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54 防衛戦後の宴へ

 ライアンが静かに息を引き取るのを悠一は見届け、手を合わせる。人間としては少々難ありだったが、剣士としては凄まじい者だった。敵だったとはいえ、悠一も敬意を払って黙祷を捧げた。


 しばし黙祷を捧げた後、悠一はその場に膝をつく。思っている以上に魔力を消費し、ダメージが大きかったのだ。ゆっくりと立ち上がって魔法で傷を治そうとするが、上手くイメージが出来ない。戦いに集中し過ぎたせいで、精神的な疲れも酷いようだ。


 このまま里の方に戻って、後でユリスに治してもらおうと決めて、ふらふらとした足取りで戻る。道中モンスターなどが出てこない場所であって本当に助かった。既に戦うための手段も何も残されていないので、今襲われたりでもしたら大変だ。


 せいぜいそのモンスターを引き連れながら里まで走って、エルフたちはシルヴィアたちに任せるしかない。ここまで消耗するのは、初めてかもしれない。ダークグラデアトスとグラトニアの時は、かなり消費したが魔法が使えなくなるほどではなかった。


 今回は戦うことすら出来ないほどまで消費したので、それほどまでに敵が強かったのだなと決めつける。数分ほど歩いてようやく、悠一は里に辿り着く。門は開いており、自由に出入り出来るようになっていた。


 危険なこと極まりないが、敵は既に殲滅済み。なのでもう心配することは無い。大きな門を潜り、ふらふらと里の中に足を踏み入れる。


「ユウイチさん!」


 そして数歩歩いたところで聞き慣れた声が鼓膜を打ち、軽い衝撃が加わる。若干バランスを崩し掛けたが、何度か倒れずに持ちこたえた。一体何が起きたのかすぐには理解出来なかったが、暖かくて柔らかく、鼻腔を擽る甘い香りがしたところで、何なのかを理解した。


 里に入ってすぐ、シルヴィアとユリスが飛びついてきたのだ。二人は里の外を見ることの出来る櫓の上に立っており、そこで悠一とライアンとの戦いをずっと見ていた。あまりにも激しく別次元な戦いを繰り広げ続けていたので、悠一のことを心配していたのだ。


 一部始終を見ていたので当然傷が体に刻まれて行ったのも見ており、無茶していたのも窺えた。自分のことよりも他人のことを心配をする二人は、戦いが終わってからいても立ってもいられなかった。すぐにでも治療しに行きたかったのだが、広い森ののかを走って行くのは得策ではない。


 ましてや今は既に日が暮れており、視界が悪い。索敵魔法を使えばいいが、悠一だけではなく生命も感知してしまうため、こちらは一人を特定するのには向いていない。なので、里に戻ってくるまでずっと待っていたのだ。


「どうしたんだ、二人共」


 何が起きたのかは理解したが、どうして二人が飛びついてきたのかをまだ理解していない悠一は、二人にそう訊く。


「どうしたんだ、じゃないですよ! ユウイチさん、ボロボロじゃないですか!」


「そうですよ! いくらなんでも無茶し過ぎです!」


 目尻に涙を溜めて、一緒に悠一を叱る。いつも少し揶揄った時に怒ったりする時は全く威圧感が無いが、今回は結構な迫力で迫って、怒っている。


「無茶って言われても、あれくらいしないと倒せない相手だったんだ」


「でも、だからと言って……こんなにボロボロになるまで……!」


「距離を取って傷を治せばよかったじゃないですか! はっきり言いますけど、もし戦いが長引いていたら、かなり危なかったんですからね!?」


 そう、もしライアンとの戦いが長引いていたら、どちらかがいずれ命を落としていた。それ程までにギリギリで危険な戦いを繰り広げていたのだ。二人が怒っているのは、自分たちを守るためとはいえ、あそこまで無茶をしたことだ。


 もちろん自分を守ってくれる気持ちは、素直に嬉しかった。嬉しかったのだが、自分のために戦って傷付いて行く悠一を見ていると、胸が苦しくなっていったのだ。


「もうこんな無茶はしないでください、ユウイチさん……」


 シルヴィアは消え入りそうな小さな声でそう言い、また抱き着く。若干傷が痛んだが、それ以上に二人の心配してくれているという気持ちが嬉しく、シルヴィアの温もりが優しく心地よかった。


 ユリスはそれをジト目で頬を膨らませて羨ましそうに見ていたが、一度小さな溜め息を吐くと中級の回復魔法を発動させて、悠一の傷を治していく。それと一緒に倦怠感が無くなって行き、体が楽になる。


 魔法も使えるようになったのを確認し、まずはボロボロになったローブを修復する。至る所が破れていたが、付与されている効果は消えていなかった。次に刀を鞘から抜くが、それは半ばからぽっきりと折れてしまっている。


「それ、折れちゃったんですね……」


「あぁ。修復すれば武器としては使えるけど、秘められていた属性そのものはもう使えないだろうな」


 属性が込められている武器は、刃毀れ程度であれば大丈夫だが、このように折れてしまったり砕けてしまえば使い物にならなくなる。修復すれば武器としては使えるが、何の属性の無いただの剣になり下がる。


 悠一の刀はそれに該当しており、再構築で修復はしたがいくら魔力を流し込んでも炎は出てこなかった。そこそこ長い間使っており愛着も湧いてきていたので、実に残念だ。こうなったら新しい属性付与されている武器を買って、それを刀に作り直すしかなさそうだ。


 やれやれと溜め息を吐きながら刃折れの刀を鞘に納め、こちらを見つめているエルフたちの方に向き直る。


「攻め込んでいた敵は全て殲滅いたしました。もう安心です」


 最後に里の皆にそう言い放つ。そして少しの沈黙の後、はち切れんばかりの歓声が上がった。中には喜びをあまり抱き合っているエルフもおり、よほど追い込まれていたのだなと改めて実感する。


「ユウイチさん、この里の守ってくださり、誠にありがとうございます。この里を代表して、礼を述べさせていただきます」


 村長のアーネストが前に出て来て、そう言ってから深々と腰をを曲げて頭を下げた。


「そんな、いいですよ。俺はただ、やるべきことをしただけですって」


「しかし、守ってくださったのは事実です。どうか、礼だけはさせてください」


 アーネストは頭を下げたまま、そう言う。組合のクエスト達成報酬はかなり高いので、それがあれば十分なので、これ以上何かを貰うとなんだか悪い気がする。しかし、ここまでされてお礼を断るというのは、失礼に当たってしまう。


 少しだけ考えたが、結局お礼は受け取ることにした。


「分かりました。礼は受け取りますよ」


「ありがとうございます。では後程、この里にある最高の武器をあなたに授けます」


「い、いいんですか?」


「はい。あなたは信頼における方です。人間性にも富んでおり、あなたに授けても問題ないと判断いたしました」


「そ、そうですか……」


 戦うための武器を失ってしまっているので、ここで新しい武器を受け取ることが出来るのは嬉しい。だが、この森のエルフは近接戦闘を好まない性格をしている。なので、悠一は貰う武器が弓矢なのではないかと思ってしまう。


 そんなことを考えるが、まずは休むことが優先だ。森の中に動けなくしてある敵兵がいると伝えてから、三人はアーネストの後を付いて行って家に上がり、使っていいと言われた部屋の中に入る。ここではちゃんと、男女分かれている。でないと、疲れがあるとはいえ中々眠れそうにないからだ。


 早速悠一は着ているローブを脱いで、シルヴィアに預けておいた鞄の中から風呂用具と着替えを取り出す。アーネストの家の隣にある建物は風呂屋で、いつでも自由に行くことが出来る。風呂屋なのでもちろん料金は必要だが、悠一はタダで入れると言われた。


 嬉しいサービスに足取りを軽くしながら、男湯の方の脱衣所に入り込み、服を脱ぐ。そして風呂場に突入し、髪の毛と体をしっかりと洗った後に洗顔し、広々とした湯船にゆっくりと浸かって疲れを取る。この時間はあまり人が来ないようなので、広い浴槽を独り占め状態だった。


 風呂を堪能した後身体を拭いてラフな私服に着替えてアーネストの家に戻り、振り当てられた部屋に入ってベッドの上に倒れ込む。傷もユリスに治してもらい、風呂にゆっくりと浸かって疲れを取ったので、今度は眠気が襲ってきた。


 眠らないようにとそれに抗ったが、結局睡魔に負けてしまい悠一は瞼を閉じて眠ってしまった。



 ♢



 眠ってしまってからしばらく過ぎた頃、悠一は目を覚ました。


「どれくらい寝ていたんだ……?」


 上体を起こして部屋の壁に掛けられてある時計を見て、今の時間から逆算してどれくらい寝ていたかを図る。どうやら一時間ほど眠っていたようだ。おかげで眠気はある程度吹き飛んでおり、しばらくは起きていられそうだ。


 一度大きな欠伸をかましてからベッドから降り、部屋の扉を開けて廊下に出ようとする。すると部屋の前にはシルヴィアとユリスが立っており、少し驚いた表情をしていた。


「どうしたんだ、二人共?」


「いえ、アーネストさんが宴の準備が出来たと言っていたので、呼びに来たんです。そしたらノックする前に出て来たので、ちょっとびっくりしました」


「宴?」


「はい。何でも、里を守ったボクたちへのお礼だそうです」


「そうなのか。そこまでするもんなのか?」


「そりゃそうですよ。私たちは途中で戦闘から抜けましたけど、それでもこの里を守ったんですよ? 誰でもそれくらいはしますよ」


 本当に当たり前のことをしただけだと悠一は思っているが、やったことはかなり大きい。エルフの里には一切被害を出さず、全ての敵兵を殲滅して敵国の大佐を打ち倒す。あちら側は何かしらいちゃもんを付けてくるだろうが、先に問題を起こしたのは奴らだ。


 勝手に他国に足を踏み入れた挙句に、魔法王国と友好的な関係を持っているエルフたちに手を出そうとした。きっと否定をしてくるとも思うが、そのことを考えて何人か敵兵を捕虜として捕らえておいたのだ。これは決定的な証拠だ。


「けどどうして、急にこの国に干渉して来たんでしょう? 不利になるのは軍国の方だというのに」


「確かに……。王国と友好的なエルフたちを攫ったら、他国侵略によって戦争が引き起こるというのに……」


「一応いくつか推測はあるけど、どれもその域は出ていないし、考えたところで無駄だと思うよ?」


 悠一の推測の内の一つは、ワザと戦争を起こしてお金の回りをよくするという物である。戦争になれば大量の武器が生産され、その分のお金が発生する。そうすればその一部を税として徴収することが出来、その分豊かになって行く。


 武器の生産だけではそうはならないが、もっともお金が発生するのは鍛冶屋などだろう。その為の火種を蒔いたのだろうと推測するが、これはあくまで推測だ。どうして他国に入って来たのかは、相手に聞かなければ分からない。


 どうして来たのだろうかという疑問は一度頭の隅に追いやって、三人はざわざわとしている外に向かって歩いて行く。

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