53 防衛完了
【縮地】で一度距離を取り、圧縮したガスにより爆発を引き起こす。ライアンは容易く防御結界でそれを防いだが、その間に背後に回り込んでもう一度一太刀浴びせようとする。しかし、そこに展開された結界によって、刀を防がれてしまう。
体を回転させて、空を切る音を立てながら剣を振るい、悠一はそれを受け流しその威力を自身の刀に載せてカウンターを繰り出す。また結界で防がれたが、そこで秘められている属性を開放する。送り込んだ魔力の量が多かったため、刀身から吹き出る炎の量は凄まじかった。
「五十嵐真鳴流剣術初伝―――櫃羽烏!」
一度刀を引き、霞に構えてからの九連突き。ベルセルクの堅い防御を突破した時と同じように、同じ個所に当てる。九連突きでも結界は壊れなかったがヒビが生じ、少し大きく振るった右薙ぎで砕け散る。
直前にライアンはその場から離れたが、【縮地】で背後に先回りした悠一が炎の斬撃を飛ばす。舌打ちをしながらその炎の斬撃の方に振り向くが、既に悠一は反対側に回り込んでおり、そこからも炎の斬撃を放つ。更に下からは鋼の切っ先のみの形状に槍を無数に作り出し、上からは悠一本人が突進してくる。
「くっ……! あまり調子に、乗るなぁぁぁあああああああああああ!!」
するとライアンを包むように円状の魔法陣が出現し、同時に複数の魔法が放たれる。しかもそれぞれ別の属性だ。ユリスの最大の利点である、莫大な魔力を使った魔法の連続発動、および並行発動だ。
同時に別の魔法を使うということは、同時に別々の魔法式をその場に展開することなので、これは魔法使いの中では難関技術の一つと数えられている。ユリスですら現在、最大三属性までが限界なのだが、ライアンは見るからに五種類使用していた。固有魔法の能力のおかげでもあるのだろう。
しかしそれでも、魔法の腕に関してはユリスよりも上ということになる。もちろん世界は広いので、彼女よりもずっと強い魔法使いはいるだろう。まだAランクだし、上には三つのランクがある。そこには化け物が勢揃いしている。
そう言うことは理解しているつもりだが、ユリスの強さをよく理解している悠一にとって、彼女よりも強い冒険者はそうそういないと思っている。まさかこのような場所で、実力者と会い見えるとは思ってもいなかった。
「流石に今のは危なかったな。その若さで剣の才能もあるし、魔法の使い方も理解しているし、何より戦い慣れている。冒険者であれば戦い慣れているのは当たり前だが、君はその中で群を抜いている。……そう言えば、名を知らないな。君、名前は?」
「……ユウイチ・イガラシだ」
「ユウイチ・イガラシ、ね。君は間違いなく強者だ。それも、この俺に本気を出させる程の。さっき殺さず生かしておくって言ったけど、撤回だ。今ここで、誠意を持って君を斬り捨てる」
「お前こそ、俺に全力を出させる程の強者だ。ただのロクでなしかと思ったが、戦いに関してはそうでもないみたいだ。俺も誠心誠意、全力で戦って斬り捨てる」
お互いにそう言い、少しの間無言で睨み付ける。
「軍国ヴァスキフォルが大佐、ライアン・アルバシューズ」
「五十嵐真鳴流、五十嵐悠一」
互いに武器を構え、殺気を放つ。
「「参る!!」」
ライアンは発動させてある飛行魔法で一気に加速し、悠一は足に身体強化を集中させて作ってある足場を強く蹴って一気に距離を詰める。上から振り下ろされてきたライアンの剣を下から弾き上げ、左から薙ぎ払われて来た悠一の刀を上から叩き落す。
何十合もの打ち合いを経ても、お互いに一歩も譲らない。ただただ激しい金属音が鳴り響ぎ、その都度微かに火花が散る。どれだけ強く打ち合っているのかが良く分かる。だが、これだけ強く打ち合っていると、必ず武器が悲鳴を上げる。
そして先に悲鳴を上げたのは、悠一の刀だった。刀は切れ味は凄まじくいい武器ではあるが、それと同時に脆いところもある。昔では刀で人を斬った時に、その斬り方が下手だと骨に当たった時に刀身が曲がってしまうということがあるほどに脆い。
つまり、骨よりも強度のある金属同士を強く激しくぶつけ合っていると、刀はすぐに刃毀れしてしまう。悠一の刀はただ属性が付与されているだけの物なので、強度を上げる魔法などは施されていない。
代わりにライアンの剣は肉厚で、強度を上げる魔法が掛けられているようだ。これだけ強く打ち合っているにもかかわらず、刃毀れは一切していない。このままでは悠一が不利になって行くだけなのだが、一切焦りを見せていない。
一度鍔競り合いまで持ち込み、ライアンの腹に蹴りを叩き込む。
「ぐふっ……!」
一瞬力が弱まったところで、体を捻って回し蹴りを叩き込む。腕でガードされたが踏ん張りの利かない空中なので、そのまま数メートル飛ばされる。その間に再構築魔法を発動させて、刀を修復する。
新品同然の輝きを取り戻したのを確認すると、【縮地】を使って間合いに踏み込み左から斬り上げる。咄嗟に身を翻して躱されるが、流れるように繋げて追撃する。
右手の剣を首を狙うように、右から薙ぎ払うが、悠一はそれを見切って前に倒れるように躱す。その状態で【縮地】を発動し、その勢いを載せて突きを叩き込もうとする。だがライアンは直前に結界を張り、ギリギリのところで刀の切っ先を受け止めていた。
攻撃を止められたがそこで止まるようなことはせず、ライアンの背後に鋼の槍を構築して、それを飛ばす。それの気付いた彼は剣で弾き飛ばすが、その一瞬だけ悠一から目を離した。そのほんの僅かな時間の間に上に跳躍し、足場を作ってそれを強く蹴って落下して行く。
気付いた時には既に間近まで迫っており、上から刀が力強く振り下ろされる。腕だけに身体強化が施されており、その一撃は凄まじい物となった。ライアンは何とかそれを受け止めたが、その場に留まっておられず落下して行く。
「かはっ……!」
地面に衝突し、ライアンは苦悶の表情を浮かべる。だがそこに、再度猛スピードで悠一が突進してきた。慌ててその場から飛びのいて躱すが、次の瞬間には切っ先が目の前まで迫っていた。
ギリギリのところでそれを躱して剣を振るうが、当たる直前に姿が消える。そして背中に鋭い痛みを感じる。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「うわっと!?」
背中に鋭い痛みを感じてすぐ、ライアンは裂帛の気合を上げて魔力を爆発的に放出する。彼の周囲に複数の魔法陣が出現し、そこから魔法が無差別に放たれる。もう一太刀浴びせようと次の行動に出ていた悠一は、突然の魔法に驚いたが冷静に刀で叩き落し、大きく距離を取った。
まだ魔法は放たれており、紙一重で躱したり刀で次々と叩き落したり、魔法で分解したりしてやり過ごす。十数秒間それを繰り返し、やっと魔法が納まる。
「この俺に二回も攻撃を喰らわせるとは、流石だな」
ゆっくりと悠一の方を向きながら、ライアンはそう言う。その体は光に包まれており、それが光属性の回復魔法であるのは一目瞭然だった。今の攻撃で畳み込もうとしたのだが、仕切り直しになってしまった。
「一応俺は元Sランク冒険者をしていて【剣帝】の二つ名を持っているんだが、君は純粋な剣術で言えば俺を超えている。さしずめ、【剣聖】と言ったところかな?」
「二つ名持ちか。どうりで手強いと思った。けど、俺に二つ名は無い」
「マジか。これだけ強いのに二つ名を持っていないなんて、世の中は広いのかもしれないねぇ」
ライアンは魔法は恐ろしく強力な物だが、その強さを支えているのは圧倒的な剣の腕だった。かつて戦ったアルバート・ハングバルクも悠一たちと同じ魔法と剣の両方を使う人間だったが、その強さはライアンと比べてはならない。
それほどまでのこの男は強く、【剣帝】という二つ名に納得する。それだけの二つ名に、合うだけの実力を持っているから。
だが、まだ悠一は全力の全力を出し切っていない。次こそ仕留める為に精神全てを集中させて、刀を正眼に構える。すると、明らかに悠一に纏わり付いている雰囲気が変わった。今までよりもずっと鋭く、恐ろしい物に変化したのだ。
ライアンも気を引き締めて剣の柄をしっかりと握り直し、前方にいる悠一を睨み付ける。一挙手一投足も見逃さないと言わんばかりの眼力で観察するが、気付いた時には既に間合いに潜り込んでいた。そして刀は既に、右から迫っている。
「っ!?」
迫って来た刃を辛うじて受け止めるが、弾いたと思ったら切っ先が喉に迫っており、身を捩って躱す。その勢いを載せて斬撃を繰り出すが、最小限の動きだけで躱されてしまい、首を狙ってくる。それを弾き上げると今度は左腕、左腕を引いて躱したと思ったら右脇腹、受け流したら眼と、防いでも受け流しても躱しても、途切れることなく斬撃が襲い掛かってくる。
力づくで剣を大きく弾き飛ばして急いで距離を取るが、行動に移ろうとした時には音もなく間合いを詰め込まれており、また連撃が叩き込まれる。その一撃一撃は凄まじく重く、鋭い。先程とは全くの別物だ。
近距離で魔法を放とうとするが、魔法陣が出現した瞬間にそれが霧散する。スキルの中でも、魔法使い殺しとも呼ばれている【マジックキャンセラー】かと思ったが、違うと断定出来た。魔法陣が霧散する時、魔力反応があった。
スキルも魔力を使う物はあるが、それほど大きくはない。だが魔法式が霧散した時に感じた魔力は、少ない物の魔力を消費するスキルよりも多かった。なのでスキルではないと判断出来たのだ。
「俺の魔法陣が消えるのは、君の魔法の能力かな?」
「あぁ。俺も固有魔法持ちでな。あまり教えたくはないが、お前は自分の固有魔法を話したから、俺のも話してやる」
【縮地】で接近して一度鍔競り合いまで持ち込む。
「俺の固有魔法は分解と再構築。俺にはこの二つにしか適性が無い。さっき前の魔法が消えたのは俺の分解によるもの。俺が刀を直したり、時々飛ばす鋼の槍や氷の刃なんかは、再構築魔法で行っている」
何て反則的な能力なのだと叫びたくなったが、自分の固有魔法も大概なのでぐっと堪えた。しかし、それでも悠一の持つ魔法は強力過ぎる。スキルでなくとも魔法を無効化出来るし、再構築では使いようによっては殆んどの魔法が再現出来る。
それに関してはイメージその物を魔法に変換する【幻想創造】の方が強力だが、悠一は分解と再構築の二対を有している。ライアンが魔法を使えないところに自身をも超える剣術、更に魔法が放たれてくる。今まで戦ってきた者の中では、最も厄介な冒険者だ。
自分の半分の人生しか生きていないような少年が、数十年間戦いに身を置いてきた自分よりも圧倒的に強い。天武の才を持っていればあり得るが、ここまでは強くはない。しかし、悠一は遥か先を行く。
もしかしたら二度とこんな思いはしないだろうと思い、ライアンは口元を不気味に歪めた。そして彼は今、とても楽しいと思っている。俗に言う戦闘狂だ。
「随分と楽しそうに笑うんだな」
「俺は戦いが大好きでね。君みたいな強者と戦うと、心が躍るんだ。こんな血沸き肉躍る戦い、そうそうないからな」
「そうか。けど、これ以上長引かせるつもりはない。もうそろそろ決着を着けようか」
「おいおい、折角楽しくなってきたんだ。もっと楽しませてくれよ」
ライアンはそう言うと、体から濃密で絡みつくような殺気を放つ。一瞬悪寒を感じたが、すぐに刀を中段に構える。
二人は地面を強く蹴って間合いを詰め、強く刃をぶつける。また何十合も打ち合うが、一歩も引かない。それどころか、悠一がじわりじわりと押していく。また刀が悲鳴を上げ始めるが、すぐに距離を取って再構築で修復し、再度距離を詰めて打ち合う。
激しい金属音が周囲に鳴り響き続ける。離れたところにいるエルフたちは、二人の戦いを櫓や壁の上から見ていた。もちろん、シルヴィアとユリスもだ。
彼女らは悠一の戦いに参戦してサポートをしたいと強く願ったが、高レベルで別次元な戦いの中に入り込んで、サポート出来る自信がない。支援系の魔法ならば出来るが、攻撃系の魔法を放てば、逆に悠一の邪魔になってしまう。
そうなると最悪、自分たちのせいで負けてしまうかもしれない。それだけは嫌なので、二人は助けに入りたいという気持ちを抑えながら、祈るように両手を胸の前でぎゅっと合わせて悠一とライアンの戦いを見つめる。
激しく打ち合っている二人は、何度か一度距離を取って魔法での応戦をする。とはいってもライアンは魔法陣が現れた直後にそれが霧散してしまい、魔法を使えていない。だが悠一は問答無用で次々と魔法を撃って来て、動きが若干鈍ったところで距離を詰めて刀を振るう。
誰がどう見てもライアンが劣勢だというのに、彼は実に楽しそうに笑っていた。
「ははははははは! 楽しいな! 実に楽しい!」
たがいに薙いだ抜き胴の切っ先がぶつかり合って軌道がズレ、悠一のローブの袖と、ライアンのローブの裾を斬り裂くだけとなる。更に何合と打ち合い、再度鍔迫り合いに持ち込む。
「若くて可愛い女の子とベッドの上で仲良くするのも楽しいけど、ユウイチ・イガラシ。君との闘いはそれ以上に楽しい!」
力づくで押し切り、妨害も無く複数の属性の魔法を連続して発動する。一斉にそれが悠一に襲い掛かって行くが、全てギリギリで躱したり刀で斬ったりして凌いでいる。そこにライアンが突貫して行き、上から剣を振り下ろす。
その一撃は受け流され、その勢いを自身の斬撃に載せて反撃する。ライアンは体を捩ってそれを躱し、そのまま回転して薙ぎ払う。悠一はそれを、下から弾き上げて防ぎ刺突を繰り出すが、ライアンはそれを結界で防ぐ。
すぐに分解したがその一瞬の間に体勢を立て直し、剣を振るってくる。幾度となく刃が接触し、激しい金属音が鳴り響く。二人の剣戟は次第に鋭さと重さが増していき、苛烈を極めていく。最早二人の太刀筋を見ることが出来るのは、視力の優れたエルフと二人と同等な剣士だけだろう。
鋭さと重さが増していくその剣にお互いに感心し、動きを見切ってギリギリまで間合いを削って行く。やがて間合いが限界まで削られた頃、二人に少しずつ切り傷が生じ始めた。太刀筋を見切ったとしても完全に躱し切ることの出来ない間合いだからである。
悠一は【天眼通】を使用しているのでライアンほどではないが、それでも確実に傷が生じ始めている。権での戦闘と並行して魔法の発動はまだ上手く出来ないが、流石のライアンでもこれだけの激しい打ち合いの中で、魔法は使えないようだ。
相手の次の動きが完璧に分かっている悠一の方が一歩上手な為、決着を着けようと更に加速して行く。が、
「っ!?」
あまりにも激しい打ち合いだったからか、悠一の刀は限界を迎えて、半ばから折れてしまう。それを好機と見たライアンは、一気に攻めに転じる。
武器を失った悠一は、しかし一切慌てることなく【縮地】で距離を取って折れた刀を鞘に納め、二振りの刀を作り出す。そしてそのまま地面を蹴って間合いを詰めて、二本の剣で応戦する両手でなくなった分鋭さと重さは少し失われてしまったが、代わりに手数は単純計算で二倍だ。
左右の刀を高度に連携させて、次々と連撃を繰り出す。片方の刀で防御し、もう片方で攻撃する。完全なる攻防一体な二刀剣術は、悠一が二番目に得意とするものである。激しく打ち合い、また鍔迫り合いに持ち込み、今度は悠一が力ずくで押し飛ばす。
「五十嵐真鳴流二刀剣術中伝―――燈刀撫子!」
右突き、左薙ぎ、右切り上げ、回転しながら左の刀で右薙ぎ、そのまま右の刀で右薙ぎ、左突き、右袈裟、左袈裟、左薙ぎ、右の刀で唐竹、左で逆風、左右同時突き。十三もの斬撃が叩き込まれ、そこからまた高度な連携をした左右の刀が襲い掛かって行く。
速さの増したその剣術にライアンは完全に対応し切れておらず、どんどん傷が刻まれて行く。もちろん剣で応戦しているが、何しろ悠一は二本の剣を持っている。片方を対応したとしても、もう片方は対応し辛い。
体力が奪われて行くが、それは悠一も同じことである。これだけの速さで攻撃を続けていれば、体力の消費は早くなる。現に悠一は息を乱し始めている。こうなったら、どちらかが致命的なミスを犯すか、先に体力が尽きるかになる。
「はぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」
「まだまだぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」
二人の剣が激しくぶつかり合い、やがて悠一の二本の内の右の刀が折れてしまう。それでも慌てず両手で柄を握り、打ち合って行く。また悲鳴を上げ始めたので距離を取ろうとするが、その隙が無い。ならばと思い、再構築魔法で刀を複数本作り出し、それを放つ。
下手すると自分に当たる可能性もあったが、ギリギリ当たらずライアンに吸い込まれるように飛んでいく。彼は剣でそれを弾きながらも悠一に攻撃を仕掛けるが、その間だけ猛攻が緩む。その隙に自分の近くに突き刺しておいた刀を一本回収し、それでもう一度打ち合いを始める。
ひたすら何十合、百十数合と打ち合い、刀が折れれば新しいのを作り出しそれでまた挑む。何本も何本の刀が折れていきながらも諦めることなく戦い続けていると、ライアンの剣も悲鳴を上げた。刀身にヒビが生じ、あと少し強く打ち合えば折れてしまう。
それを確認した悠一は好機と見て、加速する。
「おぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
横薙ぎに振るってきたライアンの剣を下から弾き上げ、その衝撃で彼の腕が腕に撥ね上げられる。腕が撥ね上げられたので胴体ががら空きになり、完全な無防備になる。その隙を悠一が見逃すはずがなく、刀が閃く。
「五十嵐真鳴流剣術奧伝―――華槇椿鬼!」
地面を強く蹴ってすれ違いざまに一閃し、背中を右に切り上げてから唐竹、そして回転を加えながら右へ薙ぐ。本来この剣術は、複数の敵に対して使いものである。最初の一太刀で一人斬り伏せ、右切り上げで二人、唐竹で三人、回転しながらの右薙ぎで四人といった具合だ。もちろん対個人にも使えるが、真価は多対一で発揮される奧伝だ。
刀の刀身についた血を振るって落とし、分解する。
「まさかここまで強いとはね……。流石に予想外だ……」
「それはこっちのセリフだ。お前がここまで強いとは思っていなかった」
鞘に納められている刀を抜き、半ばから折れているそれを見て苦笑する。半ばからぽっきりと折れてしまい、もう武器としては使い物にならない。付与されている能力も、直したところで発動しないだろう。気に入ってずっと使い続けてきた相棒とはいえ、実は意外と初期装備なのだ。
むしろ、よくここまで持ってくれたなと思い、鞘に納める。それと同時に、ライアンは地面に仰向けに倒れる。
「あーあ……、もう女の子を抱けないかぁ……」
「最後の最後まで自分の欲を貫き通すか。流石だな」
「俺の生きがいだったからな……。けどまぁ……、俺の最後の戦いは本当に楽しかった……。女の子を抱いて色々すっきりしていたけど、戦いでここまですっきりしたのは初めてかもしれないな……」
そこまで言って、ライアンは口から血を吐いた。もう限界の様だ。
「ユウイチ・イガラシ、君との闘いは実に楽しかった……。心残りは少しあるけど、君みたいな剣士に殺されるのも悪くはないな……。…………ありがとう」
ライアンは最後にそう言い残し、静かに息を引き取った。
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