40 ダンジョン再び攻略開始
「やっぱ第一階層は同じなんだな」
「どこのダンジョンもそうですよ。第二階層目からは大きく変わったり、一階層目と同じだったりしますけど」
早速ダンジョンに足を踏み入れていると、そこは以前足を踏み入れたダンジョンと同じように洞窟のようになっていた。壁からは大気中の魔力を吸収しそれを利用して発行する功績が飛び出しており、内部を照らしている。
三人はすぐに索敵魔法を発動させて、ダンジョン内を進んでいく。悠一の索敵魔法の範囲は、ブリアルタの街からここに来るまでの間にモンスターを倒しまくったりしたおかげでレベルが上がり、それに伴って範囲も二百メートルほどまで拡大した。
しかしシルヴィアは三百メートル、ユリスは現時点でキロ単位先まで分かるので、まだまだだ。いつになったらこの二人に追い付くのだろうかと、考えてしまうのは無理のないことだ。
索敵をし始めてから十数秒が経過した時、反応があった。数は十数体規模で、大きさで言えば中級だ。反応からすると、中級のハウンド系のモンスターだ。場所が分かっているので分解魔法は使用出来るが、連発するとあっという間に魔力が無くなってしまう。
それ以前にそれだとダンジョンに入っている意味が無くなってしまうので、そんなことはしない。絶対に会いたくないモンスターであれば、話は別だが。そのモンスターとは、もちろん赤毛猿のことである。
進んでいく三回目の角を曲がると、そこに反応にあったモンスターがいた。名前はバーサクハウンドと言い、中級モンスターである。口から火を噴き、恐ろしく凶暴なことで有名。そんなバーサクハウンドたちは悠一たちの姿を確認すると、早速口から火を放ってきた。
「【リフレクション】!」
しかしそこでユリスの固有魔法が発動し、全ての炎が跳ね返る。だが、炎を扱うモンスターであるだけあって、例え自分の放った炎でもものともしない。そこに刀を鞘に納めたままの悠一が突進していく。
もう一度炎を吐こうとしたが、その前に氷の槍が悠一の背後から飛んできたので、当たる前に躱す。
「五十嵐真鳴流抜刀術中伝―――派刀朽無!」
そう叫ぶと同時に刀が鞘から抜き放たれ、振り抜かれる。そこから刃を返して上から振り下ろし、右に切り上げる。最初の一太刀目は目では決して追えない速度で抜き放たれており、いつの間にか抜刀しているようにしか見えない。
そこから二撃三撃は最初程の速度は無い。それでも辛うじて剣閃が見えた程度だ。派刀朽無は最初抜刀する時、あえて鞘に引っ掛かるようにする。そうすることで力が溜まって行き、解放することで凄まじい速度で振り抜かれるのだ。簡単に言えば、デコピンと同じ原理だ。
瞬く間に一体のバーサクハウンドは、仲間が殺されたことで更に怒り狂い、次々と襲い掛かってくる。悠一はそれを躱しながら斬り付けていき、鋼の槍を構築してそれを放ち、ガスを生成し圧縮し、威力を抑えた爆発を起こす。
炎の大して高い耐性を持っているバーサクハウンドには、その程度の爆発ではダメージは通らないが、発生した爆風で足が止まってしまう。そこに悠一が突貫して行き、首を斬り落とし心臓を貫き、胴体を分断し、魔力を集中させて強化した拳で頸椎を叩き折る。
シルヴィアとユリスの魔法も放たれてそれでも数を減らしていき、ものの数分で片付けられてしまう。
「第一階層だと大したことないな」
「何と言うか、私たちが強くなり過ぎたんでしょうか?」
「多分そうじゃないかな? シルヴィアの魔法の威力も精度も、前とは段違いだし。ユウイチさんは元から以上でしたから、変わったかどうかは分かりませんけど」
魔法はまだ二人よりも劣ってはいるが、剣術の腕には自信はそれなりにある。ちゃんと基礎錬もしているし、実戦で技も鍛えている。少しずつだけれども、剣の腕は上がってきている。
やはり剣の腕が上達しているのを実感すると、それだけでも楽しいし嬉しい。継続していることがそのまま力になるのは、実にいいことだ。そんなことを考えながらモンスターの素材を回収していき、シルヴィアの持っているバッグの中に詰め込む。
回収できた討伐部位の数は十八個。つまり十八体モンスターがいたことになる。とはいえ、バーサクハウンドの討伐部位は、それほど高値では売られないのだが。それでも少しは足しになるので、回収はしておいたのだ。
「今日はどこまで行くつもりなんですか?」
「そうだな……。このダンジョンは七階層まであるみたいだし、まずは第三階層までにしてみるか」
「それが妥当ですね。……もうあんな大変な思いはしたくないです……」
何を思い出したのか、ユリスとシルヴィアが虚ろで遠い眼で虚空を見つめる。悠一もそれに同情し、もうあんな思いはしたくないと感じた。あそこまで体と魔力を酷使したのは、あの時が初めてなのではないだろうか?
流石にあの時ほどの場所ではないとは思うので、一先ずは安心は出来る。そんなことを考えながら進んでいると、また索敵に反応がある。流石はダンジョン、短い距離に多くのモンスターがいる。
反応があった方に進んでいくと、そこにいたのは恐ろしく大きな鳥型のモンスターであった。極彩色で美しく、つい見惚れてしまいそうだった。しかし事前にモンスターの知識を頭の中に叩き込んであるので、あれがどれだけ危険なモンスターなのかは知っている。
美しい見た目に反して性格は凄まじく獰猛で、自分と同じ種族以外の生物を見掛けたりすると、すぐに襲い掛かってくるほどだ。しかも羽を硬質化して飛ばすことも可能であり、非常に厄介なのだ。
ただし、そのモンスターから採取出来る素材は非常に上質で、高級ベッドなどに使われる。そして魔力を通すと鋼並に硬くなるので、防具にも使用出来る。そのモンスターの名前はロスパルガ。Cランク中級モンスターである。
「綺麗な鳥さん…」
「けどあれって確か、恐ろしく獰猛だったはずだよ。自分と別種類のモンスターを見掛けると、すぐに襲い掛かってくるほど」
「正解。そして今、まさしくその状況なんだけど?」
ロスパルガは三人を確認すると、早速羽を硬質化させてそれを飛ばして来た。
「五十嵐真鳴流剣術中伝―――夜覇羅蛟!」
高速で刀を振るい、飛んでくる羽を全て寸分違わず叩き落す。かなりの離れ業だが、今の悠一にとっては容易なことだ。
ロスパルガはまだまだ硬質化した羽を飛ばしてくるが、それは全て悠一の刀によって叩き落される。悠一本人は迎撃に手いっぱいだが、シルヴィアとユリスは自由だ。その間に魔法の詠唱を唱え、魔法を放つ。素材がかなり高く売れることは知っているので、なるべく無駄にならないように氷や鋼の刃による攻撃だ。
二人の魔法が襲い掛かってくることでやっと攻撃を止め、ロスパルガは一旦距離を取る。だが悠一はその隙を見逃すはずがなく、プラズマを応用したレーザーを撃ち込む。先に殺気を感じ取られてしまい躱されてしまったが、そのすぐ後に上から構築した鋼の杭を翼に撃ち込み、地面に固定する。
「グィィィィイイイイイイイイイイイイイ!!」
翼をやられて痛みを感じたロスパルガは悲痛の声を上げてもがくが、抜け出せない。そこに悠一が突貫して行き、上から振り下ろされた刀で首を斬り落とされて呆気なく絶命する。ロスパルガのように飛んでいるモンスターさ、真っ先に翼をやられてしまうとただの雑魚に一気に成り下がる。
こうした飛行種のモンスターは、空を飛んでいるからこそ優位になれるのだ。ドラゴン種はその例外になってしまうが。またワイバーン程度としかやり合っていないが、ドラゴンはたとえ翼がやられて地面に墜落しても、街の一つや二つ簡単に地図から消すことが出来る。
「呆気なく終わりましたね」
「すぐに翼を潰せたのが、早く決着のついた原因だな。こうしたモンスターは先に翼を潰した方が、倒しやすいから」
「普通こんなに早く無力化するなんて不可能ですけどね」
これも悠一の持つスキル、魔力遠隔操作の賜物だ。自分の魔力を使用して大気中にある魔力を掻き集めて、離れた場所で魔法を発動させることが出来る。実に反則的な能力だ。
本当にこんな能力を手にしていいのかと考えてしまうのだが、この能力のおかげで会いたくもないモンスターを消すことが出来るので、今は感謝している。腰のナイフを使ってロスパルガの討伐部位と素材を回収し、それをシルヴィアの鞄の中に詰め込む。
そして死体を分解魔法で分解した後、先を急ぎ始める。今日は第三階層まで行くつもりなのだが、あまりここで時間を使い過ぎると最悪第二階層まで行って帰ることになってしまう。それだとつまらないので、少しだけ急いで先を進んでいく。
もちろんモンスターなどは遭遇したところから片っ端から討伐して行き、手早く討伐部位と素材を回収して行く。
「第一階層、全然手応えが無い」
「そんな戦闘狂みたいなことを言わないでくださいよ……」
「けど、ユウイチさんのいうこと、少しだけ分かります。ちょっと弱過ぎる気がします」
敵を素早く倒せるというのはいいことなのだが、あまりにも弱過ぎると辺に油断してしまう。そんな時にもし、前回のようにベルセルク程とは言わないがAランク相当のモンスターが出てきたりでもしたら、対処が出来ない可能性がある。
そうなったら良くて大怪我、最悪死んでしまうかもしれない。冒険者の主な死因は、モンスターによる奇襲、自分の実力を過信し過ぎることによる油断、そして弱いモンスターばかりが続き油断している時に、急に強い個体が出てきてそれによる襲撃などである。
まだまだ十代半ばで思春期真っただ中なので、恋人を作りたいお年頃。そうなる前に死んでしまいたくはないので、油断で死にたくはない。なので、弱いモンスターが続き過ぎるのはあまりよろしくないのだ。
もっと強いモンスターを遭遇したいと密かに心の中で祈りながら進んでいくが、結局強いモンスターとは遭遇せず、ダンジョンに潜りこんでから約四時間で第二階層へと続く階段を発見した。




