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5 初めてのパーティー

「なるほどね。状況は理解したよ」


 悠一はシルヴィアから、どうしてあんな状況になっていたのかの説明を受けていた。シルヴィア曰く、実は彼女も数日前に冒険者登録したばかりの初心者で、今日のモンスター討伐クエストを受けつつレベル上げをするつもりでいたらしい。


 ゴブリンやビッグバッファといった初級モンスターに何度か襲われたりしたが、生まれつき魔力が少し高く少し高威力の魔法で倒せていたのだという。そうやってモンスターを狩って行って進んでいると、シルヴィアは謝ってオークの縄張りに足を踏み入れてしまったのだそうだ。


 それに気付いたオークは彼女の姿を確認すると、下の危険物を起たせて追い掛けて来たのだそうだ。もちろんシルヴィアもオークが大の苦手なので、魔法を放ちつつ逃げ出した。


 しかし身体強化をまだ使えないシルヴィアの脚力は、一般の人間とそう大差ない。なので先回りされてしまったりして、仕方なく戦闘に入ったらしい。


 しかしこの時点で大分魔力を消費してしまっており、かなりきつい状況になってしまっていた。それが丁度悠一が目の当たりにした光景だそうだ。もしあの時悠一がそこにいなかったら、自爆覚悟で残った全ての魔力を振り絞って爆発魔法を使うつもりだったらしい。実にギリギリなタイミングだった。


「しっかし、これだけのオークに襲われるとか、女性にとってはもうトラウマもんだろ」


 悠一は男なのでもはやただの討伐対象とレベル上げ対象としか見ていないが、女性にとっては精神的にとてもよくない。特にモンスターだというのに性的な方で手を出すというところが。


 今はもう全て絶命しているが、その死体を視界に映したシルヴィアは顔を思い切り引き攣らせる。


「それより、こいつの討伐クエストを受けててよかったよ。丁度目標討伐数いるし、これでクエスト達成だな。……何体か分解しちゃったけど」


 ざっと数えると転がっているオークの死体は三十体ほどはある。一、二体分解してしまったが、それでも恐らくだが目標討伐数に達している。クエストを受注して一時間弱。予想よりも圧倒的に早く終わってしまった。


「そう言えば、シルヴィアは何のクエストを受けているんだ?」


「私はワンホーンウルフ十五体の討伐だけです。この森のもっと深いところにしか生息していないので、まだ一体も倒していませんけど」


 ワンホーンウルフとはその名前の通り、額に一本を角を生やしている狼型のモンスターの名前である。これも初級モンスターで、クエストランクはFである。シルヴィアは数日前に登録したばかりの駆け出し冒険者なので、自分だけではないのだなと謎の安心感を得る。


「うーん、よければ手伝ってもいいかな?」


「え、ユウイチさんがですか?」


「あぁ。俺も君と同じように、冒険者登録したばかりの駆け出しなんだ。まだ知らないことも多いし、出来れば一人より二人の方が……って、どうしたんだ?」


 シルヴィアが物凄く驚いた表情をして固まっているのを見て、悠一はそう声を掛ける。


「あ、あんなに強いのに私と同じ駆け出し冒険者……?」


「そうだよ。これが証拠」


 悠一は腰に着けているポーチから冒険者カードを取り出して、それをシルヴィアに見せる。それを見たシルヴィアは、もっと驚いた表情になる。


 実際シルヴィアは、上級冒険者かと思っていたのだ。彼女のが冒険者になろうと思ったきっかけは、昔幼いころに一度だけモンスターに襲われたことがあり、そこを上級冒険者に助けてもらったことがあるからである。


 シルヴィアが悠一が上級冒険者だと思ってしまったのは、悠一の動きが助けてくれた上級冒険者の動きに匹敵していたからである。そう錯覚してしまったのは悠一の素早さが普通ではあり得ないくらい高く、剣術が多数対一を想定したものであるからだ。


「ほ、本当に同じなんですね……」


「そうだよ。俺もつい最近登録したばかりなんだ」


 流石に昨日登録したばかりであることは伏せておく。


「それにしても、使っている武器もそうですけど、本当に不思議な魔法を使いますね。初めて見ました」


 シルヴィアにそう言われて、少しどきりとする。別に知られても困る物ではないが、あまり口にしたくない。刀はともかく、魔法があまりにもチート過ぎるから。


「使っている魔法のことはあまり言いたくないけど、今持っているこの武器は俺のオリジナルなんだ」


 実際には全くもってそうではないのだが、一応そういうことにしておく。


「では、自分で作ったのですか?」


「まあね」


 念のため魔法で作ったということを伏せておく。知識としては錬金術魔法という物はあるが、この世界にそれがあるとは限らない。


「属性付きの武器を作ってしまうだなんて、凄い高い鍛冶能力があるのですね」


 何とか誤魔化せたようだ。そのことに内心ほっとする。それより、どうやら属性付与されている武器は、作り出すのが結構難しいらしい。今は高い鍛冶能力を持っていると認識されているが、きっとどこかでボロが出るだろう。そうなったら自分の魔法の能力について説明しなければならない。


「魔法の方はあまり言いたくないのですか?」


「今はね。自分の手の内を、誰かに晒すのは危険だし」


「それもそうですね」


 シルヴィアはそれで納得してくれた。


「それで、君のクエストを手伝ってもいいかな? ついさっきあんな状況だったんだし、一人よりもう一人いた方が安全だろ?」


「そう、ですね。では、お願いしてもいいですか?」


「もちろん」


 悠一はそう言いながら右手を差し伸べて、握手を求める。シルヴィアも少し遠慮がちに右手を握り、握手を交わす。こうして悠一は、異世界転生して二日目に、初めてパーティーを組んだ。


「では早速奥地に向かいましょう」


「そうだね」


 二人は早速ヴァルドラスの森の奥地付近まで移動することにする。もちろん多くのモンスターと遭遇するが、シルヴィアの魔法で足止めを喰らい、悠一の刀で切り伏せられる。時には悠一自ら敵に突っ込んでいき、次々と斬り倒して行く。


 十数体規模のモンスターの集団と遭遇したりしたが、シルヴィアの魔法と悠一の魔法と剣技であっという間に殲滅してしまう。ついさっきまではそれだけの数を一人で相手にしていたが、やはり仲間、特に魔法使いが一人増えるだけで大分楽に、そして安定して戦える。


 ちゃんと背後も警戒しているが、モンスターが後ろからや死角から攻撃しようとしても、魔法で援護してくれる。もちろん、シルヴィアの魔法でモンスターを倒したりもしている。


 彼女には炎、氷、水、風、雷の五種類に適性があるようで、状況に応じて使い分けている。分解と再構築というチート魔法を持ってはいるが、それでもバリエーションに掛けてしまっているので、シルヴィアの多彩さが少し羨ましい。そう思いながら、微粒子を集めて氷の刃を生成して、それをモンスターに飛ばしていく。


 進み始めて三十分程が経過したころ、二人はヴァルドラスの森の奥地付近までやって来た。普通のフィールドなどのモンスターが生息している場所は、奥地に行けば行くほど強くなるのが普通だが、ここには初級のモンスターしかいないので特に危険はない。代わりに集団で行動している確率が高くなっているが。


 現に数十体規模のコボルドの集団と出くわしたが、水を構築してそこに無理矢理だが内部に熱エネルギーを生み出して、水蒸気爆発を起こして一気に殲滅した。ただ少し熱エネルギーが強過ぎたのか、熱気が凄まじかったが。


 イメージ次第で何でも作れてしまい、もう苦笑するしかない。完璧に消し炭になってしまい、討伐素材の回収が出来なくなってしまったコボルドの死体を分解して、再度歩を進める。


 しばらくすると二人は、ワンホーンウルフを見つけた。このモンスターも集団で行動するタイプなので、十体以上はいる。その姿を確認するとすぐにそれぞれの武器を構えて、戦闘態勢に入る。


 ワンホーンウルフたちも匂いか何かで気付いたのか、二人の存在に気付いて一斉に雄叫びを上げて突進してくる。


「それじゃあシルヴィア、援護を頼むよ」


「了解です!」


 シルヴィアがそう答えるとほぼ同時に、悠一は地面を蹴って走り出す。素早さが高く、辛うじて目で終えるほどだった。


 悠一は近くにある木の幹に足を着けた後反対側にある木まで跳躍し、更に上に跳躍して太い枝に膝を曲げて足を着けた後、一気に伸ばして下に跳躍する。ワンホーンウルフたちは姿を見失っていたが、仲間数体が不意に切り殺されたのを目の当たりにして、ようやく姿を確認した。


 それと同時に上げる怒りの雄叫び。前足や噛み付きで攻撃しようとしてきたが当たるか当たらないかの距離で躱されて、首を斬り落とされ胴体を分断され、地面から飛び出た針で心臓と頭を貫かれて行く。背後からも攻撃しようとしてきたが、飛んできた雷で感電死する。


 悠一はバックステップで距離を取り、刀を中段に構えて走り出す。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――刳離薊くりあざみ!」


 中段に構えていた刀を横に薙ぎ払った後、左逆手に持ち替えて再度横に振り抜き、刀を持ち直した後斜め十字に振るう。四つの剣閃がはしり、ワンホーンウルフはバラバラになり絶命する。角は討伐素材なので、傷付けないようにしているが。


 数体のワンホーンウルフが飛び掛かって襲ってくるが冷静に掻い潜り、右足で回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばして仲間にぶつける。起き上がって体勢を直そうとしたところに、シルヴィアの放った氷の刃が急所に突き刺さり即死する。


 悠一は攻撃を躱しながら距離を取って行き、一定距離離れたところで水と熱エネルギーを同時に作り出し、水蒸気爆発を引き起こす。もろにそれを喰らったワンホーンウルフは、見る影もなく絶命する。ついでに鋼の槍も作り出し、それを飛ばして体を貫通させる。


「思ったより強くないな、こいつら」


 名前に狼と付いているのでそこそこ強いことを期待してはいたのだが、少し拍子抜けだ。いくらステータスが高いとはいえ、ほぼ一撃で倒されてしまっているのだ。安全なのはいいが、弱過ぎると変に油断してしまうかもしれない。


 そう思いながら飛び掛かって来たワンホーンウルフの胴体を分断し、首を斬り落とし、作った槍のような物で貫く。最後にシルヴィアが上に魔法陣を生成し、そこから雷を落として殲滅を完了する。


「あっさりと片付いてしまいましたね」


「思っていた以上に弱かったからな。まあ、二人でいたっていうのも大きいかもしれないけど」


 刀に付着した血を振るって落とし、納刀する。そしてポーチからナイフを取り出し、剥ぎ取りを始めていく。シルヴィアもオークに襲われた時、奇跡的に無事だったポーチの中からナイフを取り出して、一緒に剥ぎ取りを始める。


 二人で作業したため数分で終わり、合計で十七本あった。目標数は十五体なので、二本多い。聞くと、多い分は換金するんだそうだ。やはり冒険者を始めたばかりなので、懐が心許ないのだろう。


 悠一も昨日今着ているローブと魔法付与のされている剣を買ったので、懐が少し寂しい。一応無駄遣いしなければ十分過ごせるだけのお金はあるが、多いに越したことは無い。現にここに来る途中で狩った、クエストとは関係ないモンスターの討伐部位は、全て換金するつもりでいる。


 持っておいてそのモンスターの討伐のクエストを受けて楽するという手もあるが、それだとただのインチキなので、そんなことは絶対にしない。


「さて、それじゃあ街に戻って報告しよう」


「そうですね。戻るころにはお昼頃ですし、報告した後一緒に昼食にしましょう」


 結局雑貨屋であらかじめ買っておいた食料は、今日は減ることは無さそうだ。ポーチの中には最低限の保存機能があるので、あと数日は大丈夫なのだが。


 クエストを達成した二人は踵を返して、来た道を戻って行く。モンスターに襲われたりしたが、その全ては尽く魔法と刀で散って行く。


 途中で悠一のレベルが上がり10から11に上がったり、どういう訳か数十体規模のスライムの集団を見つけて、気持ち悪いので構築した鎚で叩き潰したりして、二人は街に戻った。この時時間は既に昼近くになっており、朝とは打って変わって活気付いていた。


 人でごった返している街を進んでいき、やっと組合に到着するとすぐにレイナのいる受付のところに移動する。


「レイナさん、戻りましたよ」


「意外と遅かったね。……あれ?」


 レイナは悠一の隣に立っているシルヴィアを見て、首を傾げて頭にはてなマークを浮かべる。


「あぁ。この娘はシルヴィアっていって、モンスターに襲われているところを助けて、途中から一緒に行動していたんだ」


 そう言われてレイナは納得する。その説明を受けた後、レイナは悠一の受けたクエストとシルヴィアの受けたクエストの両方が達成されたことを確認し、達成報酬と余分に持ってきた素材を換金して、それを冒険者カードの中に入れる。


 少々心許なかった懐は十分になり、少しホクホクとした顔になる。クエスト達成報告をした後、二人はそのまま組合内にある食堂に行って、そこで昼食を取ることにした。

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