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44 第三階層攻略開始

「私たちはさっきまでこの階でモンスターを狩っていたの。全員がAランク冒険者だし、安全マージンも十分だったの。だから、結構たくさんのモンスターに襲われたりはしたけど、全部倒すことは出来たの。けど……、奴が出たのよ……」


 魔法使いの女性冒険者は何かを思い出したのか、恐怖の表情になって体を震わせ始める。彼女の話によると、この第三階層にユリスの話していたモンスターが出たそうだ。女性冒険者のパーティーはそのモンスターと遭遇し、交戦した。


 しかしいくら打撃や斬撃、上級魔法を撃ち込んでもまるでダメージが無く、パーティーリーダーである戦鎚使いの男性冒険者がその爪による攻撃を受けてしまった。その時戦鎚は半ばから斬られてしまい、殆んど致命傷な傷を負ってしまった。


 今はユリスの回復魔法で大分回復はしているが、もしこのまま治療していたら、例え回復魔法が付与されている魔導具を使用し続けていても、死んでいた可能性が非常に高かった。この男性冒険者は魔法使いの女性の幼馴染で、とても仲がいいそうだ。


「助けてくれて、本当にありがとうね」


「いえ、お気になさらず。ボクはやるべきことをしただけですし」


 女性冒険者はユリスの礼を述べる。彼女は少し照れくさそうだったが、にぱっと可愛らしい笑みを向ける。


 それよりも悠一は、この階にいるというモンスターのことが非常に気になっていた。全員がAランク冒険者であるパーティーですら倒せないほど強い。これほど脅威になっているのは、圧倒的な防御力と回復速度だろう。


 この二つを持ち合わせているからこそ、上級で一流と呼ばれるAランク冒険者ですら倒してしまうのだ。もちろん、そのモンスターの強みはその二つだけではなく、その巨躯から放たれる鋭く重い攻撃だ。


 戦鎚を半ばから斬ってしまう程鋭い爪を持つ腕から放たれる攻撃は、まともに喰らえば今の悠一では間違いなく即死だ。身体強化や独自に作り出した【縮地】があるので、そう簡単には攻撃は喰らわないだろう。しかし、一度でも敵の攻撃速度に対応出来なくなれば、そこから一気に畳み込まれる可能性が高い。


 そうなると防戦一方になり、【縮地】を使う余裕すらなくなるかもしれない。なので離れた位置から気付かれる前に一気に消し飛ばすのが効率的なのだが、それは叶わないだろう。


 話をしてくれた女性も一つだけ戦略級魔法を使えるのだが、それですら倒すには至らなかった。完全に生命活動を停止させないと無限に再生を続けるようで、半身が消し飛んだがそのすぐ後に信じられない程の速度で回復してしまったそうだ。


 もし悠一がダークグラディアトルを倒した時のように白銀の魔力を解放させることが出来れば、倒せる可能性はある。しかし、何がトリガーとなってあれが解放されたのかは全く分からない。もし分かっていたら、間違いなく離れた場所から攻撃を仕掛けるとかではなく、自分からそのモンスターに飛び込んでいる。


「君たちはこのまま先に向かうつもりかしら?」


「一応そのつもりですけど……」


「そう……。なら、あの化け物だけには気を付けて。もし離れたところから見かけたら、挑んだりはしないで必ず逃げて来て」


「もし逃げられるような状況でしたらね」


 悠一は苦笑いを浮かべながらそう言い、ユリスが最低限の治療を施した男性冒険者の傷を、再構築魔法で一気に癒す。あっという間に傷が塞がったのを見て、女性冒険者は悠一も光属性の適性のある人間かと錯覚する。


 しかし少し冷静になると、光魔法特有の優しさや温かさのある魔力ではなかった。そのことに少しだけ混乱するが、悠一たちは先に歩いて行ってしまう。そのすぐ後に気絶していた男性冒険者が目を覚まし、何があったかを幼馴染である女性に質問した。


 そして、美少女二人を気絶していた故に見ることが出来なかったと本気で後悔し、一緒に行動している悠一に嫉妬した。そのことに対し魔法使いの女性は、僅かな怒りを覚え一発平手打ちを頬に打ち込んだ。



 ♢



「まさか、この階に話にあったモンスターが出現するとはな」


 第三階層を探索し始めてすぐ、悠一がそんなことを呟く。シルヴィアとユリスはどことなく沈んでいるように見える。実際に気持ちが沈んでいるのだが。


 切り札ともいえる戦略級魔法ですら倒し切れないし、武器をも容易く破壊するほどの力を持つ。そんな化け物がこの第三階層にいるのだ。沈まないはずがない。


 悠一はこの階に降りる前にあれと遭遇しないようにと心の中で祈ったから無駄なフラグが建ち、こうなったのだろうかと考えている。意外とこういった時に、嫌なことが起こるのだ。典型的なのは「この戦いが終わったら彼女と結婚するんだ」と言い物凄く奮闘するが、最終的には敵に殺されてしまうという物だ。


 今回の場合は「話にあった化け物と遭遇しないように」と祈ったせいで、フラグが建ったのかもしれない。そうなると、三人揃ってそうしてしまったことになる。


「もしそのモンスターと遭遇したら、私たちは無事地上に帰れるのでしょうか……」


「変なこと言わないでよ、シルヴィア……」


 大分暗い雰囲気を醸し出している二人は、悠一の背後をとぼとぼと付いてきている。目が若干虚ろだ。大規模の冒険者のレイドですら倒せないとなると、ダークグラディアトル同様三人では挑んではいけない化け物だ。


 しかしここで誰かが食い止めなければ、更に被害が出てしまう。とはいえ、最悪自分たちも被害者になってしまう。それだけは嫌だ。


 ここで食い止めてこれ以上は被害を出したくはない。しかし、自分たちも被害者になる訳にはいかない。三人はその瀬戸際に立っているような物だ。


 意気消沈し掛けている二人を連れて歩いていると、発動させてあった索敵魔法に反応があった。シルヴィアと揺りうも同様で、反応があった瞬間にすぐに戦闘出来るように構える。だが、反応からして一つ目の巨人サイクロプスであると分かると、目に見えてほっとする。


 とはいえモンスターなのでまた気を引き締めて、もし襲い掛かって来たとしてもすぐに戦えるように、杖を構えておく。なるべく気付かれないように歩いていると、サイクロプスは三人に気付いたのか、物凄いスピードで走って来た。


 やれやれと溜め息を吐き、悠一は抜刀して構える。シルヴィアとユリスはあらかじめ詠唱を唱えておき、すぐに魔法を放てるようにしておく。そして数秒後、驚きの速度と驚くの形相のサイクロプスが走ってやって来た。かなり距離があったはずなのに、やはり体が大きい分歩幅と走る速度が桁違いだ。


 やってきたサイクロプスは手に持っている棍棒を大きく振りかざし、それを勢いよく叩き付けてくる。悠一は【縮地】で躱し、シルヴィアとユリスは待機状態にしたままの魔法をそのままに身体強化を掛けて、距離を取る。


 そしてシルヴィアは【フィンブルランサー】、ユリスは【インフェルノセイバー】を放つ。氷の槍と炎の剣が飛んでいき、サイクロプスに襲い掛かる。だが、その魔法はサイクロプスの持つ棍棒一振りで消されてしまう。


 そこに悠一が、【縮地】を使いながら背中に刀を突き立てる。だが思っている以上に筋肉が硬く、心臓まで届かなかった。


「オアァ!」


 サイクロプスは棍棒を闇雲に振り回し、攻撃を仕掛けてくる。その前に悠一は空中に足場を作って上に跳躍し、上から氷の刃を放つ。更に地面の一部を針状に伸ばし、下からも攻撃を仕掛ける。


 サイクロプスは僅かに反応が遅れたが、体に傷を付けながらもその攻撃を掻い潜った。そこにシルヴィアが最近使えるようになった新しい魔法、【ドミネートドラグニル】が放たれる。


 【ドミネートドラグニル】、意味は殲滅の竜。その名前の通り、魔法陣から龍の形をした竜が数体飛び出し、それが意思を持つかのように動き回り、サイクロプスに襲い掛かる。高い追尾性を持つ魔法なので、いくら躱しても襲い掛かってくる。


 その隙に悠一は刀の魔力を開放して炎を纏わせ、それを斬撃として飛ばす。そしてそれを放ってすぐに、斬撃の進む方に行き、サイクロプスを挟むようにもう一度炎の斬撃を飛ばす。更に上に跳び、そこから十字に炎の斬撃を飛ばす。


 まず二つの斬撃で動きを止められ、そこに数体の炎の龍が襲い掛かる腕を食い千切られところどころを噛み付かれ、上からの十字の斬撃でもう一本の腕を失う。


「ガアァ!」


 腕を失ったサイクロプスは自棄になり、噛み付いて攻撃をしようと悠一に突進してくる。だが【縮地】で躱され、すれ違いざまに頸動脈を斬り裂かれ、噴水のように血を吹き出す。


 最後の足搔きとしてもう一度攻撃を仕掛けようとしたが、悠一は微粒子から杭を作り出しそれを肩や膝に突き刺してその場に固定する。そして身体強化を掛けて一気に懐に潜り込み、心臓を一突きする。頸動脈を斬り裂かれているとはいえ、生命力が恐ろしく高い。


 心臓を貫かれてから、やっとその動きを停止させた。完全に死んだのを確認すると、地面に縫い付けていた杭を分解する。


「こいつの素材はどうする? レザーアーマーとしては優秀だって聞いたけど」


「そうですね……。では討伐部位と一緒に素材も回収しておきましょう」


「了解。じゃあ俺は素材を剥ぎ取って行くから、シルヴィアたちは討伐部位を頼む」


「了解です」


「分かりました」


 腰から下げてあるナイフを鞘から抜き、悠一はサイクロプスの皮を剥ぎ取って行く。サイクロプスの皮は撥水性が高く耐久値も良い為、レザーアーマーとしてはとても優秀だ。その半面、炎に極端なほど弱いので、炎を使うモンスターと戦う時にはおすすめしない代物だ。


 とはいえとても軽いので、軽戦士はとても重宝している。悠一もレザーアーマーを着けてみようかと考えたが、今着ている騎士のような白ローブも気に入っているし、何より性能が高いのでその考えを払い除ける。


 素材の剥ぎ取りを終えた後、筋肉がそのまま曝け出されているのでとてもよろしくなく、すぐに炎で焼き払う。例え死体とはいえ生物だ。これだけ大きなものを分解すると、恐ろしく多くな魔力を持ってかれてしまう。


 もしかしたらあのモンスターと遭遇するかもしれないので、それだけは避けておきたい。なので、周囲に自然発火するガスを生成し、それで一気に燃やす。そこにシルヴィアとユリスの炎も加わり、骨すらも灰となってしまった。

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