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58 森の探索へ

 組合から出た三人は、まずアイテムの補充から始めた。買い込んでおいたポーションや魔力回復薬の数が少なくなっており、補充しないと少々心許なかったからだ。雑貨屋に立ち寄ってアイテムをそれなりの数買い込んでいき、ついでに食材も買い込んでいく。


 調味料などもいくつか籠の中に放り込み、そして会計に通す。冒険者カードで会計をすましてから雑貨屋から出て、早速街の外に向かって行く。


「今日はどうするんですか?」


「クエストは受けていない。ダンジョンにも潜るつもりは無いし、街の外に出てそこにある森で探索をする。一応強力なモンスターとかがいるみたいだし」


 ロスギデオン周辺の森にはモンスターの数はかなり少ない。というのも、数多くの冒険者が集まっているのでダンジョンの存在が明らかになる前は、乱獲されていたのだ。なので数が少なくなったのだが、百年近く前にダンジョンがあることに気付き、殆んどの冒険者はそっちの方を優先し始めた。


 それにより街の外の森にはまだ数は少ない物の、ここ最近ちらほらと強力な個体が現れ始めているそうだ。中にはベルセルクや稀にその変異種であるラグナロク、更には九つの首を持つヒュドラが確認される様だ。


 ヒュドラはAランク指定されているモンスターで、ラグナロクよりも厄介だとも言われている。奴は九つの首それぞれから別々の属性の魔法を放ち、真ん中の首以外を斬り落とすとそこから二つの首が再生するという、非常に厄介な特性を持ち合わせている。


 むやみに首を斬り落としているとただただ戦力を増やしてこちらが不利になるだけなので、真ん中の首以外は絶対に斬り落とさずに倒さなければならない。竜族でもあるので頭脳は恐ろしく高く、中々そう出来ないのだが。


「噂程度ですけど、以前ボクたちの潜ったダンジョンで遭遇した、グラトニアでしたっけ? も数体確認されているようですよ?」


「マジかよ……。あんな化け物とは戦いたくはないな……」


 思い出すのはダンジョンに潜っている時、第三層で遭遇したあの偉業のモンスター。恐ろしく回復速度が速く、それ以上に体が硬くダメージを与えることが難しかった。たった一回でも攻撃を喰らえば致命傷は逃れられず、とにかく攻撃を受け流すとかではなく躱したりしなければならなかった。


 ユリスが戦略級魔法を放ってくれたおかげで何とか倒せたような物なので、あれくらいしないと倒せないと身を以って知っている為、あまり戦いたくはないと考えている。仮に遭遇しても保有魔力量が上昇しているので、分解魔法を発動させながら斬り付けるということは可能だ。そう考えると、あの時よりはある程度楽して倒せるのかもしれない。


 しかしそれでも苦戦は必須なので、鉢合わせしない限り戦いたくはない。どうか遭遇しませんようにと祈るも、無意識の内にフラグを立てているのに気付かなかった。


 十数分歩き三人は大きな門を潜り抜け、街の外に出る。広大な荒野には微量の草花が生えている程度だが、少し先には高い木々が聳え立っている森がある。その先にある森に行くと気付いたユリスは、嫌そうな顔をした。


「……どうした?」


「いえ、何でもないです。ただ……、あの森には、ちょっとというか、凄い変なモンスターが生息しているので、あまり行きたくはないんです……」


「変なモンスター?」


「はい。ディヴィアントエイプといって、簡単に言いますと、男性を襲うエキセントリックエイプの若い女性を襲うタイプ、ですね」


 名前に既に変態という単語が入っていた。その時点である程度は予想出来たが、その予想は当たっていた。ユリスが行きたくなさそうな顔をした理由に、物凄く納得した。これは後程知ったことだが、ディヴィアントエイプはオークと同率一位で、女性冒険者に嫌われているそうだ。


 このモンスターもオーク同様女性を襲っては、その子供を孕むまで犯す。更にオーク以上の性欲持ちなので、一度捕まって犯され始めたら確実に精神が崩壊するそうだ。助けられた女性もいたそうだが、精神が壊れて鬱状態になっており、助けられた三日後に自害してしまったという事例もある。


 強力なモンスターでもあるが、別の意味でも非常にヤバいので、これもAランク指定されている。ただし、パーティーの中に男性がいると、ランクは一個下がってBになるそうだ。実に不思議なランク付けだ。


 ちなみにユリスは知識として知っているだけであって、実際に行ったことは無い。


「ですが、もうここまで来てしまいましたし、こうなったらユウイチさんを信じていきます!」


「無理はするなよ? もう嫌だと思ったら、言ってくれ。すぐに引き返すから」


「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です。ちょっと嫌ですけど、それでもボクの私情でご迷惑をお掛けする訳にはいきませんし」


「そうか。でも、強がったりはするなよ? ユリスは大切な仲間なんだから」


 悠一はそう言うと、由利宇の頭を優しく撫でる。彼女は顔を赤く染めるが、すぐに嬉しそうに微笑む。


「もちろん、シルヴィアもな。君も、俺にとっては大切な仲間なんだ。強がって我慢せず、溜め込まないように」


 そう言いながら、シルヴィアの頭も撫でる。言うだけでも良かったのだがそれだとちょっと不平等かな? と思ったので、同じことをしたのだ。


 彼女も頬を赤く染めるが、ユリス同様嬉しそうな表情になる。二人共、悠一に頭を撫でられるのは好きのようだ。数秒頭を撫でてから手を離すと、二人共少し名残惜しそうな顔をするが、すぐに気を締め直してから悠一の後を付いて行く。


 森まで行く途中には、点々とモンスターは存在している物のそれほど数は多くはない。かつて数多くの冒険者たちがモンスターを乱獲したせいで、まだ数が十分に増え切っていないのだ。モンスターも他の野生動物と同じ、弱肉強食の世界。


 弱ければ淘汰され、強ければ生き残る。その連鎖が延々と続く為、一度ガクッと数を減らしたモンスターは、そんなすぐに数を増やさない。時々発生する大量発生は、大きな問題になるが。


 何回かモンスターと遭遇するが全て五分足らずで討伐し、どんどん森へと向かって行く。やがて遭遇するモンスターの数が増え始めた時に、三人は森のすぐそこまでやって来ていた。近くまで来ると木は摩天楼の如く高い。


 手で幹に触れてみると、魔力を感じることが出来る。どうやら多くの魔力を含んでいるようだ。こういった期の素材を使えば、内包魔力量と魔力伝導率が高い杖を作ることが出来る。だがこの木でもせいぜい、中級程度の物しか作り出すことは出来ない。


 これ以上ともなるとごく限られた地域にしかない、白老大樹や鏡明賢樹といった最強装備に使われる木やその子孫や派生した木から作り出すことになる。白老大樹と鏡明賢樹は取り込める魔力量が、魔法使いの平均魔力量の半分程度になる。そして、魔力伝導率はほぼ百パーセントとなり、殆んどの無駄なく高威力の魔法を放てる。


 魔法使いであれば誰もがこの木で作られた杖を欲するのだが、値段が恐ろしく高い為持っている人間は冒険者序列第五位と十二位の魔法使い程度しかいない。そもそも流通している数がごく少数なので、それを見つけるのは奇跡に近い確率だ。見つけても買うことの出来ない値段で売られているのだが。


「この木、取り込める魔力量と伝導率がとても高いです。これを使えば、シルヴィアの杖を新調出来るかもしれません」


「杖の新調?」


「はい。杖は魔法を使う時の媒体として使用されるので、持ち主の魔力を直接流し込みますよね? 最初は大丈夫なんですけど、使って行くうちにだんだんその性能が悪くなっていくんです」


「そうなんだ」


 杖を使わないでも魔法が使えるので、そのことは全く気にしていなかった。


「そうなんです。それで、限界を迎えると自壊してしまうんです。特に、上級魔法や戦略級魔法を使うと、そうなりやすいですね」


「え、じゃあユリスの杖は……」


「ボクのは大丈夫です。レア素材を使用していますし、そう簡単には壊れません。ですが、シルヴィアのは別です。上級魔法を後、十回ほど使用したら自壊してしまうかもしれません。その前に素材を集めて、新しい杖を作っておいた方がいいと、昨日話していたんです」


「なるほどね。それじゃあ、この森のモンスターを狩りながら、素材集めとするか」


「「はい!」」


 もう一つの目標を定めた三人は、早速森の中に足を踏み入れる。杖の素材集めと言っても、同じ種類の木でも、性能が全く違う杖が出来上がることは不思議ではない。なるべく上質でいい杖を作る為には、内包魔力量の高い木を見つけなければならない。


 内包されている魔力が高いということはすなわち、伝導率も高いことに直結してくる。あとは杖作りの職人の腕にもよるが。とにかく新しい装備を手に入れることが出来るかもしれないので、シルヴィアは少しわくわくしながら森の中を歩いて行く。


 進んでいると、茂みからがさっと音がする。シルヴィアとユリスはびくんと体を震わせて、悠一の背後に隠れるように移動する。先程ユリスの話にあったモンスターかもしれないと思ったようだ。しかし出て来たのは、二メートルはあるカマキリだった。


 見た目は昆虫だが、れっきとしたモンスターである。名はデスマンティス。昆虫型のモンスターである。


 両腕の刃は非常に切れ味が鋭く、例え分厚い楯を持っていても斬り裂かれてしまう。中には強化上昇の付与が施されている剣も、断ち切ってしまうこともあるほどだ。そう言った情報は全て図鑑に載っていたため、本当に助かった。


 要するに攻撃を喰らわなければいいだけの話なので、悠一は瞬爛の柄に手を掛けて抜刀しようとする。その時、悠一はちらりと二人の方を見ると、揃って顔を青くして体を震わせていた。それ見て、やはりかと思った。


 シルヴィアとユリスは、虫が大の苦手なようだ。確かにデスマンティスは、デカい虫そのものなので見た目は気持ち悪いが、虫嫌いでなければこんな反応はしない。


「……俺が相手しておくから、二人は下がってて」


「す、すみません……」


「いきなり虫モンスターと遭遇するなんて……」


 悠一の指示に従い、二人は少し後ろに下がる。それを確認してから抜刀し、正眼に構える。殺気を感じ取ったのかデスマンティスは折りたたんでいた両方の腕を伸ばし、威嚇してくる。


 悠一は大きく息を吸い込み、意識を集中させる。なるべく戦いを長引かせるのは良くない為、すぐに勝負を決めに掛かる。刀に魔力を流し込んで、風属性を開放する。この時「風よ」と言いながら雰囲気が出るんじゃないかと考えたが、そんな恥ずかしいことはしない。


 地面を強く蹴って一足飛びに懐に潜り込み、右から左へと薙ぎ払う。その前にデスマンティスが上から腕を振り下ろして来たので【縮地】で背後に回り込むが、虫なので目は複眼なのだ。全方位を見ることが出来る為、回り込んで動きが一瞬止まった時にもう一本の腕が襲い掛かって来た。


 受け止めずに上手く受け流し、左腕を斬り落とす。


「ギキィィィィィイイイイイイイイイイイイイ!?」


 腕を斬り落とされて悲痛の声を上げるがお構いなしに、刀が閃く。


「五十嵐真鳴流剣術初伝―――鳴慟不牙躯めいどうふがく!」


 右切り上げ、左薙ぎ、左袈裟、刺突の四つの斬撃と突きが放たれる。突きの時に風を切っ先に圧縮し、そして撃ち出すように解放したため、一部が消し飛んで体が切り離される。


 体を切り離されて生きていられるはずがなく、デスマンティスはあっけなく絶命する。Bランク指定されているモンスターなので討伐部位を売れば、それなりの金額で売れる。なので証拠として斬り落として地面に放置されている腕を拾い上げて、シルヴィアに預けてある鞄の中にそれを仕舞いこむ。


 二人はちょっと嫌そうな顔をしていたが、街に戻ったら何でも驕ると約束し、森の中を再び進み始める。

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