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52 軍国の大佐

「おぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」


 大剣を持った兵士が突進してきて、その勢いを載せて振り下ろしてくるが槍で大剣を腹を弾き、喉を貫く。すぐさま槍を引いてそれを分解し、鞘に納めてある刀を抜いて持ち前の素早さを活かして次々と敵を斬り倒して行く。


 全員倒している訳ではなく、何人か捕虜としてとらえる為に身動きを取れないようにする。距離を取って離れようとすると、里から魔法が飛んできて戦闘不能にする。そこに【縮地】で一気に距離を詰めて来た悠一が、蹴りと叩き込む。


 鎧を着けていても身体強化を足に集中させてあるので、凄まじい衝撃音と共に吹き飛ばされる。四方八方から一斉に襲い掛かってくるが、悠一は士薙祓しちばらいで誘導して、同時に攻撃を仕掛けてきたタイミングで、【縮地】で上に跳んで躱す。


 勢いを付けての攻撃だったので当然躱し切れず、兵士たちは仲間の攻撃を喰らってしまう。兵士たちは地面に倒れ込むが、追い打ちを掛けるようにあり得ないくらい高威力の魔法が飛んできた。エルフの精霊魔法による攻撃だ。


 風精霊の精霊魔法は、災禍級の物でも上級並みの威力が出る。この魔法を放ったのは村長であるアーネストであり、魔法の名前は【シルフィードブレス】という物だ。単に風を圧縮して打ち出すだけの魔法ではあるが、威力は上級魔法に匹敵している。


 圧縮された風は着弾すると、巨大な竜巻へと変化する。その内部では風の刃が発生しており、巻き込んだ軍国の兵士を切り刻んでいく。それを掻い潜った一人の兵士は、片手剣を大きく振りかざしながら走ってくる。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――逸奈落いつならく!」


 右薙ぎ、唐竹、右切り上げ、左薙ぎ、逆袈裟、逆風、三連突きの九連撃が叩き込まれ、その場に倒れる。また遠方から魔法が放たれてきたが、それは分解魔法で消し飛ばし、プラズマを上に発生させて球体上に圧縮し、そこからレーザーのように撃ち出す。


 次々と兵士たちを貫いて行き、最後に残ったプラズマ球が上から落下して、放電する。悠一はその前に壁を構築してそれを防ぐ。自分で作り出したものではあるが、物理現象に従っているので防御しなかったら自分も巻き込まれてしまう。


 壁を分解して、今度はプラズマを応用してレーザーを撃ち出す。プラズマは分子が一度くっつき、それがもう一度離れることで発生するものである。一個一個では小さいが、それをたくさん集めて同時に行えば、強力な物に変化する。


 放たれたレーザーは兵士たちの鎧や構えられた楯を難なく貫き、的確に心臓を貫く。一気に何人かが地面に倒れ伏したところで、小型のプラズマ球を発生させて、それを弾丸のように撃ち出す。放たれたプラズマ弾は兵士を貫き、放電して内部から焼き尽くす。


「な、なんなんだよ、この魔法!? こんなの、聞いたことがねぇ!」


 二刀使いの兵士はそう叫びながらその場から逃げ出そうとするが、魔法の乗った矢が飛んできて頭を貫かれる。壁の上に立っているエルフの弓兵が放った矢で、それには風魔法が掛けられていた。普通に矢を放つだけでは威力は出ないが、風魔法で速度を上げてあるので、鎧を着ていても簡単に貫かれてしまう。


 悠一はあの距離から的確に頭を打ち抜く、エルフの視力と手腕に感心した。その後に飛んできた【シャイニングレイ】が次々と兵士の足や、撃たれたら力の入らなくなる肩などに当たってから、【縮地】で距離を距離を詰めて離れたところにいた敵を斬り伏せる。


 先程魔法を分解したのを見た兵士たちは接近戦に持ち込んでくるが、悠一の剣術に圧倒されてしまう。それと、物量で押せば何とかなると思った兵士もおり、一斉に大量の魔法を放ってきた。しかしそれらは全て、あっさりと分解されてしまう。


 数で押せば何とかなると考えていた兵士たちはそれで狼狽えてしまい、動きが一瞬止まってしまう。そこに【縮地】を連続使用した悠一が飛び込んでいき、斬り伏せ強化した腕や足で打撃を叩き込む。最後にガスを構築し、魔力で圧縮してから解放し、爆発を起こす。


 森を破壊してしまうことになってしまったが、戦いになる前にアーネストからはある程度であれば大丈夫だと許可は貰ってある。プラズマ球の放電と今の爆発で、少なくはない被害は出てしまったが。後で詫びておこうと心に決めておいた。


 とりあえず敵を粗方倒したので、シルヴィアたちのいる櫓の方まで【縮地】で移動する。他の櫓の所に立っているエルフたちは次々と魔法や矢を撃っているが、シルヴィアとユリスは魔法を放つのを止めている。


「ユウイチさん、大丈夫ですか?」


「あぁ、平気だよ。あんな弱い奴らの攻撃なんか喰らわないさ」


 櫓の上に立つと、二人はすぐに悠一の所に駆け寄って来た。二人とも、心配そうな顔をしている。あれだけの数の敵兵の中に、悠一一人で突っ込んでいったのだ。心配するのも無理はない。


「さっき開放してきた奴隷たちは?」


「里の中で介抱されています。無理矢理奴隷にされてから、ロクな食事も取っていなかったみたいです」


「本当にロクでなし共の集まりの国だな」


 遠距離視認魔法を発動して里の中を見てみると、確かにロクな食事を取っていなかったのか、提供されている食事にありついて涙を流している。どんな酷い扱いを受けていたのか、嫌でも分かってしまい、歯を食い縛る。


 とにかく、広げてある索敵魔法の反応を見ると、兵士の数は最初に感知した時よりはずっと減っており、いくらか逃走しているのもある。これであれば、決着が着くまでそう時間は掛からないなと思った。


「―――! 危ない!」


 その直後、大火力の魔法が悠一たちのいる櫓に向かって飛んできた。慌ててシルヴィアとユリスを抱き抱え、その場から跳躍して離れる。


 防いだ方が早いのだが、悠一の作る楯では防ぎきれないと判断したのだ。シルヴィアかユリスの指示を出してから結界を張るのも間に合わないし、分解を発動させようにも咄嗟だったので間に合わなかった。


 シルヴィアとユリスを抱えた悠一は地面に着地し、二人を離す。その顔はほんのりと赤く染まっており、少々俯き加減だった。どうしてなのだろうかと考えたが、また魔法が放たれてきたので全て分解して防ぐ。


「いやはや、まさか魔法そのものを無効化させてしまうだなんてね。もしかして、【マジックキャンセラー】の固有魔法の持ち主かな?」


 声のした上を向いてみると、そこには一人の男が宙に浮いていた。その男は黒い魔法使いのローブに、腰には剣が一本だけ下げられていた。悠一と同じタイプの人間の様だ。


「いきなり攻撃してくるとはな。しかも不意打ちと来た。新人狩りのアルバート・ハングバルクみたいだな」


「あ~、この間狩ろうとした新人に逆に狩られたっていう間抜け冒険者だろ? 【葬天】の二つ名を持っている」


 どうやら奴のことは軍国も知っているようだ。


「ところで君、エルフにも劣らない程の可愛い女の子を連れているね? 結構多くの女の子を見て来たけど、エルフに匹敵するほどの女の子は初めて見たよ。気に入った」


「あ?」


「これだけ可愛い女の子と、こんなところで出会えるだなんて! 神サマに感謝感謝だね!」


 いきなり不意打ちで魔法を売って来た男は、シルヴィアとユリスを見るなり急に嬉しそうな表情になる。鼻の下はばっちりと伸びており、誰が見ても情欲を抱いているのが分かる。二人共、汚物を見るかのような目でその男を見ている。


「こうなったら、さっさとそこの君を殺してこの戦いを終わらせて、二人を俺の奴隷にしないとな~。今日はベッドの上で、たっぷり可愛がってあげるよ~」


 情欲に塗れた目でそう言い、シルヴィアとユリスは言い表せぬ何かを感じた。二人はどうやら、あの男のことを生理的に受け付けられないようだ。悠一自身もあの手の人間とは、なるべく関わりたくはないなと思っていた。


 そう思っていると男は腰の剣を鞘から抜き、切っ先を悠一に向ける。


「軍国ヴァスキフォル大佐、ライアン・アルバシューズ。我が前の敵を斬り捨てる」


「……シルヴィア、ユリス。下がってろ」


 悠一は二人に指示を出すとゆっくりと抜刀し、正眼に構える。悠一の雰囲気が変わったのを感じた二人は、その場から急いで走り去っていく。


「何だ? 可愛い女の子を守る騎士でも気取っているのかな?」


「いいや、ただ二人を巻き込みたくなかっただけだ」


 魔力を放出して、最大限まで身体強化を掛ける。向こうも同じように、身体強化を施した。


「確か、シルヴィアちゃんとユリスちゃんだっけ? 君を殺したら、すぐに迎えに行かないと」


「その必要はない。今ここで、お前を斬る」


「それは俺のセリフだよ。話す感じ、君はシルヴィアちゃんとユリスちゃんの仲間の様だね。……よし、君は殺さないで動けないようにして、俺があの二人をたっぷりと可愛がっているところを見せてあげるよ。そしてその後で殺してあげる」


「そんなことはしなくてもいい。お前はもう、二度と女に手を出せないように、俺が殺す」


「「……」」


 そこで一度無言で睨み合う。ただそれだけなのに、空気がピンと糸を張ったかのように張りつめている。そして、


「はぁ!」


「ふっ!」


 【縮地】でライアンの背後に回り込み、上から振り下ろす。しかしそれに気付いたライアンは、体を回転させながら剣を振るい、悠一の刀を防ぐ。


 腕ごと上に弾かれたので胴体ががら空きになり、そこに攻撃を仕掛けてくるが、足場を作ってそれを蹴って上に躱す。跳んだ先にも足場を作り、それを蹴ってその勢いを載せて斬撃を叩き込む。


 その攻撃も防がれてしまうが気にせず、そこから連撃を繋げていく。時折ライアンが反撃を仕掛けてくるが、新たなスキル【天眼通】で次の動きが分かり受け流しながら攻撃を仕掛ける。


 刺突をライアンの剣で弾かれたところで、悠一は咄嗟に【縮地】で距離を取る。その場所には、一本の鋼の剣が浮かんでいた。


「おや、これを躱されたか。完全な死角からの攻撃だったというのに」


「俺をあまりただの冒険者だと思わない方がいいぞ」


 そうは言っているものの、実際【天眼通】が無ければ今ので死んでいた可能性がある。このスキルには敵の次の動きが分かるという点以外にも、視野外からの攻撃が来た場合全方位を見ることが出来るようになるようだ。


 ライアンの完全な死角からの攻撃を躱せたのも、全方位を見ることが出来たからである。このスキルを手にすることが出来て、本当に良かったと心の底から思った。


「やれやれ、早く戦闘不能になってくれないと、シルヴィアちゃんとユリスちゃんを迎えに行けないじゃないか」


「行かせないって言ってるだろ。俺の仲間に手を出すんじゃねぇ!」


 そう叫びながら【縮地】で距離を一瞬で詰め、刀を高速で振るう。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――夜覇羅蛟やはらみずち!」


 目にも留まらぬ速さで刀を振るう。例え相手が攻撃した来たとしても、それすらもこの技の一部として取り込み、反撃を許さない。ライアンも次々と繰り出されてくる斬撃に対応し切れておらず、少しずつ小さな傷が体に刻まれて行く。


 何度か死角からの攻撃を仕掛けるが、それも見切られ躱される。しかもただ躱すのではなく、躱しながらも強力な攻撃を仕掛けてくるのだ。厄介なことこの上ないと、ライアンは内心舌打ちをする。


 このままでは埒が明かないと判断したライアンは、無理矢理距離を詰めて当身をする。それにより悠一の技はほんの少しだけ鈍り、その隙にそこから離れることに成功する。


「まさかベルセルクと同じ方法で抜け出すとはな」


「あの化け物を倒しているのかよ……。そりゃ強い訳だ」


 やれやれと溜め息を吐くライアンは、随分と余裕そうに見える。体中に小さいとはいえ、それなりの傷が刻まれているというのに。そう訝し気に睨み付けていると、傷が回復して行った。魔力を感じられたので、回復魔法だ。


「……光属性の適性者。いや、固有魔法持ちか」


「大正解。俺の固有魔法【幻想創造】は、魔法式を覚えなくてもイメージするだけで魔法を使えるという、優れものさ」


 何という反則魔法だと思ったが、それでもなお悠一の固有魔法の方が強力だと気付き、口にするのを止めた。とにかく、今はそんなことを思っているよりも、目の前の敵を何とかしなければならない。


 ―――シルヴィアとユリスを守る為にも、全力でここで倒さなければならない。


 そんな強い意志を胸に秘め、ライアンの下へ一足飛びで距離を詰め、刀を振るう。ライアンはそれを止め反撃しようと剣を振るう。


「おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「はぁぁぁあああああああああああああああ!!」


 両者は激しく刃が激しくぶつかり合い、派手な金属音を撒き散らす。ライアンが下から切り上げてくれば、刀を剣の腹に叩き付けて無理矢理軌道を逸らし、悠一が薙げば下から弾き上げられる。時にはライアンが魔法を近距離で放ち、悠一がそれを分解して、悠一の魔法をライアンは紙一重で躱す。


 そしてまた激しく刃を交える。互いに最大速度での攻防なので当然躱し切れない攻撃もあり、ところどころに小さな切り傷が出来ていく。しかし悠一は戦いながら再構築魔法でそれを治していくようにライアンは固有魔法で回復魔法を発動させて治していく。


 ただひたすら剣を交えていると、遠方から光の雨が襲い掛かって来た。悠一は咄嗟に距離を取りプラズマを応用したレーザーを、無数に撃ち出す。遠方から襲い掛かって来たユリスの【シャイニングレイ】と、悠一のプラズマが同時に襲い掛かって行く。


 だがライアンはすぐに防御結界を展開してそれを防ぎ、一足飛びで悠一の懐に潜り込んで、剣を振るう。体を翻してそれを躱し、下から切り上げた後にその勢いを利用して右へ薙ぎ払い、体を捻りながら再び右へ薙ぐ。


 それを防がれたところで氷の刃を無数に構築してそれを撃ち出し、それを弾き落としている間に【縮地】で背後に回り込み、一太刀浴びせる。しかしその傷はすぐさま治癒されてしまう。やはり彼の固有魔法は厄介だ。


 一回の攻撃で殺すか、もしくは回復魔法では回復し切れない深手を負わせるかしないと、倒せなさそうだ。そうと決まると早速行動に移り出す。

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