39 再びダンジョンへ
翌日、三人は早速組合にやって来ていた。三人揃って少し寝不足だ。やはり同じ部屋に寝ることになると、意識してしまい全く眠れなくなる。しばらくの間目が冴えてしまっており、ベッドに潜り込んでから三時間後にやっと眠気がやって来たのだ。
しかし普段から朝早くに起きてそれから組合に行くので、寝不足で連携をミスしたり戦いに支障が出なければいいのだが。眠気自体は朝、部屋の風呂がでシャワーを浴びて覚ましてある。それでもまだ若干眠いが。
それに、やはりと言うべきか美少女二人といるので、宿屋の二階から下の食堂に降りた時の悠一に対しての視線が痛い。どの男でも、シルヴィアとユリスのような美少女とお近付きになりたいのだろう。悠一はテンプレに遭遇したので、こうして一緒に行動している訳だが。
「うーん……、もう一回見てみると、あまりよさそうに思えないなぁ……」
掲示板に張られているクエストは、昨日より一枚減ってはいるがそれ以外は同じだった。しかし、改めて見てみるとあまりぱっとしないものだった。確かにランクはCで中級指定されているので、強いには強いのだろう。
だが、もう一回ちゃんと見てみると、数が少なくやりがいが無さそうだ。魔法が一番発展しているところなので魔法都市としてのイメージもあるが、ダンジョンが街の真下にあるので迷宮都市とも呼ばれている場所にしては、言っては悪いが少しお粗末なクエストだった。
こうなったら、クエストを受注するのではなくダンジョンに潜ってモンスターを狩りまくった方がずっと効率がいいだろう。お金と経験値的に考えれば。そうと決まると悠一はカウンターの方に移動して、そこでダンジョン探索許可証を三人分受け取る。
これが無いとダンジョンに入ることが出来ないのだ。入口に衛兵が立っているのは、許可なしに入り込まれてモンスターを乱獲したり、その最中で命を落とされてしまうと厄介なことになってしまうので、それを防ぐ為でもあるんだそうだ。もちろん、下からやってくるモンスターを、そこで仕留める役割もあるが。
三人分の許可証を受け取った悠一は踵を返し、シルヴィアとユリスのいる方に体を向ける。するとそこには三人組の冒険者たちがいた。魔法使いが一人、剣士が一人、弓兵が一人と、典型的なパーティーだ。その全員は男で、誰もが下心が丸見えだ。
初めてユリスと会った時と同じように、パーティーを組むという名目で手を出すつもりなのだろう。現に三人の視線は、二人の歳不相応の体(特に胸)に向けられている。その眼は情欲に染まり切っているのが、離れていても分かる。
「いいじゃんかよぉ~、あんな若造よりも俺たちの方がずっと手練れで、ずっと安全にダンジョンに潜れるぜぇ?」
「そうそう。それに、あいつは魔法と剣の両方を使う魔法剣士じゃないか。どっちも中途半端な奴なんかと一緒にいると、君たちが危険だよ? 純粋な魔法使いと純粋な剣士のパーティーである、僕たちと一緒にいた方がいいって」
「終わった後はちゃんと宿まで送ってあげるからさ。まあ、いつ帰れるか分からないかもしれないけどさ!」
弓兵の男がそう言うと、三人は揃って高笑いをする。周囲にいる他の冒険者たちは、可哀想な目を四うヴィアとユリスに向けていた。悠一もあの三人は結構な手練れであることは、見て分かる。
それと一緒に、冒険者を始めた理由は単に女性にモテたいからというしょうもない理由であることも、すぐに分かった。
「ですから、ボクたちはあの人と行くって何度も言っているじゃないですか! ロクでもない理由で声を掛けて来たあなたたちより、あの人の方がずっと信用出来ます!」
「そうです! ランクこそDですけど、実力はAランク以上に匹敵します! あなたたち三人では、相手にもなりません! それと、確かに魔法を使いますけど、どっちかというと剣の方が得意なんです!」
普段は朝が弱いのでしばらくぼ~っといているシルヴィアも、今は少し怒った表情をして、ユリス同様に大きな声で反論している。
「そうは言ってもさ、君たち見るからにまだ成人したばかりでしょ? 年頃の女の子たちが男と一緒にいるのは危ないって」
それでも魔法使いの男は、何が何でも引き入れたいのか食い下がる。そして述べた理由が、明らかに矛盾している物だった。
「その言葉は、あなたたちにも適応されますよね?」
もちろんそれにすぐに気付いたシルヴィアは、それを指摘する。すると魔法使いの男は、小さく舌打ちする。悠一はマズいと判断し、駆け足で駆け寄る。
「残念ながら、この娘たちは俺の仲間なんで諦めて貰えませんかね?」
「あ゛?」
駆け寄りそう言うと、魔法使いの男は見るからにイラついている表情で反応する。パーティーを組んでいる剣士と弓兵も同じような表情をしている。単に気に食わないのだろう。
「お前みたいなガキに、この女の子たちは勿体ねぇんだよ。特にこの金髪の娘、Aランク冒険者のユリス・エーデルワイスだろ? 十五歳という若さにしてAランクに昇格し、冒険者序列第二十七位。どこの馬の骨か分からないお前なんかじゃあ、ただ足手纏いになるだけだ」
「ユウイチさんはそんな―――」
「第一、魔法と剣の両方を使うとか、調子乗ってんじゃねぇぞ? それは魔法使いに対しての冒涜になるって知ってるか? おぉ?」
どこぞの不良のように食い掛かってくる魔法使いの男。顔は結構整っているのだが、性格が残念そうだ。悠一の考えは当たっており、悠一に食って掛かっている理由は、美少女二人と一緒に行動しているのが気に食わないからである。
自分の方が顔はいいし、実力が高い。それなのにどうしてこんな実戦経験が少なそうな少年に、これほどの美少女二人が一緒にいるのか。どうして自分じゃないのかと、かなり自己中心的及びナルシストな考えを持っている。
「この街では魔法と剣の両方を使うとそう思われるだろうけれど、他の街ではそうではないぞ? その娘たちも純粋な魔法使いだけど、両方を使っている俺に対してそれは冒涜だ、なんて言ってないし。それに、もしそう思っているのならパーティーなんか組んでない」
こういった相手にはよく挑発的な言動をしてわざと怒らせて、それで攻撃してきたところを反撃するという方法を取ったりするが、今回は正論を並べるだけにしておいた。これだけで引いてくれればいいのだがと考え、無意識の内にフラグを立てる。
「お前のようなガキよりも、俺たちのような手練れがいた方がこの娘たちはずっと安全なんだよ! 何しろ俺たちは、あの冒険者ギルド【ブルーカリヨン】の上位冒険者なんだぜ」
(ちゃんと冒険者ギルドはあるんだな)
冒険者ギルドは、複数の冒険者が集まって立ち上げた組織のことである。最低でも三人は必要で、最大人数には限りは無い。今現在最多人数である冒険者ギルドは、千人を超える大規模ギルドなのだそうだ。
そしてこの三人組は、【ブルーカリヨン】という上位ギルドに所属している三人で、いつも一緒にいて数々の難関クエストをこなしてきたことから、それなりに出はあるが信頼がある。何故かなりではなくそれなりなのか、それは彼らは若い女性冒険者にたまにではあるが手を出すことがある。
無理矢理襲ったり攫ったりといったことはしないが、お尻や胸を触るなどのセクハラ行為、中には気に入った女性にずっと付き纏うというストーカー行為などもしている。なので女性からは人気が無く、Bランク止まりなのだ。
中々Aランクに上がれず、女性にモテていないのは自分たちの行動のせいであると認識しておらず、中々Aランクに上がらせてくれないギルドと自、分に惚れてくれない女性に対して逆恨みをしている。実にタチが悪い。
今回は成人したての、まだ少女と呼ぶべき二人の美少女がおり、彼女らと一緒に行動している悠一が気に食わず、感情が爆発。それで突っ掛かって来たのだ。
「それがどうした? そう言われても俺はそのギルドのことは知らないから、どうでもいいことなんだけど。確かにお前たちには実力はあるだろうけれど、ユリス、いや、シルヴィアよりも弱い。足手まといになるのはそっちの方だと思うけど?」
何を言っても無駄であろうと判断した悠一は、早速挑発するような口調でそう言う。男三人はピクリと反応したが、何もしてこなかった。
「それと、どうしたら自分たちと一緒にいるとずっと安全だと言い切れる自信が出て来たんだ? 俺は冒険者登録して間もないから冒険者序列とかいうのは知らないけど、二十七位であるのであればかなり強いはずだ。それにユリスはAランク冒険者で、適性のある属性全ての上級魔法を習得している。一人だけでもダンジョンを数階層下に行くことは出来る。間違いなくお前らよりも実力は上だ」
感じ取れる魔力からして彼らも実力者であることは分かる。しかし、それでもユリスとシルヴィアより弱い。魔法使いの男だって、悠一の魔力よりも少ない。シルヴィアでも魔法さえ使えれば、簡単に伸すことは出来る。
ずっと戦い続けている悠一たちにとって、絡んできている三人組は雑魚同然なのである。しかも相手の実力も図れないとなると、Bランク冒険者に慣れたのもほぼ奇跡に近く、実力も最下位の方であろう。
「諦めたらどうだ? お前たちがどう言おうが、この娘たちはお前たちのパーティーに加わることは無いと思うけど。どうせ下心満載で声を掛けたんだろ? その時点でもうダメだな。そりゃ女性にモテない訳だ」
「てめっ……!?」
最後の一言が引き金になったのか魔力を爆発的に高め、魔法を使用しようとする。しかし、悠一が刀の柄に手を掛けた瞬間、背筋が凍るほどの殺気が放たれた。それをもろに感じた魔法使いの男は、魔力の放出を止め感じる恐怖に怯え始める。他の三人も同様だ。
「ば、バカな……」
「な、なんなんだよ、こいつ……」
弓兵の男は声すら出ないようだ。体全身が携帯電話のバイブレーション機能のように、ぶるぶる震えている。
「魔法や剣で相手に襲い掛かっていいのは、死ぬ覚悟がある奴だけだ。この程度の殺気で怯えているようじゃあ、お前らには死ぬ覚悟が足りないということになる。もう一回Gランク冒険者から始めるべきだな」
悠一はそう言うと刀から手を放し、殺気を収める。先にいるシルヴィアとユリスも殺気を感じており冷や汗を掻いてはいるが、ある程度慣れているし、まだ恐怖はあるが死ぬ覚悟は既に出来ている。なので悠一の殺気を感じても、三人組の男たちほど怯えなかったのだ。
「シルヴィア、ユリス、行くぞ」
悠一はそう言いながら出入り口の方に歩いて行くと、シルヴィアとユリスは駆け足で後を追い掛けていく。そのすぐ後、三人組は恐怖から解放されたという安心感から、床に膝をついた。
外に出た三人はそのまま、ダンジョンの入口の戸ことまで歩いて行く。視線が集中しており、なんだか変な気分になってくる。
「今日はどんなクエストを受けたんですか?」
「今日はクエストじゃないな。ダンジョンの探索許可証を貰っただけ」
「そうなのですか? それにしても、ダンジョン探索……」
ユリスが呟いたその言葉で思い出すのは、以前経験した地獄のようなダンジョン探索だ。恐ろしく強力なモンスターがわんさかおり、倒した後すぐに死体を焼き払うかそこから離れなければ、また別のモンスターがやってくる。
何とか全て倒し切ったと思ったら、進んだ先にモンスターの集団がおりそこで戦闘となり、倒している最中に先に倒したモンスターの血の匂いに誘われて別のモンスターがやってくる。いくら多数対一の乱戦を想定している五十嵐真鳴流でも、あの数は恐ろしく大変だった。
シルヴィアとユリスという頼れる仲間がおり、自分の魔法と身体能力が高かったからこそ、何とかやり過ごすことが出来た。そんな地獄のような場所に、もう一度行くことになるのだ。
既に一度攻略されておりガーディアンモンスターはいないし、ランクもCランクからなので今回は前回ほど酷くは無いだろう。それでもどうしてもダンジョンにはいるのに、少しだけ抵抗が出てきてしまう。
出入り口の所まで来て悠一から許可証を受け取るも、やはり抵抗がある。少しだけ悩んだが、もう既にもらった後なので断ることは出来ず、出入り口に立っている衛兵に許可証を提示してから中に足を踏み入れる。




