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41 戦略級魔法

「やっと次への階段を見つけましたね」


「思った以上に複雑だったな」


「本当に迷路みたいです」


 前回は割と早く見つけたのだが、今回は時間が掛かってしまった。というのも、ダンジョン内が完璧に迷路のようになっており、進んだ先が行き止まりだったりこってこてな罠があったり、踏み込んだところがモンスターが大量に生息しているモンスターハウスだったりしていたのだ。


 そこに住んでいるモンスターは強くは無かったけれど、如何せん数が恐ろしく多かった。そこは物凄く広い空間だったのだが、その中に二百近くのモンスターがいたのだ。強くは無いけれど倒しても次々とやってくるモンスターが、非常に面倒くさかった。


「じゃあ二階層に降りてみるか」


「行きましょう!」


「ここのダンジョンは、どんな風になっているんでしょうか。少しドキドキします」


 階段を降って行き二階層目に付くと、そこは草原だった。高い木も森ほどではないが多く聳え立っており、川なども流れているし、上を見上げると鳥も飛んでいる。上には光を放つ巨大な鉱石があり、昼間のように明るい。とてもダンジョン内とは思えないところだった。


「本当、ダンジョンの中なのにどうして自然があるんだ? 光合成出来なきゃ植物は育たないだろ」


「そうでもないですよ? あの鉱石が放っている光は一種の魔法のような物で、植物の成長を促進させる効果があるんだそうです」


「マジか。だからこんなに植物があったり、生き物が生息しているんだな」


 ダンジョン内の生体のことを少しだけ知った悠一は、凄まじい速度で空を飛んでいき大型のモンスターに衝突して爆発を起こした鳥を見てから、歩を進ませ始める。索敵魔法は第一階層にいる時から発動させており、周囲の生物などの反応が手に取るように分かる。


 大きな魔力の反応もあったが、それは冒険者であることはすぐに分かった。索敵をして警戒をしていると、二階層目に来てから数分後にモンスターの反応があった。かなり大きい物だ。


 そっちの方に進んでいくと、そこにいたのは巨大な木の棍棒を持った、五メートルほどはある巨体をしたトロールがいた。トロールは体が大きなモンスターである巨人種に部類されているモンスターで、CランクでありながらBランクのミノタウロス並みに力が強い。


 しかし動きが鈍重なので、対処がしやすい。なのでCランクの中級に指定されているのだ。三人も既に戦っており、どうってことないのは確認済みである。


「ここにもいたんだな」


「みたいですね。倒しちゃいましょう」


「じゃあ詠唱を始めますので、ユウイチさん、お願いします」


「分かってる、よ!」


 足だけに全力で身体強化を掛けて、持ち前の素早さを活かしてその場から消えるように間合いを詰め込む。トロールは動きは鈍いが動体視力はバカ高く、少しだけ遅れたが悠一を補足した。


 だがその一瞬が、戦いでは命取りになる。もう一度地面を蹴って上に跳躍した悠一は、空中に足場を作って下に向かって蹴る。すれ違いざまに刀を振るい、右手を斬って潰す。


「ウガァ!? ガァア!!」


 右目を潰されたトロールは敵がすぐそこにいるというのに手で顔を覆い、痛みで声を上げる。動きが鈍く対処しやすいという理由以外にも、知能が恐ろしく低いということもある。


「【この大地に業火あり。紅く燃ゆるのは始祖の焔。燃え盛るは、万象一切を等しく浄化する。それは慈悲など存在しない、免れえぬ破滅】」


 痛みを我慢して右手で右目を覆い、左手に持ち替えた棍棒で攻撃を仕掛けてくる。地面に衝突し岩を砕く音がするが、その中でもユリスの詠唱を唱える声は力強く響く。凄まじいほどの魔力が溢れ出し、地面に巨大な魔法陣が展開する。


 その魔法陣はまだ不完全だが、詠唱を唱えていくごとに少しずつ完成に近付いて行く。


「【暴虐なる猛火は尽くを焼き払い、一掃する。放たれたそらを、大地を、海を、泉を、山を、生命いのちを無へ還す】」


 詠唱がもうすぐで終わるということを確認し、悠一はトロールに蹴りを叩き込んでから小規模な爆発を起こして、一瞬でシルヴィアたちの元に戻る。


「【そなたは化身であり王。炎を統べる者。煉獄の支配者。その名を、声を、この地に轟かせよ―――イフリート】!」


 詠唱を終わらせ、魔法を唱える。直後、地面に展開されていた魔法陣が強く光り、そこから炎が吹き荒れる。ユリスの使用した魔法【イフリート】は、彼女の炎上級魔法である。


 しかしその威力は更にその上である、最上級、別名戦略級魔法に匹敵する威力がある。その効果は、一定領域内にいる者を、炎によって完全破壊する。文字通り、全てを破壊しつくす凶悪な魔法である。これで戦略級魔法ではなく上級魔法なのだ。戦略級ともなると、どれほどの威力になるのか見当が全く付かない。


 地面に展開されている魔法陣から紅蓮の炎が吹き荒れて、一度上に燃え上がってからそこで一度終息し、それが下に落下する。それはトロールを飲み込み、凄まじい熱と轟音を轟かせる。どう考えても過剰攻撃にしかならない。


 熱と音が止むと、辺りには煙がもうもうと舞っていた。シルヴィアが風魔法を発動させて煙を払い除けると、そこには大きなクレーターが出来上がっていた。一度索敵をしてからもう一度確認するためにぽっかりと空いたクレーターの所に行き、中を覗き込む。


 そこにはただ赤熱したり、あまりの熱量にガラス化している地面しかなく、トロールの死体は無かった。やはりユリスの【イフリート】は、過剰攻撃になってしまい跡形もなく消し飛ばしてしまったようだ。


「凄い威力だな……」


「今のボクが使える上級魔法の中では、一番威力が高い魔法です。ですが一個上の戦略級魔法も炎と氷の二つは使えるんですけど、そっちの方がずっと威力が高いですよ? 洞窟内で使ったら確実に崩壊してしまう程の威力を持っていますし、詠唱が恐ろしく長いので仲間がいないと使えないという欠点がありますが」


「上級魔法でこれで、戦略級魔法は更にこれの上。……ユリス、ダンジョン内では絶対に使うな」


「そのつもりです。地上でベルセルクやラグナロクと遭遇した時くらいにしか使いません。あと、ドラゴン種の大型モンスターを倒す時でしょうか?」


「ちなみにその戦略級魔法の詠唱を唱え切るのに、どれくらい時間が掛かる?」


「数十秒は掛かりますね。しかも動き回りながらの詠唱は不可能なので、守ってくれる人がいないと使えません。今はユウイチさんとシルヴィアがいるので、使うべき時が来れば使いますけど」


「その時は必ず言ってくれ。巻き込まれたくないからな」


「当たり前じゃないですか! 流石にそんなことはしません!」


 ユリスは心外だと言わんばかりに頬を膨らませて、少し強い口調でそう言う。しかし、全く怖くない。どうしてユリスとシルヴィアのような美少女が怒ったりしても、全く怖くないのか、甚だ不思議に思えてくる。


 とりあえず地面を再構築した後、三人は第三階層に行くための階段を探し始める。次々とモンスターが襲撃してくるが、全てあっという間に散っていく。ロスギデオンに付くまでの一週間、遭遇したモンスターを片っ端から倒していたので、レベルが上がった結果だ。


 悠一は65から69、ユリスは61から66、ユリスは100から101になった。ユリスは一しか上がっていないが補正が高くついたらしく、大幅に全てのステータスが上がっていたそうだ。だが悠一も四上がったおかげで魔力量と素早さが恐ろしいくらい跳ね上がっていた。


 体力もかなり上がっており、Bランク中級モンスターでなければ倒せないのではないだろうかと考えてしまう程だ。それとその一週間の間に、一つ新しい技術を考え出した。


 適当に【縮地】と名付けたその技術は、足の裏に魔力を集めて、体全体をバネのようにして加速した瞬間にそれを爆発させることで、一瞬で長距離を移動するものだ。体への負担が大きいので、今はまだ身体強化を掛けておかなければいけないが、今よりももっとレベルが上がればその必要は無くなるだろう。


 この技術を編み出した時、悠一は元から素早さが恐ろしく高いので、速さに関してはもはや敵無しなのではないかとシルヴィアと二人に呆れられた。この技術は単に、戦いにおいて速さがあった方がいいという理由もあるが、技の中にすれ違いざまに斬り付けるというのもある。


 いくら素早さが高いとはいえ、それでも今の自分よりも格上の相手だと見切られてしまう。それだと使えない技なので、かなり反則的だが目では追えても体が反応出来ない速度で移動してしまえばいいと、考え付いたのだ。


 そこで思い付いたのが、よく小説やアニメなんかで出てくる【縮地】だ。普通だったらそんなのは使えないのだが、ここはある意味何でもありの異世界だ。魔力という力を利用し、不可能を可能にした。その時の達成感が凄まじかった。


 この技術を作り出した時、悠一はこれで戦いが有利になるな程度にしか思っていなかったが、使ってみたらかなり反則だった。それでも使えるというのは変わりないので、戦闘になるとよく【縮地】を使用する。


「なあ、ユリス。戦略級魔法って、どうやって覚えるんだ? 上級魔法でも、特別閲覧室にある本を、許可を得てから読むんだろ?」


 十数回目のモンスターの襲撃をやり過ごした後、悠一は少し気になったことを質問する。自身は分解と再構築しか使えないが、複数の属性に適性があるシルヴィアは、悠一はそう質問したら興味津々に聞きたいという表情になった。


 戦略級魔法を覚えるのは、魔法使いの目標なのだろうか?


「そうですね。戦略級魔法はそう簡単には覚えられるものではないのは、ユウイチさんも分かりますよね?」


「そりゃあ、戦略っていうくらいだしな」


「その魔法を覚えるには、最低でもBランクはないといけないんです。でもそれはあくまで条件の一つなので、その後は覚えるに相応しいかを見極める面接試験とそれ相応の実力があるかどうかを見極める実技試験を受けるんです。それを合格してから国へ閲覧申請を送り、許可が下りてから組合が管理している図書館の戦略級魔法の魔導書のある最下層への立ち入りが許されるんです」


「かなりめんどくさいな……」


「そうです、凄くめんどくさいんです。なので、その気になればそれを再現できるユウイチさんの魔法は、異常なんですよ?」


 確かにその気になれば、戦略級魔法は完全とは言わないがある程度は再現出来るだろう。改めて自分の魔法が凄いということを実感した。そして、ユリスが恐ろしく面倒くさい工程をクリアして、二つの戦略級魔法を覚えているということに感心した。


 もし自分だったら間違いなく、途中で諦めていたと思うのだ。純粋な魔法使いであるシルヴィアも、その恐ろしく長い工程を聞き、顔を引き攣らせている。それでも彼女は魔導の高みを目指す魔法使いなので、きっといつか戦略級魔法を覚える為に、挑戦するだろう。

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