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4 救出

 翌朝、悠一は朝早くから組合にやって来ていた。もちろんクエストをするためである。今日貼り出されている討伐系クエストは、


 オーク二十五体の討伐 Fランク 報酬/60000ベル。

 オーガ三十体の討伐 Fランク 報酬/75000ベル。

 ビッグバッファ二十体の討伐 Fランク 報酬/58000ベル。


 他にもいくつかあったが特に目を引いたのはこの三つだった。全部討伐数がそこそこ多いが、総じて報酬金額が高い。それだけ命の危険があるのだろう。とりあえずオークの討伐を受けることにした。


 二つ同時に受けなかったのは、モンスターとの遭遇は殆んどが運次第なので、最悪ほぼ一日掛けてやっと一つ終わらせることが出来るかもしれないという可能性があるからだ。昨日はスライムが短い範囲に多数いたことと、ゴブリンの集団が一つの場所に集まっていたのでその日のうちに終わらせることが出来たのだ。


 悠一は早速オーク討伐の依頼書を掲示板から剝し取り、それを受付に持っていく。受付にいるのはレイナである。


「あ! ユウイチさん、おはようございます!」


「おはようございます、レイナさん。このクエストを受けたいのですが」


「またFランククエストですか……。まあ、ユウイチさんなら大丈夫でしょうけど」


 レイナはそう言いながら持って来たクエストを受諾する。


「えっと、オークはゴブリンと同じく初級モンスターですけど、ゴブリンよりも生命力があります。倒したと思っても油断しないでください。生きていることも良くあるので」


「分かりました、ありがとうございます」


 悠一はそう言うと踵を返して組合から外に出て、人気の少ない街を歩いて行く。組合からは初心者に様々な支給品が渡されるが、今日それをあえて受け取らなかった。彼はこういった街で自分の手で必要な物を集めることこそが、冒険者の醍醐味であると思っているからだ。


 昨日銀弧に行く途中で見つけた雑貨屋に立ち寄り、そこでポーションと魔力回復薬をいくつか購入する。なお、魔力回復薬は昨日飲んだのと同じ青汁並みの苦さがある。別に苦いのはそれほど苦手ではないので、そこはどうでもいいが。


 その二つを購入するついでに干し肉とパン、果物、そして水分を少しだけ購入する。もしかしたら昼過ぎ辺りまでクエストに勤しんでいるかもしれないので、念のために購入しておくのだ。


 必要な物を粗方購入した後、街の外に向かって歩き出す。ちなみに今腰から下げている武器は、組合から貰った剣と昨日買った剣をそれぞれ分解してそれを混ぜ合わせ、微粒子から鋼を作り出し更にそれを混ぜ合わせてそこから新しく刀の形に再構築した物である。


 強度はかなり高くなっており、武具屋で購入した剣に付与されている炎魔法もそのままになっている。切れ味も昨日使っていた物とは比べ物にならない。自分にあった刀になっているので、ちゃんと手に馴染んでしっくりくる。


 新しい命を預ける相棒を手にして、悠一は少しわくわくしながら街の外に出る。既にちらほらと冒険者の姿が確認出来、その殆んどが複数人でパーティーを組んでいる。


 人数が多ければ多いほど生存確率は高いが、今の悠一にはレイナ程度しか知り合いがいない。この様子だと、しばらくソロ活動をせざるを得ないだろう。


 街を出て少しすると、早速モンスターと遭遇した。全身が黒く赤い眼をしているブラックハウンドという初級のモンスターだが、初級の中でも上位に部類される強さを持っている。駆け出し冒険者が会いたくないモンスター第二位の物である。


 しかし悠一はそんなことを全く気にせず、怖がるどころかむしろ喜んでいた。別に戦闘狂ではないと思ってはいたのだが、どうやらその考えを改めなければならないようだ。腰から下げてある刀の柄に手を掛けて、それを鞘から引き抜いて両手で構えて、鋭い目付きで睨み付ける。


 殺気を向けられたブラックハウンドは低い唸る越えを上げて威嚇し、物凄い速度で突進してきた。その突進を最小限の動きで躱し上に振り上げた刀を、全力で振り下ろす。だが軽い切り傷を体に刻んだだけで、致命傷には程遠かった。


 だが体に傷を付けられたブラックハウンドは激号し、目を血走らせて襲い掛かってくる。その攻撃をまたも最小限の動きだけで回避すると、バックステップで距離を取る。そして左手を前に伸ばして、微粒子を集め始める。


 集まった微粒子を細長く形取り、鉄に構築する。すると多数の細長い鉄の槍が出現する。


「行けっ!」


 掛け声と共に槍が放たれ、ブラックハウンドに襲い掛かる。ブラックハウンドはその槍を躱していったが、内一本が足に突き刺さると動きを止めてしまう。


 そこに悠一が一呼吸で間合いを詰め込み、下から逆袈裟で首を斬り落とす。


「ふぅ……」


 悠一は刀身に付着している血を振るって落とし、鞘に納める。大分魔法のコツを掴んできたので、発動までにそれほど時間が掛からなくなった。


「それにしても、本当にこの魔法チート過ぎやしないか? ある意味万能じゃないか」


 無から有を生み出す。他の魔法もそうだが、悠一の持つ魔法の場合物質そのものを生み出すことが出来る。今使っている刀に含まれている鋼だってそうだ。しかもそれは自分から分解しない限り、ずっとそのままだ。もはや武器屋と鍛冶屋要らずである。


 自身の魔法のチートっぷりを再度確認してから、目的地に向かって歩き出す。何度かモンスターと連続して遭遇したが、持ち前の素早さと攻撃力、そして古流剣術によって瞬殺されて行く。もちろんスライムと遭遇したが、もう倒すのが面倒くさいので無視した。


 歩いている内にヴァルドラスの森に入り込み、次第にゴブリンやコボルドといった人に近い姿をしているモンスターと、遭遇するようになってきた。ゴブリンもそうだがコボルドも主に集団で行動するので、倒すのが少し大変だ。


 しかし決まって十体近くいるので、経験値の稼ぎ時だと言わんばかりに狩って行く。弓矢を持っている個体もいたが、それは魔法で倒した。ゴブリンやコボルドの体そのものを分解させたりしたが、魔力消費量が結構多いので途中で止めた。それ以前に、生物そのものも分解出来たことに驚きを隠せなかったが。


 森に入り込んでから一時間近くが過ぎたころ、進んでいる方向から何か大きな音が聞こえて来た。その音は、明らかに爆発音だった。何かあるなと判断した悠一は、抜刀してそのまま全力で走って行く。


 道中すれ違ったモンスターを一撃で切り伏せながら走って行くと、すぐ近くで爆発が発生した。滑るように停止して爆発した方を向くと、でっぷりと太った人間のような体に下半身に布を巻き、頭が豚という見ているだけで気分を害しそうなモンスターがすっ飛んできた。


 慌てて分解魔法で分解して飛んできた方向に目を向けると、そこには十数体ものオークの集団があった。しかしその集団は、皆同じ方向を向いている。そちらに視線を向けると、そこには誰もが目を引くほど見目麗しい杖を構えた少女がいた。


 身長は悠一より頭一つ小さく、少々小柄だ。左右均等に整った顔をしており、右眼は碧いが左眼が紅い。所謂オッドアイだ。肌も陶器のように白く美しい。膝裏辺りまで伸びている髪の毛は雪のように白く、癖が全くない。


 そんな少女は今肩を上下させて荒い呼吸をしており、大量の汗が額に浮かんでいる。どう見てもピンチだ。そう判断すると、悠一は地面を強く蹴って走り出す。


 向かってくる存在に気付いたオークはそちらに顔を向け、武器を振り上げて雄叫びを上げる。この時上げたのは、邪魔をされたという感情を表した怒りの雄叫びだ。


 二体だけが向かい討ってきたが、一度跳躍して近くの木の幹に足を着け、斜め下に跳躍してその勢いを載せた膝蹴りをオークの頭に叩き込む。頭蓋を破壊する感触が、膝から伝わってくる。


 頭を潰されて絶命したオークの死体を蹴ってもう一体の攻撃から逃れ、地面に魔力を流し込んで針状に構築する。飛び出た針は頭と喉と心臓を貫き、一瞬で絶命させる。


「いや!! や、止めて!!」


 二体とも倒したのを確認すると、少女が声を上げる。振り向くと数体のオークが群がり、その少女を押し倒して、着ているローブを破いていた。流石にこれは本気でマズいので、地面を強く蹴って走り出す。


 少女を押し倒しているオーク以外が妨害してくるが、お構いなしに切り伏せ魔法で分解する。討伐部位を回収出来ないが、そんなことを気にしている場合ではない。


 やがて刀の間合いまで近付くと、体に捻りを加える。


「五十嵐真鳴流剣術初伝―――焔蛟ほむらみずち!」


 限界まで体を捻り溜め込んだ力を開放すると、殆んど同時に数体のオークが一刀両断される。突然両断されたオークを目の当たりにした少女は、何が起こったのかを全く把握していなかった。


 何が起こったのだろうと考えていると、一人の少年が前に立ちはだかった。


「大丈夫かい?」


 少女の前に立った悠一は、振り返らずに優しい声でそう訊ねる。振り返らないのは、少女の着ているローブが殆んど破かれてしまっており、とても際どく目のやりどころに困るからである。


「だ、大丈夫です」


「そっか。ならよかった」


 悠一はそう言いながら微粒子を集めて質素な白のローブを作り出し、それを振り向かずに少女に渡す。


「これを着ておいて」


 少女はボロボロになってしまったローブを脱ぎ捨て、受け取ったローブを羽織り始める。その間に悠一は刀に魔力を流し込み、炎魔法を開放する。刀身に炎が纏わりつき、熱気が放たれる。この炎は悠一の魔力で作られている為、本人は熱を感じない。


 地面を強く蹴って一瞬で離れた位置にいるオークとの間合いを詰め込み、刀で首を斬り落とす。三体のオークが同時に攻撃してきたが、それを受け止めずに上に跳躍する。そこに再度攻撃を仕掛けてくるが、空中に足場を作り出しそれを蹴って攻撃を回避する。傍から見れば、何もない空気中を蹴ったようにしか見えない。


 距離を取り魔力を集中させて地面の一部を分解して刃の形に再構築すると、一斉に襲い掛かって行く。数が多く一気に数は減ったが、二体だけ残った。


 勝ち目がないと思いその二体は逃げ出したが、持ち前の素早さを活かして先回りして一体を上から真っ二つにし、もう一体は上半身と下半身を分断する。これで殲滅完了だ。


「す、凄い……」


 白髪の少女は自分では手も足も出なかったあのオークの集団を、たった一人でこれだけの早さで倒してしまったのに、素直に驚いていた。あれだけの早さで敵を倒してしまったのもそうだが、使っている見たことのない武器と、何より使用する魔法に一番驚いていた。


 何もないところからローブを作り出し、地面の一部を分解して別の形に作り替えたりする魔法など、聞いたことがない。


「えっと、怪我とかは無いかな?」


 刀に付いた血を振るって落とした後納刀し、振り返って少女にそう訊ねる。ミスをしてしまったのかローブの丈がやや短く、結構扇情的になってしまっているが何もないよりはマシだ。


「はい、大丈夫です。助けてくださり、誠にありがとうございます」


 少女はそう言うと、深々と頭を下げて礼を述べる。もしあのタイミングで助けられていなかったら、間違いなくオークの種子の苗床にされてしまっていた。それだけは絶対に嫌だったため、助けられてとてもほっとしている。


「それは良かった。あ、俺の名前はユウイチ・イガラシ。よろしくね。君の名前は?」


「私はシルヴィア・アインバートです。重ねてありがとうございます、ユウイチさん」


 自己紹介をすると、少女シルヴィアは再度頭を下げて礼を述べる。何度も頭を下げられてしまい、悠一は少しだけ困惑していた。彼はただ、困っている人を見るとどうしても助けたくなってしまうという性格をしているので、ただ当たり前のことをしたとしか考えていない。


 この時悠一はまだ知らなかったのだが、オークは女性、特に十代の少女を好む習性をしており年頃の少女をねぐらに連れて帰ると、孕むまで犯すのだ。故に女性冒険者からは、ぶっちぎりの一位で嫌われている。


「ところでユウイチさん」


「何かな、シルヴィアさん」


「あ、私のことはシルヴィアとお呼びください」


「了解、シルヴィア。それで、どうしたんだい?」


「その……、下が無いと落ち着かないので、お願いしてもよろしいですか……?」


「…………あ」


 顔を赤くしてそう言うシルヴィアを見て、悠一は言っていることの意味を理解する。確かにスカートが無いので、このままでは非常に不健全だ。


 なので微粒子を集めてセミロングのスカートを構築して、それを手渡した。

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