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51 防衛戦開始

 エルフの里に着いてから時間が過ぎていき、日が傾き始めるころになった。悠一は櫓の上に立ち、そこから周囲を警戒している。もちろん索敵を最大限広げてあるため、森の中にいる動物たちの動きがはっきりと分かる。


 それで、シルヴィアとユリスはというと、


「シルヴィアさんはモンスターに襲われているところを助けられたのですね!」


「は、はい……。あの時私はまだ駆け出しだったので、本当に助けられて……」


「それでユリスさんは、素行の悪そうな冒険者に絡まれているところを、ユウイチさんに助けられたと」


「ボクはその時既にAランクでしたけど、それは相手も同じです。それに、魔法使いなので身体強化などをしないと、剣士には勝てません。掛けても無理だと思いますけど……」


 エルフの女性たちに、悠一との出会いを根掘り葉掘り聞かれていた。今思うと、二人との出会いは本当にラノベなどでよくあるあるの、テンプレ系な出会い方だと思う。シルヴィアはエロモンスターとして有名なオークに襲われているところを助けられ、ユリスは不良チンピラに絡まれているところを助けられる。


 こちらの世界でも娯楽用の本などはあり、それにもモンスターに襲われている少女を主人公が助ける、不良に絡まれている少女を主人公が助けると言ったものがある。こちらでも、そう言うのは定番の様だ。


 頬をほんのりと赤くして、俯き加減で出会い方を話しているシルヴィアはとても可愛らしく、遠目で見ているエルフ男性陣は一緒にいる悠一に少しだけ嫉妬した。


「それにしても、ユリスさんは凄いですね。光魔法に適性があって、上級まで使えるだなんて」


「エルフには多く見られますけど、人間には少ないと聞きます。よくそこまで使いこなせましたね」


「ボクに魔法の才能があると分かってから、毎日村で訓練していましたからね。お父さんは宮廷魔法使いですし、魔法の知識については全てお父さんから聞いていました。なので、早い段階で上級まで覚えることが出来たんです。……戦略級はかなり苦労しましたけど」


 前に話していた、戦略級魔法を覚えるまでの長過ぎる道のりを思い出したのか、少しだけ遠い眼をするユリス。本当にどれだけの苦労があったのか、少し知りたくなってきた。


 そんなやり取りを聞きながらそう思っていると、索敵魔法に野生動物やモンスターではない、別の反応があった。シルヴィアとユリスも同じようで、その反応があってからすぐ悠一の隣に立っていた。


「ユウイチさん」


「あぁ、敵のお出ましだ」


 反応があった方に遠距離視認魔法を発動して目を向けると、数多くの鎧を着た人たちが里に向かって歩いてきていた。その鎧には、前に店で絡んできた軍国の王子の着ている服の胸元にあった紋様と同じものだった。間違いなく軍国の部隊だ。


 その奥の方に目を向けると、悠一は目を見開き怒りを露わにする。そこには年増のいかない少年少女たちが捕らえられており、その首には隷属化の首輪が着けられているからだ。そしてその全員は、失望した生気の無い虚ろな目をしている。


 どう考えても無理矢理捕まえられて、非合法奴隷にされた者だ。


「どこまでもクズなことをするんだよ、軍国は……!」


 強い怒りの篭った声で、悠一はそう口にする。シルヴィアとユリスも同じように確認し、そして怒りを露わにしている。彼女たちもまた、許せないようだ。


「奴らは恐らく、あの奴隷たちを前に出させて楯にして、俺たちに攻撃をさせないつもりだ。そうすれば、間違いなく傷付くからな」


「何て卑劣な……!」


「その隙に雷属性の麻痺魔法を撃ち込んで、エルフたちを攫って行く。奴ららしいやり方とも言えるな」


 軍国の人間は、奴隷を人と思っていない。ただの道具と思っているのだ。なので、戦いの時はこうして連れていき、彼らを楯にして相手が攻撃出来ないところに魔法を撃ち込み、そこに若い女性がいたら連れ去って行く。


 今回はまさしくそのような戦法を取ってきており、人をただの戦いの捨て駒にする軍国に対して、凄まじい怒りと嫌悪感を抱いた。転生した時に軍国ではなく王国の近くであって、本当に良かったと悠一はセリスティーナに感謝した。


「奴隷たちは俺が全員解放する。その間に二人は軍国の連中に攻撃を撃ち込んでくれ。倒すまでではなくとも、動きを止められればそれでいい。後は俺がやる」


「分かりました」


「あんなの、絶対に許しはしません……!」


 シルヴィアとユリスがそう言うのを確認した後、悠一は刀を鞘から抜いて櫓から飛び降りて、向かってきている軍国の連中に向かって走って行く。



 ♢



 一方、悠一たちが既に待ち構えていると気付いていない連中たちは、捕らえたエルフたちをどうするかを話していた。既に勝ったつもりでおり、その先のことを考えているのだ。


「やっぱ捕まえた女共を犯すのが一番いいよな」


「だよな! 首輪を着けられて抵抗出来ない女を犯すほど、楽しいことは無いしな!」


「そうやって話して盛り上がるのはいいが、そろそろ警戒をしておけ。もうすぐ見えてくるぞ」


 先を歩いている一番屈強な男がそう言うと、話し声が消えて、ただ歩く音と鎧の擦れる音だけが響く。そして話が止んでから少しして、軍隊は進行を止める。


 その先には、上に弓矢と杖を持ったエルフが一人ずつ立っている、木製の壁が見えたからだ。それを確認すると、連中は全員下衆な笑みを浮かべる。いざ進攻しようと指示を出そうとした時、突然誰かがすぐ近くに現れた。


 その手には鉄剣よりもやや細く、反りのある不思議な形をした剣が握られていた。そして全身からは、体中を刺すような鋭い殺気が放たれている。


「チッ! エルフ共、冒険者を用心棒として呼んでいやがったか!」


 そう言いながら手で指示を出すと、後ろにいた少年少女たちが前に出て来た。その手には剣が握られており、恐怖で振るえている。放たれている殺気にてられてしまい、怯えているのだ。


「さあ、冒険者! お前はこんな若い子供たちを攻撃出来るか!?」


 男がそう言うと、前に降り立った冒険者の姿が突然掻き消えた。そして、いつの間にか後ろに立っており、男の右腕を斬り落としていた。あまりの速さに最初は気付かなかったが、やがて腕が斬り落とされたと認識し、途端に痛みがはしる。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!? 俺の腕がぁぁぁぁああああああああああ!!」


「黙れよ」


 底冷えするような声が鼓膜を打ち、直後凄まじい衝撃を感じて木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく。


「お前ら、人を何だと思っているんだよ。いくら奴隷でも、物扱いしてんじゃねぇ。それに、この子供たちは、お前たちに無理矢理攫われて無理矢理奴隷にされた。それがどれだけ辛いことだか分かってんのかよ。……いや、分かる訳無いか。勝手に他国の領地に足を踏み入れて、荒らすことしか出来ない無能な連中だもんな」


 そんな言葉を投げ掛けられ、軍の連中は怒りを露わにする。しかし、今ここで怒りに任せて襲い掛かれば、間違いなくやられてしまうのは目に見えていた。なので、ぐっとそれを堪えていた。


「お前らがそうであるように、軍国の王様もただ侵略しか頭にない無能なんだろうな。王である以前に、人間失格だ」


 しかし自国の王を侮辱されれば、黙ってはいられない。全員一斉に剣を鞘から抜いて襲い掛かって行く。背後に奴隷がいるというのに、お構いなしにだ。


 するとそこに光が雨の様に降り注いでくる。そして追い打ちを掛けるように、氷の槍も襲い掛かってくる。その全ては、奴隷たちには当たっておらず軍の連中にだけ当たっている。


 その間に不思議な形をした剣を持つ冒険者は、奴隷たちの首輪を断ち斬っていく。普通であれば死んだ方がマシだと思うような激痛が走るのが普通だが、何故だかその痛みが無い。それと同時に、冷たい首輪の感触が無くなり、解放されたことを理解した少年少女たちは、嬉しさのあまり涙を流した。



 ♢



 当初の予定通り、悠一は先に捕らえられていた少年少女たちを開放し、その間にシルヴィアとユリスの魔法で軍国の連中を足止めした。その威力は明らかに本気で撃たれたものであり、既に何人か瀕死状態になっている。


 それを見て悠一は、辛い思いをさせてしまったなと申し訳ない気持ちになった。


「君たち、ここは俺に任せて向こうの壁に向かって走っていけ。そうすればもう安全だ」


 魔法をやり過ごし襲い掛かって来た兵士を、構築した鋼の槍で貫き、水素爆発を起こしたところで背後にいる少年少女たちにそう言う。こくりと頷いた彼らはすぐさま壁に向かって走り出す。


「貴様、俺たちがどこの国の者だか分かっているのか!」


「あぁ、軍国ヴァスキフォルだろ? それがどうした。ただ奴隷とはいえ、彼らは人間だ。なのに人間ではなくただの道具としか見ず、ただ侵略することしか頭にないバカ共の集まった国だろ。そんな連中を切り捨てるのに、躊躇いなんかいらない」


 悠一はそう言いながら刀を正眼に構え、軍国の兵士たちを睨み付ける。


「五十嵐真鳴流剣術、五十嵐悠一。一切の加減なく、全力で推して参る!」


 そう強く叫んだあと、【縮地】を使って一気に距離を詰めて、胴体を分断する。そこに槍を持った兵士が遅い掛かってくるが、あっさりを躱して槍の柄を掴み、一瞬分解した後再構築する。すると刃の部分が兵士の方を向いており、腹を貫いていた。


 兵士は膝から崩れ落ち、やがて息絶える。仲間を殺されて怒った兵士たちは一歩踏み出すが、しかし二歩目を歩くことは出来なかった。再度【縮地】を使って高速で移動し、すれ違いざまに斬り捨てていたのだ。


 離れた場所から弓矢で攻撃してくるが全て刀で叩き落し、お返しとして圧縮したガスによる爆発を起こして、跡形もなく消し飛ばす。二本のダガーで素早く果敢に攻めてくるのもいたが、新たなスキル【天眼通】で全ての動きを把握して、紙一重で躱して身体強化を集中させた右足で回し蹴りを頭に叩き込み、頭蓋を砕く。


 いくつかの魔法が飛んできたが全て分解し、【縮地】で距離を詰めて両断する。そして離れた場所にいる兵士に、鋼の槍を飛ばして穿つ。一度刀を鞘に納め、槍を作り出す。


 長さを活かして次々と敵を突き、薙ぎ払い、近付いてくれば組討で叩き伏せ、魔法で吹き飛ばす。里の方からはシルヴィアとユリスの高威力の魔法が放たれており、一撃で再起不能にしている。


 地上には囲まれているというのにもかかわらず、たった一人で次々と敵を倒して行く少年剣士。離れたところからは、一撃で再起不能になる威力を持つ魔法が放たれている。ヴァスキフォルの兵士たちは、次々と兵士を倒して行く悠一の姿が、まるで悪魔のように見えた。

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