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37 到着

 たった一撃。そう、たったの一撃で盗賊団の中で一番の怪力男が倒された。身体強化などの魔法を使っているのは分かったが、それ以外の反応は無かった。なので身体強化を掛けた状態でのただの突きだけで、仲間が一人倒されたのだ。


 その瞬間には盗賊のリーダーは、判断を間違えたと後悔した。今ここで逃げた方が得策だが、鋭い目つきで睨んでくる少年からは逃げられないと直感する。ここでようやく、自分たちとの実力差が分かったのだ。


 とはいえ男は盗賊。ロクな教育を受けていない為、頭は結構悪い。いくら一人の人間が強くても、数で推せば何とかなると考える。


「お前ら、全員であのガキを殺せ!」


 故にすぐにその行動に移す。だが、これも悪手だった。悠一の実家である剣術道場は、多対一を多く想定した古流剣術である。戦場では常に乱戦が続くので、囲まれたとしても一人で倒せるようにと開発されたのだ。


 なので、悠一は襲い掛かってくる十数人の盗賊の攻撃を躱し、いなし、受け流し反撃を入れていく。一対一でも十分強いが、真価を発揮するのは敵が複数いる時だ。特に敵を誘導し同士討ちをさせる「士薙祓」は、乱戦において奥伝おうでんに匹敵する。


 自ら盗賊を斬り倒し、誘導して同士討ちをさせる。そして時には「顕衝」でのカウンター攻撃を叩き込む。人が死んでいくのを見てシルヴィアとユリスは顔を青くして手で口元を覆うが、こうした時に人を殺せる覚悟が無いと自分が殺されてしまうことを知っているので、ぐっと堪える。


「な、なんなんだよ、このガキはっ!?」


「こんな剣、聞いたことねぇぞ!?」


 どんどん数が減って行く仲間を見て、盗賊たちは驚愕の表情を顔に浮かべる。数で押せば倒せると浅はかな考えをしたのが間違いであったことを知り、恐怖し始める。自分たちでは、決して勝てない。


 そう思い至ったらすぐに逃げる姿勢を見せ始める。しかしもちろん見逃すわけがなく、悠一が再構築魔法で壁を構築し、逃げ場を塞ぐ。突如現れた壁に盗賊たちは狼狽え、脚が止まる。そこに鋼の槍や氷の剣が叩き込まれ、絶命する。


 逃げられないという恐怖、そして狩る側から狩られる側になってしまった盗賊たちは、戦意を喪失する。だがそんなのを許すはずもなく、別の冒険者たちが恨みを晴らすように攻撃を仕掛けた。


 仮に捕まえて牢屋に投獄しておいたとしても、出所したらまた同じことをしでかす可能性が極端に高い。なので盗賊は、捕まえるとかではなくその場で始末することが推奨されている。やがて残った盗賊たちも他の冒険者たちに倒されたじめ、殲滅される。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


「いえ、気にしないでください」


 盗賊共を殲滅し終えると、長剣使いの男性が人当たりのよさそうな笑みで近付いてきて、感謝の言葉を述べて来た。だが悠一は基本、困っている人を見掛けたりすると放っておけない性分なので、助けに入っただけなのだ。


「いえ、もしあなたが来てくださらなかったら、俺たちは全滅していました。それどころか、この場にいる女性たちが攫われて、奴隷にされていたところでしょう。あなたは俺たちの恩人であるので、せめて感謝だけでも」


 そう言うと腰を曲げて、深々と頭を下げて来た。その後助けてくれたということで報酬を払おうとしたが、そんなのはいらないと言い張り、その場から去っていく。


 ちなみに盗賊の死体は、一か所にまとめた後魔法使いたちが炎魔法で焼き払っていた。焼け焦げるような臭いがして、少しだけ吐き気を催した。基本炎で焼き払うのではなく、多くの魔力を消費するのを承知で分解魔法を使っていたので、そういった臭いに慣れていなかったのだ。


 とにかく盗賊団を蹴散らした悠一たちは、旅を再開した。今日はとにかく行ける所まで行って、そこで結界魔導具で結界を張って、そこで一夜を過ごすつもりだ。グスタフは馬車馬を全力で走らせる。


 普通だったら途中で力尽きでしまうのだが、体力が持続的に回復し続ける馬具が取り付けられているので、その心配はない。かなり速い速度で走るので馬車酔いするかもしれないが、それは些細な問題だ。常に全力で走り続けることが出来るのであれば、一日で進む距離はかなり伸びる。


 そう思うと、実に便利だなと考えを改める。それと同時に、貴族の護衛クエストの時に遭遇したあの謎の牛が引いている馬車(?)らしきものを思い出す。馬よりも遅いはずの牛が、今乗っている馬車以上の速度で街を爆走していたのだ。


 もしかしたらあれに乗った方が、ずっと早く着くのではないかと思う。しかしあの時シルヴィアとユリスが物凄い遠い眼をしていたし、どう考えても危険だったのですぐに考えるのを止める。やはり速くても、安全な普通の馬車の方が安心出来るのだ。


 あんなイカれた物には乗らないようにしようと、密かに決意した。



 ♢



 盗賊共を蹴散らしてから一週間ほどが経過したて、目的の街魔法都市ロスギデオンに到着する。数多くのモンスターの襲撃などはあったが、盗賊の襲撃は初日だけだった。悠一たちはそのことに心の底から安堵する。


 いくら盗賊とはいえ、相手は人間。命に手を掛けるのは、流石に気が引けるのだ。


「特に問題なくここに来れたな」


「そうですね。……やたらモンスターの襲撃が多かったですけど」


「数は多かったですけど、大した強さはありませんでしたね」


 普段と変わらない感じで三人は話しているが、グスタフはただただ驚愕するしかなかった。悠一たちが強いということは初日で分かったが、あそこまで強いとは思っていなかったのだ。シルヴィアとユリスは強力な魔法を数多く所有しているし、悠一に至っては近接戦闘をしながら魔法を行使していた。


 しかも戦いの中で、光魔法のような魔法すら使っていた。実際にはプラズマを無理矢理だが発生させて、それを全て一方向に向けただけの、所謂レーザー攻撃のような物だ。ただそれは光属性に限りなく近い物なので、悠一の固有魔法を知らないグスタフは、思い切り勘違いしただけなのだ。


 シルヴィアとユリスは固有魔法のことを知っているので、大して驚きはしなかったが、光属性は再現できないと言っていたはずなのにどうしてできたのかが、単純に気になっていた。現代知識を用いながらも二人にこちらの世界の常識で分かるように説明するのには、中々に骨が折れたが。


 ちなみにプラズマは電気のような物でもあるので、それを使って雷も発生させることも出来た。これでバリエーションが増えた。プラズマを利用した攻撃はその場にとどめておくことが出来ないというのが、一番の問題だが。それでもこの魔法は、止まることを知らないようだ。


「本当、三人の強さはおかしいですよ。特にユウイチさんが」


「やっぱりグスタフさんもそう思いますか?」


「これがいつもですからねぇ。この人は何をするのか、本当に分かりませんよ」


 シルヴィアとユリスは、ただ苦笑いを浮かべてそう言う。悠一自身も結構色々やらかしているということは自覚しているので、言い返すことが出来ない。


 ガラガラと馬車を走らせてロスギデオンの門の所に行き、そこでチェックを済ませて街の中に入る。町並みはブリアルタとは大差はないけれど、人々が大分違っていた。


 ブリアルタは数多くの冒険者、特に剣士や弓矢使いなどが多かった。しかしロスギデオンは、行きかう人の殆んどが、ローブを着ているのだ。汎用性を求めたシンプルなデザイン物から、恐ろしく派手で目立つような物まで、色んなローブがある。


 悠一の着ている騎士が着るような少し派手なローブは、ここでは全然大したことは無いようだ。付与されている硬貨は、恐ろしく高いが。


「流石は魔法都市ですね。魔法使いが恐ろしく多いです」


「ここにしかない魔導書があるみたいですし、それを読んでみたいですね」


「複数の属性に適性があっていいねぇ。俺はあの二つだけだよ」


「ユウイチさんの能力はどう考えても異常なので、他に属性はいらないと思うのですが?」


「でもさ、あった方が手数が多くて戦いにおいて有利じゃん? だからなんかちょっと羨ましくてさ」


 分解と再構築の能力をセリスティーナに頼んだことは後悔はしていないが、それでも全ての属性が使えるようにしてくれと頼んだ方が良かったのかもしれないと、最近考えるようになった。この二つがあれば何でもできるんじゃないかという考えに囚われて頼んだのだが、便利である反面、他に適性が無いので他人が羨ましくなってしまう。


 特に八つの属性に適性があるユリスが。八つの属性に適性がある、その全ての上級魔法を覚えている。攻撃のバリエーションは、もちろんだが悠一よりも圧倒的に多い。それでもユリスとシルヴィアは、悠一は自分たちよりも強いと認識している。


 魔法を使っていなくても恐ろしく高い身体能力もそうだが、放たれた魔法そのものを分解することが出来るのだ。しかも、多くの魔力を消費するのを覚悟すれば、生物すら分解出来る。そして悠一は物理現象と認識しているが、二人は魔法を再現しているように思っている。


 殆んどその通りなのだが。グスタフもそう認識しており、自然発火するガスを圧縮してそれを開放することで引き起こされる爆発を見た時は、炎属性爆破系統上級魔法の【エクスプロード】だと思った。固有魔法のことを知られたくないので、勘違いしたままになっているが。


「反則的なユウイチさんに、それは言われたくはないです」


 ユリスはむっとして少し頬を膨らませてそういうが、やはり威圧感が全くなくただ可愛いだけだ。悠一は思わず彼女の頭をそっと撫でてしまう。


「な、なんですか!?」


 突然頭を撫でられ始めたので、ユリスはわたわたとし始める。こうした小動物っぽい挙動も、とても可愛らしい。このまま撫で続けようかと考えたが、シルヴィアがジト目で睨んできたので止める。その光景を、グスタフは実に羨ましそうに見ていた。

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