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38 宿の部屋を取る時の問題

「グスタフさん、ここまでありがとうございました」


「ありがとうございました。帰りはお気を付けくださいね?」


 ガラガラと馬車をゆっくりと進めていき、魔法都市ロスギデオンの組合近くに止めてもらいそこで降りると、シルヴィアとユリスが頭を下げて感謝の言葉を述べる、するちグスタフは、どうすればいいのか分からなくなったのかあたふたし始める。


 シルヴィアとユリスほどの美少女に頭を下げられて礼を言われると、どんな男でもこうなるようだ。ごく一部を除けばそうではないのだが。


「き、気にしないでください! 俺はただ、仕事をしただけですから!」


「それでもです。真っ当にお仕事をなさってくださったからこそ、私たちは……まあ、安全に来れた訳ですから」


 何とか言葉を出すことが出来たが、今度は向けられた笑顔を見て顔を赤くしている。やはり彼は二人のことを意識していたようだ。たったそれだけではそうとは限らないのだが、一週間の旅の中でグスタフが二人のことをやたらとちらちらと見たり、話している時にやけに嬉しそうだったりしていた


 それだけあれば彼が、二人に対して好意を抱いているのは分かる。尤も、シルヴィアとユリスはそのことに全く気付いていないが。ちなみにシルヴィアの言葉に若干間があったのは、初日の盗賊の襲撃があったからである。壊滅させて誰も被害に遭わなかったので、大した問題ではなかったが。


「それでは俺たちはここで失礼します。ユリスの言った通り、安全に帰ってくださいよ?」


 悠一はそう言うと、少しだけ黒い笑みを浮かべる。するとグスタフは、驚いた表情をしてそしてまた顔を赤く染めた。気付かれているということに気付き、恥ずかしくなったのだ。


「わ、分かっております。それではユウイチさん、シルヴィアさん、ユリスさん。またいつかお会いしましょう」


 グスタフはそう言うと馬車を走らせ始める。すぐにこの街から出る訳ではないだろうが。


「さてさてさーて、こうして目的地に着いた訳だしまずは宿を探しに行くか」


「そうですね。その前に、この街のクエストを見ておくのも良いのでは?」


「ボクはそれに賛成です。何があるかあらかじめ知っておけば、明日悩まずに選べそうですし」


「だな。じゃあ組合に入って探してみるか」


 組合にあるクエストは、街によって変わって来る。その地だけにしか生息していない、特殊なモンスターなどもいる為である。特にこの街は迷宮都市で、ダンジョンが街の真下にある為、面白いクエストなどがあるだろう。


 しかも、面白いクエストが無くてもダンジョンに潜りこんで、そこでモンスターなどを狩ることが出来る。まだここのダンジョンのランクは分からないが、それでも一番上の階層やその一個下である階層であれば、それなりにいいモンスターがいるだろう。


 そのことも調べるために、組合の中に足を踏み入れる。相変わらず中は騒がしいが、魔法使いが多い街なので、昼間から酒を飲んでいる冒険者はルシフェルドとブリアルタと比べると、圧倒的に少ない。


 組合内は冒険者、特に魔法使いが多い。中には魔法に長けている、エルフやハイエルフなども見掛けられる。やはりエルフは、誰もが目を惹くほどの美貌を兼ね備えている。見た目は華奢で弱そうなのだが、内包している魔力量が恐ろしく高い。


 ユリスの魔力量が今の悠一の二倍だとすると、エルフたちはユリスの十数倍の魔力を有している。しかしユリスによると、殆んどのエルフは今のユリスの数十倍以上の魔力を有しているとのことだ。なので、十数倍程度では、エルフの中ではまだまだ魔力が少ない方になるそうだ。全く信じられないが。


 そんな話を聞きながら組合内を歩いて行き、クエストが貼られている掲示板の前に立ち、何が貼られているのかを確認する。


 ※これはこの街の下のダンジョンでしか倒せないモンスターです。

 ブラックリザードマン十五体の討伐 Cランク 報酬/460000ベル。

 レッドデーモン十体の討伐 Cランク 報酬/435000ベル。

 バーサクバイソン十体の討伐 Cランク 報酬/487000ベル。

 シャドーウルフ十五体の討伐 Cランク 報酬/416000ベル。


 とりあえず目に付いたクエストだけでも、報酬の全てが四十万ベルを超えている。それだけ大変だということなのだろう。何よりダンジョンでしか倒せないとなっているので、きっと強力なのだろう。

クエストを確認した後カウンターの受付嬢にダンジョンのランクについて聞いたら、Cランク指定、つまりDランクである悠一とシルヴィアでも問題ないということが分かった。


 その確認が取れた後、三人は組合から出て今度は宿屋を探し始める。全ての建物が木組みなのでとても落ち付く雰囲気で、ちょっと気になって立ち寄った店の中も、とてもアットホームな感じがした。一店舗だけ、やたら変なのがあったが。


 そうして寄り道を少しだけしながら歩くこと十数分、宿を見つけることが出来た。大きくはないが小さくもなく、ここもアットホームな感じがした。中には行ってみるとやはり中もアットホームな感じがして、とても落ち着く。


 帰ってくるときに思わず「ただいま」と言ってしまいそうだ。そうなったら、しばらくシルヴィアとユリスに揶揄われるのを覚悟するしかないかもしれないので、そうならないようにしたい。


「部屋を取りたいのですが」


「宿泊ですね? あなたたちは冒険者でしょうか?」


「はい、そうです」


「でしたら、泊まる前に料金は払わなくても大丈夫です。お帰りになる時に、泊まった日数分の料金をお支払いしていただくようにしているので」


「分かりました」


 この宿を選んで正解だったようだ。普通の宿であれば泊まる前に料金を支払い、延長するのであればその分の料金を加算することになっている。しかしここではそんな面倒なことは必要なく、ただ止まった日数分だけお金を払うようになっている。


 あらかじめ泊まる日数を決めておかないで宿泊出来るのは、中々に良い。


「ただ、空いている部屋が一つしかないのですが、よろしいでしょうか?」


 受付の人がそう言うと、三人の思考がほぼ同時に停止する。部屋が一つしか空いていないとなると、それはつまり、三人は同じ部屋に泊まることになってしまう。それは流石に危ない気がするのだが、この宿のようなところはそうそうないだろう。


 もしここで別の宿を探しに行けば、少なくとも空き部屋は一つ以上はあるはずだ。しかし、今いる宿のようなところではない可能性がある。


「え、えっと……、私は別に、一緒でも大丈夫ですよ……?」


「ぼ、ボクも、です……」


 どうしようかと悩んでいると、逸早く復活した二人が小さな声でそう言う。


「いやいやいや! 二人が良くても、年頃の男女が同じ部屋に泊まるのは流石にマズいって!」


「ユウイチさんは私たちに手を出さないと信じているので……」


「ぼ、ボクも信じています……! 現にダンジョンの中で一緒に寝た時も、大丈夫でしたし……」


「あの時は流石に人の目もあるから、もし俺にそんな気があったとしても手は出さないよ……。けど、今回は違う。鍵も付いているし、外からは扉を壊さない限り入ってこれない」


「では、ユウイチさんはその気があると……?」


「断じて違う!」


 結局二人に上手く丸め込まれてしまい、同じ部屋で寝ることになってしまった。この時悠一は、明日から寝不足になるのは確実だなと予感する。


 鍵を受け取って二階に上がり唯一空いている部屋の鍵を開けて中に入ると、中々に広いところだった。ベッドも二つあるし、結構大きい、所謂ダブルベッドだ。少なくとも、どちらかと同じベッドで寝るということは避けられそうだ。


 ただ、問題は風呂場だ。この宿屋には大浴場がなく、それぞれの部屋にシャワーと浴槽があるだけだ。今ここにいるのは、思春期真っただ中である少年少女三人である。恐らくそんなラブコメ展開は無いだろうけれど、脱衣所に人がいることに気付かず中に入ってしまうとか、湯船に浸かっている時に間違って入ってしまうとか、そんなことがかなり低い確率ではあるが起こるかもしれない。


 そうなったら、物凄く気まずいことになってしまう。三人は一緒にパーティーを組んで一緒に行動しているので、異世界などでのそんなお約束展開になってしまったりでもしたら、最悪戦いの最中で連携が乱れてしまうかもしれない。


 もちろん他のことも色々と問題になるだろうと考えているが、特にお約束展開が大きな問題になるだろうと考えている。悠一は、そんなことが起こらないようにと心の中で密かに願う。


「結構広い部屋ですね」


「そうですね。大きなベッドも二つありますし……」


 ユリスがそう口にした途端、シルヴィアとユリスはそろって顔を真っ赤に染める。悠一もそれにつられて顔を赤くする。こうした何気なしに呟いたものが、変に意識してしまうような物であることもあるので、一緒は危ないと思っていたりもしている。気まず過ぎていたたまれない。


「む、向こうにお風呂場もあるよ! ユリス、行こ?」


「う、うん!」


 二人も同じなのか、顔を真っ赤にしたまま風呂場の方に行く。扉を開けて中に入り、中を軽く見回す。そしてそのすぐ後、顔だけをひょこっと出す。


「……覗いたりしないでくださいね?」


「しないから!」


 そうは言ったが、同じ部屋にいる以上何が起こるか分からない。ラブコメ小説の主人公のような主人公補正などが、この世界には無いだろうが、低い確率であり得るかもしれない。ただの不可抗力だが、しばらくまともに口を利けなくなるだろう。


 これからどうなるのやらと考えて、大きな溜め息を吐いた。

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