めて魔法を使えるけど、これだけ多いと感覚が狂って威力や強度がバラバラになりそうだな。少しここを探索した後に帰るか」


 そう言ってから、最深部の探索を開始する。いつモンスターが襲ってきてもいいように瞬爛の柄に手を掛けておき、絶対防御範囲を広げていつでも抜刀出来るようにする。


 シルヴィアとユリスはしきりに周囲を見回し、警戒する。索敵が機能しない分、自分の目で索敵するしかないのだ。小さな音だけでも過剰に反応してしまう程警戒しており、二人は怯えているようにも見える。


 二人共上級魔法、片や戦略級魔法を使える魔法使いとはいえ、結局は年頃の女の子。どこにモンスターがいるのか分からない状況になると、どうしても怯えてしまうのは仕方がない。これは二人に絶対防御範囲の技術を教えるべきかと考えた時、何かが入り込んできた。


 すぐさま抜刀して上から垂直に振り下ろす。でないとシルヴィアたちを自分の手で傷付けてしまうからだ。振り下ろされた刀は、範囲に入り込んできた何かを弾き飛ばす。


 弾き飛ばしたそれは、投げナイフだった。表面に何か液体のような物が付いており、何かしらの毒であると判断する。そして確実にシルヴィアを狙ったものだったので、動けなくする麻痺毒が塗られていると確信する。


「そこに隠れているの、出てこい」


 誰もいない方向に向かってそう言うと、少しの静寂の後六人の男たちが木の陰から出て来た。その六人は、今朝悠一が組合で武器を破壊して無力化したゴロツキたちだった。


「完全な死角からの攻撃、しかもお前を狙った訳でもないのによく分かったな」


「特殊な技術を持っていてね。それのおかげで守ることが出来たんだ」


 前に出てきたモヒカンヘアーの男は、挑発的な笑みを浮かべる。


「こんだけ近くにいたってことは、俺たちがこの森に入り込んだ時、もしくは街からずっとつけていたな?」


「あぁ。俺らはお前に剣を折られたけど、鞄の中に予備があってな。お前たちが組合を出た時からずっと尾行していたのさ」


「あの時のアルバートとは違って、気配を感じなかったな。……なるほど、魔法か」


「ご名答。闇属性魔法にある物でな、存在を絶対に悟られないっていう隠密魔法ってのがあるんだよ。それのおかげでお前さんに気付かれずに、ここまで付いて来れたって訳よ」


「ついでにモンスターにも気付かれずに、な」


 全く気配を感じることが出来なかったのは魔法のおかげだというのはすぐに理解したが、まさか隠密魔法という物があるとは驚きだった。存在を絶対に悟られない、完全なる隠密。これが使えれば、暗殺し放題だ。


 これはあくまで視界の中に存在を悟られない、認識されないという魔法なので、そこにある物を刺激として認識し脊椎反射による攻撃が出来る悠一の前では、殆んど無力だ。唯一の弱点と言えば、脊椎反射でも間に合わない攻撃をされた時だけだ。それ以外では、圧倒的な防御力を誇る。


「それにしてもその剣。さっきキマイラやジェノサイドコンガと戦っているところを見たけど、やっぱり一級品の魔剣だったみたいだな」


 魔剣とは、ただ単に魔法の込められた剣の総称である。魔法剣とも呼ばれている。そして魔剣は数がそれほど多くは無く、希少で強力な物が多い。特に複数属性が付与されている物は名のある刀匠が打った物で、その剣は一本だけでも数千万ベルはする。


 なのでそんな剣を持っていると、こういったゴロツキや盗賊に狙われやすい。奪って売り捌けば、莫大なお金が手に入るからだ。


 六人の男たちはお金には困っていないが、ただ強い武器が欲しいのだ。強い武器があれば、どんな強力なモンスターが襲ってきたとしても生き残れると、本気で信じているのだ。仮に持っていたとしても、その武器の特性を活かせなければ、何の役にも立たないというのが本当にことなのだが。


「そんな変わった形をした魔剣は初めて見るが、切れ味も良いし中々の上等な物だ。お前のようなガキが持つには、勿体ない代物だ。俺たちのような戦い慣れしている奴に譲った方が、作った刀匠もその剣も喜ぶってもんだ」


「そんなことありません! ユウイチさんはあなたたちよりもずっと強いですし、武器の特性も十分以上に発揮しています! あなたたちが持っているより、ユウイチさんが持っている方が喜ばれます!」


 ユリスが怒った口調でそう言い切った直後、悠一は下から上に刀を振り上げる。また何かを弾き上げ、それはユリスの足元に落ちる。それは刺すことに特化した、ナイフより少し長い程度のエストックのような武器だった。


「ひっ!?」


 ユリスは足元に落ちたそれを見ると、顔を蒼褪めて一歩後退る。


「ただ男に犯されて、子を産むことにしか使えない女は黙ってろよ」


 エストックのような武器を投げた赤髪短髪の男は、イラついた顔でそう言う。絡みつくような殺気が放たれており、それを感じたシルヴィアは体を硬直させて、ユリスは腰を抜かして地面にぺたんと座り込んでしまう。


「凄腕の魔法使いだろうが何だろうが、結局は繁栄のために男に使われるだけの道具に過ぎない。そんな女は黙って、男の言うことを聞いてりゃ」


「―――黙れ」


 底冷えするような低い声が聞こえたかと思うと、既に悠一は赤髪短髪の男の懐に入り込んでいた。


「っ!?」


 咄嗟に腰の剣を抜いて胸の前に構えると、足が浮いてしまうほどの衝撃が走る。何とか足は浮かずに済んだが、何メートルも後方に移動していた。持ちこたえた男は顔を上げると、そこには右へ刀を薙いだ悠一の姿があった。


 ほんの少し前までは十メートル近く離れていたというのに、いつの間にか間合いを詰め込まれており攻撃されていた。もし咄嗟に防御しなかったらと思うと、男は体を震わせた。


「黙って聞いていれば、お前、何様のつもりだよ。女性が繫栄するためだけの道具だと? ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ」


 ビリビリと大気が振るえるような威圧感と殺気が放たれ、男六人とシルヴィアとユリスは大量の冷や汗を流す。


「女の子どうこう以前に、人を道具としか見ていないお前たちは、人間失格だ。生きている資格はない」


「はっ! 道具って言って何が悪いんだよ! 事実じゃねぇか! 女がいなければ人間は生まれねぇ。それと同時に、女は男がいなければ子を腹に宿せねぇ。女共は結局俺たち男がいなければ、何も出来ねぇんだよ! 人間に使われる道具と一緒なんだよ!」


 確かに男女が揃って初めて新しい命が出来る。片方でも欠けていれば、新たな生命は生まれない。だからと言って、その理屈で女性を道具のように扱うのは人間としてダメだ。男尊女卑だったとしても、程がある。


 ましてや後ろにいる二人は、信頼出来る大切で守るべき仲間だ。そんな仲間をそんな風に言われるのは、流石の悠一でも我慢出来ない。なので、かつて無いほど本気で怒ったのだ。


 悠一は刀の柄を両手で強く握り、脇に構える。息を大きく吸い込み、集中する。射殺さんばかりに鋭い目つきで睨み付けていると、六人とも懐から何かを取り出した。よく見てみるとそれは注釈のような形をしており、中には緑色の液体が入っている。


 まさかと思った時には全員それを首筋に刺し、中にある液体を注入して行く。中身が空になるとそれを地面に投げ捨てて、全員それぞれの武器を取る。


「ケケケケケ……、来た来た来ましたぜぇ~!」


「薬物によるドーピング、か」


「ヒヒヒヒヒ! これでお前を半殺しにした後、動けないように縛り上げて後ろにいる女二人を目の前で犯してやるよ! 仲間とか言っていたな? そんな仲間を守れず、ただただ犯される様子を見るしか出来ないお前は、どんな反応をするんだろうなぁ~?」


 口元を大きく歪ませて笑いながらそう言う。恐らくこいつらは、同じようなことを何度もしている。男女で組んでいる冒険者パーティーを襲撃し、男は動けないようにしてその前で女性を犯す。泣き喚いて止めるように叫んでいるその様子を見ながら嘲笑い、終わって満足したらそこで殺す。


 そんな下衆なことをしているのだろうと思うと、更なる殺意と怒りが湧いてくる。後ろにいるシルヴィアとユリスは、絶対に不幸な目には遭わせない。そう心の中で叫び、一足飛びで間合いを詰め込み刀を振るう。


「おぉっと、危ない」


 しかしその太刀筋を見切った男たちは、遊んでいるかのようにワザと大きく躱す。こうして相手を誘い、動きが単調になったところを全員で総攻撃するのだろう。


「人間性もそうだけど、冒険者としも剣士としても失格だな」


 そう言いながら八相に構え、まずはモヒカンヘアーの男に向かって走って行く。刀による連撃は躱されたり剣で受け流されたりするが、それが限界なのか反撃はしてこない。


「俺らのことを無視してんじゃねぇ!」


 一人だけを集中して攻撃していると背後から襲い掛かってくるが、既に防御範囲は広げてあるので、振り向かずに反射で対応する。四方八方からも次々と休みなく襲い掛かって来るも、全て的確に対処する。


 搦手なども使ってくるがそれも躱し、逆に組討術で殴り飛ばす。一回離れた赤毛の男はそこからナイフを投擲するが、悠一はそれを回転しながら躱し同時に金髪のチャラそうな男が振るってきた剣をへし折る。悠一に当たるはずだったナイフはそのまま直進し、青髪の槍使いの男の肩に突き刺さる。


「ぎゃあ!?」


「んな!?」


 飛んできたナイフが肩に突き刺さった青髪の男はその場に倒れ、剣を折られた金髪の男は動揺しているところを突かれて、回転しながらの回し蹴りを頭に叩き込まれて数メートル吹き飛ぶ。


 たっている男四人は、困惑していた。数で有利な上にドーピングまでしているというのに、どうして攻撃が一回も当たらないのか。どうしてむしろ自分たちがやられているのか、という考えが頭を埋め尽くす。


 自分たちよりもずっと若く、見た感じまだ成人したばかりの少年。だというのに魔法は一切使わず、不思議な形をした剣一本だけであしらっている。どうして。


 ずっとそんなことを考えていると、ほんの数瞬前までは離れたところにいたのに、気付いたら間合いに入り込んでいた。慌てて飛び退くがまた間合いを詰められ、モヒカンヘアーの男の腹に柄頭が叩き込まれる。


「どうして勝てない、そう思っているんだろう? そんなのは簡単だ。込められた思いが違うんだよ」


 切っ先を男たちに向けてそう言う。


「確かに積み重ねてきた時間も重要だが、それと一緒に剣に込める思いも重要だ。俺はこの刀で、仲間二人を守り抜きたい。絶対に不幸な目には遭わせたくはない。そんな思いを込めて振るっている。ただ、それだけだ」


 悠一はそう言い切ってから刀を霞に構える。


「五十嵐真鳴流、五十嵐悠一。全力で推して参る!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ