表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/99

60 キマイラ討伐

「【来たれ始祖の焔、炎帝の剣―――レーヴァテイン】!」


「【テンペストルーン】!」


 ユリスの炎魔法とシルヴィアの風魔法が同時に発動し、合わさって炎があり得ないくらい巨大な物となって前方にいるAランクモンスター、ジェノサイドコンガに襲い掛かる。ジェノサイドコンガは全身が灰色の体毛で覆われている五メートルほどのゴリラ型モンスターだが、その巨体から放たれる一撃は強烈だ。


 しかも見た目にそぐわず動きが速いので、それに更に拍車を掛ける。だが三人は上手く連携して、強烈な一撃を叩き込まれないように戦っていた。悠一も防御領域を、一番力が入りやすく強い一撃を出しやすいところまで狭めて、拳が飛んできたところでそれを弾き上げていた。


 シルヴィアとユリスの魔法がジェノサイドコンガに襲い掛かり、爆発を起こす。しかし、流石はAランクモンスター。一発では倒れない。そこに悠一が【縮地】で間合いに入り込み、切っ先だけに開放した風を集中させて、突くと同時に開放する。


 圧縮されていた風は凄まじい突風を撒き散らしながら解放され、ジェノサイドコンガの胸に風穴を空ける。心臓が消し飛ばされて当然生きていられる訳がなく、後ろに倒れて絶命する。悠一は纏わせていた殺気を引っ込めて、刀を鞘に納める。


「倒せたか。やっぱAランクモンスターは強いな」


「そうですね。私たちと同じ、Bランクのモンスターを倒して行った方がいいかもです」


「強いって言いますけど、それをこんなあっさり倒してしまう悠一さんもかなり強いですよ?」


「シルヴィアとユリスという頼れる仲間がいるからだよ。もしいなかったら、ここまで来れなかったよ」


 悠一の強さは、誰かを守りたいという気持ちから来ている。誰かを想う心が人間にある強さを引き出すため、ただ人を殺すだけの剣より守る剣の方が強いことが多い。もし悠一がソロ活動をしていたら、守る仲間がいないのでこの短期間でBランクまで登り詰めるなんてことは出来なかっただろう。


 安心して背中を任せられるほど頼れる、失ってはいけない大切な仲間二人がいるからこそ、悠一はここまで来れたのだ。


「もし最初にシルヴィアと出会っていなかったら、もしかしたら途中で挫折していたかもしれない。あの出会いがあったからこそ、ここまで来れた。だから、君と出会えて感謝しているよ」


 冒険者になったばかりの頃にシルヴィアと出会った。早い段階で守り、守られる仲間が出来た。そしてユリスと出会い、彼女も互いに守り守られる仲間となった。そんな出会いがあったからこそ、今こうしてここに立っている。


「私も、あの時ユウイチさんと出会っていなかったら、ここにはいませんでした。志半ばで、殺されていたか自害していました。私もユウイチさんにはとても感謝しています」


「ボクも同じです。あの時ユウイチさんと出会えたからダンジョン最下層まで行って、ガーディアンモンスターの討伐まですることが出来ましたし、一人じゃ行けないようなところにも行けています。ボクも悠一さんに、とても感謝しています」


 二人はそう言いながら腰を曲げて頭を下げてくる。美少女二人に感謝されるのは嬉しいが、揃って頭を下げられると、なんだかいたたまれなくなってしまう。だが感謝されているのは変わりないので、その気持ちは素直に受け取っておく。


 二人から感謝の言葉を述べられてからジェノサイドコンガの討伐部位である巨大な牙を一本回収し、また探索を再開する。奥の方に進めば進むほど魔力の濃度が上がって行き、索敵は本気で使い物にならなくなる。


 最初は木の魔力があちこちにあって索敵が阻害される程度だったのだが、深い所まで来ると魔力濃度が上昇し索敵を広げたら、ただただ巨大な魔力反応があるだけだ。その中にモンスターがいるので、魔力同士が重なり合ってしまい分からなくなる。なので使い物にならなくなったのだ。


 悠一の絶対防御範囲も便利なのは便利だが、使い続けていると疲れるだけだ。この世界に来てから毎日ハードな一日を過ごしていたため、そう簡単にはバテないが、それでも十分に一回は使用を中断しなければならない。


 その時だけ襲撃の危険性は上がってしまうが、そこら辺はきっと大丈夫だろうと二人を信じる。ずんずん進んでいると、近くから凄まじい魔力を感じ取った。モンスターかと思ってそっちを振り向くが、そこにはただ大きな木が一本聳え立っているだけだった。


 ただ、その木からは周囲にある木と違って何かが違う。よくよく魔力を感じてみると、全体の隅々までしっかりと満遍なく魔力が行き渡っており、他の物よりも澄んでいるように感じた。


「この木って……」


「そうですね。杖の素材としてはとても良質です」


「見つかってよかったですぅ……」


 そろそろシルヴィアの杖が危なくなっている。小さな亀裂などが入っており、あと二、三回上級魔法を使うと自壊してしまう。その前に何とか杖の素材となる木を見つけることが出来て、本当に良かった。


 早速悠一は回収に掛かる。使うのは太い枝なので、上に跳びあがって丁度よさそうなサイズの物を瞬爛で斬り落とす。そのまま下に落下すると危ないので落ちたところに巨大なクッションを構築し、衝撃を殺す。


 これだけで三本ほど作れそうだが、もしまたシルヴィアの杖がダメになりそうになった時の為に、残しておく。とりあえずこれで一つの目標を達成した。後は最深部まで行きながらモンスターを狩って行き、最深部まで行ったら引き返すだけだ。


 モンスターの数がそれほど多くは無いので普段より大分楽だが、その分強い個体が多い。特にヒュドラが出てくるので、非常に面倒くさい。なるべく遭遇したくはないなと思いながらも、どれだけ強いのかが気になっている。


 斬り落とした木の枝の余分な部分だけはその場で排除していき、最後にシルヴィアが鞄の中から白い布のような物を取り出した。


「それは?」


「これは魔力の放出を抑える布です。斬ったところから魔力が流れ出てしまうので、無くならないようにこれで包んでおくんです」


 なるほどと悠一は思った。それと一緒に、これを人間に使ったら魔力の放出が出来なくなるので、魔法が使えなくなるのではないかと思った。だがそんな心配はいらず、人間だとこの布が抑えられる魔力量を大幅に超えているから、効果はないそうだ。


 魔法使いの魔法を封じるには、魔封結晶という結晶を使った物でなければならない。これは見つけるのが大変な物で、主に軍部や警備隊が所有している。稀にその組織に属していない人間っ持っていることがあるが、それでもそれ相応に高い身分の人間だ。


 シルヴィアは枝を布で包んだ後身体強化を自身に掛けて、頑張って鞄の中に仕舞いこんだ。仕舞い込める量にほぼ制限がない物なので、どんな重い物を入れても大丈夫だ。枝を仕舞い込んだのを確認すると、早速奥地の方に進んでいく。


 浅いところに比べてモンスターと遭遇する回数は増えてきているが、それでも普通のフィールドよりも少ない。代わりに強力な個体が多いが。そして久々に赤毛の奴らとも遭遇してしまった。


 向こうは気付いていなかったので、その前に分解や圧縮したガスによる爆発で消し飛ばした。もちろん部位は回収するつもりはない。黒焦げになってぷすぷすと煙を立てている死体の隣をスルーしていき、先を急ぐ。


 ちょっぴり上機嫌になったシルヴィアは軽い足取りで、悠一の後を付いて行く。やはり新しい武器を手にすることは、冒険者共通で嬉しいことの様だ。時々襲撃してくるモンスターを狩っていると、悪寒を感じた。


 何だろうと周囲を窺っていると、右側から何かがやって来た。やってきたそれは、以前ダンジョンで戦ったことのあるキマイラだった。顔は獅子胴体は山羊、尻尾は毒蛇と前戦ったのと同じタイプの物だった。


 三人はすぐに気を引き締めて、その敵に集中する。悠一は素早く抜刀して一足飛びで間合いに踏み込み、刀を振るう。が、前回と同じように硬い体で防がれてしまう。


 右前脚の攻撃と尻尾毒蛇による攻撃が襲い掛かるが最小限の動きだけで躱し、反撃を叩き込む。強度が上昇しているので、全力で叩きつけても問題はない。とは言っても、あまりやり過ぎると折れてしまうかもしれないが。


「ガァア!」


「おっと」


 噛み付こうとしてきたがギリギリで躱し、また反撃を叩き込む。僅かに傷を付けることは出来るのだが、やはり硬いのでダメージが入らない。どうするべきかと考えながら前足により攻撃をバックステップで躱し、爆発を起こしてダメージを与えようとする。


 しかし毛が焦げただけで、ダメージらしいものは見当たらない。どうした物かと思っていると、口から特大の炎を吐き出して来た。鋼の壁を作って防ぐが、熱量が凄まじくすぐに溶け始めた。


 【縮地】でその場から退避すると、その直後に壁が完全に溶け切ってしまった。口に突っ込まれた鉛を溶かしてしまう程なのだから当たり前なのだが、凄まじい熱量だ。そこからあんなのが出てくるのか、少しだけ気になった。


 キマイラは音を立てながら走ってくるが、巨体故に動きが遅い。悠一は距離を詰められる前に無数にプラズマ球を作り出し、それ一つ一つからレーザーを放ちあちこちに小さな穴を開ける。この魔法でようやく、小さいけれどもダメージらしいダメージを与えることが出来た。


 感じた痛みで突進速度が僅かに緩み、そこにシルヴィア氷魔法とユリスの光魔法が襲い掛かる。シルヴィアは今の杖の都合上、中級までしか使えない。それでも回数は限られてしまうが。


「ガァァァアアアアアアアアアア!?」


 二人の魔法が炸裂し、悲痛の声を上げるキマイラ。完全に動きが停まったところで間合いに踏み込み、刀を振るう。レベルが上昇し魔力量が増えたので、刀に分解を自分で付与に近い状態にして攻撃しても、一刻(約二時間)は持つ。


 何の抵抗もなくキマイラの体を斬り付けていき、どんどん傷を刻んでいく。自身の防御を突破されたキマイラは、怒りで大振りな攻撃を仕掛けてくる。顕衝を使って一撃で斬り伏せたいところではあるが、今はその必要はない。


 攻撃を【天眼通】で見切り、最小限の動きだけで躱しながら同時に攻撃を仕掛ける。次第にキマイラの攻撃が大振りになって行く。これで仕留めんとばかりに右の前足を大きく振り上げて、勢いよく振り下ろす。


 だが悠一は前足を振り上げた刀で斬り落とし、左へ薙ぎ払った刀で両目を潰す。視界を奪われたキマイラは雄叫びを上げるが、尻尾の毒蛇は自分の意思で噛み付こうとしてきた。しかしそれも見切って、蛇だけをピンポイントで分解で消した。


 そして刀を上段に構えてからそれを振り下ろす。分解が施されている刀から放たれる斬撃は、何の抵抗もなく肉と頭蓋を断ち斬り、司令塔である脳を破壊する。


 脳を破壊されたキマイラは体を一度ビクンと痙攣させてから、地面に倒れる。悠一は分解を解除し、刀に付いた血を振るって落とし、鞘に納める。


「分解を使えばキマイラを倒せる、か」


「確か、消費が激しいんでしたっけ?」


「あぁ。けど、今は魔力をかなり増えたし、二時間くらいは平気だと思う。発動した回数によって変化するだろうけど」


「それでもそれだけ長く発動させることが出来るのはいいですね。戦いを、より有利に運ぶことが出来ます」


「そうだね。もっと消費効率をよくすれば、より長く使えるんだけどなぁ」


 純粋な魔法使いではないのでその辺には非常に疎く、どうすれば消費を上手く抑えられるのかが分からない。そのことは街に戻った後シルヴィアかユリスに聞くことにして、キマイラの討伐部位となる牙を回収する。


 あとキマイラの持つ内臓の中に、炎を生成する機能を持つ物があるので、それも回収する。それは炎体制が高い防具になったり、強力な炎属性を付与した武器になる。売ればかなりの値段が付くので、丁度いいのだ。


 他にも毛皮なども回収し、一通り剥ぎ取った後分解して奥地に向かう。もう大分深部に近いので強力なモンスターが多く、最深部まで行くとどんなモンスターがいるのだろうと考える。もしかしたらそこにヒュドラがいるのではないかと予想するが、出来るのであればいて欲しくないと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ